米国発のクラウドネイティブERPパッケージ「Epicor Kinetic」を本格導入する前に、多くの中堅製造業が実施するのがPoC(概念実証)・プロトタイプ・モックアップ開発です。Epicor Kineticは、自動車部品・産業機械・金属加工・電子機器といった離散型製造業の業種ごとに業務プロセスをテンプレート化した「Kinetic Industry Solutions」を起点にすることで標準機能のフィット率を高めやすい一方、実際に自社の現場でどこまで業務が回るのかは、カタログやデモ画面を見ただけでは判断がつきません。また、低コード拡張基盤「Epicor Application Studio」を使えば、契約前の段階でも画面や入力項目のカスタマイズ案を比較的スピーディーに試作できるため、PoC・プロトタイプの進め方そのものがオンプレミス型パッケージとは異なる特性を持ちます。実際に導入を検討する担当者からは「Epicor KineticのPoCはどのように進めればよいのか」「業種テンプレートのフィット確認とApplication Studioでのモックアップはどう使い分けるのか」「PoCにかかる期間・費用はどれくらいか」といった疑問が数多く挙がります。
本記事では、Epicor Kinetic導入前のPoC・プロトタイプ・モックアップ開発に焦点を当て、検証の目的、標準的な進め方と期間・費用の目安、Epicorならではの検証手法(Kinetic Industry Solutionsを使ったフィット確認と、Epicor Application Studioを使ったモックアップ・プロトタイピング)、そしてPoCでの失敗パターンと対策までを、具体的な数値とともに体系的に解説します。PoCを軽視して本格導入をいきなり進めてしまうと、契約後になって「現場が使いこなせない」「想定していた業種テンプレートが実は自社の業務に合わなかった」といった問題が発覚し、高額な追加カスタマイズや手戻りにつながりかねません。逆に、PoCの目的や進め方を正しく理解して実施すれば、契約前の段階で不要なカスタマイズを洗い出し、本格導入の期間・費用の両方を最適化できます。これから導入パートナーを選定する方はもちろん、社内でPoCの計画を立てる立場の方にとっても、実践的な判断軸が身に付くはずです。
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・Epicor導入の完全ガイド
Epicor導入におけるPoC・プロトタイプ検証の全体像

Epicor Kinetic導入前のPoC・プロトタイプ検証は、契約前の段階で「機能の豊富さ」を確かめるための機能検証ではなく、日々の現場オペレーターが実際に使いこなせるかという現場受容性を検証することが本来の目的です。パンフレットやベンダーによるデモ画面では、標準機能がひととおり揃っていることは確認できますが、自社特有の業務ルールや既存設備との連携パターン、現場のオペレーターがどの程度スムーズに操作できるかは、実データを使った検証を経なければ分かりません。Epicor Kineticの場合、Kinetic Industry Solutionsという業種別テンプレートが用意されているため、自社の業種に近いテンプレートを起点にPoCを進めることで、ゼロから検証項目を洗い出すよりも効率的に現場受容性を確認できる可能性があります。一方で、テンプレートがあるからといってPoCを省略してよいわけではなく、むしろ「テンプレートが本当に自社の業務プロセスに合っているか」を検証することがPoCの中心的な目的になります。この検証を丁寧に行うことが、契約後の想定外のカスタマイズやトラブルを防ぎ、本格導入をスムーズに進めるための土台になります。
PoC・プロトタイプ検証の目的
Epicor Kinetic導入前のPoCには、大きく2つの目的があります。1つ目は、現場受容性の検証です。機能の網羅性ではなく、現場のオペレーターがUIや操作フローに違和感なく馴染めるか、既存の業務ルールとどこまで整合するかを、実データを使ったテスト運用で確認します。2つ目は、不要なカスタマイズの削減です。契約前に「これだけは譲れない要件」が業種テンプレートを含む標準機能だけで満たせるかを実データで検証するフィット&ギャップ分析を行うことで、契約後に発覚する高額な追加カスタマイズを未然に防げます。標準機能で不足する要件へのカスタマイズ対応は、初期導入費用の3〜4割程度を占める最大のコスト増要因になるとされており、PoCの段階でこの見極めを丁寧に行うかどうかが、後工程のコストとスケジュールの両方を大きく左右します。PoCは単なる「お試し利用」ではなく、本格導入の投資対効果を左右する重要な意思決定プロセスと位置づけて臨むことが重要です。
クラウドネイティブだからこそ可能なスピーディーなPoC環境構築
Epicor KineticがPoCの進め方に与える影響として見逃せないのが、クラウドネイティブ(マルチテナントSaaS)であることによる環境構築のスピードです。オンプレミス色の強いパッケージでPoCを行う場合、検証用のサーバー環境を用意するだけで相応の準備期間がかかることがありますが、クラウドネイティブなEpicor Kineticでは、ベンダーやパートナーが提供する検証用のクラウド環境を短期間で用意できるため、PoC自体に着手するまでのリードタイムを圧縮しやすいという利点があります。この特性により、契約前の段階で複数の業種テンプレートやApplication Studioでのカスタマイズ案を比較検討する時間を、相対的に多く確保できる可能性があります。ただし、環境構築が速いことと、検証そのものに十分な時間をかけられることは別の問題です。環境がすぐに用意できるからといって検証項目を絞り込みすぎると、現場受容性やフィット&ギャップの見極めが不十分なまま契約に進んでしまうリスクがあるため、環境構築のスピードで生まれた余裕を、検証の質を高めることに充てる意識が重要です。
PoCの進め方・期間・費用

Epicor Kinetic導入前のPoCは、対象範囲を絞り込んだ段階的な進め方が推奨されます。いきなり全業務範囲を対象にPoCを行うと検証項目が膨大になり、かえって現場受容性の検証が曖昧になってしまうためです。標準的な進め方としては、まず対象業務・対象工程を「1工程」あるいは「1製品ライン」といった限定スコープに絞り込み、実データを用いたテスト運用を行います。このスコープの中で、業種テンプレートが自社の業務プロセスとどれだけ一致しているか、現場のオペレーターが違和感なく操作できるかを確認します。並行して、標準機能では対応できないと判明した要件については、Application Studioでの簡易的なモックアップを作成し、実現可能性とおおよその開発規模感を把握します。この段階で得られた知見をもとに、フィット&ギャップ分析の結果をレポートとしてまとめ、本格導入時のスコープとカスタマイズ範囲、そして概算の期間・費用を確定させていきます。
PoCの進め方(標準的なステップ)
Epicor Kinetic導入前のPoCは、おおむね4つのステップで進めるのが一般的です。1つ目は検証スコープの設定で、対象業務・工程・製品ラインを限定し、検証で確認したい項目(現場受容性、業種テンプレートとのフィット度、既存システムとの連携可否など)をあらかじめリストアップします。2つ目は検証環境の準備で、クラウド上に検証用の環境を用意し、実際の業務データ(あるいはそれに近いサンプルデータ)を投入します。3つ目は実データでのテスト運用で、現場のオペレーターに実際に操作してもらい、業務が問題なく回るか、標準機能で不足する部分がどこかを洗い出します。4つ目はフィット&ギャップ分析のとりまとめで、検証で判明した標準機能でカバーできる範囲、Application Studioでの拡張が必要な範囲、そもそも運用でカバーすべき範囲を整理し、本格導入の計画に反映します。この一連のステップを丁寧に踏むことが、契約後の手戻りを防ぐ最も確実な方法です。
期間・費用の目安
PoCにかかる期間の目安は、ベンダーやパートナーが提供する無料貸出・トライアル環境等を利用し、限定スコープで実データを用いたテスト運用を行う場合で2〜4週間程度です。対象範囲を1工程・1製品ラインに絞った比較的軽量なPoCであればこの期間で完了しますが、MES(製造実行システム)等と連携した本格的な検証を行う場合は数ヶ月単位を要することもあります。費用面では、PoC自体をベンダー・パートナーの無料トライアル制度を活用して実施できるケースもありますが、テスト運用を外部コンサルタントに依頼せず、自社の中心メンバーが主体的に巻き取ることで、30万〜80万円程度の費用削減が可能になるとされています。逆に、PoCの検証項目やスコープを外部に丸投げしてしまうと、削減できたはずの費用がかさむだけでなく、現場の当事者意識も育ちにくくなるため、PoCの段階から現場のキーパーソンを巻き込んでおくことが、費用対効果の面でも重要です。
Epicor固有のPoC手法

一般的なクラウドERPパッケージのPoC手法に加えて、Epicor Kinetic導入には固有の検証手法が存在します。とりわけ「Kinetic Industry Solutionsを使ったフィット確認」と「Epicor Application Studioを使ったモックアップ・プロトタイピング」は、他のパッケージにはないEpicor Kinetic特有の検証アプローチです。ここではこの2つの手法を掘り下げます。
Kinetic Industry Solutionsを使ったフィット確認
Epicor Kinetic特有のPoC手法として、自社の業種に近いKinetic Industry Solutionsのテンプレートをそのままベースに検証を始められる点が挙げられます。汎用的なERPパッケージでゼロから業務フローを設計・検証する場合と異なり、業種テンプレートに沿って「標準ではこう動く」という基準線を最初に提示できるため、現場のオペレーターや業務担当者は「この標準フローと自社の実際の業務は、どこが同じでどこが違うか」という比較検証がしやすくなります。この比較検証のプロセスこそが、Kinetic Industry Solutionsを使ったフィット確認の本質です。テンプレートと完全に一致する部分は標準機能のまま使い、乖離がある部分については、その乖離が「業務運用を見直せば標準機能に寄せられるものか」「どうしても自社固有の要件として残るものか」を切り分けます。この切り分けの精度が高いほど、後続のApplication Studioでの拡張範囲を必要最小限に絞り込め、本格導入の期間・費用の両方を最適化できます。
Epicor Application Studioを使ったモックアップ・プロトタイピング
もう一つのEpicor Kinetic特有の手法が、低コード拡張基盤Epicor Application Studioを使ったモックアップ・プロトタイピングです。フィット&ギャップ分析で標準機能では対応できないと判明した要件について、フルスクラッチでの本開発に着手する前に、Application Studioを使って画面レイアウトや入力項目、簡易的な承認ワークフローの試作品(モックアップ)を作成できます。プログラミングの専門知識を必要とする範囲が限定的であるため、比較的短期間で「実際にこういう画面・フローになる」というイメージを現場の関係者と共有でき、要件の認識齟齬を早期に解消できる点がメリットです。この段階で現場から「これでは業務が回らない」というフィードバックが得られれば、本開発に入る前に要件を修正でき、後工程での手戻りを未然に防げます。逆に、モックアップの段階を省略していきなり本開発に入ってしまうと、現場のフィードバックを反映する機会がないまま構築が進み、稼働直前になって大きな仕様変更が必要になるリスクが高まります。PoCの段階でApplication Studioによる簡易モックアップを積極的に活用することが、本格導入の手戻りを減らす実践的な方法です。
PoCでの失敗パターンと対策

Epicor Kinetic導入前のPoCでは、いくつかの典型的な失敗パターンが繰り返し報告されています。ここでは代表的な失敗パターンと、それを防ぐための対策を解説します。
典型的な失敗パターン
1つ目の失敗パターンは、経営層や情報システム部門だけで選定・検証を進め、現場を巻き込まないケースです。機能の豊富さや価格の安さだけを基準に評価を進めた結果、実際に稼働させてから現場が「以前のExcelの方が使いやすかった」と反発し、入力を怠るようになってデータが蓄積されないという事態に陥ることがあります。2つ目は、PoCの段階で対象範囲を絞り込まず、一気に全機能を検証しようとするケースです。検証項目が膨大になりすぎて、かえって重要な現場受容性の確認が曖昧になってしまいます。本格導入後も同様に、最初から全機能を稼働させてしまうと操作マニュアルが膨大になり、現場がパニックになって入力を放棄してしまうリスクがあります。3つ目は、既存のExcel運用との連携を軽視するケースです。クラウドからデータを出力する際にCSV変換が必要になり、文字化けや列ズレが頻発して、かえって二度手間が増えてしまうことがあります。4つ目は、工程管理の粒度のミスマッチです。時間単位での計画が必要な現場に対して、システム側が日単位でしか計画を扱えない場合、結局担当者が手作業で計画を立て直す羽目になり、PoCの段階でこのミスマッチに気づけないと本格導入後に大きな不満につながります。
PoCを成功させるためのポイント
PoCを成功させるためのポイントは大きく3つです。1つ目は、PoCの企画段階から現場のキーパーソンを巻き込むことです。情報システム部門や経営層だけでなく、実際にシステムを操作するオペレーターの意見を反映させることで、稼働後の定着率が大きく変わります。2つ目は、検証スコープを「1工程×1製品ライン」のように意図的に絞り込み、最初の3ヶ月は実績入力の定着だけに目標を絞るなど、段階的なアプローチを取ることです。一気に全機能を検証・導入しようとせず、小さく始めて確実に成功体験を積み重ねることが、現場の受容性を高める最も確実な方法です。3つ目は、フィット&ギャップ分析の結果を文書化し、標準機能でカバーできる範囲、Application Studioでの拡張が必要な範囲、運用でカバーすべき範囲を明確に切り分けて本格導入計画に反映することです。この切り分けが曖昧なままPoCを終えてしまうと、本格導入の見積もりも曖昧になり、後工程でのトラブルの原因になります。PoCは「導入するかどうかを決める」だけでなく「どう導入すれば成功するか」を具体化する工程と捉えることが重要です。加えて、PoCの成果物(フィット&ギャップ分析の結果、検証で得られた課題リスト、Application Studioでのモックアップ画面)は、本格導入時に複数の導入パートナーへ相見積もりを依頼する際の共通の判断材料としても活用できます。PoCの段階で要件と検証結果を具体的な文書として残しておくことで、パートナーごとに前提条件がバラバラな見積もりを比較検討するリスクを避けられ、より精度の高い意思決定につながります。
まとめ

本記事では、Epicor Kinetic導入前のPoC・プロトタイプ・モックアップ開発について、検証の目的、標準的な進め方と期間・費用の目安、Epicor固有のPoC手法、そして失敗パターンと対策を解説しました。PoCの本質的な目的は、機能の豊富さの確認ではなく現場受容性の検証と不要なカスタマイズの削減にあり、期間は限定スコープで2〜4週間、本格的な検証では数ヶ月単位を要します。Epicor Kineticは、Kinetic Industry Solutions(業種別テンプレート)を起点にしたフィット確認と、Epicor Application Studio(低コード拡張基盤)を使ったモックアップ・プロトタイピングという、他のパッケージにはない検証手法を持ち、クラウドネイティブであることも相まって、契約前の段階から比較的スピーディーに検証環境を用意できる点が特徴です。PoCを成功させるためには、企画段階から現場のキーパーソンを巻き込むこと、検証スコープを意図的に絞り込んで段階的に進めること、そしてフィット&ギャップ分析の結果を文書化して本格導入計画に反映することが不可欠です。導入を検討される際は、自社の業種とPoCで確認したい重点項目を整理したうえで、中堅製造業のクラウドERP導入とEpicor Kineticの検証実績が豊富なパートナーに相談することをお勧めします。
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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
