クラウドコンサルのフルスクラッチ・オーダーメイド開発について

「既存システムをクラウドにそのまま載せ替える(リフト&シフト)のではなく、クラウドの特性を最大限に活かした形でゼロから作り直したい」というニーズに応えるのが、クラウドコンサルにおけるフルスクラッチ・オーダーメイド開発への関与です。コンテナ、サーバーレス、マイクロサービスといったクラウドネイティブ技術を前提に設計し直すことで、インフラコストを大幅に削減できた事例がある一方、要件を見誤ると開発工数が数倍〜数十倍に跳ね上がるリスクもはらんでいます。クラウドコンサルは、この技術選定とリスク管理の両面から、フルスクラッチ開発の可否・進め方を助言する役割を担います。

本記事では、クラウドコンサルにおけるフルスクラッチ・オーダーメイド開発について、クラウドネイティブ設計の推奨・支援、リフト&シフトとの判断基準、コンサルとしての支援範囲、費用感の考え方までを体系的に解説します。なお、オンプレミスも含むITインフラ全般のハードウェア・ネットワーク構成の刷新提案を扱うインフラコンサルに対し、クラウドコンサルはクラウドネイティブなアーキテクチャそのものの再設計提案(コンテナ化・サーバーレス化・マイクロサービス化の是非)と、それに伴うベンダー選定・PMO支援に領域を絞っている点が大きな違いです。これからクラウドネイティブな開発を検討している方はもちろん、既存システムをリフト&シフトすべきか作り直すべきか迷っている方にとっても判断材料になる内容です。

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クラウドコンサルにおけるフルスクラッチ開発への関わり方(インフラコンサルとの違い)

クラウドコンサルにおけるフルスクラッチ開発への関わり方(インフラコンサルとの違い)

クラウドコンサルは、フルスクラッチ開発そのものを実装するのではなく、「どのようなクラウドネイティブ設計を採用すべきか」「リフト&シフトと作り直しのどちらが自社に適しているか」という上流の意思決定を助言し、実際の開発プロジェクトを伴走支援する立場です。この関わり方を理解しておくことが、費用感やプロジェクト体制を見誤らないための出発点になります。

クラウドネイティブなフルスクラッチ開発の推奨・支援

クラウドコンサルは、インフラの構築・管理工数を大幅に削減できるフルマネージドサービス(RDS、Lambda、S3など)の活用を推奨し、コンテナ・サーバーレス・マイクロサービスを前提としたアーキテクチャ設計を支援します。実際に、Web三層構造を完全にサーバーレス化(ECS Fargate、AppSyncなど)した企業では、インフラコストを64.8%削減しただけでなく、スキーマとリゾルバの実装だけでAPIを構築できるようになり、実装コスト自体も削減できた事例があります。一方でクラウドコンサルは、無条件にクラウドネイティブを推奨するわけではありません。複数のサービスを連携させるマイクロサービスアーキテクチャは開発工数が数倍〜数十倍に跳ね上がるリスクがあり、サーバーレスにはベンダーロックインが発生しやすいというデメリットもあるため、要件を満たせるかどうかの検証(PoC)を経てから本格着手を助言します。

インフラコンサルとの違い(機器構成刷新 vs アーキテクチャ再設計)

インフラコンサルがフルスクラッチ開発に関与する場合、オンプレミスのサーバー機器・ネットワーク構成の刷新や、データセンターの再設計を含む、ITインフラ全般の観点からの提案が中心になります。これに対してクラウドコンサルは、クラウド上でのアーキテクチャそのものの再設計(モノリシックな構成からマイクロサービスへの分割、リクエストベースの従量課金を前提としたサーバーレス化など)に特化した助言を行います。物理的なインフラの調達・設置を検討する必要がない分、クラウドコンサルの支援はソフトウェアアーキテクチャとクラウドサービスの組み合わせという、より抽象度の高いレイヤーでの意思決定に集中している点が特徴です。

クラウドネイティブ vs リフト&シフトの判断基準

クラウドネイティブ vs リフト&シフトの判断基準

クラウドネイティブな作り直しと、既存の設計を踏襲したリフト&シフトのどちらを選ぶべきかは、単純な優劣ではなく、システムの特性に応じた見極めが必要です。クラウドコンサルは、以下のような観点から総合的に判断を支援します。

トラフィック・レイテンシーによる判断

サーバーレスを中心としたクラウドネイティブ設計は、トラフィックの変動が大きいサービスに効果的で、アイドル時のインフラコストをゼロに近づけられます。一方、常時高負荷が発生し続けるサービスや、極めて低いレイテンシー(応答速度)が求められるサービスの場合は、サーバーレスよりもEC2などの従来型サーバー構成へのリフト&シフトが適していると判断されるケースがあります。クラウドコンサルは、自社サービスのトラフィックパターン(時間帯・季節による変動幅、ピーク時の同時アクセス数)を分析したうえで、どちらのアーキテクチャが要件を満たせるかを見極めます。

コスト構造(TCO)による判断

リフト&シフトは初期の移行コストや開発期間を抑えやすい一方、オンプレミス時代の「将来を見越したオーバースペック」をそのままクラウドに持ち込むと、従量課金制の性質上、無駄な固定費が毎月発生し続け、中長期的には運用コストが割高になりやすいという注意点があります。対してクラウドネイティブ化は、初期の開発費用こそ高くなる傾向がありますが、長期的な運用コストやスケーラビリティに優れます。クラウドコンサルは、これら数年スパンでのTCO(総所有コスト)を試算し、単年度の予算だけでなく中長期の投資対効果を経営層が判断できる材料として提供します。

マイクロサービス化のリスクとベンダーロックイン

マイクロサービスアーキテクチャは、機能ごとに独立したサービスへ分割することで開発・デプロイの柔軟性を高められますが、サービス間連携の複雑化により開発工数が数倍〜数十倍に跳ね上がるリスクがあります。どこでサービスを分割すべきかという「境界線の定義」を誤ると、かえって開発・運用が煩雑になるため、高度な技術選定のアドバイザリーが必要です。また、フルマネージドサービスを積極的に活用するクラウドネイティブ設計は、特定クラウドベンダーへの依存(ベンダーロックイン)が発生しやすく、将来的な移行の自由度が下がるというトレードオフも伴います。クラウドコンサルは、これらのリスクを事前に提示したうえで、自社が許容できるロックインの範囲を明確にしながら設計方針を助言します。特に、将来的にマルチクラウドへの展開や他ベンダーへの乗り換えを想定している企業では、コンテナ技術(Kubernetesなど)を活用してポータビリティを確保するといった、ロックインを緩和する設計上の工夫もあわせて検討されます。逆に、単一クラウドへの集中投資によってスケールメリットや割引料金を最大化する戦略をあえて選ぶ企業もあり、どちらが正解かは経営方針次第という点も、クラウドコンサルが助言時に必ず確認する論点です。

コンサルとしての支援範囲

コンサルとしての支援範囲

クラウドコンサルの支援範囲は、アーキテクチャ設計の助言だけにとどまらず、ベンダー選定から実装プロジェクトの伴走まで幅広く及びます。どこまでの範囲を依頼するかによって、費用も体制も大きく変わります。

ハイブリッドアプローチの推進

クラウドネイティブなフルスクラッチ開発をすべて外部委託すると費用が高騰しやすいため、クラウドコンサルは「自社のコア業務は内製でコントロールし、高度なクラウドアーキテクチャ設計やセキュリティ実装は外部の専門家に委託する」というハイブリッド体制の構築を支援します。開発ベンダーへの丸投げではなく、事業会社が将来的に自走できるようになるための内製化支援まで視野に入れて伴走するケースもあり、単なる開発代行とは一線を画す関わり方が特徴です。

ベンダー選定・相見積もり支援

クラウドネイティブな開発は、会社によって見積もりが2〜3倍異なることも珍しくありません。クラウドコンサルは、同一の要件定義書やRFP(提案依頼書)を用いて3〜5社への相見積もりを支援し、技術提案の内容・体制・実績を客観的な基準で比較評価します。見積もり金額だけでなく、提案されたアーキテクチャが自社の要件(トラフィック特性、レイテンシー要件、将来の拡張性)に本当に適しているかを技術的な観点から精査することが、クラウドコンサルならではの付加価値です。

伴走型支援・PMOとしての実装完了までのサポート

単なる要件定義書の納品で終わらず、クライアントと同じ目線で「事業成果の達成(ビジネスリードタイムの短縮など)」をゴールに据え、実装・運用フェーズまでプロジェクトに伴走するコンサルティング形態も存在します。ベンダー選定後もクラウドコンサルタントが発注者側のPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)としてプロジェクトに残り、開発ベンダーの進捗管理、品質評価、仕様変更の妥当性判断などを実装完了まで支援するケースが一般的です。この体制により、アーキテクチャ設計時に描いた狙い(コスト削減効果やスケーラビリティ)が実装段階でぶれることなく実現されているかを、発注者側の立場から継続的にチェックできます。

費用感の考え方

費用感の考え方

クラウドネイティブなフルスクラッチ開発の予算計画において、クラウドコンサルが重視するのは開発費用の総額だけでなく、その内訳と配分のバランスです。

開発費用の目安と人月単価

クラウドネイティブなプラットフォームや大規模なSaaSプロダクトのフルスクラッチ開発は、250万〜3,000万円以上(要件によっては数千万円超)に及びます。独自要件のクラウドアーキテクチャを設計できるシニアエンジニアやアーキテクトクラスの人月単価は80万〜120万円以上(100万円超も多い)で、これが費用の大部分(目安として約80%程度)を占めます。加えて、クラウドコンサルティング費用単体としても、アセスメントからRFP作成・アーキテクチャ設計・ベンダー選定までの上流工程を専門のコンサルティングファームに依頼する場合、期間数ヶ月・単価月額100万〜200万円以上で、コンサル費用だけで数百万〜1,000万円規模の予算を要することが一般的です。

上流工程への予算配分とコスト削減策

要件定義が不十分なまま開発に進むと、後からの仕様変更でコストが1.3〜2倍に膨れ上がることがあります。開発フェーズでの修正は要件定義段階の修正に比べて10倍以上のコストがかかるため、クラウドコンサルは全体予算の20〜30%を要件定義・アーキテクチャ設計フェーズに充てることを強く推奨します。予算を抑える工夫としては、日本国内相場の30〜60%程度で済むオフショア開発の活用や、専門領域に応じたフリーランスエンジニアの活用といったリソース調達の選択肢が提案されることもあります。ただし、コスト削減を優先するあまり、クラウドアーキテクチャ設計という最も専門性が問われる工程まで安易に外部委託先へ任せてしまうと、後工程での手戻りリスクがかえって高まるため、上流工程には相応の予算と実績あるパートナーを充てることが結果的に費用対効果を高めます。また、開発完了後もクラウド利用料そのものが継続的に発生する点を見落としてはいけません。開発費用の見積もりだけで予算を確定させず、稼働後の月額クラウド費用やFinOpsによる継続的な最適化の費用まで含めたトータルコストで投資対効果を判断する視点が、フルスクラッチ開発の予算計画には不可欠です。

まとめ

クラウドコンサルのフルスクラッチ開発まとめ

本記事では、クラウドコンサルにおけるフルスクラッチ・オーダーメイド開発について、クラウドネイティブ設計の推奨・支援、リフト&シフトとの判断基準、コンサルとしての支援範囲、費用感の考え方までを体系的に解説しました。オンプレミス機器の構成刷新も含めて幅広く扱うインフラコンサルとは異なり、クラウドコンサルはクラウド上でのアーキテクチャそのものの再設計に特化し、トラフィック・レイテンシー特性やTCO試算に基づいてクラウドネイティブ化とリフト&シフトのどちらが適するかを見極める役割を担います。支援範囲は、アーキテクチャ設計の助言にとどまらず、ハイブリッド体制の構築、ベンダー選定・相見積もり支援、実装完了までのPMOとしての伴走まで幅広く及び、費用は開発費用250万〜3,000万円以上、コンサルティング費用単体でも数百万〜1,000万円規模を見込む必要があります。全体予算の20〜30%を上流工程に充てるという原則を守りながら、マイクロサービス化のリスクやベンダーロックインを事前に見極めることが、クラウドネイティブなフルスクラッチ開発を成功に導く最善の進め方です。クラウドネイティブな開発を検討されている方は、まずは自社のシステム特性を整理したうえで、複数のクラウドコンサルティングパートナーに相談し、リフト&シフトと作り直しのどちらが適するかを見極めることから始めることをお勧めします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。