カリフォルニア州「No Robo Bosses Act」を解説|AIだけで解雇・懲戒を決めることを禁止

カリフォルニア州のGavin Newsom知事は2026年9月30日、州上院議員Jerry McNerney氏のSB 947に署名しました。法案名は「Employment: automated decision systems」です。No Robo Bosses Actと呼ばれるこの法律は、雇用主がAIだけに依存して従業員の解雇や懲戒を決めることを禁じます。

企業にとっての焦点は、AIを人事業務から外すことではありません。AIや自動意思決定システム(ADS)の出力を、誰がどの資料で確認し、どのように判断記録を残すかという運用設計です。ADS出力に主として依存して解雇・懲戒を決める場合は、人による裏付けと労働者への書面通知が必要になります。

規定が適用開始となるのは2027年7月1日です。人事評価、勤怠、生産性分析などの仕組みが解雇・懲戒の判断に影響するなら、対象システムの棚卸しと確認手順の整備を今から始める必要があります。

※本記事は2026年10月16日時点の情報です。

SB 947は2026年9月30日に署名され、2027年7月1日に適用開始となる。その間が準備期間
No Robo Bosses Actと呼ばれるカリフォルニア州の法律

成立と適用開始|2026年9月30日に署名、2027年7月1日から

SB 947は、カリフォルニア州で雇用主が使う自動意思決定システムを対象にした法律です。Newsom知事が署名したのは2026年9月30日で、州知事公式発表では「Employment: automated decision systems」として法案名が示されています。

McNerney議員の公式記事は、この法律をNo Robo Bosses Actと呼び、2027年7月1日に適用開始となると説明しています。署名日から適用開始までが準備期間です。人事部門だけでなく、AIを組み込んだ勤怠・評価・業務管理システムを持つIT部門も対象を確認する時期です。

ここで押さえたいのは、署名されたことと、企業の運用義務が始まることは同じではありません。施行日を境に判断フローを変えられるよう、既存のシステムと人事規程を先に一覧化しておくと、準備の抜けを減らせます。

ポイント

SB 947は2026年9月30日に署名され、2027年7月1日から適用開始となります。準備期間に人事AIの対象範囲と責任者を決めることが企業の初動です。

禁止される判断|AIだけで解雇・懲戒を決められない

SB 947の禁止は、解雇・懲戒だけに限りません。成立法文§1522(a)は、ADSを法令違反や法令遵守の妨げに使うこと、従業員の保護属性を推定すること、法的権利の行使を理由とする不利益措置を予測・実行することも禁じています。本記事の中心は§1522(b)の解雇・懲戒ですが、法律全体をこの判断だけに狭めて理解しないことが必要です。

勤怠の異常値や業務の生産性スコアをシステムが算出すること自体を、直ちに禁止する法律ではありません。§1522(b)(1)が禁じるのは、解雇・懲戒の判断をADSだけに任せることです。ADS出力に主として依存する場合は、人がデータや関連情報で裏付け、出力が不正確・不完全・誤解を招くなら判断に使わない仕組みも必要になります。

つまり、AIの補助利用すべてを一律に禁止するのではなく、最終判断への依存の程度を業務フローで確認します。企業が最初に行うべきことは、AIという製品名を探すことではありません。解雇・懲戒に関係する判断材料が、どのデータから、どのシステムを経由し、誰へ渡るかを追跡します。

ポイント

禁止されるのは、解雇・懲戒の判断をAIやADSだけに依存することです。人事AIの棚卸しは、製品名ではなく判断の流れを起点にする方針です。

人の確認と従業員通知|主として依存する場合の説明責任

ADS出力に主として依存して解雇・懲戒を決める場合は、人による確認・裏付けを経て判断し、本人へ書面通知を渡す
AIやADSだけに依存して解雇・懲戒を決めることは禁止される

SB 947は、解雇・懲戒の判断でADS出力に主として依存した場合、人にデータや関連情報で判断を裏付けさせます。ADSを単に補助的に参照した場合と、結論を主に依存した場合を分けて、人が検証する手順を組み込みます。AIが出した結果を、そのまま人の決定として扱う設計は見直しの対象です。

もう一つの柱が、主としてADSに依存した場合の書面による事後利用通知です。雇用主は判断を本人へ伝える時点で、ADSへの主な依存、人による確認・裏付け、問い合わせ先と本人データの説明請求権、権利行使への報復禁止を通知に含めます。平易な言葉の独立した書面とし、通常の社内連絡と同じ言語で、電子メールなど簡単な方法で渡す設計が必要です。

この設計では、人事担当者を形式的な承認者にしないことが大切です。確認者には、入力データの意味、出力が示す根拠、反対の情報がないかを確かめる役割を持たせます。確認した内容を記録すると、後から判断の経緯を説明しやすくなります。

人間監督の設計は、欧州の制度でも繰り返し登場する論点です。日本企業が確認すべき監督者の権限や介入条件は、高リスクAIの人間レビューの整理も参考になります。SB 947の対象はカリフォルニア州の雇用判断ですが、監督者の役割を明文化する考え方は共通です。

ポイント

ADS出力に主として依存する場合は、確認者・確認内容・記録・書面通知を一体で設計します。補助利用と主な依存を切り分け、人間監督を承認ボタンで終わらせないことが要点です。

企業の準備|人事AIを棚卸しし、確認・記録・通知を業務に組み込む

企業の準備の5項目。対象システム、確認者、確認資料、記録、通知窓口
IT・人事・法務で分担し、判断経路を1枚の業務フローにまとめる

2027年7月1日までに、企業は対象となりうる判断経路を洗い出します。人事部門が把握している採用・評価システムだけでは足りません。現場が独自に導入した業務管理ツールや、外部サービスのスコアが懲戒判断へ渡っていないかも確認します。

  • 対象システム:解雇・懲戒の判断材料を出すADSと、その入力データを一覧にする。
  • 確認者:人事・現場管理職・法務など、最終判断を検証する役割を決める。
  • 確認資料:出力だけで決めず、判断を支える情報をどこで確認するか決める。
  • 記録:入力、出力、人の確認内容、最終判断を追跡できる形で残す。
  • 通知窓口:ADS出力に主として依存した場合の書面通知担当と、従業員からの問い合わせ先を定める。

この5点を一度に完璧にする必要はありません。まずは解雇・懲戒に影響するデータの経路を図にし、担当部署ごとに空欄を埋めます。IT部門はシステムの出力とログ、人事部門は判断手順、法務部門は通知と社内規程を確認すると、作業分担が明確です。

社内のAI利用ルールに落とし込むときは、EU AI Actの透明性と人間監督に関する整理や、AI事業者ガイドライン第1.2版の運用ポイントも参照先です。法域は異なりますが、責任者と記録を先に決めるという実務上の考え方を共有できます。

ポイント

準備は「AIを使っているか」の確認で終わりません。判断経路、確認者、資料、記録、通知窓口を1枚の業務フローにまとめると、IT・人事・法務の抜けを見つけやすくなります。

日本企業への示唆|人間監督を「機能」ではなく統制として設計する

SB 947はカリフォルニア州の法律ですが、企業のAI設計に一つの基準です。AIが従業員の処遇に影響するなら、モデルの精度だけでなく、誰が止められるか、何を根拠に判断を覆せるか、本人へどう説明するかを決めておく必要があります。

海外拠点を持つ日本企業は、カリフォルニア州向けの対応を個別の例外ルールとして置く方法も選択肢です。一方で、拠点ごとに異なる運用を増やすと、同じ人事AIの判断に複数の基準が混在します。共通の社内標準として人の確認と記録を実装し、法域ごとの差分を通知や権限に反映する構成が管理しやすくなります。

経営層が確認すべきなのは、AI導入の可否だけではありません。解雇・懲戒に使う判断材料をAIが出す場合、業務責任者がその出力を説明できるか、IT部門がログを追えるか、人事部門が従業員へ通知できるかを、導入前のチェック項目に含めます。

AIの判断を人が監督する仕組みは、モデルを導入した後に追加する機能ではありません。利用目的、権限、確認、通知、記録を一つの業務設計として決めておくことで、法改正やシステム変更にも対応しやすくなります。

ポイント

SB 947を海外法対応だけで終わらせず、従業員に影響するAIの共通統制を見直す契機にします。監督者の権限と証跡を、導入要件に含める設計です。

よくある質問

Q. No Robo Bosses Actはいつから適用されますか?

SB 947は2027年7月1日から適用開始となります。

Q. SB 947は人事業務でのAI利用をすべて禁止しますか?

いいえ。§1522(a)は、法令違反や法令遵守の妨げ、保護属性の推定、法的権利の行使を理由とする不利益措置へのADS利用を禁じます。そのうえで解雇・懲戒ではADSだけへの依存を禁じ、主として依存する場合に人の裏付けや通知を求める仕組みです。

Q. AIを解雇・懲戒の判断材料に使う場合、企業は何をする必要がありますか?

解雇・懲戒でADS出力に主として依存する場合、人にデータや関連情報で判断を裏付けさせます。出力が不正確・不完全・誤解を招くなら使いません。本人へは、ADSへの主な依存、人による確認・裏付け、問い合わせ先と本人データの説明請求権、権利行使への報復禁止を含む書面通知を渡します。

Q. SB 947は誰が執行しますか?

California labor commissioner、州司法長官、地方検察官が執行します。private right of actionは設けられていません。

まとめ

カリフォルニア州のSB 947は、2027年7月1日から、雇用主がAIやADSだけに依存して解雇・懲戒を決めることを禁じます。法令違反や保護属性の推定、法的権利の行使を理由とする不利益措置へのADS利用も禁じ、解雇・懲戒で主として依存した場合は、人による裏付けと書面通知を求める制度です。

企業は施行日までに、判断に影響するシステムを棚卸しし、確認者、確認資料、記録、通知窓口を決めます。人事AIの導入を進める場合ほど、精度の検証と同じ重さで、人が判断へ介入できる業務設計を整えることが大切です。

ポイント

「AIが決めた結果を人が承認する」状態から、「人が根拠を確認して決めたことを記録し、本人へ説明できる」状態へ運用を変えます。

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株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。