旅行・観光業界のシステム開発は、独自要件を見極めたうえで、既存基盤で足りる部分と独自開発する部分を切り分けると、費用と期間を抑えやすくなります。
フルスクラッチが向くケースと既存基盤が向くケース、旅行会社・OTAとDMOそれぞれの判断、開発会社の選び方を扱います。
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フルスクラッチと既存基盤活用の使い分け

方式選びでは、代替できない独自要件がどれだけあるかが判断の中心になります。まずは要件を独自性と汎用性に分けておくと、検討を始めやすくなります。
既存SaaSで対応できる範囲まで独自開発に含めると、開発費用と期間が膨らみます。さらに、公開後の保守も自社で負うことになります。
独自予約フローや複雑な料金ロジック、地域固有のルールは、標準機能だけでは表しきれないことがあります。このため、要件を妥協するか、個別に開発するかを選ぶ場面が出てきます。
フルスクラッチが必要になるケース
フルスクラッチが必要になる代表的なケースは三つあり、いずれも既存の機能では置き換えにくい要件です。
- 既存システムの壁:既存基盤では扱えないデータ連携を、個別に作り込む場合
- 独自の業務ルール:標準機能にない地域・自社の処理
- 独自の予約フロー:動的な旅程販売など、既製の予約の流れでは組めない手続き
福井県では、施設ごとに異なるPMS(宿泊管理システム)からデータを集める必要がありました。そのため、施設別にRPA(自動化プログラム)を個別に開発する対応が取られました。
兵庫県の城崎温泉では、地域共通PMSの標準機能に加えて、入湯税の自動計算と、宿泊客の食事場所・内容の集計を追加で開発しています。
旅行会社・OTA(オンライン旅行代理店)は、航空券や宿泊、現地アクティビティを組み合わせた旅程を、リアルタイムで販売することがあります。
こうした旅程販売は、既製SaaSでは対応しきれないことがあります。なお、GDSはグローバル・ディストリビューション・システム、BSPは航空券販売代金精算制度です。GDSやBSPとの連携を含む領域では、フルスクラッチ開発が選ばれやすい傾向があります。
既存基盤・プラットフォーム活用が向くケース
既存基盤は、資金やノウハウが限られる場合や、事業者間の連携調整を減らしたい場合に向いています。活用の仕方は、地域の目的によって変わります。
- 観光データ活用:全国観光DMPの基本機能に、独自データを組み合わせる方法
- 事業者間連携:E015の統一API規格と、オンラインフォーム申請の利用
- 訪日客対応:Google MapビジネスプロフィールやWeChatの活用
- 混雑回避:日時指定チケットと、時間帯別の上限枚数の設定
全国観光DMPは、日本観光振興協会が提供しています。資金やノウハウが不足する地域でも、大規模な初期投資を避けながら、独自データを掛け合わせた観光地経営を目指せます。
箱根町はGoogle Mapビジネスプロフィールを、雲南省はWeChatミニプログラムを使っています。どちらも、既存のグローバルプラットフォームに相乗りする方法です。
スペイン・バルセロナでは、サグラダ・ファミリアなどで、この方式を採用しています。独自の大規模な入場管理システムを新たに開発することなく、混雑回避を実現している点が特徴です。
旅行会社・OTA基幹をフルスクラッチにする判断基準

旅行会社・OTAの基幹は、開発方式によって費用、期間、保守の負担が変わります。そのため、判断の目安として、外部連携の難しさと費用・期間の相場を確認しておくと役立ちます。
GDS/BSP連携・ダイナミックパッケージングの費用相場
費用は、外部連携の難易度と即時性を踏まえて見積もります。
参考となる連携事例も、開発範囲とあわせて見ておくことが大切です。
- 連携対象:GDS(Amadeus、Sabre等)、宿泊施設やOTAとの在庫・料金同期、動的なツアー造成
- 参考相場:不動産のポータル連携は「非常に高」難度で、1,500万〜数千万円以上、4〜8ヶ月以上
- 旅行会社・OTAの推測:GDS/BSP連携等の初期費用は数千万円〜1億円以上、期間は1年〜数年単位
- 要件定義:費用感を踏まえ、初期の要件定義でゼロ構築か既存予約基盤のAPI連携・一部開発かを見極める
旅行業法・消費者保護対応という独自要件
独自開発の範囲は、法規制への対応と汎用機能に分けて判断します。要件ごとに、既製の仕組みで足りるかどうかが変わってきます。
- 法定書面:旅行業法・消費者契約法に基づく取引条件説明書面や契約書面のデジタル交付
- 消費者保護:キャンセル規定など業界特有の法規制は、汎用ECや予約システムでは対応しきれないことがある
- 独自の予約手続き:自社の商流・約款に合う予約フローや同意プロセスは、独自設計が必要になることがある
- 機能の分担:法対応は自社で開発し、在庫検索や決済は既存APIを使う方法もある
全機能をフルスクラッチで作る前に、法対応の部分だけを独自開発する案も候補に入ります。
DMO・地域連携システムのフルスクラッチと基盤活用の比較
DMOや地域連携は、旅行会社・OTAの基幹とは事情が異なり、全域をゼロから作る方法と共通基盤を使う方法のほかに、地域内で両方を使い分ける方法も現実的です。
「地域共通PMS化」と「RPA抽出型」の比較(城崎温泉と福井県)
城崎温泉の統一型と福井県のRPA型では、移行の負担や個別保守の積み上がり方が異なります。正解は一つに決まらず、施設数や移行への協力の度合いで選びます。
- システム統一型:地域共通PMSに統一し、独自機能を追加する方式
- RPA抽出型:既存PMSは維持したまま、施設ごとにRPAでデータを集める
城崎温泉は、宿泊施設のPMSを同じ規格の地域共通PMSに統一したうえで、入湯税の自動計算や料飲集計を個別に開発する方式です。
運用をそろえやすい一方で、移行の負担と開発コストは大きくなります。
福井県は、施設ごとのPMSを変えずに、個別に開発したRPAでデータを自動で集めています。移行の負担が小さく、始めやすい反面、施設数が増えると開発と保守の費用が積み上がります。
全国観光DMPを土台にした部分オーダーメイド
地域データを扱うDMP(観光地域プラットフォーム)を、ゼロからフルスクラッチで作ると数千万円規模になります。一方、基盤を土台にすれば、個別開発の費用を大きく抑えられます。
- 共通基盤:日本観光振興協会が全国に提供する全国観光DMPの基本機能(ダッシュボードなど)
- 地域独自の情報:人流分析など、自地域のデータを掛け合わせた地域固有の指標
- 独自機能:地域内の事業者だけが必要とする機能を、機能単位で個別に開発
- 役割分担:データを集めて見えるようにする部分は基盤に任せ、全てを自作や既製品にせず機能単位で分ける
ハイブリッド型のアーキテクチャ設計・費用感
旅行会社・OTAとDMOのどちらにも、既存基盤と独自開発を組み合わせる方法があります。
情報の集積基盤や訪日客向けのUIには、全国観光DMPやGoogle Mapなどの既存サービスを使います。
既存PMSからデータを自動で集める部分はRPAなどで個別に開発し、地域や自社に固有の計算ロジックも独自に作ります。
「代替の効かないコア」と「周辺機能」の切り分け
設計の初めに、代替の効かないコア機能と周辺機能を分けておきます。そのうえで、主体ごとに、どこまでを独自開発し、どこからを既存サービスに任せるかを決めます。
- 旅行会社・OTA:GDS/BSP連携や動的旅程は独自開発、決済・多言語UIは既存SaaSやAPIの利用
- DMO:地域の料金計算やRPA収集は独自開発、可視化・分析は全国観光DMPの利用
旅行会社・OTAでは、コア機能がそのまま競争力や他社との差別化に直結します。一方、DMOでは地域固有の機能を個別開発の対象にします。
役割分担を設計段階で文書にしておくと、開発中に機能の実装先をめぐって判断が揺れるのを防げます。
ハイブリッド型の費用シミュレーション
ハイブリッド型は、全てをフルスクラッチする場合と比べて費用を大幅に圧縮できます。ただし、費用を左右するのは独自開発の範囲です。
- DMO:初期費用は数百万円〜1,000万円台に収まるケースが多い
- 旅行会社・OTA:コア部分のみなら、初期費用が数千万円規模に収まる可能性がある
DMOの想定は、全国観光DMPの基本機能を使い、地域独自のRPA連携や計算ロジックだけを開発する場合です。この想定では、ゼロからDMPを作る数千万円規模との差が生まれます。
旅行会社・OTAの想定では、既存の予約・決済代行APIを使い、GDS連携と動的旅程のコアを独自開発します。全機能を開発する場合は、GDS/BSP連携、決済、多言語UIまで含み、初期費用は1億円以上になります。ただし、範囲を絞れば現実的な選択肢になります。
失敗パターンと開発会社選定のポイント

旅行・観光業界のフルスクラッチ開発を成功させるには、過去の失敗を知って避け、業界特有の事情に対応できる開発会社を選ぶことが欠かせません。
典型的な失敗パターン
失敗の典型は三つあり、いずれも要件定義の段階で確認しておくと防ぎやすくなります。
- 多機能化・高額化:「いずれ必要」と詰め込みすぎると、費用が際限なく膨らむ
- 合意形成の後回し:事業者間の合意前に着手し、DMOなどで完成後もデータが集まらず機能しない
- 隠れ保守の見落とし:外部APIの変更対応で、保守費用が想定を超えること
GDS・OTA・地域PMSのAPI仕様が変わるたびに、自社側の改修が発生する場合があります。そのため、リリース後の保守費用も事前に見込んでおく必要があります。
要件定義で内容を見極め、合意形成の進め方を文書にしておくことも、失敗を事前に避ける手段の一つです。
開発会社選定のポイント
開発会社を比べるときは、旅行業界やDMO特有の連携実績、保守費用、地域支援体制、見積もりの内訳を確認することが欠かせません。
- 外部連携の実績:GDS/BSP、OTA API、地域PMS、決済を対象にした過去の事例
- 総保守コスト:初期開発費だけでなく、法改正やAPI変更への対応を含めた保守費
- 地域の支援体制:DMOでは、事業者間の合意形成をどこまで支えるか
- 見積もりと契約:人月で金額が変わるため、相見積もりを取ったうえで、工程別の内訳と請負・準委任の違い
汎用Web開発の実績が豊富でも、業界特有の連携経験が乏しければ、想定外の技術的な壁にぶつかるおそれがあります。
見積もりの安さだけで決めると、リリース後の保守で追加費用が生じる場合があります。人月単価によって提案額が大きく異なるため、単価の前提にも注意が必要です。
DMOでは、技術力に加えて、地域や事業者間の合意形成まで伴走できる体制も、重要な判断基準になりえます。
まとめ
旅行・観光業界向けのフルスクラッチ・オーダーメイド開発について、業界を横断して見てきました。
独自要件(既存の壁、地域や自社の業務ルール、予約フロー)が見つかった部分には、フルスクラッチを検討します。一方で、資金やノウハウが限られる場合や連携を促したい場合には、全国観光DMPやGoogle Mapを活用できます。
旅行会社・OTAの基幹開発は、初期費用が数千万円〜1億円以上、期間は1年〜数年単位に及ぶと推測されます。また、DMOには地域共通PMS化とRPA抽出型という二つの進め方があります。
現実的な方法の一つは、代替できないコア機能を独自開発し、ほかは既存基盤に任せるハイブリッド型です。
機能の詰め込みや合意形成の遅れ、外部連携の保守の見落としを避けること、そして旅行・観光業界の連携実績を持つ開発会社を選ぶことが、成功の鍵になります。
開発方針の相談は、独自要件と既存基盤で代替できる範囲を洗い出し、複数の開発会社に伝えるところから始めます。
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会社紹介
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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
