コールセンターのAI活用は、自動応答、応対支援、通話要約、VOC分析、オペレーター教育の5つの場面で進んでおり、国内の企業から成果が報告されています。
人手不足や応対品質のばらつきが続くなか、AIや生成AIの活用が急速に注目を集めており、どの場面で使えばよいか、どんな効果が出ているかを、事例とともに紹介します。
AI活用の全体像については、次の完全ガイドで体系的に解説しています。
▼全体ガイドの記事
・コールセンターのAI活用 完全ガイド|進め方・事例・効率化まで体系的に解説
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コールセンターでAI活用が広がる背景
コールセンターは、企業と顧客が直接やり取りする重要な接点です。その運営は、慢性的な人手不足、オペレーターの離職率の高さ、応対品質のばらつきという三重の課題を抱えています。こうした中で、AIの活用は「あれば便利なオプション」から「現場を支える必須インフラ」へと位置づけが変わりつつあります。
人手不足と離職率の高さが現場を圧迫
オペレーターは、精神的な負荷の高い業務を繰り返すため、離職率が高い職種として知られています。新しく採用するたびに研修コストがかかり、ベテランが抜けると応対品質が一時的に下がります。こうした人材の課題を和らげる手段として、AIや生成AIの導入が注目されています。
AIは、対応中にリアルタイムで回答案を示し、通話終了後の記録入力を自動化します。それによって、ベテランと新人の間にある「経験差」を縮める役割を担います。また、人を増やすことが難しい環境でも、一人ひとりの生産性を高められます。
顧客体験(CX)変革への経営的要請
問い合わせの窓口は、電話に加えてメール、チャット、SNSへと広がり、24時間365日の対応を求める声も高まっています。問い合わせ件数が増えるなかで、有人対応を補う形のAIによる自動応答や自動要約は、センター全体の処理能力を底上げする手段になります。
経営の面でも、コールセンターを単なる「コスト部門」としてではなく、顧客ロイヤルティを高める「CXの価値創造拠点」として捉え直す動きが広がっています。AIが定型業務を引き受けることで、オペレーターは複雑な相談や感情的な対応といった高付加価値の業務に集中できます。その点が、CX変革の鍵になっています。
コールセンターにおけるAI活用シーンの全体像

コールセンターのAI活用は、大きく5つの業務領域に分けられます。それぞれが単独で課題を解決する手段になるうえ、組み合わせて相乗効果を狙うこともできます。
5つの主要活用領域と特徴
受付から応対中の支援、後処理、顧客の声の分析、オペレーターの研修まで、AIが関わる場面は5つの領域に分かれます。
- 自動応答(ボイスボット・チャットボット)
- リアルタイム応対支援(AIサジェスト)
- 通話要約・後処理自動化(ACW削減)
- VOC分析(顧客の声の自動分類・整理)
- オペレーター教育(AIロールプレイング研修)
これらは単独でも導入でき、複数を組み合わせることもできます。たとえば、通話要約とVOC分析を連携させると、毎日の通話データが顧客フィードバックとして自動で蓄積・分類されます。その結果、品質改善のサイクルが自律的に回り始めます。
AIが対応しやすい業務と人間が担うべき業務
AIが最も力を発揮するのは、パターンが決まった定型的な処理です。FAQへの回答や通話後の記録入力は、AIの得意な分野です。問い合わせ件数の集計・分類やルーティング(振り分け)も、AIが任せやすい処理です。一方で、感情的なクレーム対応、複雑な契約変更の相談、個別の事情を深くヒアリングしながら解決策を示す高度な応対は、人間のオペレーターが担う領域として残ります。
AIは、人間の能力を引き出すサポーターとして設計することが成功の鍵です。定型業務をAIに任せた分、オペレーターは、より重要な顧客対応に時間を使えます。
業務シーン別のAI活用事例
ここでは、AI活用の具体的な事例を5つの業務シーンに分けて紹介します。各事例は、実際に報告されている取り組みや公知の導入例をもとにしています。現場の参考になるよう、要点をまとめました。
自動応答:24時間対応とBCP強化の事例
自動応答では、災害時の受電や定型の問い合わせ受付を、AIに任せた事例が報告されています。
損害保険ジャパン株式会社では、台風や地震などの災害時に、平常時の100倍以上の問い合わせが殺到するという構造的な課題を抱えていました。そこで対話型AIを使った自動受付システムを導入し、24時間365日の受電インフラを構築しました。大規模災害が起きた際にも、システムがダウンせず、初期受付の手続きを自動で完結できるようになり、事業継続計画(BCP)の観点でも大きな成果が得られています。
- 株式会社レオパレス21:よくある問い合わせをチャットボットで自動対応し、電話全体の応答率が従来の約70%から90%へと大幅に向上したと報告されています
- 株式会社レオパレス21:定型の問い合わせをAIが引き受けたことで、オペレーターは難易度の高い案件に集中できるようになりました
- SBIいきいき少額短期保険:自律対話型AIエージェントを活用し、一次受付段階での受付完結率70%超を達成した事例が公表されています
- SBIいきいき少額短期保険:有人オペレーターを介さずに申込や受付の手続きを完了でき、センター全体の処理効率も大きく向上しました
- 三菱UFJ銀行:音声解析を使ったルーティングAIで入電の意図に応じて適切に振り分け、呼量の約3割削減を実現した取り組みが知られています
リアルタイム応対支援:エスカレーション削減と品質均一化の事例
トランスコスモス株式会社では、オペレーターが対応中に、社内ドキュメントや製品仕様書、約款などをAIが横断的に参照して回答文を組み立てるRAGシステムを導入しました。複雑な規約に関する問い合わせへのエスカレーション(上位者への転送)を、60%程度削減する見込みが立てられています。顧客への迅速な応答体制の強化にも取り組んでいます。
RAGによる応対支援では、音声をリアルタイムでテキストに変え、その内容から関連するFAQやマニュアルを引き出して、オペレーターの画面に表示します。経験の浅いオペレーターでも、すぐに適切な回答案を参照できます。そのため、新人研修の完了後の早い段階から、高品質な対応が可能になります。また、保留時間が短くなり、顧客満足度の向上にも直結します。
通話要約・後処理自動化:記録時間を大幅削減した事例
通話後の記録入力は、オペレーターの業務時間の大きな部分を占めます。そのため、ここを自動化すると、現場全体の効率化に直結します。
通話要約の仕組みは、音声認識と生成AIを組み合わせたものです。通話が終わると同時に内容が構造化フォーマットに従って自動で整理され、オペレーターは確認して軽微な修正を加えるだけで、CRMシステムへの登録が完了します。これにより、引き継ぎ時の情報共有もスムーズになります。
- 三井住友トラストTAソリューション株式会社:通話内容を手作業で報告書にしていた工程に、応対履歴の自動入力システムを導入
- 三井住友トラストTAソリューション株式会社:年間約9,200時間の労働時間を削減し、オペレーターの業務負担が大幅に軽減された事例が報告されています
- 株式会社ビックカメラ:通話音声を自動でテキスト化する音声認識ツールを導入し、後処理の記録業務にかかる時間が従来比50%削減したことが明らかにされています
- 株式会社ベネッセコーポレーション:テンプレートでは対応できない複雑なメール返信に生成AIを活用
- 株式会社ベネッセコーポレーション:1件あたりの平均対応時間が約47%短縮された事例が公開されています
VOC分析:顧客の声を経営・品質改善に活かした事例
毎日蓄積される通話ログは、顧客が抱える不満や潜在的なニーズを知るための貴重な情報です。しかし、その量は膨大で、人手ですべてを分析するには限界があります。そこで生成AIによる自動分類・感情分析を使い、「料金」「解約」「接続不具合」「キャンペーン」といったカテゴリごとに通話ログを自律的に整理する取り組みが広がっています。
ある大手保険会社では、AIによるVOC自動分析で、特定の製品に関する不満の件数が急増していることをリアルタイムで把握しました。その結果を開発部門へ迅速にフィードバックした事例が報告されています。また、頻出する問い合わせパターンをもとにFAQの追加候補を自動で生成する機能も活用されており、ナレッジベースが自律的に更新されるサイクルが構築されつつあります。
株式会社ベルーナでは、AIを活用してFAQシステムを整備・最適化した結果、問い合わせ件数全体が従来の50%程度にまで削減されたことが公表されています。顧客がWebで自己解決できる環境を整えたことで、コールセンターへの入電そのものを減らすことに成功しています。VOC分析の活用は、センターの運営改善にとどまらず、サービス全体の品質向上に波及効果をもたらします。
オペレーター教育:AIロールプレイングで研修効率を高めた事例
ベルシステム24では、生成AIを使ったコンタクトセンター向けのロールプレイング研修アプリを開発・提供しています。受講者は、AIが演じる顧客キャラクター(クレーム客・困惑した顧客など)と対話しながら、実践的な応対の練習を繰り返せます。AIが応対内容を採点・フィードバックするため、SVが常に同席しなくても、個別の課題を把握して改善できる仕組みになっています。
また、製造業の大規模コンタクトセンターを運営する企業では、全通話を対象にしたAI自動応対品質評価システムを導入しました。人手による品質チェックの工数を80%削減した事例が報告されています。浮いたリソースを使って、スーパーバイザーによる個別フィードバックの頻度を月1回から週1回へと高め、センター全体の応対品質の底上げに成功しています。
AIによるロールプレイング研修の大きなメリットは、受講生の「羞恥心」という心理的なハードルを取り除けることです。相手が人間ではなくAIなので、ミスを恐れずに何度でも練習できます。そのため、新人が実際の顧客対応に入るまでの準備期間も短くできるとされています。
AI活用で期待できる効果

コールセンターにAIを導入すると、期待できる効果は業務効率の向上にとどまりません。品質の均一化やコスト最適化も見込めます。さらに、顧客満足度の向上やオペレーターのエンゲージメント改善にもつながる可能性があります。
業務効率・コスト面での効果
通話要約や応対支援を自動化すると、後処理時間(ACW)の削減が期待できます。実際の導入事例では、30〜50%程度の時間削減が報告されているケースもあります。また、FAQシステムを整えて問い合わせ件数そのものを減らせれば、センター全体の人員配置の最適化にもつながります。
入電予測AIを使うと、天候や曜日などの外部要因に連動したシフト計画を、精度高く立てられるようになります。ある製造業の事例では、入電フォーキャストの作成時間が大幅に短縮され、オペレーション全体のコスト削減も実現したと報告されています。とくにコストと品質の両立が求められるセンター運営では、人員の過剰配置を防ぎながら応答率を高い水準に保てることが、大きな成果です。
品質向上・顧客体験(CX)面での効果
AIで全通話の品質を評価すると、一部の通話しか確認できなかった従来の体制から、すべての通話を評価対象とする体制へ移れます。評価のばらつきや不公平感は取り除かれ、センター全体の品質管理も均一になります。また、AIの採点をもとにSVが個別フィードバックを行えば、より深みのあるコーチングが可能になります。
自動応答や応対支援が充実すると、顧客が長く待たされたり、何度も転送されたりする機会が減ります。一次解決率(FCR)が上がれば、問題がその場で解決される確率が高まり、リピートコールの削減にもつながります。こうした顧客体験の改善は、企業への信頼感やブランドロイヤルティの向上に直接寄与するものです。
自社でAI活用を始めるための進め方

事例を参考にAI活用を始めるとき、どこから着手すべきか迷う担当者は少なくありません。ここでは、AI導入を段階的に進めるための基本的な考え方を紹介します。
インナー業務からのスモールスタートが鉄則
AI導入に初めて取り組む場合は、顧客と直接やり取りする自動応答より、インナー業務から始めることを勧めます。インナー業務とは、オペレーターの後処理を支える「通話要約」や、回答案を示す「応対支援」などです。こうした低リスクな領域でPoCを行い、効果と課題を実測してから次の段階に進むと、導入がスムーズになります。
スモールスタートの利点は、AIの精度に問題があっても、顧客への影響を小さく抑えられることです。また、現場のオペレーターがAIの出力を確認・修正する過程で、AIへの理解と信頼が育っていきます。社内の合意を丁寧に得ながら、活用範囲を段階的に広げることが、長期的な成功につながります。
ナレッジ整備とガバナンス設計の先行
AIの精度は、参照するデータの質に大きく左右されます。FAQやマニュアルに古い情報が残っていたり、部門ごとに形式がバラバラだったりすると、AIが誤った回答を生成するリスクが高まります。そのため、導入前に社内ナレッジを洗い出し、データを整えておくことが、導入後の精度を高めるうえで欠かせません。
また、生成AIが誤った情報を顧客に伝えるリスク(ハルシネーション)にも備える必要があります。AIの回答を人間が最終確認する仕組みを設けることや、AIが答えられない場合に有人オペレーターへ引き継ぐ経路を明確にすることが、安全な運用の土台になります。
社内スタッフへのAIリテラシー教育も欠かせません。導入の検討では、システムの機能に加えて、こうしたガバナンス設計も含めて考えることが大切です。
まとめ:コールセンターのAI活用は「事例から学ぶ」ことが近道
コールセンターのAI活用では、自動応答、応対支援、通話要約、VOC分析、オペレーター教育の5つの領域で、具体的な成果が報告されています。三井住友トラストTAソリューションの年間約9,200時間の削減、ベルーナの問い合わせ件数50%削減、損害保険ジャパンの災害時100倍超の受電対応など、多くの実例が示すように、現場課題の解決に確かな効果が出ています。
ただし、AI導入は「ツールを入れれば終わり」ではありません。成果を出すには、運用まで見据えた準備が欠かせません。ナレッジ整備、ガバナンス設計、現場オペレーターへの教育を丁寧に行うことが、導入後の成果に直結します。事例から学びながら、自社の課題に合ったAI活用の形を段階的に組み立てていくことが、成功への道筋になります。
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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
