業務プロセス改革には、既存の標準SaaSに自社の手順を合わせて短期間で完了させる進め方と、自社固有のロジックをゼロから設計する個別対応、その両方を組み合わせるハイブリッド型という、大きく3通りの選び方があります。
対象プロセスの複雑さを考えずに進め方を決めてしまうと、標準機能では対応しきれない例外処理が後から次々と発覚し、計画が長期化することも少なくありません。選定の出発点は、対象プロセスのどこにどれだけの複雑さがあるかを明らかにすることです。
本記事では、業務プロセス改革に着手する前に整理すべき自社課題、対象プロセスの複雑さによる改革アプローチの種類、パートナーやツールを比較する評価軸、標準SaaS・個別開発・ハイブリッドの選び分け、PoC(パイロット導入)の進め方、選定時に陥りやすい失敗パターンまでを解説します。これから対象プロセスを選び、進め方を検討する担当者の方が、自社に合った方針を具体的に絞り込める内容です。
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業務プロセス改革着手前に整理すべき自社の課題

最初に行うべきことは、改革の進め方を検討することではなく、どの業務プロセスの、どの工程に課題が集中しているかを特定することです。課題を一文で説明できる状態になって初めて、標準化を進めるべきか、独自性を残すべきかを判断できます。
対象プロセスとボトルネックの工程を特定します
受発注、経費精算、請求管理などのうち、どのプロセスで手戻りや確認工数が集中しているかを、現場の担当者へのヒアリングや実際の操作の確認を通じて洗い出します。「承認に時間がかかる」「入力を何度もやり直している」といった感覚的な課題を、どの担当者の、どの工程で発生しているかまで具体的に分解することが、後の進め方の選定につながります。
全社改革との切り分けも合わせて確認します
課題を洗い出す過程で、複数の部門にまたがる根本的な組織構造の問題が見つかることもあります。その場合は、特定プロセス単位の業務プロセス改革ではなく、より広い範囲を対象にしたBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)としての検討が必要になることもあります。対象範囲を最初に見極めておくことで、後になって「そもそも対象が狭すぎた」という手戻りを避けられます。
現状の課題を数値で仮置きしておきます
課題を定性的に洗い出すだけでなく、承認にかかる平均日数、差し戻し件数、月次の確認作業に要する時間など、可能な範囲で数値を仮置きしておくと、進め方を選ぶ際の判断材料になります。数値の精度が高くなくても、「現状はこの程度」という基準があるだけで、標準SaaSの導入で十分なのか、個別設計が必要なほど複雑なのかを検討しやすくなります。あわせて、この基準値は後のPoCで効果を測定する際の比較対象としても活用できます。
対象プロセスの複雑さで見る改革アプローチの種類

業務プロセス改革の進め方は、対象プロセスの標準化のしやすさによって大きく変わります。同じ「改革」という言葉でも、複雑さの低いプロセスと高いプロセスとでは、選ぶべきアプローチが異なります。
複雑さが低いプロセスは標準SaaS活用型が中心です
経費精算や勤怠管理のように、業務の標準化がしやすく、優秀なSaaS(クラウドツール)が数多く存在する領域では、ツールの標準機能に自社の手順を合わせる「Fit to Standard」の考え方が有効です。比較的短期間で導入でき、法改正への追随などもベンダー側に任せやすいため、まず着手しやすい種類と言えます。
複雑さが高いプロセスは個別設計・ハイブリッド型を検討します
受発注プロセスや特殊な契約管理のように、顧客ごとの個別単価設定や複数部門をまたぐ在庫引き当てなど、自社特有の商慣習が強く根付いている領域では、標準SaaSの機能だけでは対応しきれないことがあります。この場合は、業務フローの抜本的な再設計やツールのカスタマイズ開発を伴う個別設計型、あるいはコア領域だけを個別開発しそれ以外は標準SaaSへ連携するハイブリッド型が選択肢になります。複雑さが高い領域を対象にする場合、期間は6ヶ月〜9ヶ月程度を見込むことが一般的な目安とされており、複雑さが低い領域の2〜3倍程度の時間軸で計画しておくと、社内での期待値のずれを防げます。
パートナー・ツール選定で比較すべき評価軸

候補となる支援会社やツールは、対応範囲、標準機能への適合度、期間と費用感、定着化支援という軸で比較すると、印象ではなく適合度で判断しやすくなります。
対応範囲と標準機能への適合度を確認します
現状分析、新プロセス設計、システム導入、移行・定着化のうち、どこまでを支援してもらえるかを確認します。特に、標準SaaSの導入を前提とする場合は、自社の例外処理をどこまで標準機能に寄せられるか、寄せられない部分をどのように扱う方針かを具体的に確認することが重要です。「対応可能」という説明だけでなく、実際の業務シナリオを示して回答を得るようにします。
期間・費用感と定着化支援の体制を確認します
対象プロセスの複雑さが低い場合は2〜3ヶ月程度、複雑さが高い場合は6〜9ヶ月程度が期間の目安とされることが一般的ですが、これはあくまで目安であり、対象範囲や既存システムとの連携有無によって変わります。また、導入して終わりではなく、新プロセスが定着するまでの3ヶ月〜半年程度、現場からの問い合わせや形骸化の兆候を確認する定着化支援を受けられるかどうかも、比較のポイントになります。
導入後の保守・運用費用も比較軸に含めます
選定段階では初期費用や導入期間に目が向きがちですが、新プロセス定着後にかかり続ける運用保守費用も比較しておく必要があります。システム・ツールのライセンス費用に加えて、組織変更や税制改正に伴う設定の軽微な改修費用、定着化状況をモニタリングするコンサルティング費用などが継続的に発生します。中堅企業で特定の1プロセスを対象にする場合、月額50万円〜150万円程度のレンジに収まることが多いとされていますが、対象プロセスの例外処理の発生頻度や利用ユーザー数の増減によって変動するため、複数年での試算を候補ごとに依頼しておくと安心です。
標準SaaS活用型と個別設計・フルスクラッチ型の選び分け

標準SaaS活用型と個別設計・フルスクラッチ型は、コストとリスクの構造が大きく異なります。どちらを選ぶかは、機能の豊富さではなく、その業務プロセスが自社にとってどれだけの独自性を持つかによって判断します。
標準SaaS活用型が向くケース
経費精算や一般的な勤怠管理、標準的なワークフローなど、どの企業でも大枠が同じであり、業界標準のベストプラクティスが確立されている業務では、標準SaaS活用型が適しています。導入が早く初期費用も抑えやすいうえ、保守やアップデートはベンダーが担うため、常に最新の機能を利用できる点もメリットです。「昔からの自社ルールだから」という理由だけで、この領域に過剰なカスタマイズを行うと、投資対効果が悪化しやすくなります。
個別設計・フルスクラッチ型が向くケース
その業務プロセスそのものが自社の競争優位性に直結している場合は、標準SaaSでは実現できない独自のロジックをシステム化する意義があります。たとえば、独自のアルゴリズムで在庫を瞬時に引き当てる特殊な受発注プロセスなどが該当します。すべてを一律に判断するのではなく、コア領域だけを個別開発し、それ以外の非コア領域は標準SaaSへ連携するハイブリッド構成を検討することで、競争力とコストの両立を図れます。
選定段階で運用費用を抑える工夫も比較に含めます
導入後の運用保守費用を抑える観点も、選定段階で候補ごとに確認しておきたいポイントです。プログラミングの知識がない現場担当者でも承認ルートや入力項目を修正できる、いわゆるノーコード/ローコードの市民開発に対応した製品であれば、軽微なプロセス改修のたびに外部ベンダーへ依頼するコストを抑えられます。また、標準SaaSを選ぶ場合は、自社の特殊なプロセスに合わせてツールを改修するのではなく、ツールの標準機能に自社のプロセスを合わせる「Fit to Standard」を社内ルールとして徹底できるかどうかも、長期的な保守費用に影響します。外部コンサルタントへの定額リテイナー契約についても、導入後3ヶ月〜半年をめどに自社の担当者へノウハウを移管し、スポット相談契約へ移行できる体制を候補側が支援してくれるかを確認しておくと、中長期のコストを抑えやすくなります。
PoC・パイロット導入の進め方

単一の業務プロセスであっても、新しいシステムと運用ルールを一気に全社・全部門で切り替える「ビッグバン導入」は、現場の混乱や業務停止のリスクが高いため避けるべきです。まずは限定した範囲でパイロット導入を行い、本展開に備えます。
PoCで検証すべき論点を明確にします
PoCでは、新しいプロセスが自社独自のルールや得意先からの要求事項に対応できるかを、一部のサンプルだけでなく、実際に発生する例外パターンを網羅的に確認します。あわせて、現場で使われているExcelなどの既存フォーマットとのデータ連携や、実際に操作する現場担当者にとっての使いやすさも検証します。経営層や情報システム部門の目線だけで判断すると、稼働後に現場が定着しない事態を招きかねません。
パイロットから本展開までの進め方
対象が単一プロセスの特化型SaaSであれば、パイロット導入自体は数週間〜2ヶ月程度で完了することが多く、基幹システムとの連携や伴走支援を伴う場合は、全体で4〜10ヶ月程度を見込むケースもあります。パイロット導入後の最初の3ヶ月間は、新しい入力を定着させることを最優先の目標とし、導入後3ヶ月・6ヶ月といった節目で効果を測定してから、他の部門や追加機能への展開を判断する進め方が有効です。
現場キーマンをパイロットの初期から巻き込みます
パイロット導入の成否は、選定担当者だけでなく、実際にその業務プロセスを日々担当する現場キーマンをどれだけ早い段階から巻き込めるかによっても左右されます。デモやトライアルの段階から現場担当者に参加してもらい、「現場が選んで作ったプロセス」という納得感を醸成できれば、本展開後の定着もスムーズに進みやすくなります。反対に、選定と導入をすべて情報システム部門や経営層だけで進めてしまうと、現場の理解が追いつかず、稼働後に想定外の抵抗を受けることがあります。
業務プロセス改革で陥りやすい失敗と回避策

進め方を誤ると、システムを導入しても現場が定着せず、旧来の運用に戻ってしまうことがあります。代表的な失敗パターンを踏まえて、選定段階から回避策を組み込むことが重要です。
現場を無視したトップダウン選定は形骸化を招きます
情報システム部門や経営層だけで進め方やツールを決め、現場に運用を押し付けた結果、現場が以前のExcel管理に戻ってしまうことがあります。プロジェクトの初期段階から現場のキーマンを巻き込み、「現場が選んで作ったプロセス」という納得感を醸成することが、定着の可否を左右します。
目的の曖昧さと検証不足を避けます
「DX化」という掛け声だけで、具体的にどの業務をどう変えるかの目標が不明確なまま進めてしまうと、効果が出ないまま運用保守の費用だけを払い続けることになりかねません。また、限られたリソースやスケジュールを優先するあまり、事前の検証が不十分なまま移行してしまうと、データの重複や業務停止といった致命的なトラブルにつながります。目的とゴールを具体化し、検証にかける時間を計画段階で確保しておくことが欠かせません。運用で解決できる問題と、製品設定やシステム改修が必要な問題を週次で切り分けて記録しておくと、不要な追加開発を避けながら定着を進めやすくなります。具体的な候補ツールを確認したい場合は、業務プロセス改革のパッケージ・クラウド製品一覧を参照すると、比較の軸をそろえやすくなります。
業務プロセス改革の進め方で確認しておきたいポイント

進め方を決める前に、判断が分かれやすい論点を整理しておくと、選定後の認識違いを防げます。
対象プロセスが複数ある場合はどう優先順位を付けるか
課題の大きさだけでなく、関係部門の数や現場の協力を得やすいかどうかも踏まえて優先順位を付けます。最初に着手するプロセスで具体的な成果を示せると、その後の展開に向けた社内の合意形成がしやすくなります。判断に迷う場合は、関係者が最も少なく、現状の課題が誰の目にも明らかなプロセスから着手すると、合意形成にかかる時間を抑えやすくなります。
ハイブリッド型を選ぶ際の判断基準は何か
標準SaaSで対応できる部分と、独自性を残すべき部分をどこで線引きするかが判断基準です。「現場のわがまま」なのか「事業上の競争力」なのかを経営視点で厳しく見極め、後者に該当する範囲だけを個別開発の対象とします。
外部パートナーはどこまで関与させるべきか
現状分析や新プロセス設計の段階から外部の知見を借りる方法と、システム導入・開発フェーズから関与してもらう方法があります。自社に業務フロー分析の経験が少ない場合は、早い段階から外部パートナーを交えて進めると、要件定義の停滞を避けやすくなります。反対に、現状分析まで自社で完了できている場合は、システム選定・導入以降の実行フェーズから外部パートナーを関与させる方が、費用を抑えながら専門的な支援を受けられることもあります。
まとめ

業務プロセス改革の選定では、対象プロセスの複雑さを見極めたうえで、標準SaaS活用型、個別設計型、ハイブリッド型のいずれを選ぶかを判断することが重要です。パートナーやツールは、対応範囲、標準機能への適合度、期間・費用感、定着化支援という評価軸で比較し、実際の例外処理まで確認するPoCを経てから本展開に進めます。
複雑さの見極めが選定の出発点です
経費精算のように標準化しやすいプロセスと、受発注のように自社特有の商慣習が根付いたプロセスとでは、適した進め方がまったく異なります。対象プロセスの複雑さを最初に見極めることが、標準SaaSか個別開発かを判断する土台になります。
PoCを経てから本展開を判断します
資料上の機能比較だけで進め方を決めず、実際の例外処理を含めたPoCで運用負荷を確認したうえで最終判断してください。既製の標準SaaSでは独自の承認フローや基幹システム連携を吸収しきれない場合、個別開発やハイブリッド構成も選択肢になります。riplaはフルスクラッチ開発の立場から、選定段階での要件整理や、標準SaaSと基幹システムをつなぐ連携、独自業務に合わせた個別開発まで支援しています。
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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
