経理のAI活用事例|仕訳・請求・経費精算・決算を変える実例

経理のAI活用は、仕訳・請求書処理・経費精算・決算の4つの業務で、すでに具体的な成果を上げています。

経理には反復作業が多く、残業が常態化している企業も見られます。経理へのAI導入を考えても、他社がどのような成果を上げているのかイメージが湧かず、判断に迷う経理担当者や経営者は少なくありません。業務ごとに効果を数値で示した先進企業の実例は、何から始めるかを考える材料になります。

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・経理のAI活用 完全ガイド|進め方・事例・効率化まで体系的に解説

仕訳業務へのAI活用事例

過去の仕訳データから勘定科目を提案するAIと、新規取引先や差分レポートを人が確認する要素を示した図解。
例外の確認と日々の差分確認が、精度向上を支えます。

仕訳業務は、経理部門の中でも最も時間を費やす定型作業のひとつです。国内中堅企業では仕訳入力の約7割がいまだ手入力で行われており、月末残業は平均32時間に達するという調査結果もあります。AIによる自動仕訳は、この構造的な課題を根本から変える手段として注目されています。

ZOZOの事例:月次決算を4営業日短縮

アパレルECを運営するZOZOでは、AIサービス「sweeep」を導入し、98.5%の高精度AI-OCRとGPT系の仕訳AIを組み合わせたシステムを構築しました。その結果、請求書100枚をわずか3分で自動仕訳できる処理速度を実現し、月次決算の期間を4営業日も短縮することに成功しました。担当者が紙の請求書を手入力で処理していた頃と比べると、作業効率は大きく向上しています。

導入当初のAI-OCRの認識精度は93%程度でしたが、差分レポートを日次で確認し、誤読が多い取引先に請求書フォーマットの統一を依頼することで、精度を段階的に引き上げています。AIは一度学習すれば自動的に改善されるわけではなく、人間との協業によって精度が高まる仕組みです。

従業員2,500名規模の企業事例:業務量を3分の1に削減

従業員2,500名規模の製造業のA社では、AI自動仕訳ツールを全社導入した結果、経理部門の業務量が約3分の1にまで削減されました。以前は数名がかりで月間数千件の仕訳入力に従事していましたが、AIによる自動化後は例外処理の確認と承認作業が中心になっています。さらに、削減された人件費を研究開発費へ再配分することで、事業成長にも貢献しています。

自動仕訳AIは、過去の仕訳データから取引のパターンを学習し、勘定科目を自動で提案・割り当てします。ただし、新規取引先や特殊な取引は人間が確認する二段階チェック体制を維持することで、精度と安全性のバランスを保っています。月次残業時間を22時間削減できた企業の事例も報告されており、経理担当者の働き方改革に直結する効果が見られます。

ポイント

仕訳の自動化は、導入直後の精度に頼らず、差分の確認と人による確認を残しながら精度を上げていく前提で計画するのが現実的です。

請求書処理へのAI活用事例

請求書の受取からAI-OCR、3点照合を経て例外処理と最終承認へ進む処理フロー。
照合で見つかった不一致は、例外処理へつながります。

請求書処理は、受取から内容確認・仕訳・支払承認まで、複数のステップが絡み合う複雑な業務です。紙の請求書、PDF、メール添付など形式もばらばらで、担当者が手作業でデータ化しているケースがなお多く残っています。AIエージェントの登場により、受取から支払いまでの一連のプロセスが大きく変わりつつあります。

AIエージェントによる請求書完全自動処理

大企業向けのAIエージェント導入事例では、調達から支払いまでの流れがほぼ完全に自動化されています。具体的には、メールや電子帳票システムで受け取った請求書をAI-OCRが読み取り、日付・金額・品目・振込先などの情報を自動で抽出します。次に、購買システムの発注情報(PO)と納品情報(GRN)との3点照合が自動で行われ、金額や日付の不一致を検知した場合は、リアルタイムでアラートが発せられます。

この仕組みにより、請求書1件あたりの処理時間は従来の15分から1分以内に短縮され、担当者は例外処理と最終承認に集中できるようになりました。インボイス制度への対応も、AIが自動でチェックします。そのため、適格請求書の要件を満たしているかの確認漏れが大幅に減少しています。

製造業での入金消込自動化事例

ある製造業の企業では、AIを搭載した入金消込システムを導入し、売掛金の消込作業にかかる時間を大幅に削減しました。以前は、経理担当者が銀行の入金明細と売掛金台帳を目視で照合しながら消込を行っていましたが、AIが照合ルールを自動で学習し、振込人名義の表記揺れや部分払いにも対応できるようになりました。

消込率は導入前の70%程度から98%超へと向上し、経理担当者は残り2%の例外処理と債権管理の戦略的な業務に集中できるようになっています。

請求書を発行する側でも、変化が起きています。取引内容をもとに請求書を自動で作成し、指定の送付先へ送るシステムを導入した企業では、請求書作成にかかる工数がゼロに近い水準まで減りました。請求漏れや送付先ミスも大幅に減り、売上の取りこぼしを防ぐ面でも成果が出ています。

ポイント

請求書処理は、受取から支払いまでのどの段階で手作業が残っているかを洗い出し、AIに任せる範囲と人が例外を見る範囲を分けて決めるのが目安です。

経費精算へのAI活用事例

経費精算は、従業員が提出する領収書の確認・入力・承認に加えて、経理担当者のチェックも必要になるため、作業が二重に発生する業務です。不正申請のチェックや社内規程との整合性の確認など、属人的な判断が求められる場面も多くあります。こうした点から、AIの活用余地が特に大きい領域といえます。

花王グループの事例:年間55,000時間・1.5億円を削減

花王グループでは、「SAPPHIRE」というAIシステムを導入し、経費精算業務を抜本的に変えました。従業員のスケジュールや施設の入退館情報から移動ルートを自動で予測し、税法や社内規定に基づいて交通費を自動で判定するという、高度な仕組みです。経費精算のために領収書を保管・提出するという従来の手間そのものをなくす設計になっています。

この仕組みにより、グループ全体で業務時間を年間約55,000時間、コストを約1.5億円削減する見込みです。経費精算という一業務でこれだけの効果が出る背景には、従業員数が多い大企業ほど膨大な手作業が積み上がっていたことがあります。規模の大小にかかわらず、経費精算の自動化は確実にROIが出やすい分野のひとつです。

日東電工の事例:自動化率が50%から90%へ向上

素材メーカーの日東電工(Nitto)は、2025年4月にIBMと連携してAIエージェントの導入に着手し、わずか半年足らずで本番稼働にこぎつけました。経費精算を含むバックオフィス業務の自動化率は、導入前の50%から90%へと大幅に向上しています。

特筆すべきは、導入のスピードです。「AIを入れるにはまず業務整理が必要」という先入観から長い準備期間を設けがちな企業が多いなかで、日東電工は短期間のスモールスタートと段階的な拡張を選びました。

まず自動化の効果が明確な領域から着手し、成功体験を積みながら対象範囲を広げたことが、半年での本番稼働につながっています。経費精算分野では、入力工数の75%削減と、月次精算締切の2営業日前倒しという成果も出ています。

ポイント

経費精算は、規模の大小にかかわらず効果が出やすい業務です。まず領収書の確認・入力など手作業の多い部分から始めると、効果を確かめながら進められます。

決算業務へのAI活用事例

月次・四半期・年次の決算では、締め切りまでに多くの作業を仕上げなければならず、経理部門の負荷が最も集中します。決算期に重なる作業は、次の4つです。

  • データの集計
  • 異常値のチェック
  • 開示資料の作成
  • 監査対応

生成AIの登場によって、これまで専門知識と経験を持つ担当者にしか対応できなかった作業の一部も、自動化できるようになってきました。

決算注記ドラフトの自動生成:作業時間を4時間から1時間に短縮

上場企業の経理部門では、生成AIを使って決算注記のドラフトを作る動きが広がっています。従来は熟練の経理担当者が決算注記の作成に4〜6時間を費やしていましたが、前期の注記文書と当期のデータを生成AIに読み込ませ、変更点を指示するだけで、1時間程度でドラフトが完成する事例が増えています。

連結決算の開示業務でも、変化が起きています。グループ会社が多い企業では「1社分の作業時間で4社を対応できるようになった」という事例も報告されており、業務量が3分の1程度にまで圧縮されたケースもあります。生成AIによる注記ドラフトは100%の完成品ではなく専門家のレビューが欠かせませんが、ゼロからドラフトを作る作業がなくなるだけで、大幅な時間削減が実現します。

BIと生成AIの連携による異常値検知と財務コメント自動生成

最新の事例では、BIツール(ビジネスインテリジェンス)と生成AIを連携させ、貸借対照表や損益計算書の異常値を自然言語でレポート化するシステムを導入する企業も登場しています。たとえば、「売掛金の回収期間が前月比15%長くなっています。特定得意先との取引に集中している可能性があります」といった示唆を自動で生成し、経理担当者や経営層に届ける仕組みです。

この仕組みを導入した企業では、月次レポートの作成工数が従来の半分以下になっただけでなく、経営会議での財務報告の質も向上したと報告されています。数値を読み解くことに精通した経理担当者の知見を、AIが代替するのではなく増幅させる使い方として、決算期の財務分析支援は最も費用対効果の高いAI活用のひとつといえます。

月次決算の発表が3営業日早まり、ROEが0.9ポイント改善した企業事例も存在し、経営スピードの向上という観点からも注目されています。

ポイント

決算業務では、ドラフト作成や異常値の検知をAIに任せ、最終的な確認と承認は専門家が担う形が目安になります。

生成AIによる経理業務の横断的な変革事例

ChatGPTの登場を契機に、生成AIを経理業務に使う企業が急増しています。バックオフィス担当者の45.2%がすでに生成AIを業務で活用しており、そのうち約8割が「業務負担の軽減」を実感しているという調査結果もあります。仕訳・請求・経費・決算といった個別業務の自動化に加えて、生成AIは経理部門全体の働き方を変える力を持っています。

ChatGPTを活用した経理問い合わせ対応の効率化

経理部門には、従業員や取引先から「この費用はどの勘定科目で処理すればよいか」「インボイス対応の領収書の書き方を教えてほしい」といった問い合わせが日常的に寄せられます。大手メーカー系IT企業では、生成AIを使った社内AIアシスタントを全社に導入し、こうした問い合わせへの対応を自動化しました。

経理規程や税務知識を学習させたAIチャットボットが24時間対応するため、経理担当者が問い合わせに費やしていた時間は大幅に減っています。

同様の取り組みは、経費申請のルール確認、勘定科目の分類相談、電帳法への対応方法など、幅広い用途に広がっています。生成AIは過去の似たケースと照らし合わせて回答するのが得意なため、法改正や社内規程の変更があったときも、最新情報を学習させることで対応内容を自動で更新できます。

経理の役割変化:ルーティン業務から戦略的ファイナンスへの転換

AI活用が進む経理部門では、担当者の役割が大きく変わりつつあります。「仕訳を入力する人」から「AIが処理した結果を分析・判断する人」へとシフトしており、財務データを経営判断に生かすビジネスパートナーとしての役割が求められています。国内外の調査が示す共通の方向は、経理の仕事が「なくなる」のではなく、「再定義される」というものです。

この変化に対応するため、AI活用後の経理人材に求められるスキルとして注目されているのは、次の4つです。

  • データ分析力
  • AIツールのプロンプト設計能力
  • 例外処理の判断力
  • 財務戦略への提言力

AIが単純作業を担い、人間が判断・分析・提案といった付加価値の高い業務に集中できる体制をつくることが、経理DXの最終的なゴールといえます。

AI活用事例から学ぶ導入成功のポイント

AI導入の目的、スモールスタート、データ品質、人間によるレビュー体制の4要素を並べた図解。
導入範囲と運用体制を一緒に整える視点です。

ここまで紹介した事例を横断的に見ると、AI活用に成功している企業に共通するパターンがあります。ツールを選ぶより先に「何を自動化したいのか」という目的を明確にしており、スモールスタートで成功体験を積んでから、展開範囲を広げています。

スモールスタートと段階的拡張のアプローチ

AI導入の失敗事例に共通するのは、最初から全業務を一括で自動化しようとして、現場の混乱と想定外のコストを招いたケースです。成功事例では、まず「仕訳入力の自動化」「領収書スキャンのOCR化」など、成果を測りやすくリスクの低い領域から着手しています。

成功事例の企業は、3〜6か月で効果を確認し、現場の課題を洗い出してから次の領域へ広げるサイクルを繰り返すことで、日東電工のように短期間での高い自動化率達成が可能になります。

AI導入は、経理システムの刷新ではなく、現在の業務フローに組み込む段階的な改善として位置づけます。既存の会計ソフトやERPと連携できるAPIを提供しているAIツールを選べば、大規模なシステム移行をしなくても、AIの恩恵を受けられます。

データ品質の確保と人間によるレビュー体制の維持

AIは過去のデータから学習するため、入力データの品質がそのまま出力の精度に影響します。ZOZOの事例が示すように、AI-OCRの認識精度を高めるには、取引先に請求書フォーマットの標準化を依頼するなど、AIだけでなく人間側の働きかけも必要です。「AIを入れれば全て解決する」と過度に期待せず、人間とAIの協業体制を設計することが、長期的な成功につながります。

また、税務処理や会計基準への準拠については、最終的な判断を必ず人間が行う体制を維持することが欠かせません。AIがドラフト作成と異常値検知を担い、専門家がレビューと最終承認を行う。この役割分担は、成功している企業に共通する体制です。法改正や税制の変更への対応にも、AIツールの学習データが最新の法令に対応しているかを定期的に確認する運用ルールを設けておくことが大切です。

ポイント

導入では、ツールを選ぶ前に何を自動化したいかを決め、入力データの品質と人によるレビュー体制を同時に計画しておくことが欠かせません。

まとめ

仕訳・請求・経費精算・決算という4つの業務領域では、経理AIがすでに具体的な成果を上げています。ZOZOの月次決算4営業日短縮、花王グループの年間55,000時間・1.5億円削減、日東電工の自動化率90%達成など、先進企業の数値から、経理AIの導入効果は確かなものだと分かります。

これらの成果は、いずれも「全社一括導入」ではなく、「目的を明確にしたスモールスタート」と「人間とAIの協業体制の設計」によって実現されています。経理のAI活用は、担当者の仕事を奪うものではなく、付加価値の高い業務に集中できる環境をつくる取り組みです。まずは自社の経理業務のなかで最も工数がかかっている業務を洗い出し、AIの活用可能性を検討することから始めてください。

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張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。