旅行・観光業界のシステム開発のPoC・プロトタイプ・モックアップ開発について

旅行・観光業界のPoCは、技術の実現性と関係者の合意形成を並べて計画し、限られた予算と期間のなかで実施可否を判断するための検証です。

一般的なアプリと同じ進め方では、技術検証を終えても実運用で頓挫しかねません。

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旅行・観光業界のシステム開発におけるPoCの位置づけ

PoCを中央に置き、技術面の実データや外部連携と、事業面のデータ提供や利用の合意を示す図。
両方の成立を見ながら、次の投資判断につなげます。

旅行・観光業界のシステムでも、モックアップ、プロトタイプ、PoCは、それぞれ検証する対象が異なります。

モックアップ・プロトタイプ・PoCの違いと費用感

検証内容の違いを押さえておくと、段階に合った成果物を選べます。

  • モックアップ:画面のレイアウトや操作感を確かめる、静的な「見た目の検証」
  • プロトタイプ:画面遷移や一部の操作を動かして確かめる「体験の検証」
  • PoC:外部接続と実データで、実現可能性や業務効果を確かめる「本番想定の検証」

旅行者向けの観光アプリでは、三つの段階がほぼ技術検証だけで完結します。この違いを踏まえないと、技術検証に成功しても実運用へ進めない恐れがあります。

旅行会社・OTAの基幹では、GDS(グローバル・ディストリビューション・システム)との実接続が中心になります。一方、DMOでは、地域事業者のデータ提供の意欲など、技術以前の条件も検証します。

モックアップの目安は、約1〜2週間、30万〜80万円程度です。これは一般的なWebシステム開発の相場をもとにした費用感です。

DMO向けでは、宿泊事業者や飲食店への説明会で、データ連携後のダッシュボードや地域の宿泊予測を示せます。画面で利点を見せることで、データ提供の合意形成を後押しします。

プロトタイプの目安は、約2〜4週間、50万〜150万円程度です。旅行会社やOTAでは、検索条件から旅程候補が出るまでの操作を確かめるのに適しています。

PoCの目安は、約1.5〜3ヶ月、150万〜500万円以上です。宿泊単体のPoCと違い、外部システムとの実接続やハードウェア連携、複数事業者との調整を伴う場合は、費用がこの目安を超えることもあります。

「技術検証」と「事業者合意形成」という二つの検証軸

旅行・観光業界のPoCでは、技術的に動くかだけでなく、関係者が協力するかも確かめます。この二つの軸を並べて見るのが特徴です。

  • 技術面:実データや外部連携で、システムが動くかどうか
  • 事業面:関係者がデータ提供や利用に合意するかどうか

特にDMOや着地型観光では、地域事業者のデータ連携に合意できるかが成否を分けます。宿泊施設や飲食店がデータを提供しなければ、技術的に優れたシステムも機能しません。

発注側と開発会社は、プロジェクト計画書やPoC実施要項に二つの軸を独立したタスクとして書き、最初から並行して計画します。担当者と評価指標も軸ごとに分けておくと、後工程の責任が明確になります。

ポイント

PoCでは、技術が動くかと関係者が協力するかの二軸を最初から並行して計画します。段階は、モックアップ、プロトタイプ、PoCのどれが目的に合うかで選びます。

DMO・着地型観光特有のPoCの進め方

あわら温泉エリアでの先行実証から、実績やメディア露出を経て、他エリアの事業者へ展開範囲を広げる流れ図。
先行エリアの実績が、次の地域との合意形成を支えます。

DMOや着地型観光では、まず限定したエリアで先行事例を作り、そのうえで展開範囲を広げていきます。

福井県あわら温泉の事例をもとに、進め方と、この型で生じる特有のコストを順に示します。

限定エリアでの先行実証から広域展開へ(福井県あわら温泉の事例)

先行実証から広げていく手順を踏めば、規模とリスクを抑えながら合意形成を進められます。

  1. 対象をあわら温泉エリアに絞り、PMSからRPAでデータを自動で集めます。
  2. 実績やメディア露出を材料に、他エリアの事業者へ成果を示します。
  3. 事業者との合意を得ながら、展開範囲を段階的に広げます。

福井県では、県全域ではなく、あわら温泉エリアに対象を絞り、各施設のPMSからRPA(自動化プログラム)でデータを集めるPoCを構築しました。

先行エリアの成功事例は、他地域の事業者との合意形成で、最も強い説得材料になります。

対象選びでは、連携のしやすさに加えて、地域内で発言力と波及効果を持つ事業者が含まれるかも見ます。こうした事業者の参加は、成功の確率を左右する判断材料です。

PoC成功のための特有コスト構造(説明会・伴走支援)

DMO向けのPoCでは、開発費のほかに、合意形成のための費用も予算に含めます。

  • 説明会費用:地域事業者向けのデータ分析説明会を行う費用
  • 伴走支援費:データを使った新商品企画を支える人件費です。

特に、デジタルに不慣れな事業者への説明や企画支援は、主要な投資項目です。

技術検証だけを計画すると、予算超過やスケジュール遅延につながります。

見積もりは、システム開発費と説明・伴走支援費を分けて出してもらいます。そのうえで、予算は両方を合わせた実質的な投資額で組みます。

ポイント

DMOや着地型観光では、限定エリアで先行事例を作り、その成果を他の事業者への説明に使います。説明会や伴走支援の費用も開発費と分けて、予算に含めます。

旅行会社・OTA・交通連携のPoC検証観点

DMOは合意形成に重きを置きます。一方で、旅行会社・OTA・交通連携では、外部システムとの実接続における技術的な実現可能性に重心を置きます。

あわせて、既存基盤をどこまで活用できるか、その可能性も確かめます。

GDS/OTA連携の実データ検証とダイナミックパッケージングの精度確認

実データを使い、連携先からの応答、旅程の生成、異常時の挙動を確かめます。

  • 在庫と料金:検索条件ごとに、航空券と宿泊の最新情報を取得します。
  • 旅程生成:複数の在庫を組み合わせて、実用的な速さで候補を出します。
  • 異常時の動作:応答遅延や在庫データの不整合が起きたときの挙動です。

旅行会社・OTAの基幹では、GDS(グローバル・ディストリビューション・システム。Amadeus、Sabre等)や複数のOTAに接続します。

複数の連携先につなぐぶん、異常時の挙動を洗い出しておかないと、本開発で想定外の手戻りにつながります。

PoCでは、主要なGDS一社とOTA一社に絞って実データを検証できます。全連携先を網羅しなくても技術的なボトルネックを確かめられるため、費用と期間を抑えられます。

繁忙期を想定した負荷テストを一部行うと、インフラ設計の精度が上がります。さらに、本開発後の手戻りリスクも下げられます。

既存プラットフォーム活用の実現性検証(インバウンド・周遊促進)

交通連携や多言語インバウンド対応では、独自開発の前に、既存のグローバル基盤で要件を満たせるかを検証します。その結果、必要な開発範囲も判断しやすくなります。

  • 情報提供:Google MapビジネスプロフィールやWeChatミニプログラムを試します。
  • 動的データ:AIカメラの混雑状況と、提案ルートを照らし合わせます。
  • 屋外環境:天候や通信環境の変化に、どこまで耐えられるか

訪日外国人に独自アプリのダウンロードを求めず、使い慣れた基盤を活用できます。たとえば箱根町の事例のように、周遊促進や情報提供をどこまで実現できるかを見極めます。

この検証結果は、後続でフルスクラッチ開発が必要かどうかを判断する材料になります。

箱根DMOのようにAIカメラなどを使う場合は、実環境で一定期間の検証が必要です。また、屋外のハードウェアでは、天候と通信環境の変化も検証範囲に含めます。

事業者間の決済・精算自動化の検証(ニセコエリアの事例)

予約連携に加えて、キャンセルや返金を含めた精算処理も確かめます。

  • 精算額:キャンセルや返金のあとに、正しく再計算されるかどうか
  • 分配ロジック:複数事業者への配分が、料金体系と合っているか
  • 一括請求:ホテルと体験事業者の精算を、自動化できるか

ホテル経由で地域の体験を予約する場合は、事業者間の精算も重要な検証項目です。

ニセコエリアでは、体験アクティビティの予約をまとめて扱うシステムを導入しました。

決済代金は自動で精算し、一括で請求できるようにしました。その結果、現金のやり取りや個別請求の業務を大幅に削減しています。

精算ロジックの確認を怠ると、請求額が食い違い、信頼を損なうおそれがあります。そのため、PoCの重要項目として検証します。

ポイント

旅行会社やOTAでは、主要なGDSとOTA一社ずつを実データで検証し、異常時の挙動まで確かめます。既存のグローバル基盤で足りるかを先に調べ、独自開発の範囲を決めます。

Go/No-Go判断のポイント

Go/No-Go判断の二つの評価基準として、技術面の連携安定性と、合意形成面の継続利用やデータ提供の合意を左右に並べた図。
二つの評価軸をそろえて、本開発への移行を検討します。

PoCを始める前に、本開発へ進むGoか、計画を見直すNo-Goかの基準を決めておきます。判断があいまいなままだと、投資を回収できないシステムに進むリスクがあります。

技術基準と事業者合意基準を分けた評価

Go/No-Goの判断は、技術面と事業者・合意形成面を分けて評価します。

  • 技術面:実データで連携が安定し、速度と精度が許容範囲に収まっているか
  • 合意形成面:対象事業者から、継続的な利用やデータ提供の合意を得られたか

技術基準では、GDS、OTA、地域PMSなどとの連携を確かめます。一方、事業者基準では、対象エリアで利用やデータ提供が続く見込みを確かめます。

技術面がうまくいっても、事業者の合意がなければ、そのままGoにはできません。逆に、合意が順調でも、連携に致命的な課題があれば連携方式そのものを再検討します。

判断会議には、開発担当者だけでなく、事業者窓口のDMOスタッフも同席します。旅行会社側では、営業やオペレーションの担当者も加わります。双方で結果をすり合わせると、後工程で認識がずれるのを防ぎやすくなります。

ROIとNo-Go時の代替案の事前準備

ROI(投資対効果)と、No-Go時の選択肢を合わせて検討します。

  • 既存基盤:全国観光DMPの標準機能で、運用を続ける
  • 個別SaaS:部門別またはエリア別のサービスに切り替える
  • 対象縮小:技術構成を維持したまま範囲を縮め、本開発へ進む

本開発費と将来の保守運用費の合計を、送客増加、業務効率化、地域の経済波及効果といった見込み効果と照らし合わせます。

公的な予算が関わるDMOでは、後から説明責任を果たせるよう、評価基準を関係者どうしで事前に合意しておきます。

PoCは、作るべきかを見極める取り組みです。この目的を関係者全員で共有すると、開発ありきにならず、健全な投資判断につながります。

検証結果が、一部はGo、別の一部はNo-Goとなるケースもあります。

たとえば、GDS連携は稼働しても、想定していた事業者のデータ提供の合意が得られない場合があります。その場合は、技術構成を保ったまま対象範囲を縮小して進む案も検討できます。

ポイント

Goの判断には、技術面と事業者の合意面の両方がそろうことが必要です。どちらかが欠けたときは、連携方式の見直しや対象範囲の縮小、代替案を検討します。

まとめ

業界横断の視点で見ると、旅行・観光業界のPoCは、対象となる事業領域に応じて検証の中心が変わります。DMOや着地型観光では地域事業者がデータ連携に合意するかが論点で、旅行会社・OTA・交通連携では外部システムとの実接続が中心になります。

費用の目安は、モックアップが約1〜2週間・30万〜80万円、プロトタイプが約2〜4週間・50万〜150万円、PoCが約1.5〜3ヶ月・150万〜500万円以上です。

DMO向けでは説明・伴走支援費を、旅行会社・OTA向けでは実接続検証費を別枠で見込みます。技術と事業者合意を分けて評価し、ROIとNo-Go時の案も用意します。これにより、PoCを「作って終わり」にしないための投資判断の土台になります。

計画の相談では、旅行会社・OTA・DMO・交通機関のどれを対象にするかを明確にします。検証したい論点を開発会社に伝え、複数社に相談することから始めます。

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株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。