スクラッチ開発の完全ガイド

スクラッチ開発は、自社固有の業務要件に完全に対応でき、競合との差別化や長期的な拡張性も得られる開発手法です。パッケージ開発やSaaSでは実現しにくい、業務にぴったり合うシステムを自社の資産として持てる点に強みがあります。

  • スクラッチ開発とは?基礎知識と特徴
  • スクラッチ開発の進め方と工程
  • スクラッチ開発の費用相場
  • スクラッチ開発の発注・外注方法
  • スクラッチ開発会社の選び方
# 記事No.915 スクラッチ開発の完全ガイド

スクラッチ開発の基礎知識と特徴

スクラッチ開発の定義

スクラッチ開発とは、既存のパッケージソフトウェアやフレームワークに依存せず、システムやアプリケーションをゼロから設計・構築する開発手法です。「スクラッチ(Scratch)」は英語で「ゼロから」「最初から」を意味し、すべての機能をオーダーメイドで作り上げることから、「フルスクラッチ開発」とも呼ばれます。

ただし実際には、プログラミング言語やデータベース、フレームワークなどの汎用的な技術基盤は活用し、業務固有のロジックや画面設計、データ構造を一から構築するのが一般的です。スクラッチ開発の最大の本質は「自由度の高さ」にあり、企業ごとの業務フローや商習慣、独自のビジネスロジックを忠実に反映できるため、既製品では実現できない要件にも柔軟に対応できます。

また、開発の初期段階から自社の要件を詳細に盛り込めるため、不要な機能を省いたシンプルで効率的なシステムを構築できます。一方で、すべてを一から作るぶん開発期間は長くなりやすく、一般的には最短でも1年、複雑な基幹システムでは2〜3年に及ぶことも珍しくありません。

パッケージ開発・SaaSとの違い

パッケージ開発は、ERPや会計システムなどの製品をベースに、自社の要件に合わせてカスタマイズして導入する手法です。標準機能を土台にできるため、導入期間を短縮しやすく、費用も抑えやすい傾向があります。一般的な目安として、パッケージ開発は300万円程度から始まることが多く、スクラッチ開発の最低相場である500万円〜1,000万円よりも低コストで始められるケースが多いです。

SaaSは、インターネット経由で使うクラウド型のサービスで、月額や年額の利用料を支払うモデルです。初期投資をほぼゼロに抑えられ、ベンダーが保守やアップデートを担うため、社内のITリソースが少ない企業でも導入しやすいです。ただし、5年以上の長期にわたって運用すると、累計の利用料がスクラッチ開発の初期費用に近づくケースも少なくありません。

また、機能のカスタマイズ範囲は限られ、自社固有の業務フローへの対応が難しい場面が多くあります。こうした違いから、カスタマイズ性や競合との差別化を優先するならスクラッチ開発、コストと導入速度を重視するならSaaSやパッケージが基本の選択指針です。

スクラッチ開発が選ばれる理由

スクラッチ開発が選ばれる主な理由は、業務への完全な適合性です。製造業の生産管理システムや金融機関の顧客管理システムのように、業界特有の複雑な業務ロジックや規制要件を持つ企業では、既製品では対応しきれないケースが多くあります。こうした企業にとって、業務フローを一切妥協せずに実装できるスクラッチ開発は、合理的な選択肢になります。

また、競合他社との明確な差別化を図りたい場面でも、市場に出回っていない独自機能やUX(ユーザー体験)を実装することで、サービス自体の競争力を高められます。さらに、長期的な拡張性と保守性も、スクラッチ開発が選ばれる重要な理由です。パッケージ製品やSaaSは、ベンダーがサービスを終了したり価格を大幅に改定したりすると、継続利用が難しくなるリスクがあります。

一方で、スクラッチ開発のシステムはソースコードが自社の資産になるため、ベンダー依存のリスクを排除できます。事業成長に合わせた機能追加も容易で、10年・20年単位の長期運用では、トータルコストを抑えられるケースも多くあります。実際に、ユニクロやZOZOTOWNなど国内の大手ECも、高度なシステムニーズに応える手段としてフルスクラッチ開発を採用しています。

ポイント

業務に合わせた作り込みや競合との差別化を優先するなら、スクラッチ開発が候補になります。開発期間が長くなりやすいため、コストと導入速度を重視する場合はSaaSやパッケージと比べて判断します。

スクラッチ開発の進め方と工程

要件定義から保守・運用までのスクラッチ開発の工程を矢印で示した図
開発後も続く工程を、前後関係で追えます。

要件定義フェーズ

プロジェクトは要件定義フェーズから始まり、発注者と開発ベンダーが緊密に連携して、機能・性能・制約条件を詳細に整理します。具体的には、現在の業務フローを一覧にして課題を洗い出し、機能の優先度やデータの種類と量、他システムとの連携要件を確認します。内容は「要件定義書」にまとめ、発注者と受注者の双方が確認・承認してから次へ進みます。

要件定義の精度はプロジェクト全体の成否を左右すると言っても過言ではなく、あいまいな合意のまま進むと、開発後半で手戻りや追加費用が生じるリスクが著しく高まります。特に重要なのは、業務要件と非機能要件の両面を網羅することです。業務要件は「何ができるか」を定めるもので、画面の一覧や帳票の出力形式、データの入出力仕様などが含まれます。

一方で非機能要件は「どの程度の品質で動作するか」を定めるもので、処理速度・同時接続数・可用性(稼働率)・セキュリティ基準などが対象です。大規模なシステムでは要件定義だけで2〜4ヶ月程度かかることも多く、専任の業務担当者を確保して丁寧に進めることが成功の鍵です。

設計・開発フェーズ

要件定義が終わると、設計は「基本設計」と「詳細設計」の2段階で進みます。基本設計では、システム全体のアーキテクチャ(構造)を決めたうえで、サーバー構成やデータベース設計、画面遷移図、外部システムとのインターフェース設計などを行います。この段階の方向性が後の工程を大きく左右するため、上級エンジニアやアーキテクトが中心になるのが一般的です。

続く詳細設計では、基本設計をもとに、個々のプログラムモジュールの動作仕様やテーブル定義、API仕様などを細部まで落とし込みます。設計が完了したら、プログラミング(実装)フェーズに入り、詳細設計書をもとにエンジニアがソースコードを記述して各機能を実装します。スクラッチ開発では、言語やフレームワーク、クラウド基盤の選定も発注者の要件に基づいて行われます。

たとえばWebシステムであればJavaやPython、Ruby、PHPなどが広く使われ、モバイルアプリであればSwiftやKotlinが主流です。また、開発ではアジャイル開発を採用し、スプリント(短期のサイクル)ごとに動作するシステムを確認しながら進めるケースも増えており、要件の変化に柔軟に対応できる利点があります。

テスト・リリースフェーズ

開発が終わったシステムは、まず個々のモジュールが仕様どおりに動くかを確かめる「単体テスト」を行います。次に、モジュールの連携を確かめる「結合テスト」と、システム全体が要件定義どおりに機能するかを検証する「システムテスト」へと進みます。最終段階は受入テスト(UAT)で、発注者側の業務担当者が実際の業務環境に近い条件でシステムを操作し、承認します。

これらのテストでは、機能面に加えて、性能(大量データ処理時の応答速度)やセキュリティ(不正アクセスへの耐性)も検証されます。テストをすべて通過したシステムは、本番環境へのリリースを経て稼働を開始し、以降は保守・運用フェーズに移ります。稼働後は、安定稼働を維持しながら、利用状況や業務の変化に応じた機能改善・追加開発を継続的に行います。

スクラッチ開発では、リリースを区切りではなく始まりと捉えることが重要です。使い続けるなかで見つかる課題や新たな業務要件に対応するため、開発ベンダーと継続的な保守契約を結ぶことが一般的です。なお、保守費用の目安は年間の開発費用の15〜20%程度で、あらかじめ確保しておくとよいでしょう。

ポイント

要件定義であいまいな合意を残さないことが、後の手戻りや追加費用を抑える鍵になります。リリースは終わりではなく始まりと考え、保守の費用と体制まで最初の計画に入れておくとよいでしょう。

スクラッチ開発の費用相場

小規模、中規模、基幹システムの開発費用目安を金額幅とともに並べた図
規模が上がるにつれて、費用の目安も段階的に広がります。

規模別の費用目安

規模が大きくなるほど費用の目安は段階的に上がります。小規模、中規模、基幹システムの順に、金額の幅を示します。

  • 小規模:社内向けの業務ツールや比較的シンプルなWebアプリ。200万円〜500万円が目安です。
  • 中規模:部門横断型の業務システムや中規模のECサイト。500万円〜2,000万円が目安で、開発期間は半年〜1年以上に及ぶことが一般的です。
  • 基幹システム:ERPや生産管理システム、大規模なプラットフォーム。2,000万円〜数億円に達するケースもあります。

小規模な案件では、機能数が限られ、データ量も少ないことから、開発チームは3〜5名程度で完結するケースが多いです。

費用の大部分は人件費で、エンジニアの単価は経験やスキルのレベルによって異なります。プロジェクトマネージャーやシニアエンジニアは月額80万円〜150万円程度、中堅エンジニアは月額50万円〜80万円程度が目安です。

たとえば10名のエンジニアチームで1年間の開発を行う場合、人件費だけで6,000万〜1億円以上になることもあります。なお、同じ機能でも国内の開発会社とベトナムやインドなどのオフショア開発では、コストが大きく異なります。オフショア開発を活用することで、国内発注の30〜50%程度のコストで開発できるケースも報告されています。

コストを左右する要因

コストを大きく左右する要因のうち、最も影響が大きいのは「機能の数と複雑さ」です。実装する機能が多いほど、また業務ロジックが複雑なほど、開発工数が増えてコストも上がります。そこで、開発前に機能の優先度を明確にし、まず最小限の機能でリリースしてから追加開発する方法は、初期投資を抑えるうえで有効です。

次に影響が大きいのは「外部連携の複雑さ」で、既存の会計システムや在庫管理システムとのデータ連携、外部APIとの統合などが必要な場合、インターフェース設計と実装に相当の工数が生じます。また、セキュリティ要件の水準もコストに直結し、個人情報や医療情報、金融機関向けのシステムでは、高度な設計・実装・監査対応が求められるため、通常と比べて開発費用が10〜20%程度上乗せされるケースが多いです。

さらに、開発後の保守体制にかかる費用も見落とせません。保守担当者はソースコードを深く理解している必要があり、ベンダーの担当者交代や保守契約の終了によって、メンテナンスが困難になるリスクがあります。そのため、初期開発の段階からドキュメント(設計書・コメント)の充実度を要件として定め、引き継ぎコストを低減する工夫が大切です。

ポイント

費用は規模や機能の複雑さで大きく変わるため、機能数と開発体制を整理し、同じ条件で見積もりを比べるのが判断の目安です。

スクラッチ開発の発注・外注方法

発注前の準備事項

スクラッチ開発の発注を成功させるには、打診前の社内準備が欠かせません。最初に取り組むべきは、現在の業務フローをフローチャートや業務記述書にまとめ、どの業務をシステム化するかを明確にすることです。業務担当者へのヒアリングで日常業務の課題や不満、非効率な点を洗い出しておくと、開発ベンダーへの説明がスムーズになります。

また、目的を「受注処理の工数を現在の月200時間から50時間に削減したい」「月次決算の締めを3日短縮したい」のように数値で示しておくと、ベンダーとの認識合わせが容易になります。予算は上述のとおり規模で大きく変わりますが、初回の打診時には「おおよそ〇〇万円〜〇〇万円程度を想定している」と範囲を示せる状態が理想的です。

予算が明示されれば、ベンダー側も現実的な提案をしやすく、後からの見積乖離トラブルを防げます。さらに、リリースの目標時期を決めておくと、要件の絞り込みや開発手法の選択で指針を持って判断できます。そのうえで、発注前にRFP(提案依頼書)を作り、複数のベンダーに同じ条件で提案を求めると、比較検討がしやすくなります。

外注先の選び方

外注先は大きく3つに分けられます。1つ目は大手SIer(システムインテグレーター)で、豊富な実績と組織的な体制を持ち、大規模プロジェクトや高い信頼性が求められる案件に向きますが、費用は高く、小規模案件では対応してもらえないこともあります。2つ目は中小規模のシステム開発会社で、特定の業種・業務に特化した知見を持つ会社も多く、コストパフォーマンスが良い傾向があります。

3つ目は、フリーランスエンジニアチームやエンジニアマッチングサービス経由の個人委託です。小規模案件ではコストを大幅に抑えられる可能性がありますが、プロジェクト管理能力や長期保守への対応力は慎重に確認する必要があります。どの外注先でも、まず同業種・同規模のシステム開発実績を確認します。

業界特有の業務知識や規制要件を理解しているベンダーは、要件定義の精度が高く、的外れな提案をするリスクが低いです。次に、担当PMの経験や進捗報告、課題管理の体制を確認します。また、見積書の透明性も信頼性の指標で、工程の内訳が明確で追加費用の条件も事前に合意できる会社を選ぶと、後からの費用トラブルを防げます。

ポイント

発注前に業務の現状や目的、予算の範囲を社内でまとめておくと、複数社の提案を同じ条件で比べられます。外注先のタイプは、案件の規模と保守の見通しに合わせて選ぶとよいでしょう。

スクラッチ開発会社の選び方

開発会社を選ぶ際の技術力と業務理解、コミュニケーション体制と透明性、開発後の保守体制を示すチェックリスト
選定時の観点を、技術・対話・保守に分けて確認できます。

選定時の重要ポイント

開発会社を選ぶ際に最も重視すべきは「技術力と業務理解の両立」です。優れたエンジニアリング能力に加え、業界特性や業務フローを深く理解して的確な提案ができる会社こそ、成功を導くパートナーになります。初回の打ち合わせで、ビジネス課題を丁寧にヒアリングし、改善案や懸念点を示してくれる会社は、業務知識と技術力を融合できていると判断できます。

反対に、要件の確認が不十分なまま急いで見積もりを出す会社には注意が必要です。次に重要なのは「コミュニケーション体制と透明性」です。スクラッチ開発は長期にわたり、要件の変更や追加が生じるのも珍しくないため、柔軟かつ誠実に対応し、コストやスケジュールへの影響を明確に説明してくれるかを事前に見極めることが大切です。

定期的な進捗報告やレビュー会議の方針、課題発生時のエスカレーション体制も確認しておきましょう。また、「開発後の保守体制」も重要な選定基準で、改修・バグ対応・インフラ運用まで一貫して担えるかを確認し、長期的なパートナーとして信頼できるかを判断します。

失敗しないためのチェックリスト

失敗事例の多くは、「要件定義の不備」「コミュニケーション不足」「費用・スケジュール管理の甘さ」のいずれかに起因します。要件定義の段階で、あいまいな言葉で希望を伝えたり、担当者によって言うことが変わったりすると、開発の混乱を招きます。業務担当者・経営層・IT部門が同じ場で認識を合わせ、文書化した要件を関係者全員が確認・承認する流れを必ず設けましょう。

要件が変わった際は、あらかじめ「変更管理手順」を取り決め、変更の都度、スコープ・コスト・スケジュールへの影響を評価する仕組みを整えておきます。また、ベンダー選定では、複数社(最低でも3社以上が推奨)から見積もりを取り、金額だけでなく、計画の具体性・実績の内容・担当者の経験レベルを総合的に評価することが大切です。

最安値の提案を選ぶと、途中で品質問題が起き、乗り換えで追加費用が生じるケースが非常に多く見られます。こうした事態を防ぐため、社内にIT担当者(IT部門や外部のITコンサルタント)を置き、技術面からも提案を評価できる体制を築くことをお勧めします。さらに、契約書の内容(知的財産権の帰属、瑕疵担保責任の期間、守秘義務の範囲)を法務担当者や弁護士とともに精査し、不利な条件での発注を避けます。

ポイント

開発会社は、業界の業務理解と技術力の両方を持ち、変更時の対応と保守体制まで説明できるかで判断します。見積額だけで決めると、途中の品質問題や乗り換えで費用が膨らむおそれがあります。

まとめ

業界・業務に特化したシステムを自社資産として保有し、長期にわたって競争力の源泉にできる点が、パッケージ開発やSaaSと比べたスクラッチ開発の強みです。費用は、小規模でも数百万円、中規模なら数百万円から2,000万円、大規模では数千万円以上になることがあり、要件に応じた見積もりが欠かせません。

プロジェクトを成功させるには、発注前に業務を整理して目標を定め、要件定義で関係者の合意を徹底することが大切です。そのうえで、信頼できる開発会社を選び、リリース後も継続的に改善を続ける体制を整えることが欠かせません。

特に開発会社の選定では、技術力と業務理解、コミュニケーション体制、保守体制の4点を総合的に評価し、単純な価格比較だけで判断しないことが重要です。本記事で紹介した各フェーズの知識とチェックポイントを活用し、貴社のスクラッチ開発プロジェクトを成功へと導いていただければ幸いです。

会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。