BPRは、目的設定、現状分析、新プロセス設計、実行・導入、定着化の5つのフェーズを順に進めることで、業務効率や品質の改善につながります。
各フェーズで何を決め、どこでつまずきやすいかを、成功事例と失敗事例とあわせて見ていきます。各テーマの詳細は関連記事もご覧ください。
▼全体ガイドの記事
・BPRの完全ガイド
BPRの全体像と業務改善との違い
BPRは、業務プロセス全体を根本から再設計する抜本的な変革です。推進にあたっては、業務改善との違いを正しく理解しておくことが欠かせません。
多くの企業では両者が混同されており、期待した成果が得られないケースも見られます。
BPRと業務改善・DXの違い
業務改善(カイゼン)とBPRの最大の違いは、変革の範囲と深さにあります。
- 業務改善:現在のプロセスの中で無駄を減らし、効率を高める取り組み。
- BPR:既存のプロセスを白紙に戻し、「本来あるべき姿」から組み直します。
数字の目安で見ると、業務改善が10〜20%程度を目指すのに対し、BPRは50〜80%以上の改善を追求します。
BPRは、DXを進めるための基盤を整える取り組みとして位置づけられます。業務プロセスを整えてからデジタル技術を導入しないと、非効率な流れまでそのままデジタル化してしまうことがあります。
また、経済産業省が推進するDXでも、業務プロセスの抜本的な見直しは欠かせないとされています。野村総合研究所の調査では、DXに成功した企業の約8割がBPRを先行実施したとされています。
BPRの適用範囲と期待される効果
BPRは、特定の部門から全社横断の業務まで適用できます。主な対象は、複数の部門にまたがる業務、慣習で非効率になった基幹業務、デジタル化されていないアナログ業務です。
たとえば、製造業の受発注から生産・出荷までのサプライチェーン、金融機関の与信審査から融資実行までの流れ、人事部門の採用から育成・評価までの人材管理が、BPRの対象になります。
BPRを進めると、次のような効果が期待されます。
- コスト:業務の自動化や集約で、人件費と間接コストを圧縮します。
- 品質:標準化でヒューマンエラーを減らし、サービス品質を安定させます。
- スピード:承認の簡素化や並行処理で、リードタイムが縮みます。
実際に、MUFGの事例では、RPAを約20業務に適用し、累計2万時間を削減しました。
フェーズ1:準備・目的設定(BPRプロジェクト立ち上げ)

BPRプロジェクトの成否は、準備段階で大きく左右されます。そのため、経営トップの関与、推進体制、明確なゴールを先にそろえておく必要があります。目的が曖昧なまま始めると、後のフェーズで関係者の認識がずれ、計画が迷走することがあります。
経営トップのコミットメントとプロジェクト体制の構築
現場の担当者だけでは、部門間の調整や抵抗の克服が難しく、頓挫するケースがあります。そのため、推進には経営トップの関与と専任チームが欠かせません。
- 経営トップの主導:変革の必要性を明言し、正式に関与を表明します。
- 推進チーム:経営層のオーナー、現場の中核人材、IT専門家、外部コンサルタントの組み合わせです。
経営トップが主導すると、部門をまたぐ変革を進めやすくなります。さらに、専任チームに部門間の調整権限を与えると、意思決定の速度を確保できます。
成功事例では、コンサルティング会社の支援を受け、現場技術者と幅広い年齢層から選んだ10名程度で体制を組んだケースが多く報告されています。
改革目標・KPIの設定とスコープ定義
目標は、具体的で測定できる形で設定します。「業務を効率化する」といった表現のままでは、どこまで達成すればよいかが分かりません。そこで、達成度を測れるKPIを定めておきます。
- 見積作成:作成時間を30%短縮する目標。
- 申請・承認:プロセスを2営業日以内に完了させる目標。
- エラー:発生率を半減させる目標。
KPIを明確にしておけば、後の効果測定で成否を客観的に評価できます。
次に、スコープ定義では、BPRの対象となる業務の範囲を決めます。最初から全社的なBPRに取り組むと、計画が膨らみすぎて管理しきれなくなるリスクがあります。
一般的な期間の目安は、特定部門のBPRで3〜6ヶ月、ERP移行を含む全社BPRで1〜2年です。
そこで、初めて取り組む場合は、課題が明確で合意を得やすい業務から始めます。成功事例を重ねながら、徐々に範囲を広げていきます。
フェーズ2:現状分析と課題特定(AS-IS分析)

現状分析は、BPRの土台となる特に重要な工程です。分析の精度が低いと、的外れな設計になり、改革後も課題が残るおそれがあります。
この段階の中心は、業務の流れを見える形にし、ボトルネックや無駄を客観的に捉えることです。
プロセスマッピングによる業務の可視化
現状分析の第一歩は、対象となる業務をすべて洗い出し、流れを見える形にすることです。洗い出しには、業務を図に描く方法、現場で聞き取りや観察をする方法、システムのログを使う方法があります。
- 図式化:フローチャートやBPMN(Business Process Model and Notation)を使って、業務の流れを描きます。
- 現場調査:担当者へのヒアリングと業務観察の組み合わせです。
- ログ分析:基幹システムのイベントログを自動で解析し、実際の業務フローを浮かび上がらせます。
図にすると、処理の流れや関係部署、各工程の所要時間を確認できます。また、現場調査では、不要な工程や二重チェックが見つかることがあります。
プロセスマイニングを使うと、従来は数ヶ月かかっていたAs-Is分析が、数週間に短縮されるケースもあります。さらに、マニュアルから外れた運用や想定外の経路も見つかり、現状をより正確に捉えられます。
課題特定と優先順位付けの手法
見える形になった業務から課題を特定し、改革の優先順位を決めます。課題を洗い出すには、次の手法が役立ちます。
- SWOT分析:強み・弱み・機会・脅威を整理します。
- バリューストリームマッピング:価値の流れを描き出す手法です。
- ベンチマーキング:他社の優れたプロセスとの比較です。
各課題は、発生頻度、業務への影響度、改善の難易度という3つの観点で評価します。そして、影響が大きく取り組みやすい課題から着手します。
課題を特定するには、定量データと定性情報の両方を集めることが欠かせません。数値の例は、処理に毎回3時間、月に10件のミスといったものです。一方で、承認フローが実態に合わないなど、現場の声も重要な手がかりになります。
担当者へ丁寧に聞き取り、表面の問題だけでなく、その背景にある真因まで掘り下げます。
東京都のRPA活用BPRでは、年間438時間の削減と、平均66.8%の処理時間の縮減を達成しました。
フェーズ3:新プロセス設計(TO-BE設計)

課題が明らかになったら、次は「あるべき姿(TO-BE)」の業務プロセスを設計します。既存の制約や慣習にとらわれず、どの業務が必要か、顧客にどんな価値を届けるかを考えて、流れを組み直します。この工程では、新しい発想と論理的な思考の両方が求められます。
ゼロベース思考による新プロセスの設計原則
TO-BE設計では、「なぜこの業務が存在するのか」を根本から問い直すゼロベース思考が求められます。顧客価値や経営目標に直結しない業務は、廃止や統合を検討の対象にします。そのうえで、設計では次の基本原則も考慮します。
- 並列化:直列の工程を同時進行に組み替え、リードタイムを大幅に縮めます。
- 統合化:複数の担当者にまたがる業務を一人で担うケースワーカー制にし、受け渡しロスや責任の曖昧さを減らします。
- 自動化:人の判断を要しない定型業務をRPAやAIに任せ、高付加価値業務に集中します。
また、「今までこうしてきた」という慣習も、見直しの対象に含めます。
BPRの先駆けであるマイケル・ハマーは、「廃止できない業務はない」という姿勢を提唱しました。
ITシステムとの連携設計とERP・RPAの活用
BPRでは、どのシステムで何を自動化し、何を効率化するかを具体的に計画します。活用にあたっては、機能と運用方法を業務の流れに合わせて決めます。
- ERP:企業資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を一つにまとめて管理し、部門をまたぐ業務の標準化を進める仕組みです。
- RPA:ソフトウェアのロボットに定型操作を任せ、入力・転記・集計を代行します。
- システム選定:現場の使いやすさを優先し、標準機能を生かす。
LIXILは、9カ国27拠点の経理業務を3つのシェアードサービスセンターに集約しました。さらに、ERPを基盤にAI・ロボティクス技術を活用し、業務効率化を実現しています。
進め方としては、業務フローを整理して標準化したうえで、自動化できる部分を見極めてRPAを導入する方法が効果的です。
北海道恵庭市の税務課では、RPAとAI-OCRの活用により、最大65%の業務削減と、年間232時間の工数削減を実現しました。
RPAは、24時間365日の実行が可能です。また、過剰なカスタマイズを避けると、導入後のトラブルを防ぎやすくなります。
フェーズ4:実行・導入(変革の実施)
新プロセスを設計したら、実行・導入のフェーズに移り、組織へ展開して業務を移します。ここでの主な課題は、現場の抵抗を乗り越え、円滑に移行することです。
変革マネジメントと現場の巻き込み方
実行時にいちばん大きな障壁となるのは、現場の抵抗です。変化を嫌う人に意義を伝えないまま変革を押しつけると、表面上は従っても、旧来の方法に戻ってしまうことがあります。
- 設計段階から参加:現場を巻き込み、当事者意識を育てます。
- 必要性と変化を共有:危機感と新プロセスの姿を、繰り返し伝える。
- 小さく始める:パイロット部門で成功事例をつくり、社内に伝えます。
他部門は、なぜ変わるのかが分からないと協力しにくいものです。競争力を保つための危機感を、新プロセスで何が変わるかとあわせて、分かりやすい言葉で伝えると、理解と協力を得やすくなります。
移行計画の策定とシステム導入時の注意点
移行では、新旧プロセスを切り替える計画を立てるとともに、稼働後の支援も準備しておきます。
- 段階移行:全面移行を急がず、並行運用の期間を設けて切り替えます。
- データ管理:移行後のマスターデータの整合性を保つため、十分な工数を割きます。
- 現場支援:担当者が相談できる窓口を用意し、稼働直後の混乱を抑えます。
並行運用中は新旧の両方で業務を行うため、工数が増えます。また、問題が起きたときに旧システムへ戻れるようにしておくと、移行リスクを抑えられます。
本番稼働の前に、実データで十分に動作を確認し、移行後のデータ品質も検証しておきます。なお、BPR導入の初期には「Jカーブ効果」と呼ばれる一時的な生産性の低下が起きることがあります。この低下は想定内の現象だと事前に説明しておくと、関係者の不安や抵抗を和らげられます。
フェーズ5:定着化とモニタリング(継続的改善)
変革が組織に根付き、継続して成果を生み出せるようになって初めて、BPRの効果は本当の意味で表れます。
定着化では、新プロセスが浸透しているかを確かめながら効果を測り、改善を続けます。この取り組みを怠ると、旧来の方法に戻るリスクがあります。
KPI効果測定と定期レビューの仕組みづくり
準備段階で設定したKPIをもとに、目標値と現在の数値を定期的に比べ、成果を見える形にします。月次・四半期ごとのレビュー会議では、KPIの達成状況、新プロセスの問題点、現場の意見を取り上げます。
数値のKPIに加えて、従業員の習熟度、顧客満足度、現場担当者の意欲や働きやすさも、継続して見ていきます。
問題が見つかれば、対策を検討して改善します。そのうえで、PDCAサイクルを継続的に回すと、変化するビジネス環境にも対応できます。
研修・教育と業務マニュアルの整備
定着させるには、研修・教育と業務マニュアルの両方を整えておく必要があります。
- 研修・教育:操作方法に加えて、変更の理由や目標とのつながりを伝え、主体的な運用を促します。
- 業務マニュアル:新プロセスを文書にまとめ、目的・背景・例外処理を記して、誰でも参照できるようにする。
- 定期更新:業務の変化に合わせて見直す運用ルールを設けます。
OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)と集合研修を組み合わせ、特に変革の初期は手厚く支援します。マニュアルを整えておけば、担当者が交代しても品質を保てます。
BPR成功・失敗事例から学ぶ重要ポイント
他社の成功事例と失敗事例からは、BPRを進めるうえでの共通点と注意点が見えてきます。
BPR成功事例に共通するパターン
成功事例には、経営トップの関与、現場の参加、段階的な展開という共通点が見られます。
- 経営トップのリーダーシップ:部門を越えた再設計を後押しします。
- 現場参加型の設計:実態に即したプロセスを作り、定着を助けます。
- 段階的な導入:小さな成功を起点に、適用範囲を広げる。
LIXILは、トップのコミットメントを受けて、9カ国27拠点の経理業務を集約しました。現場の担当者が設計から参加すると、導入後の定着も円滑になります。
MUFGは、先行導入した20業務で累計2万時間を削減しました。そして、その成果をもとに、適用範囲を段階的に拡大しました。
よくある失敗パターンと回避策
失敗を防ぐには、ツール導入の目的、現場との合意、成果の判断基準を、先に明確にしておきます。
- 手段の目的化:AI・ERP・RPAの導入そのものを、目標にしないこと。
- 現場への押しつけ:現場の意見に耳を傾け、変革の意義を伝えます。
- 曖昧な目標:測定可能なKPIで成功基準を定めます。
非効率な業務を、そのままシステムに置き換えてしまうと、コストがかさむうえ、本質的な解決にはならないことがあります。
導入目的が曖昧だと、業務課題の解決がおろそかになります。さらに、現場で使いにくさが残ると、その理由で旧来の方法へ戻ることがあります。
まとめ
BPRは、5つのフェーズで進めます。フェーズ1では準備と目的設定を、フェーズ2では現状分析と課題特定を行います。以降は、新プロセスの設計、実行と導入、定着化とモニタリングへと進みます。
準備では経営トップの関与や体制、KPIを整えます。現状分析では、プロセスを見える形にして、課題に優先順位をつけます。
新プロセスは、ゼロベースで設計し、IT連携も計画します。実行時は現場を巻き込みながら、段階的に移行します。
定着化では、効果測定と継続的な改善を続けるとともに、研修の整備や業務マニュアルの更新も行います。成功には、経営トップのリーダーシップ、現場の当事者意識、適切なプロジェクト管理が欠かせません。
正しい進め方を踏めば、業務効率やコスト、競争力の改善につながります。DXを推進する企業にとって、BPRはその基盤となる取り組みです。
パートナー選定や具体的な進め方に悩む場合は、riplaにご相談ください。
会社紹介
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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
