基幹システム/ERPリアーキテクチャの保守・運用費用・ランニングコストについて

基幹システム/ERPリアーキテクチャの費用は、分解の範囲、インフラの利用効率、運用体制によって変わります。TCOが20〜45%削減される場合もあれば、運用コストの増加で費用が膨らむ場合もあります。

削減効果と増加要因のそれぞれを、次の節で見ていきます。

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・基幹システム/ERPリアーキテクチャの完全ガイド

基幹システム/ERPリアーキテクチャの定義(コスト構造を変える技術的な再設計)

基幹システム/ERPリアーキテクチャは、既存システムのコスト構造を見直すための技術的な再設計です。対象になるのは、会計、生産管理、販売管理などの業務ドメインで、人事給与や在庫管理も含まれます。

この再設計では、密結合したモノリシックなERPパッケージや基幹システムを、ドメインの境界に沿って分解します。分解の手段には、マイクロサービス、API-first設計、クラウドネイティブのアーキテクチャパターンがあります。

対象は、すでに稼働している老朽化したモノリシックなERPや基幹システムを前提とする、ブラウンフィールドの取り組みです。なお、ゼロから基幹システムを構築する基幹システム開発やERP導入とは、前提が異なります。

モダナイゼーション・刷新・更改・リニューアルとの費用論点の違い

同じ基幹システム/ERPの見直しでも、費用をどの観点で見るかはテーマによって変わります。

  • モダナイゼーション:5つの技術手法ごとの費用
  • 刷新:経営層の投資判断に必要な費用
  • 更改:契約期限を起点にした費用の比較
  • リニューアル:画面UI・操作性への投資

モダナイゼーションでは、インフラと開発の両方のコストを見ます。対象には、リホストやリプラットフォーム、リファクタリングのほか、リビルドやリプレースも含まれます。

刷新では、稟議を通すための投資対効果のシミュレーション資料をどこまで作るか、その作成コストが論点になります。

更改では、延長保守の費用と新システム導入の費用を、TCOで比べる必要があります。一方で、リニューアルでは、UI/UXという目に見えにくい部分に投資した場合の対効果を検討します。

リアーキテクチャは、リファクタリングやリビルドをさらに掘り下げた、技術寄りの取り組みです。モノリスからマイクロサービスへ分解し、構造そのものを設計し直すことに重点があります。また、主な対象は、IT部門、アーキテクト、エンジニアです。

「コストの集中から分散への転換」

リアーキテクチャでは、モノリスとマイクロサービスとで、コストの持ち方が変わります。

  • モノリス:費用が集中し、予測しやすい構造です。
  • マイクロサービス:各サービスが独立して規模を変えられる構成です。
  • FinOps:1トランザクション単位で費用を捉える考え方です。

モノリスでは、インフラとライセンスの費用が1か所に集まります。そのため、小〜中規模のうちは費用を予測しやすく、財務のガバナンスも効かせやすい構造になっています。

マイクロサービスでは、コンピュートリソースや可観測性ツール、ネットワークが、それぞれ独立して規模を変えます。その結果、システム全体が「変動費の塊」になります。

クラウドコストの増加を防ぐには、インフラ費用を監視するだけでは足りず、1トランザクションあたりのコストを計測するFinOps(クラウド財務運用)が必要です。

TCO削減効果とインフラコストの最適化

モノリス、マイクロサービス、選択的スケーリング、クラウドネイティブ化の拡張方法と削減効果を並べた図。
拡張範囲を絞ると、コスト削減の目安も見えてきます。

コスト構造を適切に設計できれば、リアーキテクチャは長期的な費用削減につながります。報告されている効果の具体的な数値を、順に見ていきます。

TCO20〜45%削減、インフラコスト25〜30%削減の具体的数値

TCOの削減率や投資回収期間、メインフレームや保守費用の削減幅から、再設計の効果を見積もれます。

  • システム全体のTCO:20〜45%削減が一般的な目安です。
  • 投資回収期間:通常12〜36ヶ月です。
  • 旧来メインフレーム:サポートコストを約30%削減できます。
  • ヘルスケア企業の事例:12ヶ月でITメンテナンスコストを50%削減しました。
  • 一般的な保守費用:初期開発費の15〜20%程度が年間目安です。

また、再設計によって、一般的な保守費用をさらに圧縮できる可能性があります。その相場感は、基幹システム/ERPのモダナイゼーションの記事で紹介しています。

選択的スケーリングによるインフラ利用効率化

選択的スケーリングは、負荷の高いサービスだけを拡張して、利用効率を高める考え方です。

  • モノリス:システム全体を一律に拡張する構成です。
  • マイクロサービス:決済や在庫照会など、必要な部分だけを拡張できます。
  • クラウドネイティブ化:インフラコスト40%削減の事例があります。

選択的スケーリングによって、インフラストラクチャの利用コストを25〜30%削減できるとされています。基幹システムは決算期や繁忙期などで負荷が大きく変わるため、必要な部分だけを拡張する考え方が生きてきます。

会計や生産、販売のように利用パターンが異なるドメインでは、効果が大きくなりやすい点が特徴です。

ポイント

削減率の数字は一律ではないため、社内の費用をTCO、インフラ費、保守費ごとに分けて、自社の数字に置き換えて見るのが目安です。

分散システム特有の運用コスト増要因(隠れた税金)

サイドカー、CPU消費、コントロールプレーン、500マイクロサービスで発生する追加リソースを示した図。
サービス数が増えるほど、追加リソースの見積もりが重要になります。

分散化には削減効果がある一方で、「隠れた税金」とも呼べる運用コストの増加も伴います。

サービスメッシュ・Kubernetes運用のインフラ追加費用

サービスメッシュは、マイクロサービス間を安全に連携させるための仕組みです。

  • サイドカー:1つあたり50〜100MBのメモリを消費します。
  • CPU消費:サイドカー1つあたり100〜200mを使います。
  • コントロールプレーン:全体で1〜2GBのメモリを必要とします。
  • 500マイクロサービス:Istioだけで25〜50GBを余分に消費します。

サービスメッシュにはIstioなどがあり、無視できないリソースを消費します。その余分なメモリは、そのまま直接的なインフラの追加コストになります。

会計・生産・販売・人事など複数のドメインを抱える基幹システムでは、サービス数の増加に伴い運用オーバーヘッドが大きくなります。そのため、見積もりの段階から織り込んでおく必要があります。

可観測性オーバーヘッドとネットワーク転送費用、高度人材の獲得コスト

分散サービスの運用では、原因の追跡、通信、人材の面で追加コストが生じます。

  • 可観測性:分散トレーシングと高度なロギングが必要です。
  • 監視オーバーヘッド:複雑さにより40〜50%増加します。
  • ネットワーク転送:サービス間通信が高額になる場合があります。
  • 高度人材:Kubernetes・SRE・Sagaのスキルが必要です。

分散トレーシングやロギングには、OpenTelemetryやJaegerといったツールを使います。一方、モノリス内部では無料だった通信も、サービスが独立すると、サービス間の転送費用が発生します。

Kubernetesの運用やSRE(サイト信頼性エンジニアリング)には、高度な人材が必要です。加えて、分散トランザクションのSagaパターンの構築にも、高度なスキルが求められます。

高度な人材は市場で希少なため、採用と維持にかかるコストが非常に高額になります。エンジニアが10〜15人未満のチームでは、機能開発よりもインフラの維持に時間を取られます。

こうした小規模なチームでは、リアーキテクチャの運用コストがメリットを上回るおそれがあります。

ポイント

分散化の効果が運用コストの増加を上回るかは、サービス数と、監視や高度人材を社内で賄えるかどうかで判断するのが目安です。

FinOpsによるコスト管理とモジュラーモノリスという選択肢

FinOpsを中心に、業務単位の計測、コストを押し上げる領域の特定、開発とファイナンスの共通ダッシュボードを配置した図。
費用の見方をそろえると、増加した領域をチーム間で追えます。

分散化によるコスト増を防ぐには、管理の手法と、アーキテクチャの粒度の両方を見直す必要があります。

1トランザクションあたりのコスト計測というFinOpsの考え方

FinOpsでは、コストを総額で見るのではなく、業務の単位で捉えます。

  • 業務単位:「1注文あたり」「1トランザクションあたり」で計測します。
  • ドメイン単位:コストを押し上げる領域を洗い出します。
  • 共通ダッシュボード:開発とファイナンスが同じ画面で費用を追います。

マイクロサービス化したシステムでは、インフラ費用の総額を監視するだけでは足りません。会計、生産、販売の各ドメインが独立して規模を変えるため、費用の増え方もドメインごとに違ってきます。

ドメイン単位で見て初めて、無駄なリソース消費を特定し、是正できます。そのため、開発チームとファイナンスチームが共通のダッシュボードで費用を追う体制が必要です。

この体制を、アーキテクチャの再設計と同時に作っておくと、費用の高騰を防ぎやすくなります。

Amazon Prime Videoのモジュラーモノリス回帰事例に学ぶ規模の見極め

マイクロサービスを細かく分けすぎると、データ転送の費用と複雑さが膨らみます。

  • Amazon Prime Video:モジュラーモノリスへ回帰しました。
  • 回帰の効果:インフラコストを90%削減しました。
  • 適用規模:売上規模や開発者数(50〜100名超)が判断の目安です。
  • 部分分離:決済や検索など、高負荷の領域だけを切り出します。

Amazon Prime Videoの事例は、運用コスト増を放置した場合の教訓として知られています。一方で、2026年時点でマイクロサービスを本格的に選ぶべきなのは、非常に大きな売上規模の組織に限られます。

開発者が50〜100名を超えない組織では、初期費用がROIを圧迫するおそれがあります。運用オーバーヘッドによってもROIは圧迫されるため、自社の規模に合った粒度を選ぶことが欠かせません。

インフラ基盤の準備が整っていない場合は、モジュラーモノリス(いくつかの機能をひとまとめにした構成)を選ぶのが現実的です。コストとアジリティのバランスを取りやすい選択肢です。

ポイント

業務単位のコストを開発とファイナンスが一緒に追える体制がなければ、分散化を広げる前に、まずこの体制を作るのが目安です。

保守・運用費用を最適化する実務ポイント

限られた予算で最適化を進めるには、ここまで見てきたコスト構造を、実務の判断に使える形に落とし込む必要があります。

部分的マイクロサービス化とコア業務への投資集中

すべてのドメインを同じ細かさで分けるのではなく、変動の大きさに応じて粒度を使い分けます。

  • 安定した領域:一般会計や人事給与は、まとまりの大きいサービスとして維持します。
  • 変動する領域:販売管理のプロモーション機能を分離します。
  • 投資の優先順位:効果の高いコア業務に、投資を優先して回します。

安定した領域は変更の頻度が低いため、大きめのサービスとして維持しやすくなります。一方で、変動の激しい領域は、素早い機能追加に備えて細かく切り出します。

均一な粒度で分解すると、不要なサービスメッシュや可観測性の費用が積み上がります。だからこそ、運用コストの使い道を、コア業務に絞る優先順位付けが欠かせません。

予算確保・依頼先選定における確認ポイント

まず、複数のベンダーから見積もりを取る場合は、初期費用だけでなく運用の費用まで確認して比べます。

  • 追加費用:サービスメッシュなどの構築費が見積もりに含まれるかどうか
  • 可観測性:ツールの費用が、見積もりにどう入っているか
  • FinOps体制:構築費用のうち、どこまでが含まれるか
  • 運用体制:自社で保有するか、パートナーを利用するか
  • 比較期間:3〜5年程度のトータルコストで比べます。

サービスメッシュや可観測性ツール、FinOps体制を省いた安価な提案は、稼働後にインフラコストが膨らむおそれがあります。

人材の面では、Kubernetes運用やSREを自社で抱えるか、パートナーを継続して使うかも、判断の要点になります。

予算は、初期費用だけでなく、TCO削減効果と運用コストの増加要因を合わせて検討します。

比較の結果は、経営層に説明する資料にまとめることをおすすめします。

ポイント

予算の比較では、初期費用の安さより3〜5年のトータルコストで見て、運用体制が見積もりに含まれているかを先に確認するのが目安です。

まとめ

リアーキテクチャは、コスト構造そのものを変える技術的な再設計です。モノリスで集中していたコストは、マイクロサービスによって、サービス単位の変動費へと変わります。

TCOは20〜45%削減される可能性がある一方で、隠れた運用コストも発生します。サービスメッシュや可観測性ツール、高度人材の獲得が、分散化に伴う追加負担になります。

FinOpsによって業務単位で費用を見ることと、ドメインの変動に応じて粒度を使い分けることが、特に重要です。

モダナイゼーションの手法の選び方は、基幹システム/ERPのモダナイゼーションの記事で扱います。

経営層への投資判断の説明は、基幹システム/ERP刷新の記事に譲ります。

自社の規模に合う構成を選ぶには、DDD・FinOps・クラウドネイティブ運用に実績のあるパートナーへ、早めに相談することをおすすめします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。