航空宇宙・防衛やエネルギー、建設・エンジニアリングなど、多数の設備や工事案件を抱える企業では、保全記録は現場の台帳、案件ごとの収支はExcel、サービス拠点の技術者派遣は別の予約システムというように、資産・サービス・基幹業務の情報がばらばらに管理されていることが少なくありません。担当者が異動するたびに保全履歴を探し直し、プロジェクト単位の原価が締めのたびに合わなくなるといった悩みも珍しくありません。こうした資産管理・サービス管理・基幹業務の情報を単一のグローバル型クラウド基盤へ統合し、設備集約型・プロジェクト型産業のDXを一体的に進める取り組みが、IFS導入です。
本記事では、IFS導入の基本的な考え方と特徴、IFS Cloudというプラットフォームの仕組み、資産管理・サービス管理・プロジェクト管理という主要機能、対象業種、導入目的、他のERP・EAMシステムとの違いを順に解説します。IFSという名称を初めて知った担当者の方でも、自社の設備集約型・プロジェクト型ビジネスに必要な仕組みかどうかを判断できるよう、実際の業務フローに沿って整理します。
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IFS導入とは何か?全体像と特徴

IFSは、1983年にスウェーデン・リンショーピンの大学出身の学生グループによって設立されたグローバルエンタープライズソフトウェアベンダーです。主力製品「IFS Cloud」は、ERP(基幹業務)・EAM(資産管理)・FSM(フィールドサービス管理)という3領域を単一のプラットフォーム上でネイティブに統合している点が最大の特徴で、この組み合わせを標準搭載するベンダーは他に類を見ないとされています。IFS導入という言葉は、単にソフトウェアを入れ替えることではなく、資産のライフサイクルとサービス提供、基幹業務データを一つの基盤でつなぎ直すプロジェクトを指します。
40年以上の歴史を持つグローバルベンダーです
IFS(旧称Industrial and Financial Systems)は1983年、スウェーデン・リンショーピン大学出身の学生グループによって創業されました。40年以上の歴史を経て、現在では80カ国以上に拠点や従業員を持つ企業へ成長しています。具体的な売上高や従業員数、最新バージョン名などは情報源によって数値が変動するため、本記事では「グローバルに事業展開する」「多数の国・拠点を持つ」といった一般的な表現にとどめます。
ERP・EAM・FSMを単一基盤で統合することが最大の特徴です
多くのERPベンダーは、資産管理やサービス管理を基幹業務とは別のモジュール、あるいは買収した別製品として後付けで提供します。これに対しIFS Cloudは、設計思想の段階からERP・EAM・FSMの3領域を一体化しており、資産のライフサイクル(調達・稼働・保全・更新・廃棄)、サービス提供(技術者の派遣・作業指示・部品在庫)、基幹業務(財務・購買・プロジェクト会計)が同一のデータモデル上でシームレスに連携します。ERPの専門レビューサイトでも、この3領域をワンプラットフォームで提供する点をIFSの独自性として位置づけています。
IFS Cloudの仕組み — ERP・EAM・FSMが連携するデータ構造

IFS導入の仕組みを理解するには、資産・サービス・基幹業務の3つの情報がどうつながるかを押さえることが近道です。IFS Cloudでは、設備や機器といった資産ごとに、調達から保全、更新、廃棄までの履歴が蓄積され、その資産に対して発生したサービス案件・作業指示・部品消費が同じ資産IDにひも付きます。さらに、これらの活動が財務・購買・プロジェクト会計へ自動的に反映されるため、部門ごとに別々のシステムで管理していた情報を、資産という共通軸でたどれるようになります。
資産IDを軸に保全・サービス・会計データをつなぎます
従来の運用では、設備台帳は保全部門、サービス依頼は営業やコールセンター、費用計上は経理がそれぞれ別のシステムやExcelで管理し、同じ資産についての情報が複数箇所に分散しがちです。IFS Cloudでは、一つの資産(設備・車両・プラント設備など)に対して、保全計画、故障履歴、稼働データ、サービス案件、部品の入出庫、関連する会計仕訳までを同じ資産IDの配下に記録します。これにより、ある設備でトラブルが起きた際に、過去の保全履歴や関連コストを同じ画面から確認できるようになります。
調達から廃棄までのライフサイクルを一気通貫で管理します
資産管理の対象は稼働中の設備だけではありません。IFS Cloudでは、資産の調達計画、設置、稼働開始後の計画保全・予知保全、部品交換や修理の履歴、そして更新や廃棄の判断までを一つのライフサイクルとして扱います。エネルギー・公益分野の油田・ガス設備や再生可能エネルギー設備、航空宇宙・防衛分野のMRO(保守・修理・オーバーホール)など、資産の稼働年数が長く、コンプライアンス対応も求められる領域では、ライフサイクル全体を追える基盤の価値が大きくなります。ただし、実際にライフサイクルデータを蓄積できるかどうかは、導入時にどこまでの資産情報を整備し、入力運用を定着させられるかにかかっています。
IFS導入の主要機能 — 資産管理・サービス管理・プロジェクト管理

IFS Cloudの機能は多岐にわたりますが、IFS導入を検討する際にまず押さえておきたいのは、資産管理(EAM)、サービス管理(FSM)、そしてプロジェクトファースト設計という3つの柱です。それぞれが独立した機能ではなく、同じデータモデルの上で連動する点が、他の汎用ERPとの違いになります。自社がどの柱を最優先するかを整理しておくと、導入時の要件定義がしやすくなります。
資産管理(EAM)は保全と予知保全に強みを持ちます
EAM機能では、設備・プラント・インフラといった物理資産のライフサイクル全体を管理します。計画保全のスケジューリング、センサーデータなどを活用した予知保全、故障履歴の蓄積、法規制対応のための点検記録の管理などが含まれます。航空宇宙・防衛分野のMROや、エネルギー・公益分野の設備保全など、資産集約型産業での実績が蓄積されている点が、IFSのEAM機能の特徴とされています。
サービス管理(FSM)は技術者派遣から部品在庫までをつなぎます
FSM機能では、フィールド技術者の派遣・スケジューリング、作業指示の発行、現場での対応記録、部品在庫の連携までを一気通貫で管理します。設備を販売した後の保守サービス事業をアフターサービスとして収益源にしている企業にとって、サービス管理が資産管理・基幹業務と統合されている点は大きな価値になります。技術者が現場で不足部品に気づいた際、在庫確認から発注までを同じ基盤で完結できるかどうかは、実際の運用効率を左右する重要な確認ポイントです。
プロジェクトファースト設計が案件単位の管理を支えます
IFS Cloudは「プロジェクトファースト」の設計思想を持ち、財務・人事・資産管理・購買などのあらゆる機能をプロジェクト単位に紐づけて管理できます。個別受注生産(ETO)やEPC(設計・調達・建設)のように、案件ごとにコスト・進捗・要員配置を管理する必要があるプロジェクト型ビジネスとの親和性が高いとされています。製造業・エンジニアリング・建設業や、複雑なプロジェクト型ビジネスを持つサービス業向けとして、プロジェクト管理・資産管理の強みが評価されている点も、この設計思想を裏づけています。
IFS導入が向く業種と設備集約型産業での役割

IFS Cloudは、あらゆる業種に等しく向くわけではなく、設備集約型・サービス集約型・プロジェクト型といった特定の事業特性を持つ企業に強みを発揮します。対象業種を具体的に把握しておくと、自社にとってIFS導入が有力な選択肢かどうかを判断しやすくなります。
製造業・公益・建設エンジニアリングなどが主な対象業種です
IFSが主要ターゲットとするのは、製造業、公益(ユーティリティ)、建設・エンジニアリング、通信、航空宇宙・防衛、石油・ガス、資源・エネルギーなど、いわゆる「資産集約型」「サービス集約型」「プロジェクト型」産業です。中堅製造業向けの汎用ERPパッケージと比べると、大企業・重工業・インフラ関連企業まで含む、やや上位レンジかつグローバル志向のポジションを取っている点が特徴です。
航空宇宙防衛やエネルギー分野での活用が想定されています
航空宇宙・防衛分野では、MRO(保守・修理・オーバーホール)プロセスの支援と、資産管理・厳格なセキュリティ・コンプライアンス要件への対応の両立が求められます。エネルギー・公益・資源分野では、油田・ガス設備、再生可能エネルギー設備、公益事業設備にわたる資産ライフサイクル管理・予知保全の需要があります。IFSに関する公開情報でも、これらの業種での活用が紹介されており、設備の稼働年数が長く、保全記録の正確性が事業継続に直結する業種との親和性がうかがえます。
導入目的と期待できるメリット

IFS導入の目的は、単に新しいシステムを入れることではなく、資産・サービス・基幹業務が分断されている状態を解消し、設備集約型・プロジェクト型ビジネスの意思決定を早めることにあります。ここでは代表的な2つの目的を取り上げます。
資産・サービス・基幹業務のデータ分断を解消します
資産の保全記録、サービス案件の対応履歴、プロジェクトの原価情報がそれぞれ別のシステムやExcelで管理されていると、担当者は複数の情報源を突き合わせて状況を把握する必要があります。IFS Cloudで資産IDやプロジェクトIDを軸にデータをつなげば、保全担当者、サービス担当者、経理担当者が同じ情報から状況を確認できるようになり、報告資料の作成や原価の突合にかかる時間を減らせます。ただし、これは仕組みを整えることで実現する効果であり、部門をまたいだ入力ルールを決めなければ、統合基盤があってもデータは分断されたままになります。
標準機能への合わせ込み(Fit to Standard)で属人化を防ぎます
グローバルERPの導入効果を引き出す鍵は、自社の業務フローを標準機能にどこまで合わせられるか、いわゆるFit to Standardの検討にあります。独自の保全ルールや承認フローをすべてカスタマイズで再現しようとすると、標準化のメリットが薄れ、法改正のたびに自社側で改修費用が発生し続けるリスクが高まります。標準機能で対応できる範囲と、自社が譲れない独自要件を切り分けたうえで導入範囲を決めることが、属人化した保全・サービス管理からの脱却につながります。
他のERP・EAMシステムとの違い

IFS Cloudは、汎用的な基幹業務パッケージや、資産管理・サービス管理に特化した単機能製品と機能が重なる部分があります。ただし、それぞれの得意領域は異なるため、既存システムをすべて置き換えるのではなく、どこまでをIFSが担い、どこから既存システムと連携するかを整理することが重要です。
中堅製造業向け汎用ERPとは対象規模と強みが異なります
中堅製造業向けの汎用ERPパッケージは、生産管理や部品表(BOM)管理、原価管理といった製造業務の効率化に強みを持つ製品が中心です。これに対しIFS Cloudは、資産管理・サービス管理・プロジェクト管理を軸に、大企業・重工業・インフラ関連企業まで含むグローバル展開を前提としたポジションを取ります。自社が中堅製造業の生産管理最適化を主目的とするのか、資産集約型・プロジェクト型のグローバル事業管理を主目的とするのかによって、優先すべき製品カテゴリが変わります。
単機能のEAM・FSM専用製品とはデータ連携の深さが異なります
資産管理やフィールドサービス管理に特化した単機能製品は、その領域の機能の作り込みで強みを発揮することがあります。一方でIFS Cloudは、これらの機能を基幹業務データと同一プラットフォーム上で統合している点が違いです。単機能製品を組み合わせる構成では、資産情報と会計情報を連携させるためのAPI開発や定期的なデータ同期が別途必要になりますが、IFS Cloudではその連携部分が標準機能に含まれる範囲が広くなります。ただし、連携範囲や実装方法は契約するモジュールや導入パートナーによって異なるため、具体的な連携仕様はデモや提案時に確認する必要があります。詳しい評価軸はIFS導入の選定ポイントと選び方で解説しています。
IFS導入を検討する前に確認しておきたいポイント

IFS導入を検討するかどうかは、企業規模だけで決まるものではありません。既存システムとの役割分担、資産データの整備状況、グローバル展開の有無まで含めて整理することで、導入後の二重管理や定着不足を防げます。
中堅規模でも資産集約型・プロジェクト型であれば検討価値があります
IFSは大企業・重工業・インフラ関連企業を主なターゲットとしますが、中堅規模であっても、資産集約型の事業を営み、複数拠点・複数プロジェクトの管理が課題になっている企業では検討する価値があります。一方、単一拠点で資産点数が少なく、既存の会計・保全ツールで無理なく管理できているなら、システムを複雑にしてまで導入する必要はありません。
既存の会計・保全システムとの役割分担を決めます
IFS Cloudを導入しても、既存の会計システムや保全システムをすべて廃止する必要があるとは限りません。どのデータをIFS側で正本として管理し、どの範囲を既存システムに残して連携するかを、導入前に整理しておくことが重要です。役割分担が曖昧なまま導入を進めると、同じ情報を二重に入力する運用が残ってしまいます。
複数拠点・多言語多通貨対応の必要性を確認します
複数の国・拠点で事業を展開している企業では、拠点ごとの言語・通貨・法制度への対応が導入範囲を左右します。IFS Cloudはグローバル対応・多言語多通貨対応を標準機能として持つとされており、拠点展開時のテンプレート再利用がしやすい点は訴求ポイントになり得ます。ただし、実際にどこまでの拠点差異を標準機能で吸収できるかは、対象国・対象拠点を明示したうえでベンダーやパートナーに確認する必要があります。
まとめ

IFS導入とは、資産管理(EAM)・サービス管理(FSM)・基幹業務(ERP)を単一のグローバル型クラウド基盤へ統合し、設備集約型・サービス集約型・プロジェクト型産業のDXを一体的に進める取り組みです。1983年創業のIFSは、この3領域をネイティブに統合したプラットフォームを強みとし、航空宇宙・防衛、エネルギー・公益、建設・エンジニアリングなどの業種で実績を蓄積しています。
IFS Cloudは資産・サービス・プロジェクトをつなぐ基盤です
資産のライフサイクル、サービス案件の対応履歴、プロジェクトの原価情報が同じデータモデル上でつながることで、部門をまたいだ情報把握と、法改正・拠点展開への継続的な対応がしやすくなります。ただし、システムを導入するだけで効果が生まれるわけではなく、自社の業務フローをどこまで標準機能に合わせるか、既存システムとの役割分担をどう設計するかが、導入効果を左右します。
現状の資産管理・サービス管理の課題を可視化することから始めます
まずは、現在どこで資産情報が分断され、誰にどの確認工数が集中しているかを整理してください。資産管理の強化、サービス事業の効率化、プロジェクト単位の原価管理など、優先する目的が明確になれば、自社に必要な機能と導入範囲を具体化できます。グローバルERPパッケージで標準化する方法に加え、自社独自の保全ルールや基幹システムとの深い連携が必要な場合は、個別開発やハイブリッド構成も選択肢になります。riplaはフルスクラッチ開発の立場から、既製パッケージでは吸収しきれない業務要件の整理や、既存システムとの連携を含む構築を支援しています。
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・IFS導入の完全ガイド
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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
