コールセンターの現場では、問い合わせ件数の増大や人材不足、応対品質のばらつきといった課題が長年にわたって業務担当者を悩ませてきました。そうした状況に大きな変化をもたらしているのが、AIエージェントの活用です。2025年の国内調査では、63%のコールセンター運営企業が何らかの形で生成AIを導入済みと回答しており、コールセンターのAI化は一部の先進企業だけの取り組みではなく、業界全体の潮流へと変わりつつあります。
本記事では、コールセンターにおけるAIエージェントの具体的な活用事例を業種・機能別に紹介し、応対品質と業務効率の両立がどのように実現されているかを解説します。導入を検討している方の判断材料として、ぜひお役立てください。
AIエージェント開発・活用の全体像は、以下の完全ガイドで体系的に解説しています。
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・コールセンターAIエージェント開発・構築の完全ガイド
コールセンターにおけるAIエージェントの全体像

AIエージェントとは、自然言語処理・音声認識・機械学習などの技術を組み合わせ、顧客との対話を自律的に処理したり、オペレーターの業務をリアルタイムで支援したりするシステムです。従来のFAQシステムや単純なボイスボットと異なり、文脈を理解して柔軟な応答ができる点が大きな特徴です。コールセンターにおけるAIエージェントの活用は大きく「自動応答(顧客対応)」「オペレーター支援」「後処理・品質管理の自動化」の3つに分類されます。
AIエージェントの主な種類と機能
コールセンターで活用されるAIエージェントは、大きく3種類に整理できます。まず「ボイスボット・音声AIエージェント」は、電話口で顧客の発話をリアルタイムに認識し、自然な音声で自律的に応対するシステムです。近年の生成AI技術の進化により、複雑な問い合わせにも対応できる水準へと向上しています。次に「オペレーター支援AI」は、通話中にオペレーターの画面へリアルタイムで回答候補や関連FAQを提示し、対応品質を平準化するシステムです。最後に「後処理自動化AI」は、通話終了後に会話内容を自動要約してCRMへ入力し、ACW(アフターコールワーク)を削減します。
導入が加速する背景と市場動向
コールセンターでのAIエージェント導入が急加速している背景には、深刻な人材不足と多様化するチャネルへの対応ニーズがあります。少子高齢化によるオペレーター確保難に加え、電話・チャット・SNSと接触チャネルが増え続けており、人手のみでの対応は限界に達しています。2025年7月に実施されたコールセンター実態調査では、生成AIの最も多い活用方法として「応対内容の要約」(74.5%)、「メール文章の作成」(63.6%)、「オペレーターへの回答支援」(58.2%)が挙げられており、業務効率化ニーズが高いことが分かります。また、生成AIの会話精度が飛躍的に向上したことで、顧客体験を損なわずに自動化できる領域が拡大したことも普及の一因です。
自動応答・ボイスボット活用事例

ボイスボット・音声AIエージェントは、定型的な問い合わせを有人対応なしに完結させる最もインパクトの大きい活用領域です。24時間365日対応、待ち時間ゼロ、大量同時受付といった強みを活かし、さまざまな業種で導入が進んでいます。
通信業:ソフトバンク・ワイモバイルの音声AIエージェント導入
ソフトバンクは2025年2月に生成AIとRAG(検索拡張生成)を活用した回答支援チャットを導入し、オペレーターへ数秒で回答案を提示する仕組みを構築しました。さらに同年11月には、ワイモバイルのカスタマーサポートに自律思考型の生成AIによる音声自動応答システムを本格導入し、オペレーターを介さずに顧客の問い合わせを完結できる体制を整えました。このシステムでは、顧客が自然な言葉で問い合わせ内容を話すだけで、AIが文脈を把握して適切な回答を音声で返します。従来の「1を押してください」式のIVR(自動音声応答)では対応できなかった複雑な質問にも応えられるようになり、顧客体験の大幅な向上が報告されています。
物流・配送業:再配達自動化率65%を達成
物流業界では、再配達の受付に関する問い合わせが膨大なボリュームを占めてきました。AIボイスボットを導入した物流大手では、再配達受付の65%がAIのみで自動完結するようになり、オペレーターへのコール数を大幅に削減することに成功しています。顧客はオペレーターの空き時間を待つことなく24時間いつでも再配達依頼が完了できるため、顧客満足度の向上と業務効率化を同時に実現しました。同様の取り組みはEC系の配送センターにも広がっており、年末年始や繁忙期における受電数のピーク対策としても有効に機能しています。
保険業:アフラック生命保険のAIアバター導入計画
アフラック生命保険は2025年6月、米OpenAIと提携し、AIアバターが音声で顧客に応対するシステムの開発に着手しました。約1,600人のコールセンター担当者を2031年までに半減させる計画を掲げており、定型的な保険内容の確認や手続き案内をAIアバターが担う構想です。保険業界は専門用語が多く、AIの精度に懸念を持たれることもありますが、対話ログを蓄積して学習を重ねることで精度を継続的に向上させ、ハイタッチな対応が必要な案件のみ有人にエスカレーションするハイブリッド体制を構築する方針としています。こうした大手保険会社の動きは、業界全体のAI化加速を後押しするものとして注目されています。
オペレーター支援AIの活用事例

自動応答で完結できない複雑な問い合わせに対応するオペレーターを、AIがリアルタイムで支援する取り組みも急速に拡大しています。オペレーター支援AIは、応対品質の向上・平準化と、一人当たりの処理件数増加の両立を実現します。
金融業:三菱UFJ銀行の発話ベースルーティング
三菱UFJ銀行は、NTTドコモビジネスが提供する生成AIエージェントを用いたコールセンターソリューションを2025年12月から導入しています。このシステムでは、顧客が着信時に「住宅ローンの繰り上げ返済について聞きたい」のように自由に発話するだけで、生成AIがリアルタイムにその内容を解析し、最適な担当部門のオペレーターへ自動でルーティングします。従来のプッシュ式IVRでは「7番は…8番は…」と複数階層のメニューを聞き続ける必要があり、顧客の負担や誤った部門への転送が課題でした。発話ベースルーティングによって、顧客が迷わず正確な担当者に繋がるようになり、FCR(一次解決率)の向上と顧客満足度の改善が見込まれています。
インフラ・エネルギー業:東京ガスの応答時間削減
東京ガスはコールセンターにオペレーター支援AIを導入し、通話中にAIが会話をリアルタイムで解析して関連FAQや回答候補を画面表示する仕組みを構築しました。その結果、応答時間が平均10秒短縮され、エスカレーション率が14%削減、年間1万1,000時間もの応対時間が削減されるという大きな成果を上げています。オペレーターがマニュアルを検索したりスーパーバイザーに確認したりする時間がAI支援によって解消され、通話中の沈黙が減り顧客体験も向上しました。AIが回答案を提示するため、新人オペレーターでもベテランに近い水準で対応できるようになり、研修期間の短縮にもつながっています。
IT・通信業:問い合わせ放棄率を15%から2.5%に改善
ある大手IT・通信企業では、AIを活用したFAQシステムとチャットボットを組み合わせることで、電話による問い合わせの放棄率を15%から2.5%へと大幅に改善させました。従来は電話が繋がるまでの待ち時間に顧客が諦めてしまうケースが多く、機会損失と顧客不満の原因となっていました。AIチャットボットが一次受付を担うことで電話への集中を分散させ、電話に繋がりやすい状況をつくりだしています。さらにチャットボットが解決できなかった問い合わせは、会話履歴をそのまま引き継いでオペレーターに接続されるため、顧客が同じことを繰り返し説明する手間も省かれています。
後処理・品質管理の自動化事例

通話後の処理業務(ACW)や応対品質の管理は、コールセンター運営において多大な工数を占める領域です。AIによる後処理の自動化は、オペレーターの負担を直接軽減し、離職率の改善にも効果があります。
小売業:カインズのACW削減とプロフィットセンター化
ホームセンター大手のカインズはコンタクトセンターにAIエージェントを導入し、ACW(アフターコールワーク:通話後の入力・記録作業)の大幅な削減を実現しています。通話終了後にAIが会話内容を自動で要約し、対応履歴としてCRMに入力する仕組みにより、オペレーターが手作業で内容を書き留める時間がほぼゼロになりました。ACWが削減された分だけオペレーターは次の通話対応に素早く移れるため、同じ人員でより多くの顧客対応が可能になります。カインズはこうした取り組みによって、コールセンターを「コストセンター(費用部門)」から「プロフィットセンター(収益部門)」へと転換する経営目標を掲げており、AIが顧客の声を収集・分析して新サービス開発や店舗改善に活かす体制を構築しています。
JALカードの音声認識による通話記録自動化
JALカードは音声認識AIを導入することで、顧客とオペレーター間の通話内容をリアルタイムに自動テキスト化することに成功しました。従来は通話後にオペレーターが手作業で要点をまとめる必要があり、正確さにばらつきが生じる問題もありました。音声認識AIの活用により、通話内容が自動的に記録されることで、後からのモニタリングや品質評価が容易になっています。スーパーバイザーはすべての通話ログを効率的に確認でき、問題のある応対を素早く発見してフィードバックできる体制が整いました。FAQ作成の工数についても75%削減されたケースが報告されており、ナレッジ管理の効率化にも寄与しています。
SBI生命保険のVOC分析自動化と24時間受付体制
SBI生命保険はボイスボットとRPA(ロボティクス・プロセス・オートメーション)を連携させたシステムを導入し、問い合わせ受付から処理完了までのプロセスを完全自動化しました。24時間365日の受付が可能になり、年間約300時間の処理時間短縮を実現するとともに、顧客満足度と従業員満足度の両方が向上したと報告されています。さらに蓄積された通話データをAIがVOC(顧客の声)として自動分析し、頻出する問い合わせ傾向や顧客が抱える不満を経営層や商品開発チームへフィードバックする仕組みも構築されています。AIによるVOC分析は従来数週間かかっていた分析作業を数時間に短縮し、マーケティングや商品改善への活用サイクルを大幅に加速させています。
応対品質と効率を両立するためのポイント

コールセンターへのAIエージェント導入を成功させ、応対品質と業務効率の両立を実現するためには、導入前から運用後まで一貫した設計が必要です。成功企業の事例から共通するポイントを整理します。
AIと有人対応のハイブリッド設計
AIエージェントの導入において最も重要なのは、AIに任せる業務と有人対応が必要な業務を明確に切り分けるハイブリッド設計です。定型的な問い合わせや単純な手続き案内はAIが担い、感情的なクレームや複雑な交渉が必要な案件は即座に人間へエスカレーションする仕組みを整えることが求められます。AIが判断に迷う場合や顧客が有人対応を明示的に求めた場合のエスカレーションルートを設計しておかなければ、顧客体験が損なわれるリスクがあります。ベルシステム24が開発した「Hybrid Operation Loop(HOL)」のように、AIと人間がシームレスに連携できるアーキテクチャが、高品質な自動化の鍵を握っています。
ナレッジベースの整備と継続的な学習
AIエージェントの精度は、参照するナレッジベース(FAQやマニュアル)の品質に大きく左右されます。導入前にFAQを体系的に整備し、AIが正確な情報を参照できる状態を作ることが成功の前提条件です。また、導入後も定期的に対話ログを分析し、AIが誤った回答をしたケースや対応できなかったケースを拾い上げてナレッジを更新し続けることが重要です。小林製薬のように、AI検索とクラウド型CTIを組み合わせてオペレーターが通話中でも瞬時にFAQ検索できる環境を整えることで、AI自動応答とオペレーター支援の両方を同時に強化できます。ナレッジ管理の仕組みを自動化することで、FA作成工数を75%削減した事例も報告されています。
適切なKPI設定と効果測定の仕組みづくり
AIエージェント導入の効果を正しく測るためには、導入前にKPIを明確に設定しておくことが不可欠です。よく使われる指標としては、FCR(一次解決率)・AHT(平均処理時間)・ACW(後処理時間)・応答率・CSAT(顧客満足度スコア)・NPS(顧客推奨度)などがあります。特にFCRは応対品質と効率の両方を表す重要指標であり、FCRを1%向上させると顧客満足度(CSAT)が1%向上し、さらにNPSも約1.4ポイント改善するという調査結果があります。AIの自動応答完結率やエスカレーション率も追跡し、AIが適切に機能しているかを継続的にモニタリングする体制を整えることで、PDCAを回しながら成果を最大化できます。
コールセンターへのAIエージェント導入ステップ

AIエージェントの導入を検討する際は、現状課題の整理から始まり段階的に進めることが、失敗リスクを最小化する上で重要です。以下のステップを参考にしてください。
現状分析と自動化対象業務の選定
最初のステップは、現在のコールセンターにおける問い合わせ内容を分析し、AIでの自動化に適した業務を特定することです。具体的には、過去1〜3ヶ月分の通話ログを分析し、頻度の高い問い合わせカテゴリをリストアップします。FAQで対応可能な定型問い合わせ、手続きの案内・受付、営業時間や住所などの情報案内は、AIとの相性が非常に高い業務です。一方で、クレーム対応や複雑な契約交渉、感情的なサポートが必要な案件は引き続き有人対応を前提に設計する必要があります。自動化できる業務が全体の何%を占めるかを定量的に把握することで、投資対効果の試算が可能になります。
パイロット導入と段階的な展開
AIエージェントは最初から全業務に導入するのではなく、自動化対象として特定した特定カテゴリの問い合わせに絞ってパイロット導入することが推奨されます。たとえば「営業時間・店舗案内」「配送状況照会」「パスワードリセット手続き」など、難易度が低く頻度の高い業務から始め、精度と顧客反応を測定します。パイロット期間中に取得したデータをもとにナレッジを改善し、エスカレーション閾値を調整してから範囲を段階的に広げていくアプローチが、スムーズな組織的定着につながります。ベンダー選定においては、自社の既存CTIやCRMシステムとの連携実績と、導入後のサポート体制を必ず確認してください。
AIエージェントがもたらすコールセンターの未来

2026年以降、AIエージェントはコールセンターの役割をさらに根本的に変えていくと予想されています。単なる問い合わせ処理の自動化にとどまらず、顧客との関係構築や収益創出に貢献するビジネスアセットへと進化が続いています。
エージェンティックAIによる問題解決の完結化
現時点のAIエージェントは「応答する」役割が中心ですが、エージェンティックAIと呼ばれる次世代技術では、AIが自律的に複数のシステムを操作して問題を解決するまで完結できる段階へと進化しています。たとえば「住所変更をしたい」という問い合わせに対して、AIが顧客本人確認を行い、基幹システムにアクセスして住所変更処理を実行し、確認メールを送信するところまで一貫して自動処理できるようになります。これはこれまでの「回答して有人に繋ぐ」ではなく、「問題を解決して完結させる」という質的に異なるレベルの自動化です。ベルシステム24が2026年にサービス開始を予定しているHOLは、こうしたエージェンティックAIの実用化を見据えた先行事例として注目されています。
オペレーターの役割変革とエンゲージメント向上
AIが定型業務を担うことで、オペレーターは複雑な交渉・感情的サポート・提案営業など、高付加価値な業務に集中できるようになります。これはオペレーターの仕事の質的な向上であり、やりがいや専門性の高まりによる離職率の改善にもつながります。カインズのようにコールセンターをコストセンターからプロフィットセンターへと転換する動きは今後さらに加速し、AIが収集・分析した顧客インサイトを商品開発やマーケティング戦略に活用するコンタクトセンターが増えていくと考えられます。AIとオペレーターが互いの強みを活かして協働する体制こそが、次世代コールセンターの姿です。
まとめ

本記事では、コールセンターにおけるAIエージェントの活用事例を「自動応答・ボイスボット」「オペレーター支援」「後処理・品質管理の自動化」という3つの領域に分けて紹介しました。ソフトバンク・アフラック・三菱UFJ銀行・東京ガス・カインズ・JALカード・SBI生命保険など、業種を超えた多くの企業が、AIエージェントによる応対品質の向上と業務効率化を同時に実現しています。
成功事例に共通しているのは、AIと有人対応のハイブリッド設計・ナレッジベースの整備・適切なKPI設定という3つのポイントです。導入は全業務への一気通貫展開ではなく、自動化対象を絞ったパイロット導入から段階的に進めることが、リスクを抑えて確実な成果につながります。コールセンターのAIエージェント化は、もはや「いつか検討するもの」ではなく、「今すぐ着手すべき経営課題」と言えます。自社の課題に合わせた活用領域の特定と、信頼できる導入パートナーの選定から始めてみてください。
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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
