通販サイト/システムのリアーキテクチャの進め方/やり方/流れや方法/手法/工程/手順

通販システムのリアーキテクチャは、現状把握、ドメイン分割、設計、段階移行の順に進めると、事業を止めずに構造を強化できます。

各工程の成果物を確認しながら、機能単位で少しずつ移行していく進め方になります。

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通販システムのリアーキテクチャの全体像|進め方の前に押さえる要点

リアーキテクチャは、外から見える機能や見た目を保ったまま、内部構造を疎結合に組み替える取り組みです。そのうえで、作り替える範囲と残す範囲を明確にすることが、成功の第一歩になります。

リアーキテクチャとリプレイス・リニューアルの違い

似た言葉に聞こえますが、リニューアル、リプレイス、リアーキテクチャの3つは、作り替える対象と切り替え方がそれぞれ異なります。

  • リニューアル:デザインやUIを刷新し、内部構造には大きく手を入れない
  • リプレイス:別のパッケージやSaaSへゼロから丸ごと載せ替え、業務フローも変わる一斉切り替え
  • リアーキテクチャ:機能・業務を保ち内部構造を改め、注文・在庫・会員・決済を独立させて段階移行し、変更が波及しにくい構造を目指す

リアーキテクチャでは、たとえば、決済を外部サービスへAPI経由で切り出し、続けてカートを独立させるように進めます。

リアーキテクチャを検討すべき4つのサイン

作り替えに踏み切る時期は、いくつかの共通したサインで見分けられます。小さな改修にも数十万円かかるようなら、コードの密結合が限界に達している証拠です。

  • 改修の長期化:数日で済んだ小さな改修に数週間と数十万円がかかる
  • 影響範囲の不透明さ:無関係な機能が壊れる「もぐら叩き」が頻発する
  • 基盤のサポート終了:言語・フレームワーク・ミドルウェアがEOLを迎える
  • 連携要求の変化:オムニチャネルやOMO、ERP・WMS連携が必要になる

EOLを過ぎた基盤には、セキュリティパッチが提供されなくなります。特に、カード情報を扱うECでは重大なリスクになります。

また、外部API連携を前提としない閉じた構造だと、事業戦略の変化にも対応しにくくなります。4つのサインのうち2つ以上が重なるときは、構造を組み直すリアーキテクチャを本格的に検討する段階といえます。

ポイント

リプレイスかリアーキテクチャかで迷うときは、残す機能と業務の範囲を先に書き出し、その広さで手法を選びます。内部構造だけを組み替えたい場合は、リアーキテクチャが候補になります。

通販システムのリアーキテクチャの進め方6工程

機能の棚卸しから境界の決定まで、現状把握と境界設計の4作業を順に示した図。
業務の意味に沿った境界を、現状の確認から順に定めます。

リアーキテクチャは6つの工程で進みます。各工程の成果物を確認してから次へ進む段階承認を挟むことで、後戻りのコストを抑えられます。

  1. 現状アーキテクチャを可視化する
  2. ドメインの分割を設計する
  3. ターゲットアーキテクチャを設計する
  4. 段階的に移行し、並行稼働する
  5. テストと検証を行う
  6. 旧構造を撤去する

特につまずきやすいのは、現状の把握、ターゲット設計、発注側のプロジェクト管理です。

現状アーキテクチャの可視化とドメイン分割

長年運用してきた通販システムでは、ドキュメントの内容と実際の仕組みが食い違っていることがあります。そのため、まず現行の機能・データ・外部連携を洗い出し、全体像を一覧にします。

機能とテーブル、外部サービスの接続を洗い出すと、密結合している箇所が見えてきます。この確認を省くと、移行中に想定外の事態が起こります。たとえば、注文機能が在庫の内部処理に依存していた、といったケースです。

現状の把握と境界設計では、4つの作業を順に行います。

  • 機能の棚卸し:機能・データ・外部連携を洗い出し、全体像をまとめる
  • 依存関係の把握:機能が参照するテーブルや外部サービスを確認する
  • ドメイン分割:注文・在庫・会員・商品・決済・出荷を業務の意味ごとに分ける
  • 境界の決定:業務担当者と「一つの仕事」の範囲を議論し、切り出しやすい領域から始める

ターゲットアーキテクチャの設計(疎結合・API化・ヘッドレス)

ターゲット設計では、各ドメインをAPIでつなぐ疎結合な構造を目指します。ヘッドレス構成でフロントとバックエンドを分ければ、サイトデザインと在庫・決済の変更を切り離せるため、改修のたびに全体を止めずに済みます。

マイクロサービスやAPIファーストなどを組み合わせた構成は、コンポーザブルコマースやMACHアーキテクチャと呼ばれ、変化の速いEC領域で採用が広がっています。

ただし、いきなり全機能をマイクロサービスに細分化するのは避けます。サービスを細かく分けすぎると、通信や障害対応が複雑になり、運用負荷が増すためです。そのため、必要な範囲から切り出し、部位ごとにメリハリをつけて設計します。

  • 変更頻度の高い領域:決済やカートをAPIで切り出す
  • 安定稼働中の基幹部分:無理に細分化せず維持する
  • 新旧構造の接続:腐敗防止層で旧仕様を変換する

旧システムの仕様が新構造へ染み出すと、せっかく分けた境界があいまいになります。腐敗防止層を挟んでおくと、移行後の保守性が高まります。

発注側PMの役割(週次定例・課題管理・成果物承認)

発注側は、週次定例、課題管理、成果物承認の3つを運営します。

  • 週次定例:進捗・課題・意思決定事項を決まった形で毎週確認する
  • 課題管理表:番号・担当・期限・ステータスを記録し、誰でも状況を把握できるようにする
  • 成果物承認:各工程の成果物に目を通し、承認してから次へ進む

ドメイン境界の決定など、発注側にしか決められない論点があります。意思決定が1週間遅れると、プロジェクトも1週間ずつ後ろにずれます。

成果物には現状分析書、ドメイン分割図、API仕様があり、移行計画やテスト結果も含まれます。

発注側が成果物を確認・承認してから次へ進むことで、開発会社との適切な距離感を保ちながらプロジェクトを主導できます。

社内にPM経験者がいない場合は、伴走型の支援先に発注側PMの補佐を頼む方法も有効です。

ポイント

成果物の承認を保留するときは、未確定の論点を書き出し、どの工程まで着手を止めるかを発注側と決めておきます。保留を長引かせると、後続工程の日程が連鎖してずれ込みます。

段階的移行とデータ・SEOの引き継ぎ実務

交通整理役を中心に、旧システムと新サービスへの機能ごとの振り分け、機能単位の切り戻しを示した図。
問題が起きた機能だけを旧システムへ戻せる構成です。

段階的移行では、新旧システムを並行稼働させながら機能を一つずつ移します。一斉切り替えよりリスクを抑えられる一方で、検索評価や顧客データを守る準備も欠かせません。

技術面の設計だけでなく、業務面での備えも移行の成否を分けます。

ストラングラーパターンによる無停止の段階移行

ストラングラーパターンは、旧システムの前段に交通整理役を置く方法です。この交通整理役が、機能ごとに新旧どちらへリクエストを流すかを振り分けます。

たとえば、まず決済を新サービスへ向け、問題がなければカートや会員へと順に移します。

  1. 決済、カート、会員などの機能を一つずつ新サービスへ向ける
  2. 機能ごとに検証し、不具合があればその機能だけ旧システムへ戻す

旧システムを少しずつ「絞め殺す」ように置き換えることから、この名前が付いています。この方式なら、全面停止のメンテナンスを避けられます。

移行中は、新旧のデータが食い違わないよう同期を設計する必要があります。在庫数や注文ステータスの不一致を避けるためです。どちらのデータを正とするか、いつ片寄せするかを機能ごとに決めておきます。

301リダイレクトとパスワード移行不可への業務フォロー

移行時は、検索評価と会員のログイン体験を守るために、2つの対応を行います。

  • URL転送:商品・カテゴリ・記事の旧URLと新URLを1対1で対応させる
  • 会員対応:パスワード再設定にポイント付与や記念クーポンを組み合わせる

URLが変わるときは、301リダイレクトを設定します。設定しなければ検索評価がリセットされ、移行直後に検索流入が半減する事態も起こります。さらに、流入の多いページを事前に特定しておけば、そこから優先的に検証でき、SEOのリスクを数字で管理できます。

パスワードは、セキュリティのためハッシュ化して保存されており、旧システムと新システムで方式が異なると、復元できず引き継げない場合があります。既存会員がログインできないと、大量の離脱やカゴ落ちにつながります。

ポイント

どの機能から移すかは、問題が起きたときに戻しやすいかと、業務への影響の大きさを基準に決めます。決済のように影響の大きい機能は、検証の期間を長めに取るかどうかも検討します。

カットオーバーとリスク管理

段階移行であっても、カットオーバーはプロジェクトで最も緊張する局面です。本番環境でだけ起きる問題を想定し、対応方針を事前に文書で合意しておきます。

切り替えの単位が小さいリアーキテクチャでは、機能ごとに判断基準を用意しておくと、現場の混乱を抑えられます。

切り戻し(フォールバック)基準の事前合意

障害が起きたときに新サービスを続けるか旧構造へ戻すかを、当日の空気で決めてしまうと、誰も責任を取りたがらず、対応が後手に回ります。

  • 事前合意:機能ごとの条件を発注側とベンダーで文書合意する
  • 決済:成功率が95%を下回る状態が30分続いたら切り戻す
  • 注文データ:欠損が確認された場合は即時切り戻す

切り戻しの手順と判断責任者もあらかじめ決めておくと、当日の意思決定が速まり、被害の拡大を防げます。この基準は、安全なカットオーバーを支える文書といえます。

Fit to Standardと現場定着の社内浸透

リアーキテクチャの際に過剰なカスタマイズを重ねると、せっかく整えた疎結合な構造が再び複雑になります。

Fit to Standardは、業務をシステムの標準的な作法に合わせる考え方です。

  • 標準機能の活用:標準APIや既存の決済・配送サービスで構築・保守・更新費を抑える
  • 独自仕様の抑制:例外的な作り込みを減らし、標準の範囲で運用する
  • 段階的な導入:理由を説明し、一部カテゴリや主要顧客から運用を試す

標準への移行には現場の抵抗も伴います。標準に寄せる理由を説明し、納得を得る調整が欠かせません。効果を確かめながら広げると、その抵抗も和らぎます。

特に、社内の合意形成が、リアーキテクチャ後の定着を左右します。

リアーキテクチャの費用と見落としがちな隠れコスト

3〜5年の総保有コストで考慮する隠れやすい費用を、運用基盤、決済、移行・設計、業務変更に分けた図。
費用の対象はシステム運用から社内の教育やマニュアル整備まで広がります。

費用は対象の範囲によって変わります。一部のドメインを切り出す場合は数百万円規模、注文・在庫・会員を含む全体を作り替える場合は数千万円から数億円規模です。

判断は、初期構築費だけでなく、3〜5年の総保有コスト(TCO)で行うのが基本です。費用の構造を把握しておかないと、想定外の出費が生じます。

段階移行で膨らみやすい二重運用コスト

並行稼働中は、旧システムのサーバー費や保守費と、新システムの費用が同時にかかります。移行が計画より延びると、その二重のコストも積み上がっていきます。

機能ごとの移行完了と旧構造の撤去を計画どおりに進めることが、追加の負担を抑える近道です。

見落としやすい費用は、運用基盤から社内の業務変更まで幅広く含まれます。

  • 運用基盤:API連携やサービス間通信の監視費用
  • 決済:従量課金や決済手数料
  • 移行・設計:データ移行、要件定義、設計の費用
  • 業務変更:倉庫・コールセンター・社内スタッフの教育やマニュアル整備

発注前には、初期構築費やランニングコストに加え、二重運用コストと隠れコストまで含めて費用を洗い出します。

TCOで経営層の稟議を通す考え方

稟議では、投資効果と、作り替えない場合のリスクを数字で示すことが求められます。資料には、投資期間から未対応リスクまでの4つの観点を盛り込みます。

  • 投資期間:3〜5年のTCOを基準に、削減・改善効果を整理する
  • 業務改善:機能追加の期間や影響調査の工数を減らし、表示速度を改善する
  • 投資回収:コンバージョン率や将来の改修費を踏まえてROIを試算する
  • 未対応リスク:EOL事故や改修遅延による機会損失を数値で示す

投資額は数百万円から数億円に及ぶため、感覚的な説明だけでは承認を得にくいのが実情です。

さらに、疎結合化によって将来の改修費が下がる点も、投資効果に含めます。また、複数ベンダーの比較表やリスクと対策の整理も、あわせて用意します。

費用の詳しい内訳や規模別の相場は、関連する見積もり相場の記事も参考にしてください。

ポイント

見積もりを比べるときは、初期構築費の大小だけで判断せず、二重運用費と隠れコストを加えた金額で並べて考えます。並べ方をそろえないと、安い見積もりが実は高くつくことがあります。

まとめ

リアーキテクチャは、機能や見た目を保ったまま、内部構造を疎結合に組み直す取り組みです。まず、改修の長期化やEOLなどのサインから、作り替えの必要性を見極めます。

移行の設計では、現状を一覧にしてドメインを分割し、API化やヘッドレス構成を取り入れます。また、発注側は、週次定例、課題管理、成果物承認を通じて、プロジェクトを主導します。

移行時は、ストラングラーパターンで機能ごとに移し、あわせて301リダイレクトとパスワード再設定を準備します。切り戻し基準とFit to Standardの社内浸透も、リスク管理に欠かせない備えです。

二重運用費や隠れコストまで含めた3〜5年のTCOで、投資を判断します。工程と費用を整理し、将来の改修負担を抑える計画へとつなげます。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。