SAP導入のパッケージ/クラウド製品一覧

SAP導入で選べる製品は、自社サーバーに構築するパッケージ型と、SAPがインフラや運用まで担うクラウド型に分かれます。

クラウド型にもエディションや導入プログラムごとの違いがあるため、提供形態・対象企業規模・移行方式の観点で候補を並べると絞り込みやすくなります。

SAPの提供形態:パッケージ型(オンプレミス)とクラウド型の違い

パッケージ型とクラウド型を、サーバーやインフラの運用主体で左右に比べた図。
運用を担う側が、2つの形態を分ける軸です。

パッケージ型は、自社または委託先のデータセンターにサーバーを置いて運用する形です。クラウド型は、インフラの調達から運用までをSAP側に委ね、サブスクリプションで利用します。両者は運用を誰が担うかで体制が大きく変わるため、まず違いを押さえたうえで、個々のオファリングを見ていきます。

近年SAPが新規契約で前面に打ち出すのはクラウド型です。また、GROW with SAPやRISE with SAPなどの導入プログラムの多くも、クラウド型を前提に設計されています。

パッケージ型(オンプレミス)という選択肢

パッケージ型を選ぶ場合は、導入の形と、そもそも今も提供されている製品かを先に確かめます。

  • 導入形態:自社または委託先のデータセンターにサーバーを構築し、ライセンスは買い切りです。
  • 対応範囲:独自のセキュリティ基準・閉域網・インフラに対応しやすい一方、サーバーの調達・監視・バージョンアップは自社側の担当が大きくなります。
  • 中小企業向け製品:中小企業向けのパッケージ製品も存在するとされますが、本稿執筆時点では公式ページを直接確認できず、一覧には含めていません。
  • 提供状況の確認:SAPジャパンまたは正規販売パートナーに、現行の取り扱いと対象企業規模を直接確かめてください。

クラウド型(RISE with SAP/GROW with SAP)という選択肢

クラウド型を選ぶ場合は、利用の仕組みと導入プログラムの位置づけを先に押さえます。GROW with SAPとRISE with SAPは、いずれもS/4HANA Cloudを中核にした導入プログラムです。

  • 利用形態:インフラの調達と運用をSAP側に委ね、サブスクリプションで使う形です。
  • プログラムの内容:移行支援とベストプラクティスを含みます。
  • プログラムの位置づけ:両者は単体製品というより、契約と導入の枠組みです。
  • 選定条件:既存のオンプレミス資産をどこまで引き継ぐかで、適したプログラムが変わります。

ポイント

運用の担い手が決まれば、パッケージ型とクラウド型のどちらが現実的かを絞り込めます。まず、サーバーの調達や監視を自社で担えるかを社内で確かめておくと、判断が早まります。

製品/オファリングを比較する共通軸

対象企業規模、提供形態、既存資産の移行方式をカードで示した比較観点の図。
共通軸をそろえると候補同士を見比べやすくなります。

自社に合う製品を選ぶには、名称や機能一覧を並べるだけでなく、共通の観点で候補を比べることが近道です。主な観点は、対象企業規模、提供形態(パブリック/プライベート)、既存資産の移行方式です。

対象企業規模と統合範囲による絞り込み

SAPのクラウド・オファリングは、大企業から中堅企業までを主な対象としています。

業務範囲によって、必要なモジュール数や設定工数は大きく変わります。そのため、会計のみか、購買・生産・販売も含むかを整理し、一つの基盤に統合したい範囲を決めてから、その範囲を実現できるエディションを確認します。

提供形態(パブリック/プライベート)と移行方式による絞り込み

パブリック・エディションは、標準機能への適合(Fit to Standard)を前提に、短期間・低コストで始めやすい設計です。一方で、プライベート・エディションは、既存のカスタマイズや個別要件を一定程度引き継ぎながら、クラウドへ移行できる設計とされています。

このため、既存のECCなどの資産をどこまで引き継ぐ必要があるかが、提供形態を選ぶ最大の判断材料です。

ポイント

対象企業規模、提供形態、既存資産の移行方式の3点で候補を並べ、どれか一つでも合わない製品は、詳しく比べる前に外してかまいません。

SAP導入で検討できる主要クラウド・オファリング5選

2026年7月時点で、SAP公式ニュースサイト(news.sap.com)などから現行の提供を確認できた、5つのクラウド・オファリングを取り上げます。

企業規模や移行方針によって適合度は変わるため、掲載順はランキングではありません。

SAP S/4HANA Cloud, Public Edition

Public Editionを検討する際は、発注側が社内の業務ルールをどこまで標準に寄せられるかを、先に整理しておくことが大切です。

  • 提供方式:パブリック型ERPで、Fit to Standardを前提に、SAP標準へ業務を合わせる形です。
  • 機能追加:SAP公式ニュースサイトでは、財務・人事領域のアドオン拡充などが継続的に報告されています。
  • 適する企業:標準機能を中心に据え、短期間での立ち上げを優先したい企業です。
  • 料金:個社の契約条件で変わるため、後述の見積もりで確認したい観点を参考にしてください。

SAP Cloud ERP Private(旧S/4HANA Cloud, Private Edition)

SAP Cloud ERP Privateは、旧称のS/4HANA Cloud, Private Editionにあたる製品で、既存のカスタマイズや個別要件を一定程度引き継ぎながら、クラウドへ移る設計です。

  • 移行先:引き継ぎを前提にクラウドへ移る企業が選ぶ、プライベート型です。
  • 導入準備:引き継ぎ範囲と移行期間は要件定義後に決まるため、早期にパートナーとすり合わせます。

SAP公式ニュースでは、2025年から2026年にかけて複数回の機能強化が発表されています。さらに、2026年7月にはIBMとの共同クラウドソリューションによる採用拡大も報告されており、大企業を中心に採用が進んでいることが確認できます。

GROW with SAP

GROW with SAPは、SAP S/4HANA Cloud, Public Editionを中核にした導入プログラムで、導入方法論、移行ツール、ベストプラクティスをまとめています。

SAP公式ニュースサイトでは、成長企業向けアドオンの拡充が継続的に発表されています。主な対象は、新規にクラウドでSAPを始めたい中堅・成長企業です。

他のオファリングとの違いは、単体の製品ではなく、標準化を前提にした導入の進め方を指す点にあります。

RISE with SAP

RISE with SAPは、提供内容、導入傾向、社内体制の3点から見ると、自社との適合を判断しやすくなります。

  • 提供内容:クラウドインフラ、運用、S/4HANAをまとめて提供する形です。
  • 導入傾向:既存のオンプレミス資産からの大規模移行で選ばれる傾向があります。
  • 社内体制:大規模な移行と業務見直しを伴うため、社内で受け入れる体制も必要になります。

公式ニュースでは、複雑な移行を支援する新サービスや、バイオテック企業の導入事例が報告されています。また、提供内容にはSAP Business Technology Platformも含まれ、大企業の基幹刷新が主な対象です。

SAP Business AI

SAP Business AIは、既存のSAP導入環境に組み込む埋め込み型のAI機能群です。

SAP公式ニュースサイトでは四半期ごとのリリース情報が発表されており、2026年第2四半期のリリースハイライトや、パートナー各社との事例も報告されています。

単体ではSAP導入プロジェクトの対象にならないため、S/4HANA Cloudなどを導入したうえで、業務自動化を追加する候補として検討します。

課題・目的別に候補を絞る方法

5つのオファリングを細部まで一度に比べると負担が大きいため、まず自社の状況を決め、必須要件で候補を絞り込むのが効率的です。

新規にクラウドでシンプルに始めたい場合

自社にSAPの導入実績がなく、標準機能への適合を前提に短期間で立ち上げたい場合は、GROW with SAPを起点にします。そのうえで、中核となるSAP S/4HANA Cloud, Public Editionを検討します。

この選択肢が合うかは、カスタマイズを抑えて、標準のベストプラクティスに業務を合わせられるかで判断します。

既存のECC資産を段階的に移行したい場合

既存のオンプレミス版SAP ECCなどを長年運用し、カスタマイズや個別業務ルールを一定程度引き継ぎたい場合は、RISE with SAPを起点に検討します。移行先としては、SAP Cloud ERP Privateを検討します。

2027年問題による移行圧力がある企業では、引き継ぐカスタマイズを早めに洗い出しておくと、移行期間の見通しを立てやすくなります。

既存のSAP環境にAI活用を追加したい場合

既存SAP環境で業務自動化やデータ活用を強化したい場合は、SAP Business AIの適用範囲を確認します。

利用できる機能は、既存環境のバージョンや契約内容で異なります。そのため、追加導入の前に、保守契約先やSIerを通じて対応可否を確認してください。

ポイント

既存のSAP資産を引き継ぐかどうかで、候補の入口が大きく変わります。まず引き継ぐ範囲を決めれば、比べる製品を2〜3件に減らせます。

料金・契約前の確認事項

契約前に確認するTCO、AMS、追加費用、担当範囲を4枚のパネルに分けた図。
費用項目と運用上の役割を分けて確認できます。

SAPのクラウド・オファリングは、一律料金表を公開せず、契約規模や利用範囲に応じた個別見積もりが基本です。本稿で確認できた範囲に具体的な金額はないため、金額は各社の見積もりで確かめる必要があります。

料金は非公開、個別見積もりが基本

SAP公式ニュースサイトや製品ページでは、各オファリングの一律料金表は公開されていません。

見積もりは、対象ユーザー数や利用モジュール範囲によって大きく変わるほか、契約期間と既存資産の移行量でも差が出ます。

複数のパートナーに同じ利用条件を提示し、同一条件の見積もりを取ると、比較の前提がそろいます。

契約前に確認するTCOとAMSの範囲

見積もりを受けたら、費用項目と運用範囲を一つずつ確かめます。

  • TCO:初期のサブスクリプション費用だけでなく、複数年にわたって比べます。
  • AMS:RISE with SAPやGROW with SAPでのアプリケーション管理の範囲も、TCOに組み込みます。
  • 追加費用:追加開発費用、パートナーへの運用委託費、社内人件費も見込みに入れます。
  • 運用支援:支援の範囲は各社の提案で異なります。
  • 担当範囲:稼働後にSAP、パートナー、自社のそれぞれが受け持つ範囲を、契約前に決めておきます。

ポイント

金額を比べる前に、対象ユーザー数や利用モジュール範囲などの条件をそろえてください。条件が違う見積もり同士では、単純な比較ができません。

導入パートナー・SIerの選定で確認すべき点

同じオファリングを選んでも、実装パートナーによって進め方や成果は大きく変わります。そのため、提案の分かりやすさに加えて、実績と移行方式への対応力を確かめます。

RISE/GROW with SAPパートナーの実績

RISE with SAPやGROW with SAPでは、SAPがインフラや運用の一部を提供する一方、要件定義、設定、データ移行は認定パートナーが担う体制が一般的です。

自社に近い業種・規模でのプロジェクト実績を確かめてください。可能であれば、類似案件の担当者から具体的な進め方を聞くと、提案の中身が見えてきます。

移行方式(グリーンフィールド/ブラウンフィールド)への対応力

既存システムからの移行方式は、引き継ぐ設定や業務ルールの範囲に応じて選びます。

  • グリーンフィールド:新規に作り直す方式です。
  • ブラウンフィールド:既存の設定を引き継いで移行します。
  • 選択的移行:引き継ぐ部分を必要なものだけに絞ります。

パートナーには、引き継ぎたいデータや業務ルールを具体的に示したうえで、推奨する移行方式とその理由を聞きます。そうすると、提案の質を見極めやすくなります。

SAP導入前に確認したいポイント

候補のオファリングやパートナーを絞り込んだあとにも、契約や移行の前に確かめておきたい論点があります。

中堅・成長企業でのクラウド型SAPの選択肢

対象業務を絞り、標準機能への適合を徹底できれば、中堅・成長企業もGROW with SAPによるクラウド導入を選べる場合があります。

ただし、GROW with SAPは統合範囲が広く、他のミッドマーケットERPより設定・テスト工数が大きくなりやすい点に注意が必要です。

中小企業向けパッケージ製品の確認状況

SAPには、中小企業向けにパッケージ提供される製品も存在するとされています。ただし、本稿執筆時点(2026年7月)では公式ページへ直接アクセスできず、現行の提供状況は確認できませんでした。

そのため、一覧には含めていません。検討する際は、SAPジャパンまたは正規販売パートナーに、最新の提供状況と料金体系を直接確認してください。

2027年問題を踏まえた移行スケジュール

SAP ECC 6.0の主流保守サポートは、2027年12月31日に終了予定とされています。

既存システムからの移行が必要な企業では、駆け込みの移行プロジェクトが増え、コンサルタントやエンジニアの確保が難しくなることが懸念点として指摘されています。

ただし、リソースの逼迫は現時点での見立てで、確定した情報ではありません。そのため、契約更新の時期を踏まえて、移行先と時期を個別に見極めてください。

まとめ

SAP導入の製品は名称が多いため、新規導入か既存資産の移行かを先に整理すると、候補を選びやすくなります。

パブリック型かプライベート型かは、SAP S/4HANA Cloud, Public EditionとSAP Cloud ERP Privateを比べて見極めます。GROW with SAP、RISE with SAP、SAP Business AIを含め、各オファリングには対象企業・移行方針・役割の違いがあります。

課題整理から2〜3オファリングへの絞り込み

新規導入か既存移行か、標準化をどこまで許容するかを整理すると、候補を2〜3件に絞れます。

対象企業規模、提供形態、移行方式を共通の観点にすると、広告的な訴求に流されず判断できます。候補の評価方法は、SAP導入の選定ポイント・選び方・種類で詳しく解説しています。

個別見積もりとPoCによる最終判断

最終判断では、見積もりと、実業務のシナリオを使ったPoCの結果を並べて見ます。

  • 見積もり:機能一覧や名称だけで決めず、複数のパートナーに同じ条件で出してもらいます。
  • PoC:実業務のシナリオを使い、候補が業務に合うかを確かめます。
  • 独自業務への対応:既製クラウドで吸収できない場合は、フルスクラッチ開発や既存システム連携を含むハイブリッド構成も選べます。

riplaはフルスクラッチ開発の立場から、SAP導入での独自業務要件の整理や、既存システム連携を含む構築を支援しています。

SAP導入の基本的な考え方はSAP導入とは?|考え方・特徴・仕組み・目的を解説で整理しています。

会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。