新規事業コンサルのフルスクラッチ・オーダーメイド開発について

「新規事業コンサルに依頼する際、既存のフレームワークをそのまま当てはめるパッケージ型のコンサルティングと、自社専用にゼロから戦略を組み立てるオーダーメイド型のコンサルティングのどちらを選ぶべきか」という相談を、業種を問わず新規事業の担当者からよくいただきます。新規事業コンサルにおける「フルスクラッチ・オーダーメイド」は、ITシステムの受託開発方式のことではなく、事業戦略・事業計画策定そのものを、既存の診断ツールやテンプレートを活用して標準化して進めるか、企業固有の強み・データ・顧客基盤を前提にゼロベースで作り込むかという、コンサルティングの進め方そのものの選択を指します。この選択は契約金額の大小だけでなく、プロジェクトの進め方や成果物の性質、さらにはプロジェクト終了後に自社にどのようなノウハウが残るかにも大きく影響するため、単なる見積もり比較では判断できない奥深いテーマです。どちらが優れているというものではなく、事業の性質と自社が置かれた状況によって最適な選択は変わります。この選択を誤ると、スピード重視で決着させるべき事業計画に必要以上の時間とコストをかけてしまったり、逆に本来は自社独自の深い作り込みが必要な事業に画一的なフレームワークを当てはめてしまい、他社と差別化できない中途半端な戦略に終始してしまったりするリスクがあります。

本記事では、新規事業コンサルにおけるパッケージ型アプローチとオーダーメイド型アプローチのそれぞれのメリット・デメリット、向いている企業、費用感の違い、そしてどちらを選ぶべきかの判断軸までを体系的に解説します。なお、本記事で扱う「フルスクラッチ・オーダーメイド」は、ITプロダクトを軸に新規事業を創出する「IT新規事業開発」やプロダクト開発カテゴリの各記事で扱う、システムを一から独自に構築する「フルスクラッチ開発」とは異なる概念です。事業戦略の策定を、型に沿って進めるべきか、自社独自に組み立てるべきかで悩んでいる経営企画・事業開発部門の方にとって、実践的な判断軸が身に付く内容です。特に複数のコンサルティング会社から提案を受け、金額も進め方も大きく異なる見積もりを前にして、どう比較・評価すればよいか迷っている方にとっても、判断の拠り所となる考え方を提供します。

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新規事業コンサルにおけるフルスクラッチ・オーダーメイドとは何か

新規事業コンサルにおけるフルスクラッチ・オーダーメイドとは何か

新規事業コンサルにおける「フルスクラッチ・オーダーメイド」を正しく理解するには、まずこの言葉が何を指しているのかを明確にしておく必要があります。事業戦略の策定を支援するコンサルティングには、あらかじめ確立されたフレームワークや診断ツールに沿って進める「パッケージ型」と、企業固有の状況を前提にゼロから戦略を組み立てる「オーダーメイド型」という2つの大きな進め方があります。この選択は、システムをパッケージソフトで導入するか、フルスクラッチで独自開発するかという意思決定と構造的によく似ているため、システム開発の文脈で語られる「標準化 対 カスタマイズ」の考え方を、事業戦略策定という上流の意思決定に類推適用すると理解しやすくなります。もっとも、システム開発における標準化とカスタマイズの選択が主に機能要件の充足度で判断されるのに対し、事業戦略における選択は「どこまで他社と同じ土俵で戦うか」「どこから自社独自の勝ち筋で戦うか」という競争戦略上の判断が中心になる点で、単純に同一視できない側面もあります。

パッケージ型とオーダーメイド型という2つのアプローチ

パッケージ型アプローチは、業種や事業フェーズを問わず適用できる汎用的なフレームワーク(3C分析、SWOT分析、ビジネスモデルキャンバスなど)や、コンサルティング会社が独自に体系化した診断ツールを活用し、既にあるベストプラクティスに自社の事業を当てはめていく進め方です。一方のオーダーメイド型アプローチは、既存の型を前提にせず、企業固有のデータ・顧客基盤・技術資産・組織文化といった要素をゼロから深く分析し、他社には模倣できない独自のビジネスモデルを一から作り込んでいく進め方です。どちらも「事業計画書」や「市場調査レポート」といった最終的な成果物の形式は似通っていますが、その中身に至るまでのプロセスと、結果として生まれる戦略の独自性の度合いが大きく異なります。この2つのアプローチの違いを事前に理解しておかないと、コンサルティング会社を選定する段階で、単純な金額の比較だけで発注先を決めてしまい、後になって「思っていたよりも一般的な内容だった」あるいは「想定以上に時間と費用がかかった」といったミスマッチが起こりやすくなります。

IT開発の「フルスクラッチ」との違い

混同しやすいのが、IT新規事業開発やプロダクト開発カテゴリの記事で扱う、システムを一から独自に構築する「フルスクラッチ開発」との違いです。ITの世界におけるフルスクラッチ開発は、既存のパッケージソフトやSaaSでは実現できない独自の機能要件を満たすために、ゼロからプログラムを書き上げてシステムを構築することを指し、開発工数やエンジニアの人件費が費用の中心を占めます。これに対して新規事業コンサルにおけるオーダーメイド型アプローチは、システムのコードを書くわけではなく、事業戦略そのものをゼロベースで練り上げる知的作業であり、費用の中心はコンサルタントの稼働時間と専門知見です。両者は「ゼロから作り込む」という発想は共通していますが、対象がシステムなのか事業戦略なのかという点で本質的に異なるサービスであり、担当する専門家も、エンジニアなのか、事業開発の実務経験を持つコンサルタントなのかという点で大きく異なります。この違いを理解しないまま「フルスクラッチ」という言葉のイメージだけでコンサルティング会社に依頼してしまうと、期待していた成果物と実際に提供されるものにギャップが生じることがあるため注意が必要です。特に、システム開発の発注経験が豊富な企業ほど「フルスクラッチ=高額だが自由度が高い開発方式」というイメージを事業戦略の文脈にもそのまま持ち込みがちですが、事業戦略のオーダーメイド型はコードを書く作業ではなく、市場調査・顧客インタビュー・財務モデリングといった知的作業の積み重ねであるという前提を、依頼前に社内で共有しておくことが、認識のズレを防ぐうえで欠かせません。

パッケージ型アプローチのメリット・デメリット

パッケージ型アプローチのメリット・デメリット

既存フレームワーク・診断ツールを活用するパッケージ型アプローチについて、具体的なメリット・デメリットと向いている企業像を見ていきましょう。

メリットと向いている企業

パッケージ型アプローチの最大のメリットは、ゼロから戦略を考える必要がないため、短期間かつ低コストで事業計画を策定できる点にあります。すでに確立されたフレームワークに沿って検討を進めるため、専門的なノウハウが自社に十分蓄積されていなくても、抜け漏れのない標準的な戦略を構築しやすいという利点もあります。市場調査の項目や事業計画書のフォーマットが最初から用意されているため、コンサルタント側の作業も効率化され、結果として費用を抑えられる点も見逃せません。また、標準化されたフレームワークを使うことで、経営会議など社内の意思決定の場でも「よく知られた型に沿って検討されている」という安心感を関係者に与えやすく、合意形成のスピードが上がりやすいという副次的な利点もあります。このアプローチが向いているのは、新規事業開発のノウハウが社内にまったく蓄積されておらず、まずは「基本の型」を学びながら手早く事業計画を形にしたい企業です。また、スピードを重視して事業を立ち上げたい企業や、既存市場への参入であって必ずしも大胆な差別化が必須ではない事業を検討している企業にも適しています。

デメリットと費用感

一方でパッケージ型アプローチには明確なデメリットもあります。フレームワークの枠に自社の事業を当てはめる形になるため、独自のカスタマイズには限界があり、他社との明確な差別化を図るのが難しくなる点です。競合他社も同じようなフレームワークを使って事業戦略を検討している場合、似たような発想の事業計画に行き着いてしまい、市場での競合優位性を築きにくいというリスクがあります。特に、コンサルティング会社が複数のクライアントに同じ診断ツールを繰り返し提供しているようなケースでは、業界内で似たような事業計画が量産され、結果として差別化が難しい同質的な市場が形成されてしまう懸念もある点には留意が必要です。費用感としては、比較的安価な数百万円規模からの依頼が可能なケースが中心です。ゼロベースの詳細な調査や分析が省略される分、初期費用を抑えられる一方で、事業がある程度軌道に乗り、より深い差別化戦略が必要になった段階で、改めてオーダーメイド型の支援を追加で依頼するというケースも実務ではよく見られます。最初からすべてをパッケージ型で済ませようとせず、事業の成長段階に応じてアプローチを見直す柔軟性を持っておくことが重要です。また、パッケージ型のコンサルティングを提供する会社の中には、対応できる業種や事業規模があらかじめ限定されているケースもあるため、自社の事業領域に対する実績が豊富かどうかを事前に確認しておくことも、想定通りの成果物を得るための重要なチェックポイントです。

オーダーメイド型アプローチのメリット・デメリット

オーダーメイド型アプローチのメリット・デメリット

続いて、ゼロベースで戦略を組み立てるオーダーメイド型アプローチについて、メリット・デメリットと向いている企業像を見ていきます。

メリットと向いている企業

オーダーメイド型アプローチの最大のメリットは、既存の枠に収まらない、自社ならではのデータや顧客基盤、独自技術を直接反映した競合優位性の高い戦略を構築できる点にあります。コンサルタントに丸投げするのではなく、伴走型で一緒に戦略を練り上げることで、新規事業を生み出す思考プロセスや判断基準といった暗黙知が社内に蓄積されるという副次的な効果も見逃せません。また、市場の反応を見ながら自社主導で戦略を柔軟に変更(ピボット)しやすいという機動性も強みです。このアプローチが向いているのは、自社特有の強み(独自のデータ、既存顧客との関係性、独自技術など)を活かして市場で明確な差別化を図りたい企業や、市場の変化が激しく、リリース後も継続的な仮説検証と戦略アップデートが求められる領域に挑む企業です。すでに一定の顧客基盤や業界内でのブランド力を持つ企業が、その強みを新規事業に転用しようとする場合にも、既製のフレームワークでは強みを十分に反映しきれないことが多いため、オーダーメイド型のアプローチが選ばれる傾向にあります。短期的なコスト削減よりも、新規事業を生み出す組織能力そのものを自社に蓄積することを中長期的な投資と捉えられる企業にも適したアプローチといえます。

デメリットと費用感

オーダーメイド型アプローチにも相応のデメリットがあります。ゼロベースで要件を定義し調査・検証を行うため、戦略策定までに多大な時間と初期コストがかかり、パッケージ型に比べて初速が遅くなる傾向があります。また、コンサルタントと一緒に戦略を作り上げた特定の社内メンバーにノウハウが集中しやすく、その人物が異動や退職で抜けてしまうと事業推進が停滞する属人化リスクも抱えています。費用感としては、数千万円から億単位に達することもあり、コンサルタントが深く事業に入り込み、数ヶ月から年単位で伴走支援を行うことを前提とするため、コストは相応に大きくなります。オーダーメイド型を選ぶ際は、単に「自社らしい戦略が欲しい」という漠然とした理由だけで選ぶのではなく、その投資に見合うだけの差別化効果が本当に見込めるのか、費用対効果を事前にシミュレーションしておくことが重要です。また、属人化リスクを軽減するためには、コンサルタントとのディスカッションの議事録やワークシートを丁寧に残し、特定の担当者だけでなく複数のメンバーが検討プロセスに関与できるような体制をプロジェクト初期から意識的に作っておくことも、有効な対策の一つです。

どちらを選ぶべきか(フェーズ別・ハイブリッド戦略)

どちらを選ぶべきか(フェーズ別・ハイブリッド戦略)

パッケージ型とオーダーメイド型は二者択一ではなく、事業のフェーズに応じて使い分ける、あるいは組み合わせるという発想が実務では最も現実的です。ここでは、フェーズ別の使い分けの考え方を解説します。

ベンチマーク起点で始める立ち上げ期

新規事業の立ち上げ期には、完全なゼロベースで戦略を考えるのも、最初から標準化された型を綺麗に当てはめるのも、実はどちらも有効な進め方ではありません。実務で有効とされているのは、まず業種を問わずベンチマークとなる競合企業の実績を10社程度分析し、「誰の」「どんなニーズ」に応えている事業が伸びているのかを理解したうえで、自社が次に取るべきターゲットを絞り込むという「ベンチマーク起点」の進め方です。自社の強みやアイデアだけを頼りにゼロベースで考えるのではなく、まず他社の実績というヒントから当たりをつけ、そのうえでターゲット特定と検証を高速で循環させる泥臭いアジャイル検証を積み重ねていくことで、事業の初期段階特有の「解像度の低さ」を効率的に解消できます。パッケージ型のフレームワークを使う場合も、こうしたベンチマーク分析やアジャイルな現場検証と組み合わせることで、型だけに頼らない実効性のある戦略に仕上げることができます。業種を問わず、立ち上げ期にいきなり分厚い事業計画書を仕上げようとするほど、実際に市場に出てから計画と現実のズレに直面し、大幅な作り直しを迫られるという逆説的な現象が起こりやすい点にも注意が必要です。粗い仮説を素早く市場にぶつけ、そこで得られたフィードバックを反映しながら計画の精度を段階的に高めていくというサイクルこそが、立ち上げ期における最も効率的な戦略構築の進め方だといえます。

標準化で勝ち切る拡大期

立ち上げ期の泥臭い検証を経て、自社にとっての「勝ち筋」が見えてきた段階になって初めて、「標準化」が最強の武器として機能し始めます。獲得できるターゲットの範囲が広がり、事業を成立させるために必要なプロセスが明確になった段階で、その勝ちパターンを標準化し、QCD(品質・コスト・納期)を高めて一気に市場を取りに行くというのが、拡大期における効果的な進め方です。つまり、市場調査や競合分析、財務計画のフォーマットといった定型的な作業はパッケージ型のツールやフレームワークで効率化しつつ、自社の提供価値や顧客体験の設計といった最も差別化に寄与する部分にはオーダーメイド型の伴走支援を投入して徹底的に作り込むという「ハイブリッド戦略」が、投資対効果の観点から最も現実的な結論になります。新規事業コンサルを選定する際は、こうしたフェーズごとの使い分けに対応できる柔軟性を持ったパートナーかどうかを、事前の提案内容から見極めることをおすすめします。提案書の段階で「最初から完璧なオーダーメイド戦略を提示します」と謳うコンサルティング会社よりも、むしろ「まずは小さく検証を回し、そこから得られた学びをもとに戦略を磨き込んでいきます」という進め方を提示してくる会社のほうが、実務的には成功確率の高いパートナーであるケースが多く見られます。事業のフェーズを無視して最初から重厚な戦略策定に踏み込もうとする提案には、慎重な姿勢で臨むことが望ましいといえます。

まとめ

新規事業コンサルのフルスクラッチ・オーダーメイドまとめ

本記事では、新規事業コンサルにおけるフルスクラッチ・オーダーメイドについて、IT開発のフルスクラッチとの違い、パッケージ型・オーダーメイド型それぞれのメリット・デメリット、費用感、そしてどちらを選ぶべきかの判断軸を体系的に解説しました。新規事業コンサルにおけるこの選択は、システムをゼロから作るかどうかではなく、事業戦略の策定を標準化された型で進めるか、自社独自にゼロから組み立てるかという意思決定です。パッケージ型は数百万円規模でスピーディに標準的な戦略を構築できる一方、独自の差別化には限界があり、オーダーメイド型は数千万円規模の投資と長い期間を要する一方、他社に模倣されにくい競合優位性と組織へのノウハウ蓄積が期待できます。実務で最も有効なのは、事業の立ち上げ期はベンチマーク起点の泥臭い検証を重視し、勝ち筋が見えた拡大期に標準化で一気に勝負するというフェーズ別のハイブリッド戦略です。新規事業コンサルの活用を検討されている方は、まずは自社の事業がどのフェーズにあり、どこまでの差別化投資が必要なのかを整理したうえで、複数のコンサルティング会社に相談し、自社に合った進め方を見極めることから始めることをお勧めします。パッケージ型かオーダーメイド型かという二択で悩むのではなく、事業の成長に合わせてアプローチを柔軟に切り替えていくという前提を最初に持っておくことが、限られた予算の中で最大の成果を引き出すための最も重要な心構えです。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。