フルスクラッチ・オーダーメイド開発は、既製品を使わず独自仕様をゼロから作る開発です。運用保守では、独自仕様の理解、環境変化への対応、属人化の防止が安定運用を支えます。開発時に見えにくい課題は稼働数年後に表面化することもあり、開発時の判断は保守コストや体制を長く左右します。既存体制の見直しや独自開発の判断にお役立てください。
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フルスクラッチ開発システムの運用保守の特徴

フルスクラッチ・オーダーメイド開発は、既製品を使わず、独自の業務に合わせてゼロから作る手法です。ユーザー企業独自のビジネスロジックや業務フローを反映したもので、オーダーソフトとも呼ばれます。
運用保守の段階でも、パッケージ製品とは異なる特徴があり、メリットと課題の両方があります。
ゼロから構築した独自システムの柔軟性
フルスクラッチ開発の強みは、独自仕様を運用保守の段階でも柔軟に改善できる点です。
- 仕様の決定権:全仕様を自社か、その意向を受けた開発会社が決める体制です。
- 改善の主導:監視ロジックの追加や複雑な機能変更を、自社の管理下で行えます。
- 保守分類への対応:完全化保守や適応保守を進めやすい点が強みです。
- 計画の独自管理:事業や更改計画に合わせて、ライフサイクル全体を組み立てられます。
機能の追加や修正は、是正保守、予防保守、完全化保守、適応保守に分けられます。また、パッケージ製品で起きがちなメーカーのサポート終了や、意図しない時期の更新強制を避けられます。
事業や業務プロセスの独自性が高い企業ほど、この柔軟性は保守の段階でも価値を持ちます。
パッケージ製品との運用保守の違い
保守の負担と必要な知識は、パッケージをどう使うか、改修するかどうかで変わります。
- 設定のみのパッケージ:メーカーの更新に追従しやすい傾向があります。
- フルスクラッチやモディファイ:環境変化への対応を、自社か委託先が個別に担います。
- 委託先の選定:パッケージの実績に加えて、独自システムの保守経験も見ておく必要があります。
プログラムを改修せず、パラメータ設定だけで使うパッケージでは、セキュリティパッチやOS変更への対応も、多くの場合メーカーが主導して進めます。
ソースコードを直接改修する「モディファイ」では、OSやミドルウェアの更新に伴う機能改修の費用も、自社側で負担する必要があります。
パッケージの保守は、製品知識で対応できる場面もあります。ただし、独自システムの保守には、固有のアーキテクチャや業務ロジックを理解する技術者が必要です。
フルスクラッチが選ばれやすい業種とシステム
既製品で業務要件を満たしにくい領域では、独自システムが選ばれる傾向があります。
- 製造・物流:独自の物流フローや在庫管理ロジックを持つ基幹システム。
- サービス業:複雑な料金体系や会員制度を持つプラットフォーム。
- 金融・医療:特殊な法令対応や監査要件を持つシステム。
こうしたシステムには、業界や企業に固有の処理が多く組み込まれています。そのため、保守には一般的なITスキルだけでなく、業務知識とシステム知識の両方を備えた人材が必要です。
外部に委託する場合は、発注側が契約前に、委託先の業界理解と、業務を理解しようとする姿勢を見極めます。業種特有の複雑さを軽く見ると、要件が正しく伝わらず、改修のたびに認識がずれるおそれがあります。
フルスクラッチ運用保守の課題とコスト構造

保守しやすい設計や管理を怠ると、柔軟性の裏側で大きな課題を抱えることになります。
バージョンアップと保守コストの自社負担
フルスクラッチでは、環境の変化に対応する費用を自社側で負担する構造になっています。
- 環境の変化:OSやミドルウェア、言語ランタイムは、更新やサポート終了を迎えます。
- 個別の調査と改修:影響を自社か委託先が調べ、改修を行います。
- 予算の確保:計画的に更新するには、年間を通じた保守予算が欠かせません。
パッケージでは、メーカーが対応バージョンを示し、更新や動作保証を担うことが多くあります。一方、フルスクラッチでは、対応の判断から作業まで、環境が変わるたびに自社側に回ってきます。
対応を怠ると、脆弱性を抱えた古い環境が重大なインシデントにつながるおそれがあります。また、自社で負担する分、費用はパッケージより高くなりやすい傾向があります。
「既存システムの理解容易性」がコストに直結する仕組み
改修工数は、既存システムの調べやすさと記録の整備状況に左右されます。
- 調査・分析:改良開発の作業時間の約30%を占めることがあります。
- 資料の整合性:設計書やマニュアルと実際のコードがずれていると、調査が難しくなります。
- 構造の複雑さ:モジュール間の結合度が高いと、調査工数が膨らみます。
調査に時間がかかるほど、改修の工数と費用は増えます。この調査時間は「理解容易性」、つまり作りや資料がどれだけ分かりやすいかで変わります。
パッケージでは、公式資料や設計思想が標準化され、担当者が変わっても理解しやすい傾向があります。一方で、独自システムの理解容易性は、開発時の資料整備や保守を意識した設計に左右されます。
資料を後回しにすると、その負担は運用保守の改修コストとして長く続きます。
改修見積もりが膨らみやすい要因と発注時の確認事項
改修の見積もりは、調査の見落とし、テストの広がり、独自ロジックの絡み合いによって膨らみやすくなります。
- 調査不足:着手後に想定外の調査が見つかり、追加費用になる場合があります。
- テスト範囲:共通処理を変えると、確認が必要な範囲が広がります。
- 独自ロジックの密結合:一箇所の修正が、副作用や手戻りを招くことがあります。
共通処理やライブラリを変えた場合は、影響を調べるだけでなく、既存機能を確かめるリグレッションテストも必要になります。
独自ロジックが複数の機能にまたがって組み込まれている場合は、調べるべき範囲そのものが広がります。
依頼する側は、影響範囲の調査にかかる工数と、リグレッションテストの対象範囲を開発会社に確認します。また、類似の改修実績も尋ね、見積もりは調査、設計、実装、テストの工程別に示してもらいます。
仕様の追加や変更が起きたときの再見積もりのルールも、事前に決めておくと認識違いを防げます。
属人化リスクへの対策と内製化・保守体制の構築

属人化は、フルスクラッチの運用保守で特に警戒すべきリスクの一つです。独自仕様の知識が特定のエンジニアに偏ると、その担当者が離れた後に保守が滞るおそれがあります。
属人化のリスクと、習熟度を一覧にする対策
特定の担当者に知識が集中すると、異動や退職の際に障害対応へ影響が出ます。
- 暗黙知の偏り:内部構造や改修経緯と一緒に、開発・保守のノウハウが個人に溜まっていく状態です。
- 習熟度の把握:機能ごとに、理解している要員の数を一覧にします。
- 教育計画:勉強会やペア作業で、習熟者を増やす取り組みです。
キーマンが突然異動・退職すると、その人が持っていた原因究明の知識が失われます。その結果、リリース後の障害が増えたり、障害時にシステムが長く止まったりする危険があります。
まず、担当者一人しか対応できない機能を洗い出し、そのうえで教育計画により複数人が扱える状態を目指します。属人化対策は、平時から続ける運用保守マネジメントの一部として進めるものです。
保守性維持への投資(標準化・構成管理・リファクタリング)
人材育成に加えて、システムを保守しやすく保つための技術的な投資も必要です。
- 標準化:コーディングの作法をそろえ、品質と可読性を保ちます。
- 構成管理:ソースコードと設計書の内容を、常に一致させておく取り組みです。
- リファクタリング:コードの内部構造を整理し、分かりやすさを高めます。
これらは機能追加に直接つながらないため、後回しにされがちです。一方で、継続すれば理解容易性を保ち、改修コストの膨張を防ぐ効果があります。
開発後も保守しやすい状態を保たなければ、時間とともに改修コストが増えていきます。さらに投資を怠ると、最終的に手を入れにくいシステムになるおそれがあります。
責任分界点の明確化と2ヶ月の引き継ぎプロセス、内製と外注の併用
属人化を組織として防ぐには、責任の範囲、引き継ぎの手順、内製と外注の分担を明確にしておく必要があります。
- 1〜2週目:技術スタックやインフラ構成など、システム全体像を把握する段階です。
- 3〜4週目:保守手順と障害対応フローを学び、過去事例から暗黙知を身につけます。
- 5〜6週目:現行担当者の監督下での実務OJT。
- 7〜8週目:監督なしで作業し、マニュアルを最新化します。
運用責任者と保守責任者を決めて、「誰が・何を・どこまで行うか」を文書にまとめておきます。
責任者が曖昧なままだと、パスワード管理などのセキュリティ対策まで担当者任せになりかねません。
開発から運用へ移るときや、保守ベンダーを切り替えるときは、安全に引き継げる設計が必要です。
1ヶ月程度では全体像や暗黙知の移転が不十分になりやすいため、約2ヶ月(8週間)をかけます。
フルスクラッチでも、保守の役割は内製と外注で分けられます。たとえば、コア機能の改修・改善は内製で管理します。
24時間365日の監視や一次対応は、MSP(マネージドサービスプロバイダ)へ委託できます。限られた社内資源を価値のある業務に集中させられるうえ、属人化の防止にもつながる体制です。
体制を切り替えるときは、旧担当者と新担当者が並走する期間を確保します。
予算や納期の都合で引き継ぎを短くすると、責任分界点や手順が形骸化し、属人化を先送りするおそれがあります。
まとめ
フルスクラッチは独自仕様を柔軟に改善できる一方、環境変化への対応費用を自社側で負担します。
システムの理解容易性は改修コストに関わり、特定の担当者への依存は障害対応を遅らせるおそれがあります。
対策としては、習熟度を一覧にすること、保守性への投資、責任分界点を明確にすることが挙げられます。また、約2ヶ月の段階的な引き継ぎや、内製とMSP委託の組み合わせも、保守体制の選択肢になります。
まずは、自社システムの理解容易性と属人化の度合いを洗い出したうえで、必要な対策を計画的に進めます。独自性の高いシステムほど、開発時から保守体制を丁寧に設計することが望まれます。
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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
