在庫管理システム刷新の選定ポイント/選び方/種類

在庫管理システム刷新の選定は、自社の課題を明確にし、クラウド型・パッケージ型・フルスクラッチ・セミスクラッチ型などの方式を共通の評価軸で比べるところから始まります。

部門ごとに重視する点は違うため、合意形成も欠かせません。全体ガイドは、以下の記事をご覧ください。

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・在庫管理システム刷新の完全ガイド

在庫管理システム刷新の検討前に整理すべき自社の課題

発注側の担当者は、過剰在庫・欠品のコスト、老朽システムの維持費、法改正への対応遅れを並べ、最も大きい課題を特定します。課題を一文で説明できれば、比較すべき方法と、自社に不要な機能が見えてきます。

過剰在庫・欠品のコストの金額把握

社内の担当者は、直近1年程度のデータから、過剰在庫の比率、欠品による販売機会の損失、記録ミスによる廃棄や緊急調達の頻度を調べます。そのうえで、在庫金額と発注実績から損失額を試算しておくと、評価軸の重み付けに使えます。

また、部門ごとの受け止め方も記録しておきます。物流現場は欠品による作業の混乱を、経理部門は廃棄や緊急調達による支出を重視する場合があります。その違いを並べて見ておくと、合意形成で何を説明すべきかが見えてきます。

老朽システムの維持コストと法令対応の遅れの切り分け

保守費用やハードウェア更新費用の増加は、TCOの課題です。一方で、2026年4月施行の改正物流効率化法が求める荷待ち・荷役時間の計測や定期報告に対応できていないことは、法令対応の課題です。必要な機能が異なるため、両者は分けて整理します。

課題が誰にとって切実かも、あわせて確かめておきます。TCOが中心なら情報システム部門や経理部門が、法令対応なら経営企画や法務も交えて選定を進めると、課題に合った体制を組めます。

ポイント

課題を一文で説明できるかが、比べる方式と不要な機能を決める目安になります。損失額の試算と、TCOと法令対応の切り分けを合わせ、どの課題が最も大きいかで判断します。

在庫管理システム刷新の主なアプローチと種類

在庫管理システム刷新の主なアプローチを4つのパネルで整理した図。
標準機能と独自業務の範囲から方式を見比べられます。

刷新の方法は、大きく分けるとクラウド型(SaaS)、パッケージ導入、フルスクラッチ/セミスクラッチ型があります。また、共通業務はクラウドに任せ、独自業務だけを個別開発する組み合わせもあります。

クラウド型とパッケージ型の向き・不向き

クラウド型は、初期費用を抑えて短期間で始めやすく、法改正への追随もベンダーの更新で受けられます。ただし従量課金があるため、5年から7年以上使う場合は、オンプレミス型とのTCOを比べておきます。

パッケージ型は自社サーバーへの導入も含み、独自のセキュリティ基準や閉域網に対応しやすい方法です。その反面、保守・監視・バージョンアップの体制を自社で維持する負担があります。

フルスクラッチ・セミスクラッチ型が向くケース

フルスクラッチ型かセミスクラッチ型かは、独自の物流プロセスの有無、事業の規模、初期費用の見込みから検討します。

  • フルスクラッチ型が向く場面:独自の物流プロセスが競争優位性の源泉である場合。
  • フルスクラッチ型の対象規模:年商500億円以上、3万SKU以上、日次出荷1,000件以上。基幹システムとのリアルタイム統合が必要な場合も対象です。
  • フルスクラッチ型の初期費用:数千万円から1億円規模です。
  • セミスクラッチ型:標準機能を基本に、独自要件だけをローコードなどで補う方式で、初期費用は700万~1,500万円程度の中間案です。

一方で、パッケージを過度にカスタマイズすると、新たなレガシー化につながります。特に、カスタマイズの比率が全体の7割を超えると、費用効率が悪化し、自動更新の恩恵を受けにくくなる例もあります。

発注側は、保守費の増加やベンダーロックインも含め、要件が膨らんでフルスクラッチ並みの費用にならないかを、早い段階で確かめます。そのうえで、具体的な候補は在庫管理システム刷新のパッケージ・クラウド製品一覧で比べられます。

ポイント

方式は、標準機能で足りる業務の範囲と、独自の物流プロセスの重さで選ぶのが目安です。長期利用ならクラウド型とオンプレミス型のTCOを比べ、独自要件を補うだけならセミスクラッチ型が中間案になります。

アプローチ・製品を比較するときの評価軸

在庫管理システム製品を比べる5つの評価軸をハブ図で示した図。
各軸の確認結果を同じ条件で並べると比較しやすくなります。

候補は、機能適合度や連携・移行性、TCOなど5つの観点で比べます。営業資料の印象に左右されないよう、各項目を確かめた方法も記録しておきます。

機能適合度・連携・セキュリティの確認

機能と連携は、実際の業務に沿って確かめます。

  • 標準機能:入荷から棚卸までの対応範囲と、追加開発が必要になる境界。
  • 外部連携:基幹システム、ECカート、配送システム、マテハン機器とのデータの同期方向。
  • 運用・権限:エラー時の復旧方法と、クラウドでのデータ分離・アクセス制御。

TCO・サポート体制・移行性の確認

TCOには、初期費用と月額費用に加えて、移行と教育、問い合わせ対応、法改正時の設定更新にかかる社内工数を含めます。また、契約前には、サポート範囲、障害時の復旧体制、在庫データや履歴の取り出し範囲を確かめます。

「サポート充実」という表現では、メール対応だけなのか、電話や導入支援もあるのかが分かりにくいです。そこで、復旧時間と、その間の出荷業務の代替方法を、各社に同じ条件で質問し、回答を比較表に残します。

ポイント

判断に迷ったときは、営業資料の印象より、各項目を確かめた結果で比べます。確かめた方法も残しておくと、比較表の根拠になります。

経営層への説明に使えるROIの考え方

経営層へは、機能の優劣に加えて、投資回収の見通しを示します。部門ごとに重視する指標を分けておくと、合意形成にも使えます。

アプローチ別の投資回収期間の目安

投資回収期間の目安は、クラウド型で1~3年、パッケージ型で3~5年、フルスクラッチ型で5年以上です。発注側は、この目安を自社の在庫削減効果や人件費削減効果の試算と照らし合わせ、投資体力に合うかを判断します。

部門ごとに響く削減指標

物流部門には、倉庫作業で1名分の工数削減が年間約400万円、8名分なら約3,200万円という試算を示せます。また、経理部門には「(純削減効果-導入コスト)÷導入コスト×100」のROIを、情報システム部門には連携費用と運用工数を含むTCOを示します。

各方式の試算は、同じ条件で横並びにします。そのうえで、クラウド型では長期の従量課金の増加を、フルスクラッチ型では大きな初期投資と長期の運用費用を織り込みます。

部門間の合意形成を進める考え方

選定後の手戻りを防ぐため、評価軸を揃えたうえで、部門間で意見が分かれやすい論点を先に洗い出します。

現場・経理・IT部門で対立しやすい論点

物流現場は既存フローを守るためカスタマイズを求める一方で、経営や経理は標準機能の活用とBPRを求める場合があります。

さらに、経理はクラウドの初期費用を評価し、情報システム部門は長期の従量課金によるTCOの増加を懸念します。また、外部システムとの連携では、現場の要望と、マルチテナント環境でのセキュリティを重視する情報システム部門の見方が異なります。

意見が分かれるのは、各部門が見ている評価軸が違うためです。現場は業務の継続性、経理は費用対効果、情報システム部門はリスクとTCOを重視します。それぞれの根拠は、比較表に残しておきます。

対立を防ぐための進め方

経営層に加えて物流現場のリーダーにも、早い段階からデモの実地検証に参加してもらいます。カスタマイズの要望が出たときは、業務上不可欠か、標準機能に合わせて運用を変えられるかを、要望部門と検討します。

ポイント

部門の意見が割れたときは、どの評価軸で見ているかを確かめると、論点の食い違いを整理できます。根拠を比較表に残しておけば、選定後の手戻りを防げます。

比較表・RFPとPoCの進め方

比較表とRFPによる要件整理からPoCのGo/No-Go判断までを4段階で示した図。
実案件に近い検証結果が最後の判断材料につながります。

資料で2~3候補に絞ったら、実際の業務シナリオに沿ってデモやPoCを行い、自社の運用に近い条件で最終判断します。

比較表・RFPに明記する必須要件と非機能要件

比較表やRFPには、拠点数、品目数、日次出荷件数といった規模の情報を書きます。あわせて、現行フローと解決したい課題も記します。要件は「必須」「望ましい」「将来」に分けておくと、候補を狭めすぎずに済みます。

権限と操作ログ、バックアップ、障害時対応は、非機能要件として確かめます。加えて、データ保管場所とエクスポート形式を、非機能要件に含めて確かめます。

入荷から出荷・棚卸まで1案件を通すPoC

PoCでは、実際の商品と倉庫を使い、1案件を入荷から棚卸まで通します。保管、ピッキング、出荷の各工程も、この流れに含めます。そのうえで、欠品時の代替対応や在庫差異の修正も試し、現場の運用負荷を比べます。

Go/No-Goの判断では、旧システムと同等以上の速度で業務が回ることと、想定期間内にROIが100%を超える見込みがあることを、基準にします。

PoCの前に、在庫確認時間、欠品対応時間、棚卸工数を記録しておきます。実施後の値と比べることで、自社の実測値から効果を確かめられます。その結果は、全社展開の判断にも使えます。

ポイント

RFPは必須と望ましいを分けて書き、PoCでは入荷から棚卸まで1案件を通して、旧システム並みの速度か、想定期間内のROIが見込めるかで判断します。

在庫管理システム刷新導入前に確認しておきたいポイント

規模にかかわらず、発注側は、選定手順、料金条件、データ移行の範囲を確認しておきます。

小規模な拠点での選定プロセス

拠点や品目が少なくても、課題診断と評価軸の比較は省かずに行います。PoCの対象を絞り、期間を短くすれば、手順を保ったまま進められます。

公開情報だけに頼らない料金比較

クラウド製品は、管理者数、登録品目数、出荷件数など、課金の単位が製品ごとに異なります。そのため、発注側は現在と1年後・3年後の想定規模を示し、各社に同じ条件で見積もってもらいます。見積もりでは、初期費用と最低利用期間、連携費用、従量課金の境界を含めます。

非公開の料金は、推測で比較表に書き込まず、見積もりで確かめます。

移行性・データ持ち出し条件の確認

将来の乗り換えを見据えて、契約終了時に在庫データや取引履歴をどの形式で受け取れるかを確認します。特に、クラウド型では、解約時のデータ返却や削除の条件が契約書にあるかも確かめます。

初期移行では、マスタデータだけを移すのか、過去の取引履歴まで支援を受けられるのかを、見積もり段階で確認します。自社側のデータクレンジング作業も見積もっておくと、導入日程を立てやすくなります。

まとめ

自社の課題を特定したうえで、クラウド型・パッケージ型・フルスクラッチ/セミスクラッチ型のどれが合うかを決めます。候補は、機能、連携・移行性、TCO、セキュリティ、サポートの5つの観点で比べます。

部門間の論点は早い段階で揃え、実案件に近いPoCで最終判断します。

課題診断からPoCまでの一貫した手順

まず課題を特定し、方式を選びます。次に評価軸で比べ、部門間の合意を取ったうえで、PoCまで順に進めます。判断の記録を共有しておくと、導入後の認識違いを減らせます。

既製品で対応しきれない要件と個別開発の選択肢

標準機能で対応できる業務が中心なら、SaaSを中心に検討できます。一方で、独自の物流プロセスや基幹システムとの深い連携が必要なら、既製品では要件を満たせない場合があり、個別開発も選択肢に入ります。

riplaは、不足機能の整理や、既存システムと連携するフルスクラッチ開発を支援しています。

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会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。