レガシーシステムのモダナイゼーションの選定ポイント/選び方/種類

モダナイゼーションの選定は、自社の課題と依存関係を把握したうえで、進め方・期間・費用を同じ前提で比べ、PoCで技術と合意形成を確かめる順で進めます。

比べる観点は、属人化や保守性などの課題を起点にした移行方式、スケジュール、ランニングコストです。経営層への投資説明も計画に含めます。

▼全体ガイドの記事
・レガシーシステムのモダナイゼーションの完全ガイド

選定前に整理すべき自社の課題

自社の課題を属人化、ドキュメント、保守性、インフラの4観点に分けた図
4領域を同じ粒度で並べると、課題の偏りを見比べやすくなります。

選定の前に、属人化、ドキュメント、保守性、インフラの4観点から自社の課題を洗い出しておくことが大切です。課題がどの場所にあるかによって、優先する評価軸もアプローチも変わるためです。

レガシー化セルフチェック結果の選定への活用

課題が集中する領域によって、選ぶべきアプローチは変わります。たとえば、属人化や文書管理が課題であれば、まず現状把握に時間をかけることになります。一方で、保守性やインフラが中心であれば、早い段階で移行方式を比べられます。

課題が複数の領域にまたがる場合、一部だけに対策を打っても効果は限られます。そこで、初期段階で対象範囲を広めに定めておくと、後の手戻りを防ぎやすくなります。

現状アセスメントによる検討範囲の絞り込み

課題の所在を大まかにつかんだら、次に現状アセスメントを行います。現状のシステム資産、依存関係、ドキュメントと実態のずれを可視化し、検討する範囲を絞り込むためです。

アセスメントを飛ばして手法や製品の比較に進むと、後から想定していなかった依存関係が見つかり、選定基準そのものを見直す事態になりかねません。

また、アセスメントの結果は、次章以降で解説する期間・コストの評価軸を検討するときの土台にもなります。だからこそ、現状把握の精度が低いままでは、どれほど精緻な比較表を作っても、実態とかけ離れた見積もりになりやすい点に注意が必要です。

ポイント

自社の課題がどの領域に集中しているかで、優先する評価軸とアプローチが変わります。課題の所在をつかみ、依存関係を確かめてから、検討する範囲を広めに定めるのが判断の目安です。

モダナイゼーションのアプローチの種類とその選び分け

ビッグバン方式の一括切り替えと、インクリメンタル方式の機能や部門ごとの段階移行を比べた図
切り替えを一度に行うか、機能や部門ごとに分けるかが選択の軸です。

選定の判断に直結するのは、進め方の方式と実装アプローチの方式という2つの観点です。個別の技術手法の詳細な比較は、他の技術解説に譲ります。

インクリメンタル方式とビッグバン方式の違い

ビッグバン方式は、旧システムから新システムへ一括で切り替える方式です。移行期間は短く見積もれる一方で、切り替え当日に問題が起きると影響が広がります。インクリメンタル方式は、機能や部門ごとに段階的に移行します。新旧システムを並行稼働させられるため、影響を把握しにくい案件に適しています。

どちらの方式を選ぶにしても、業務が止められない期間や繁忙期を避けたスケジュールを組み、切り戻し手順を用意しておくことが欠かせません。そのうえで、自社の業務カレンダーと照らし合わせて、現実的な移行方式を検討します。

自動変換ツール活用とフルスクラッチ開発の違い

実装方式は、自動変換ツール、パッケージやSaaS、フルスクラッチの3つに大別できます。フルスクラッチは案件によって、期間が12〜30ヶ月、費用が3,000万円から2億円程度になります。さらに、要件を掘り下げると総費用が当初見積もりの1.3〜1.5倍になる場合もあります。

自動変換ツールは、既存ロジックを短期間で移せる可能性があります。ただし、変換後の保守性と、新旧システムの機能等価性を検証できるかが評価点です。そのうえで、自社の業務がSaaSで代替できるか、競争力を左右するコア領域かを見極めます。

ポイント

進め方の方式と実装アプローチの方式を分けて比べると、判断の材料が整理しやすくなります。影響範囲が読みにくい案件では、新旧の並行稼働を含む段階移行が候補になります。

期間・スケジュールの評価軸|レガシー案件で納期が読みにくい理由

提案会社によって期間の見積もりが大きくばらつくのは、レガシー案件に特有の事情があるためです。納期が読みにくくなる根本原因と、遅延を避けるための考え方を押さえておくと、提案を比べるときに役立ちます。

現状アセスメントの精度が期間を左右する理由

現状アセスメントは一般に2〜3ヶ月程度ですが、長期化することもあります。ブラックボックス化した依存関係の可視化に時間がかかり、有識者の退職などでヒアリングできない場合もあるためです。

期間を比べる際は、進め方と対象者の確保状況を確認します。提案会社によって前提となるアセスメントの深さが異なると、見積期間を単純に比べても意味がありません。そのため、同じ精度のアセスメントを前提にしているかを確かめたうえで、期間の妥当性を判断する必要があります。

納期遅延の要因となるビッグバン方式

全機能を一括で切り替えるビッグバン方式は、遅延の要因の一つです。実際に、ある製薬企業はトランシェ方式で約12ヶ月かけて移行しました。一方で、ある製鉄会社はCOBOL資産を自動変換し、段階検証を重ねて4年半を要しました。同じ手段でも、進め方によって期間は変わります。

インクリメンタル方式による段階移行や、新旧システムの並行稼働による検証は、期間そのものは長く見えても、手戻りによる遅延を抑えられる可能性が高い進め方です。提案を比べる際は、遅延時のリカバリー方法まで含めて確認することをおすすめします。

ポイント

期間は、現状アセスメントの深さと移行の進め方で大きく変わるため、同じ前提にそろえて比べます。遅延を抑えるには、遅延時のリカバリー方法まで提案に含まれているかを確かめます。

保守運用費用・ランニングコストの評価軸|放置コストの増大メカニズム

移行にかかる初期費用だけでなく、放置した場合に増え続けるコストと、移行後に見込める削減効果もあわせて評価します。この比較が、選定の重要な観点になります。

技術的負債の「利子」のように膨らむ放置コスト

ブラックボックス化が進むと、変更時の検証範囲を読み切れず、改修費が増えます。また、属人化やベンダーロックインは保守費を押し上げます。

老朽化した機器では障害が起きやすく、復旧が長引くほど、緊急対応費や機会損失も膨らみます。IT予算の9割以上を維持費に充てる企業もあります。

放置コストは、目に見える保守費用の増加だけでなく、障害対応にかかる人件費や機会損失といった見えにくい形でも積み上がります。そのため、評価軸に取り上げる際は、現在の保守費用に加えて、直近の障害対応にかかった工数もあわせて算出すると、実態に近い比較ができます。

移行後の運用コスト削減効果の評価軸への追加

マネージド型データベースやサーバーレス基盤では、運用費を60〜90%削減できる例があります。また、電子部品メーカーでは、メインフレームからクラウドへ段階移行し、約50%削減しました。

卸売企業では、独自システムからSaaSへ切り替えて、年間400万円を削減しました。いずれも個別の事例であり、同じ効果が出るとは限りません。

比較表に削減効果を加える際は、提示された一般的な削減率をそのまま使わず、自社の現行費用を基に、契約条件と利用規模に照らして試算します。

経営層向けROI説明・稟議の通し方

現場では必要性を感じていても、経営層への説明で稟議が通らず、選定プロセスがそこで止まってしまうことは少なくありません。投資判断を得るためには、説明の組み立て方を押さえておくと役立ちます。

ポートフォリオ管理による投資領域の切り分け

すべてのシステムを同じように説明すると、経営層に要点が伝わりにくくなります。そのため、ビジネス価値と改修難易度の二つの観点でシステムを整理します。

経営層には、SaaS移行や廃止を優先する領域と、競争力に直結するため再構築へ投資する領域を分けて示します。

コスト削減領域で浮いた予算をコア領域の再構築に充てる流れも添えます。そうすると、単なる支出増ではなく、投資の再配分として説明できます。

定量KPIとスモールスタートによる合意形成

運用費を20〜40%削減する試算などをもとに、保守費や障害対応時間のKPIを定めます。数値があると、投資判断の材料として示せます。

影響範囲を限定して始め、早い段階から現場と連携すると、反対を抑えやすくなります。さらに、放置による経済的リスクやサプライチェーンへの影響も説明に含めると、IT部門の要望にとどまらず、経営課題として位置づけられます。

ポイント

経営層への説明は、システムを投資領域ごとに切り分け、定量KPIを示すと進めやすくなります。放置リスクや経営課題としての位置づけも、あわせて示します。

PoC・プロトタイプ開発の進め方|技術検証と合意形成の両立

PoCで確認する変換率と機能等価性、現場との対話、投資対効果の可視化を4枚のパネルに分けた図
技術の検証に加えて、現場との対話や投資判断の材料も扱います。

PoCは技術的に動くかを確かめる工程と捉えられがちです。ただし、レガシー案件では、意思決定を前に進めるための合意形成の手段としての役割も、同じくらい重要になります。

現場の抵抗感払拭と経営層の合意形成に向けたPoC活用

長年同じやり方に慣れた現場担当者にとって、システムが変わることは業務の混乱につながる不安要素です。そのため、現場の担当者と対話しながら、実際にプロトタイプを操作してもらうと、「今のやり方を変えたくない」という抵抗感を段階的に和らげられます。

経営層に対しては、全体刷新を一度に提案するより、小規模なプロジェクトで短期的な成果を実証し、投資対効果を可視化する進め方が有効です。初期段階での小さな成功体験は、その後の投資判断を後押しする推進力になります。

自動変換ツールの技術検証と機能等価性の確認

技術検証としてのPoCでは、自動変換ツールを使う場合に、変換率、変換後コードの正確性、パフォーマンスを確かめます。

あわせて、同じ入力に対して新旧システムが同じ結果を返すかを確かめる機能等価性の検証、いわゆる回帰検証を、どこまで自動化できるかが最大のハードルになります。

回帰検証の範囲を狭く見積もると、本番移行後に想定外の差異が見つかるリスクが残ります。そのため、PoCの段階で検証範囲の広さと精度を見極め、提案会社ごとの検証方針を比べておく必要があります。

ポイント

PoCは、技術の動作を確かめる工程であると同時に、現場や経営層との合意形成を進める場です。技術面では変換率と機能等価性、合意の面では小さな成果が示せるかを確かめます。

導入前に確認しておきたいポイント

最終的に意思決定する前には、2つの観点を確かめておく必要があります。ひとつは、フルスクラッチによる再構築が本当に必要かという判断です。もうひとつは、実際に依頼するベンダーの体制です。

フルスクラッチを先送りすべきでない境界線

フルスクラッチを先送りすべきかは、業務の独自性、データ構造、既存システムによる制約から判断します。次の状態が重なる場合は、再構築を含む選択肢を早めに検討します。

  • 業務の独自性:自社の強みを担い、標準的なSaaSでは代替できない。
  • データ構造の複雑化:継ぎ足しを重ねた結果、言語の置き換えだけでは改善しない。
  • 変化への制約:既存システムが新商品や新業務への対応を妨げている。

該当する課題を放置すると、EOLや技術者の離脱に伴うリスクが時間とともに増えます。そのため、再構築の投資額より、先送りによる機会損失やリスクのほうが大きくなる場合もあります。

ベンダー・体制面で確認しておくべきポイント

金額だけでなく、要件を掘り下げた後に総費用が1.3〜1.5倍になる可能性を、見積もりに含んでいるかを確かめます。あわせて、契約形態が準委任か請負かも比べます。

レガシー技術に詳しい要員の配置や、類似業種での実績も確かめておくと、着手後の認識違いを防ぎやすくなります。

業界特有の規制や商習慣を踏まえた移行計画も、判断材料になります。候補製品は、レガシーシステムのモダナイゼーションのパッケージ・クラウド製品一覧で、共通の評価軸から比べられます。

まとめ

選定は、自社の課題を診断するところから始めます。そのうえで、進め方を決め、期間と費用を比べます。経営層への説明を整えたうえで、PoCにより技術と合意形成を確かめ、意思決定へ進みます。

課題診断から評価軸の比較、PoCまでの段階的な進め方

製品情報を集めるより先に、課題診断とアセスメントを行います。期間と費用を比べたあとに、PoCで技術面と関係者の合意を確かめると、選定を進めやすくなります。

具体的な候補の比較

自動変換ツールや周辺サービスの候補は、次の製品一覧で比べられます。

SaaSや自動変換ツールでは対応できない独自業務や基幹連携については、riplaが要件整理、アセスメント、既存システムとの連携を含む構築を支援します。

▼全体ガイドの記事
・レガシーシステムのモダナイゼーションの完全ガイド

会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

もし、システム開発やプロダクト開発に関するご要望がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

・サービス概要資料のURLはこちら >>>
・お問合せページのURLはこちら >>>
・お役立ち資料のURLはこちら >>>

執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。