RAGのプロンプトインジェクションを解説|社内DB参照で必要な防御策

OWASPは、公式のセキュリティガイド「LLM Prompt Injection Prevention」「AI Agent Security」「MCP Tool Poisoning」で、外部データを未信頼な入力として扱い、入力検証、命令とデータの分離、最小権限、監視、敵対的テストを組み合わせる対策を示しています。RAG(検索拡張生成)で社内DBやWeb情報を検索し生成AIの回答に利用する企業は、この整理が示す境界の甘さが「間接プロンプトインジェクション」につながる点に注意が必要です。

検索結果に悪意ある指示が含まれると、AIがその文書をデータではなく命令として扱い、機密情報の回答、誤った要約、外部ツールの不正利用につながる可能性があります。企業のIT部門や事業責任者は、検索精度だけでなく、取得した文書がモデルや接続ツールへどう影響するかを評価する必要があります。

防御をシステムプロンプトだけに頼ると、モデルや検索基盤の変更で挙動が変わる可能性があります。ここでは、RAGでプロンプトインジェクションが起きる経路と、企業が実装すべき5つの防御を順に整理します。

※本記事は2026年8月時点の情報です。

検索結果に隠し指示が混入し、AIが命令として誤って実行してしまう経路と、サニタイズ・権限・人の確認による防御を示す図
検索結果に混入した隠し指示は、サニタイズ・権限管理・人の確認で実行前に遮断する

RAGでプロンプトインジェクションが起きる経路

RAGでプロンプトインジェクションが起きる登録・検索・生成・実行の4段階を示す図
登録・検索・生成・実行のいずれの段階でも、境界を突かれるリスクがある

攻撃者は、検索対象のWebページ、アップロード文書、FAQ、メール、ナレッジベースへ、ユーザーの本来の質問とは無関係な指示を埋め込むことがあります。RAGがその文章を取得してモデルのコンテキストへ入れると、指示と引用データの境界が曖昧になります。

境界が崩れると、機密情報の回答、誤った要約、外部ツールの不正利用につながる可能性があります。次の表は、登録から実行までの各段階でどのような確認が必要かを整理したものです。

段階リスク確認項目
登録悪意ある文書が知識ベースに入る作成者、承認、マルウェア、更新履歴
検索不適切な文書が結果に混ざるアクセス権、出典、信頼度、テナント分離
生成文書中の指示を命令として解釈するデータと命令の区切り、出力検証
実行ツール呼び出しや外部送信へ進む最小権限、人の承認、監査ログ

ポイント

攻撃者は登録・検索・生成・実行のいずれかの段階で境界を突こうとします。命令と引用データを明確に分離し、各段階の確認項目を運用へ組み込むことが防御の出発点です。

企業が実装する5つの防御

企業がRAGのプロンプトインジェクションに実装する5つの防御(登録者・承認・履歴の記録、出典とアクセス権の付与、命令とデータの分離、重要操作は人の承認必須、敵対的テスト)を示す図
5つの防御は単独ではなく組み合わせて運用する

RAGを安全に運用する企業は、登録から実行までの各段階に対応する、次の5つの防御を組み合わせています。

  • 文書の登録者、承認者、更新履歴、対象ユーザーを記録する
  • 検索結果に出典とアクセス権を付け、テナント間の混入を防ぐ
  • 取得文書を命令ではなく引用データとして明示的に区切る
  • 外部送信、更新、削除、決済などを人の承認なしに実行させない
  • 悪意ある文書、隠しテキスト、長い指示、権限逸脱を含むテストを行う

防御をシステムプロンプトだけに依存すると、モデルや検索基盤の変更で挙動が変わる可能性があります。RAGの評価では、回答の正確さに加え、出典、拒否、データ漏えい、ツール利用、監査ログを測ります。

AgentOpsやAIエージェント統制の台帳へ、RAGのデータソースと権限を含めましょう。

ポイント

5つの防御は単独ではなく組み合わせが前提です。システムプロンプトだけに頼らず、出典・拒否・データ漏えい・ツール利用・監査ログをAgentOpsやAIエージェント統制の台帳で継続的に評価しましょう。

よくある質問(FAQ)

Q. RAGのプロンプトインジェクションとは何ですか?

検索された文書やWeb情報に含まれる悪意ある指示が、AIの命令として扱われ、本来の目的とは異なる回答や行動を誘導する攻撃です。

Q. 社内文書だけなら安全ですか?

安全とは限りません。社内文書にも誤情報、意図しない指示、過剰な権限を持つデータが混ざる可能性があります。登録者、承認、アクセス権、更新履歴を管理してください。

Q. 対策はプロンプトを強くするだけでよいですか?

不十分です。データと命令の分離、入力検証、出典、最小権限、人の承認、監視、敵対的テストを多層で組み合わせます。

Q. RAGの安全性は何を評価しますか?

回答の正確さだけでなく、適切な出典、アクセス権、拒否、機密情報の非開示、ツール呼び出し、異常時のログと停止を評価します。

まとめ

RAGは検索結果をAIへ渡すため、取得文書に含まれる悪意ある指示や誤情報が、回答やツール利用へ影響する可能性があります。外部データを未信頼として扱い、文書管理、アクセス権、命令とデータの分離、最小権限、人の確認を組み合わせましょう。

導入前は、悪意ある文書と権限逸脱を含むテストを行い、回答品質だけでなく出典、漏えい、拒否、ログ、停止を評価することが重要です。

参考情報:
OWASP「LLM Prompt Injection Prevention」
OWASP「AI Agent Security」
OWASP「MCP Tool Poisoning」

ポイント

外部データは常に未信頼として扱い、文書管理・アクセス権・命令とデータの分離・最小権限・人の確認を多層で組み合わせることが、RAGを安全に運用する前提になります。

会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。