基幹システム/ERPリアーキテクチャの進め方/やり方/流れや方法/手法/工程/手順

基幹システム/ERPのリアーキテクチャは、現状評価から安定化までの5つのフェーズで段階的に進めます。

ガートナーの2025年調査では、ERPを保有する企業の68%が現行アーキテクチャでは将来の変化に対応できないと答えた一方、着手できているのは23%にとどまります。着手が進まない最大の理由は、業務継続性の担保と、複雑なカスタマイズ・アドオンの扱いです。

基幹システム/ERPリアーキテクチャとは

基幹システム/ERPを中心に、業務ロジックの境界設計、データモデル、外部システムとの統合パターン、カスタマイズの扱い方を示す図。
システムの入れ替えだけでなく、設計の前提を広く見直します。

基幹システム/ERPリアーキテクチャとは、会計や人事、販売管理など企業の中核業務を支えるシステムの、根本的なアーキテクチャ構造を再設計する取り組みです。

リプレース(新しいERPパッケージへの乗り換え)や、バグを直すメンテナンスとは性質が異なります。具体的には、業務ロジックの境界設計、データモデル、外部システムとの統合パターン、カスタマイズの扱い方そのものを、根本から見直します。

ERPリアーキテクチャが一般的なシステムリアーキテクチャと大きく異なるのは、ビジネスロジックの複雑性の質と量にあります。ECサイトや社内ツールと違い、ERPには会計基準(IFRS・J-GAAP)に準拠した仕訳ロジックや、税務上の要件を組み込んだ計算処理があります。

さらに、工場ラインの稼働スケジュールと連動した生産計画ロジックも含まれます。これらは、外部規制・業界慣行・企業固有の業務ルールが三重に絡み合った、無数の複雑な処理です。

一般的なシステムリアーキテクチャとの違い

ERPリアーキテクチャが特に難しい理由は、大きく三つあります。

  • カスタマイズ・アドオンの問題:標準機能では業界固有の要件や独自の業務フローをカバーできず、ABAPやPL/SQLによる膨大なカスタムコードが積み重なります。
  • 業務カレンダーによる制約:月次決算、四半期報告、年次決算、税務申告の前後に大規模な移行作業は事実上不可能で、タイムラインが強く縛られます。
  • データモデルの複雑性:SAPだけで数万テーブルがあり、データ構造をそのまま移すか正規化するかで、移行の難易度が大きく変わります。

一つ目のカスタマイズの問題は、規模にも表れています。経産省の2023年調査によれば、国内大手製造業のSAP環境では平均で5,000本以上のカスタムプログラムがあり、そのうちの約30%は開発当初の仕様書が存在しないと報告されています。これらの「暗黙知化したビジネスロジック」を移行先にどう引き継ぐかが、最大の課題です。

コンポーザブルERP(モジュラー型ERP)への移行トレンド

2024〜2026年にかけて、ERP業界で最も注目されている方向性が「コンポーザブルERP」です。従来の一枚岩(モノリシック)なERPパッケージに代えて、会計や人事、生産管理などの業務領域ごとに最適なクラウドサービスを組み合わせて構築するアーキテクチャです。

ガートナーは、このコンポーザブルERPを「2025年以降のERP戦略の主流」と位置づけています。SAPのオールインワンパッケージへの依存度を段階的に下げる企業も増えています。実際、こうした企業は、Workday(人事・財務)、Anaplan(計画・予測)、Salesforce(顧客管理)、NetSuite(財務管理)などのBest-of-Breed型SaaSを組み合わせています。

コンポーザブルERPへの移行には、次の二つのメリットがあります。

  • イノベーションのスピード:全業務をカバーする大型ERPはリリースサイクルが年1〜2回に限られますが、専業のクラウドサービスは月次・週次で機能を更新できます。
  • ベンダーロックインの分散:特定のベンダーへの過度な依存を分散でき、リスクヘッジの効果もあります。

ただし、複数のクラウドサービスを統合するための「統合基盤(iPaaS)」の設計と維持には、それなりの技術投資が必要です。また、すべての企業にとっての解答ではないため、自社の体制と照らし合わせて検討することが欠かせません。

ポイント

リプレースやメンテナンスとは違い、業務ロジックやデータモデル、カスタマイズの扱いまで見直す取り組みです。ERPは会計基準や税務が絡むため、一般のシステム刷新と同じ感覚で進めると手戻りが増えます。

ERPリアーキテクチャの5つのフェーズ――業務影響を最小化する進め方

データプロファイリングを中心に、レコード件数、Null値の割合、データ型の一貫性、孤立レコード、重複レコードの5項目を示す図。
データ品質の確認項目をそろえると、移行設計の論点が見渡せます。

業務を止めずにERPリアーキテクチャを成功させるには、フェーズごとに何を達成し、何を残すかを明確にしておくことが欠かせません。そのうえで、業務カレンダーと整合させた計画を立てます。

この5フェーズは、月次決算・年次決算への影響を避けながら段階的に移行を進めるための、実践的なロードマップです。全体の所要期間は規模によって異なりますが、中堅企業(売上500億〜2,000億円規模)で24〜48か月、大企業では36〜60か月が現実的な目安です。

フェーズ1:現状評価とカスタマイズ棚卸し(3〜4か月)

最初のフェーズは、現行システムの「現状把握」です。中でも最も重要で時間もかかるのが、カスタマイズ・アドオンの棚卸しです。SAPならSAP Solution Manager、OracleならOracle Enterprise Managerを使って、カスタムオブジェクトを一覧にします。そのうえで、各カスタマイズを次の4点で評価します。

  1. 目的:何のためのカスタマイズか
  2. 利用状況:現在も利用されているか
  3. 移行先での必要性:移行先でも必要か
  4. 代替の可否:標準機能で代替できるか

この棚卸しには、現場の業務担当者へのヒアリングが欠かせません。IT部門だけで判断すると、実際には使われていないカスタマイズを「必要」と誤分類したり、業務上不可欠なカスタマイズを「不要」と誤判断したりするケースが頻発します。

棚卸しの結果は、カスタマイズを次の三区分に分けます。

  • A:標準機能で代替可能
  • B:移行先で再実装が必要
  • C:廃止可能

経験上、全カスタマイズの40〜60%は、移行先で残す必要がないものに当たるケースが多くあります。その見極めを早めるほど、工数見積もりの精度が上がります。

このフェーズでは、「業務カレンダーのリスクマップ」も作成します。月次決算の締め処理(月末から翌月5営業日)、四半期報告(四半期末から2か月)、年次決算(期末から3か月)、税務申告(法定期限前後2か月)を、時系列に並べます。

そのうえで、移行作業の「禁止期間」と「低リスク期間」を明確にします。これにより、カットオーバーのウィンドウを年間スケジュールに事前に確保できます。

フェーズ2:ターゲットアーキテクチャの設計と移行戦略の選定(2〜3か月)

フェーズ2では、フェーズ1の棚卸し結果をもとに、移行先のアーキテクチャと移行戦略を決めます。移行戦略は、大きく次の三つに分かれます。

  1. SAP S/4HANA等へのアップグレード:既存のSAP ECC 6.0からSAP S/4HANAへの移行が代表例で、同一ベンダーのまま技術基盤を刷新します。
  2. コンポーザブルERP移行:業務領域ごとに最適なSaaSを選び、APIで統合するアプローチです。
  3. スクラッチ・クラウドネイティブ基幹システムの開発:業界特有の要件が非常に強く、既製パッケージでは対応が難しい場合に選ばれます。

SAP S/4HANAへのアップグレードは、ベンダーのサポートを受けやすい一方で、カスタマイズの多くが移行先で互換性の問題を抱えるリスクがあります。加えて、SAPへのベンダーロックインが続くという課題も残ります。

コンポーザブルERP移行の典型例は、SAPを縮小しながら、財務をWorkday、製造実行をクラウドERPへ段階的に移す方法です。

スクラッチ・クラウドネイティブ基幹システムの開発では、ドメイン駆動設計(DDD)に基づいて業務境界を明確に定義し、マイクロサービスまたはモジュラーモノリスとして開発します。どのパターンを選ぶかは、次の4点で決まります。

  • カスタマイズ量:現在のカスタマイズがどの程度あるか
  • ベンダーロックインの許容度:どこまで依存を受け入れられるか
  • DX投資の優先度:DX全体の取り組みのなかで、この移行をどこに位置づけるか
  • 社内の技術力:新しい技術基盤を社内で扱えるか

技術の選定に加えて、このフェーズではデータモデルの移行設計も行います。特に重要なのは、マスターデータの正規化方針と、トランザクションデータの移行スコープです。

マスターデータは得意先マスタ・品目マスタ・勘定科目マスタ、トランザクションデータは受注・発注・仕訳が対象で、移行スコープは全件移行か直近N年分かを決めます。これらは、後工程のデータマイグレーション設計に大きく影響します。

フェーズ3:データマイグレーション設計と業務検証環境構築(4〜8か月)

ERPリアーキテクチャで最も工数がかかり、リスクも最も高いのがデータマイグレーションです。このフェーズでは、データマイグレーションと同時に「業務検証環境」を構築します。

このフェーズを軽く見ると後半に追い込まれ、ERP移行プロジェクトの失敗の最大要因の一つになります。IPAの2024年「情報システム・ソフトウェア取引に関する実態調査」によれば、ERP移行プロジェクトにおける工期超過の64%が「データ移行の問題」に起因していました。データマイグレーション設計の最初のステップは「データプロファイリング」です。

データプロファイリングでは、現行ERPの全テーブルについて、次の5項目を調べます。

  • レコード件数:テーブルごとの件数
  • Null値の割合:項目ごとに空値が占める割合
  • データ型の一貫性:同じ項目で型が揃っているか
  • 孤立レコード:参照先が存在しない外部キー
  • 重複レコード:同じデータが複数存在していないか

この5項目で調べると、現行データに次のような品質問題が見つかることがあります。

  • 文字コードの混在:Shift-JISとUTF-8が混在した文字列データ
  • 業務で使われない日付:「9999/12/31」「0001/01/01」などで埋められたデフォルト値
  • マスターデータの乖離:組織変更や事業売却で、実態からずれたまま残るデータ
  • 途中状態のレコード:会計期間をまたぐ処理の途中状態として残ったもの

これらの問題は、ETL(Extract/Transform/Load)ツール(Talend、DataStage、AWS Glue等)で自動変換できるものと、業務担当者の判断が要るものに分けます。判断が要るものには、業務責任者を巻き込んだデータクレンジング作業を計画に組み込みます。

マスターデータの正規化は、特に慎重な設計が必要です。たとえば得意先マスタは、営業部門の「商談先」、経理部門の「請求先」、物流部門の「配送先」が、別々に管理されていることが多くあります。これらを統合CDM(Common Data Model)に集約する際は、名寄せ(同一企業の異なる表記を統合する処理)だけで数週間かかることもあります。

移行したデータで業務が回るかは、業務担当者が実際に操作して確かめる必要があります。そこで、次の2つを進めます。

  • 業務検証環境の用意:新システムを本番に近いデータで、業務担当者が実際に確認できるサンドボックス環境を整えます。
  • 業務シナリオテスト:移行済みデータを使い、エンドツーエンドの業務シナリオテストを段階的に実施します。

月次決算の業務フローを新システムで一通り実行するリハーサルを、少なくとも3回は行います。これにより、カットオーバー時のリスクを大幅に低減できます。

フェーズ4:段階的カットオーバーと並行稼働(6〜18か月)

ERPの移行で「ビッグバン移行(全モジュールを一斉に切り替える方式)」は、最もリスクの高い選択肢です。しかし現実には、会計モジュールと販売管理モジュールがトランザクションを密に連携しているERPも多く、単純な段階移行が難しいケースもあります。

実践的な選択肢としては、「会社コード別段階移行」または「モジュール別段階移行」を中心に設計します。

  • 会社コード別段階移行:連結グループを持つ企業で有効です。子会社や特定の事業セグメントを先行して移行し、本社・主力事業は後続フェーズで移行します。
  • モジュール別段階移行:業務間の連携を一時的にAPIブリッジで補いながら、モジュールごとに順に切り替えるアプローチです。

先行移行した会社コードで問題を洗い出し、ノウハウを蓄積することで、本番移行のリスクを低減できます。たとえば、モジュール別段階移行では、まず人事・給与モジュールを新システムに移し、既存ERPの財務会計・購買管理は維持して、両者をAPIで統合します。半年後に購買管理を移し、さらに半年後に財務会計を移すという、段階的な進め方です。

カットオーバーのタイミングは、業務カレンダーの「低リスクウィンドウ」に必ず合わせます。多くの企業では、第2四半期初頭(7〜8月)が最もリスクの低い時期です。年次決算・税務申告が終わり、次の決算期まで余裕があるこの時期を狙って、カットオーバー日を設定します。

並行稼働では、次の3点を押さえます。

  • 並行稼働期間:最低3か月を確保します。
  • データの突合:新旧両システムの内容を毎日または週次で照合する体制を整えます。
  • 費用:並行稼働コストは一般に、移行プロジェクト全体費用の20〜30%を追加で要するため、計画に必ず組み込みます。

緊急時のロールバック手順も事前に確立し、本番環境に近い状態でロールバック訓練を実施しておくことが不可欠です。

フェーズ5:安定化と新アーキテクチャのガバナンス確立(継続的)

旧ERPを止めたあとも、移行の成果は自動では維持されません。そこで、新システムを長期的に健全な状態に保つガバナンス体制を確立します。

最初の課題は「カスタマイズの再増殖防止」です。ERPの歴史が示すように、移行後に無秩序なカスタマイズが再び積み重なると、10〜15年後に同じ問題が再発します。

これを防ぐため、カスタマイズの新規追加は次の二つのルールで管理します。まず標準機能で対応できないかを必ず検討し、本当に必要な場合にだけ承認の対象とします。

  • 事前承認:アーキテクチャ審査委員会(Architecture Review Board)が判断します。
  • 記録:承認されたカスタマイズは、すべてADR(Architecture Decision Record)として記録します。

また、「クリーンコア(Clean Core)」の考え方をERPガバナンスに組み込みます。SAPが推奨するクリーンコアとは、ERPのコアシステムをできるだけ標準機能に近い状態で保つアーキテクチャ原則です。そのうえで、カスタマイズはSAP BTP(Business Technology Platform)などの外部プラットフォーム上に分離して実装します。

クリーンコアを維持することで、ERPの次のバージョンアップ時のコストを大幅に削減できます。SAPの試算では、クリーンコアを実現した企業はアップグレードコストが平均40〜60%削減されるとされています。

人材の面では、SAPアドミン(ABAPプログラマー)をクラウドネイティブなスキルへ転換する組織的な取り組みが必要です。具体的には、BTP開発、APIエコノミー設計、データ統合設計(iPaaS)のスキルを重点的に習得させる6〜12か月のリスキリングプログラムを設計します。そのうえで、実務時間の20%を学習に充てることを公式に認定します。

ポイント

5つのフェーズは順に進めますが、移行の時期は業務カレンダーに合わせて決めます。カスタマイズの棚卸しとデータ移行の工数は、後の工期や費用を左右するため、早い段階で計画に組み込みます。

失敗しないためのポイント――ERP特有の課題と対策

本番データを使うドライランの確認事項として、移行スクリプトの動作、実行時間と業務検証、ロールバック手順とカットオーバー判定基準を示す図。
動作、所要時間、切り戻し条件を順に確かめる構成です。

「20年以上稼働してきた基幹システムを刷新したいが、業務を止められない」という悩みがあります。ERPリアーキテクチャは、一般的なシステムリアーキテクチャと比べて失敗リスクが高く、失敗時の業務への影響も甚大です。

2023年にITRが実施した調査では、ERP移行プロジェクトの33%が当初予算を50%以上超過し、17%が計画期間の2倍以上かかったと報告されています。そこで、ERP特有の失敗パターンとその対策を先に押さえておくと、計画の段階で手を打てます。

ベンダーロックインからの脱却戦略と現実的なトレードオフ

SAPやOracleのERPから移行を検討する企業が直面するのが、ベンダーロックインの「見えないコスト」です。SAP ECC 6.0の延長保守が2027年に終了するのを受けて、SAP S/4HANAへのアップグレードを検討する企業が急増しています。ところが、このアップグレードのコストは、中堅企業(ユーザー数500〜2,000名規模)で3億〜15億円に達するケースも珍しくありません。

この高コストの背景には、主に次の2つの要因があります。

  • カスタムコードの互換性:ABAP for S/4HANAでは多くのテーブル構造が変更されているため、既存のカスタムコードの多くが修正を要します。
  • ライセンスモデルの変更:S/4HANAでは、Named User方式からSAPのPricing方式への移行を求められるケースがあり、費用が増えやすくなります。

ベンダーロックインから脱却するには、完全移行より「段階的機能移管(SAPコアを縮小しながらBest-of-Breed SaaSに機能を移す)」が現実的です。

  1. 人事・給与機能:まずWorkdayに移管し、SAPの人事モジュールを廃止します。
  2. 販売管理:次に、Salesforce Revenue Cloudへ移管します。
  3. 財務会計と購買管理:最後に残ったこの二つは、SAP S/4HANAへの移行です。

この進め方では、移行対象の規模を大幅に縮小できます。SAP依存度を段階的に低下させながら、各段階でROIを測定できるという利点もあります。

一方で、複数SaaSの統合コストも、現実的に試算へ含める必要があります。その内訳には、MuleSoft、Boomi等のiPaaSライセンスと構築・運用の費用が入ります。統合基盤のTCOを5年で計算すると、多くの場合は年間3,000万〜1億円程度の追加コストが発生します。

ベンダーロックインから脱却する「自由」には、統合管理の「複雑さ」という対価が伴います。その対価を経営層と合意したうえで進めることが大切です。

カスタマイズの暗黙知の引き継ぎ――AIの限界と人間の役割

ERPリアーキテクチャでは、AI活用のコード解析ツールへの期待が高まっています。一方で、ERPアドオン特有の暗黙知は、AIが最も苦手とする領域です。

ABAPコードの静的解析ツール(SAP Readiness Check、SNP Transformation Backbone等)は、カスタムオブジェクトの一覧化やS/4HANAとの互換性チェックに有効です。しかし、「なぜこのロジックがここに存在するのか」という業務的背景までは解析できません。

たとえば、「得意先が特定の与信区分に属する場合、決算月の月末最終日は与信チェックをスキップする」というロジックが、ABAPに組み込まれていたとします。AIはこれを「与信チェックの条件分岐」と識別できても、「特定の大口顧客との契約上の特例で、移行先でも継続が必要な要件」だとは判断できません。この問題を解くには、「ビジネスロジック発掘セッション」が必要です。

  • 対象:現役のERPアドミンや業務担当者
  • 方法:AIが生成したコードサマリーをもとにしたインタビュー
  • 収集する内容:業務的背景と、「移行後に必要かどうか」の判断

このセッションは、少なくとも主要なカスタマイズ上位100件について実施することを推奨します。収集した情報は「ビジネスルール仕様書」として文書化し、移行後のシステムにおける要件定義の一部として活用します。

また、ERPの暗黙知は多くの場合、特定のベテラン担当者(しばしば「ERPの神様」と呼ばれる人物)に依存しています。このような人物の退職に備えて、移行プロジェクトの初期からナレッジ移転を計画に組み込むことが不可欠です。

具体的には、そのエキスパートをプロジェクトチームに専任で参加させ、業務知識を若手メンバーに伝える「シャドーイングセッション」を、月20時間以上設けることを標準とします。

月次・年次決算への影響を避ける段階的移行設計の具体策

業務継続性の確保は、ERPリアーキテクチャの最大の制約条件です。特に財務会計モジュールの移行では、決算処理の正確性が法的要件と直結しているため、一切の妥協が許されません。

業務影響を最小化するため、まずは「会計年度の境目でのカットオーバー」を原則とします。期中で財務モジュールを切り替えると、旧システムと新システムで期中のトランザクションが分断され、年度をまたぐ期次比較ができなくなるリスクがあります。

そのため、財務会計モジュールは必ず期首(4月1日開始の場合は4月1日)でのカットオーバーを計画します。カットオーバー前の移行リハーサルは、本番データを使った「ドライラン」を少なくとも3回実施します。

  1. 第1回:移行スクリプトの動作確認
  2. 第2回:実行時間の計測と業務検証
  3. 第3回:ロールバック手順とカットオーバー判定基準(Go/NoGo基準)の確認

Go/NoGo基準は、事前に明文化しておくことが不可欠です。たとえば、「マスターデータの件数が旧システムの99%以上移行完了している」「主要業務フロー20シナリオの業務検証が完了している」「前日比較テストで新旧システムの残高が一致している」などです。経営層・業務責任者・ITの三者で、こうした定量的な合格基準を合意しておきます。

カットオーバー当日は、IT部門と業務部門の合同オペレーションチームを編成し、24時間対応できる体制を整えます。問題発生時に備えて、エスカレーションの経路と意思決定者を事前に決めておきます。

「ロールバックを決断するのは誰か」「ロールバックの期限は何時か」を明確にしておくことで、有事の混乱を最小限に抑えられます。

SAPアドミンからクラウドネイティブへのリスキリングロードマップ

ERPリアーキテクチャに伴う人材の転換は、技術面と同等に重要な課題です。ABAPを中心とするSAPアドミンのスキルを、クラウドネイティブな技術スタックへ転換するには、組織的な支援と十分な移行期間が必要です。

リスキリングは、SAPの深い業務知識を新しい技術で活かすプロセスとして位置づけることが大切です。

ERPアドミンが持つ業務ロジックの理解とデータモデルの知識は、新システムのアーキテクチャ設計で代わりのきかない価値を持ちます。そこで、技術的な指導は新卒のクラウドエンジニアが担い、業務要件の整理はERPアドミンが主導する「ペアでの開発」スタイルを採用します。そうすることで、双方向のナレッジ移転が進みます。

  1. フェーズ1(3〜4か月):クラウドとAPIの基礎
  2. フェーズ2(4〜6か月):iPaaSと統合設計
  3. フェーズ3(6〜12か月):クラウドネイティブ開発とDevOps

具体的な目標は、AWSやAzureのクラウド認定(AWS CLFやAZ-900相当)の取得です。REST API、JSON、OpenAPI仕様といったAPIエコノミーの概念も扱い、並行してSAPのBTP(Business Technology Platform)も学びます。SAPの知識を活かしながら、クラウド移行の具体的なイメージを持てるようにします。

既存のSAP周辺システム連携(IDocs/BAPIs等)を、新しいAPIベースの統合に置き換える実践的なプロジェクトで学びます。使うのは、MuleSoft、Boomi、またはAWS EventBridge等のiPaaSツールです。

PythonまたはTypeScriptでAPIサービスを開発し、Dockerでコンテナ化します。GitOpsワークフローや、DatadogやAWS CloudWatchによるオブザーバビリティも実践します。

ポイント

ERP特有の失敗は、予算や期間の超過として表れやすく、業務への影響も大きくなります。移行範囲を段階的に絞り、財務会計は期首で切り替えるなど、業務を止めない設計で備えることが大切です。

まとめ

基幹システム/ERPリアーキテクチャについて、定義とERPならではの難しさ、5つのフェーズによる進め方、ERP特有の失敗リスクと対策を見てきました。成功の核心は、次の四つにまとめられます。

  • カスタマイズ・アドオンの棚卸し
  • 業務カレンダーに沿った移行計画
  • データマイグレーションの工数確保
  • AI活用と暗黙知継承の両立

第一に、適切に棚卸しを行えば、IPAの調査が示すように全カスタマイズの40〜60%は廃止または標準機能への置き換えが可能で、移行の真のスコープを大幅に縮小できます。

次に、業務カレンダーの制約を最優先に、移行計画を設計します。月次決算・年次決算・税務申告の時期を「移行禁止期間」として明示し、カットオーバーのウィンドウを年間スケジュールに事前に確保します。

財務会計モジュールは、必ず期首でのカットオーバーを原則とし、本番データを使ったドライランを3回以上実施して、Go/NoGo基準を経営層と合意したうえで臨みます。

第三に、データマイグレーションに十分な工数を確保します。ERPプロジェクト全体の工期超過の64%はデータ移行の問題に起因するという事実を踏まえ、データプロファイリングと、業務担当者を巻き込んだデータクレンジングを計画に明示して組み込みます。

計画は、マスターデータの名寄せと正規化だけで数週間かかる前提で立てることが現実的です。

第四に、AIツールを活用しながらも、ERPアドオンの暗黙知は人が引き継ぐプロセスを設計します。ビジネスロジック発掘セッションとシャドーイングによるナレッジ移転を計画の一部として明示し、ERPの「神様」に頼り切らない運営を目指します。

SAPアドミンのリスキリングは、技術面のキャッチアップを支援しながら業務知識を新システムに引き継ぐ「ペア開発」で進めるのが最も効果的です。

riplaは、基幹システム・ERPのリアーキテクチャにおいて、カスタマイズ棚卸しから段階的移行設計、データマイグレーション、カットオーバー支援、移行後のガバナンス確立まで一貫してサポートするSIパートナーです。「SAPのECC延長保守終了に向けてS/4HANAへの移行を検討している」方や、「ERPの複雑なカスタマイズを整理して段階的に移行したい」方は、riplaにご相談ください。

さらに、「業務を止めない移行計画の設計から伴走してほしい」方も、ご相談の対象です。貴社の基幹システムの現状と業務要件に合わせた最適なリアーキテクチャ戦略をご提案します。

全体ガイドの記事として、基幹システム/ERPリアーキテクチャの完全ガイドをご覧ください。

会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。