卸売業や商社といったBtoB企業が自社の通販サイトやECシステムを構築する動きが、ここ数年で急速に広がっています。経済産業省が2025年に公表した「電子商取引に関する市場調査」によれば、国内BtoB-EC市場の規模は約465兆円に達し、EC化率も40%を超える水準にまで成長しました。特に卸売・商社領域では、従来のFAXや電話による受発注からの脱却が業界全体の課題となっており、取引先との受発注業務をオンライン化することで業務効率を飛躍的に向上させた事例が続々と報告されています。しかし、BtoCのECサイトとは異なり、卸売・商社向けのEC開発には取引先ごとの掛率設定、ロット単位の発注、与信管理、基幹システムとの連携など、業界固有の複雑な要件が存在するため、「どのような手順で開発を進めればよいのか」「どの工程に重点を置くべきか」が分からないという声が多く聞かれます。
本記事では、BtoB卸売・商社向けの通販/EC開発について、全体像の理解から具体的な進め方、費用相場、見積もりを取る際の実務的なポイントまでを体系的に解説します。初めてEC化に取り組む企業の担当者はもちろん、既存のECシステムのリニューアルを検討されている方にとっても、プロジェクトを確実に成功へ導くための判断材料をお伝えする内容です。最後までお読みいただくことで、自社の商流に最適なEC開発の手法と発注先の選び方が明確になり、次の具体的なアクションを決められるようになるはずです。
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▼全体ガイドの記事
・BtoB卸売・商社向けの通販/EC開発の完全ガイド
BtoB卸売・商社向けの通販/EC開発の全体像

BtoB卸売・商社向けの通販/ECシステムとは、企業間の商品受発注をオンライン上で完結させるためのプラットフォームです。BtoCのECサイトが一般消費者に向けて商品を1個単位で販売するのに対し、BtoB卸売ECでは取引先企業ごとに異なる掛率(卸値)の設定、ケース単位やロット単位での発注、請求書払いや月末締め翌月末払いといった企業間特有の決済方式、さらには与信限度額の管理や承認ワークフローなど、消費者向けECにはない多層的なビジネスロジックへの対応が求められます。たとえば食品卸の場合、同一商品であっても取引先の年間購入額に応じて3段階から5段階の価格テーブルが設定されることが一般的で、さらに期間限定のキャンペーン掛率や数量割引が複合的に適用されるケースも珍しくありません。こうした複雑な商慣習をシステムに正確に反映させることが、BtoB卸売EC開発の最大の特徴であり、同時に最大の難所でもあります。
EC構築の方式と選択肢
BtoB卸売・商社向けのECシステムを構築する方式は、大きく分けて4つのカテゴリに分類されます。1つ目は「ASP/SaaS型」で、ecbeing BtoB、Bカート、楽楽B2Bなどのクラウドサービスを利用する方式です。初期費用を50万〜300万円程度に抑えられ、導入までの期間も1〜3か月と短いのが強みですが、カスタマイズの自由度には限界があります。特に独自の掛率計算ロジックや基幹システムとの深い連携が必要な場合、SaaS型では対応しきれないケースが出てきます。2つ目は「パッケージカスタマイズ型」で、EC-CUBEやShopifyのBtoB向けプラグイン、あるいはBtoB専用パッケージをベースにカスタマイズを加える方式です。初期費用は300万〜1,500万円程度で、SaaS型よりも柔軟な対応が可能ですが、パッケージの制約を超えたカスタマイズは技術的な難易度が上がり、工数も増加します。3つ目は「フルスクラッチ型」で、ゼロからシステムを設計・開発する方式です。費用は1,500万〜8,000万円以上と最も高額になりますが、自社の商流や業務フローに完全にフィットしたシステムを実現できます。年商100億円を超える卸売企業や、数千SKU以上の商品を扱う商社では、基幹システムとの連携の深さやパフォーマンスの観点からフルスクラッチを選択するケースが多く見られます。4つ目は「ヘッドレスコマース型」で、フロントエンド(ユーザーが操作する画面部分)とバックエンド(受発注処理や在庫管理などのビジネスロジック部分)を分離するアーキテクチャです。近年はcommercetools、Elastic Path、Medusaなどのヘッドレスコマースプラットフォームを活用し、既存の基幹システムやERPとAPIで柔軟に連携させるアプローチが注目されています。
卸売・商社ECに求められる固有機能
BtoB卸売・商社向けのECシステムには、BtoCのECとは根本的に異なる固有の機能群が必要です。まず最も重要なのが「取引先別価格管理」です。卸売業では同一商品であっても取引先ごとに異なる卸値が適用されるのが常識であり、取引先ランクに応じた掛率テーブル、数量ディスカウント、期間限定プロモーション価格などを柔軟に設定・管理できる仕組みが不可欠です。ある建材卸では約3,000社の取引先に対して5段階の価格ランクを設定しており、さらに商品カテゴリごとに異なる掛率を適用するため、価格テーブルの組み合わせは数万パターンに及んでいます。次に「受発注ワークフロー」として、発注の承認フロー、分納・バックオーダー対応、定期発注(リピート注文)の自動化などが求められます。卸売業の受注処理では、注文金額が一定額を超えた場合に上長の承認を必要とする多段階承認フローが一般的であり、この仕組みをEC上で再現する必要があります。さらに「在庫・物流連携」として、リアルタイムの在庫情報を取引先に表示する機能、複数倉庫からの出荷振り分け、ロット管理や賞味期限管理なども卸売ECでは標準的な要件です。加えて「掛売り決済と与信管理」として、請求書払い、月末締め翌月末払い、手形決済といったBtoB特有の決済方式に対応し、取引先ごとの与信限度額をリアルタイムで管理する機能も必須となります。日本の卸売業における決済のうち、クレジットカード払いが占める比率はわずか5%程度で、約80%が掛売り(請求書払い)です。この実態を踏まえると、BtoC向けの決済モジュールをそのまま転用するだけでは不十分であり、Paid、NP掛け払い、マネーフォワード ケッサイといったBtoB向け後払い決済サービスとの連携や、自社で与信審査を行う仕組みの構築が必要になります。
BtoB卸売・商社向けの通販/EC開発の進め方

BtoB卸売・商社向けのEC開発は、一般的なシステム開発と同様に「要件定義・企画」「設計・開発」「テスト・リリース」の3つの大きなフェーズで進められます。ただし、卸売・商社特有の商慣習や取引先との関係性を踏まえた配慮が各フェーズで求められるため、BtoCのEC開発やBtoBアプリ開発とは異なる視点が不可欠です。プロジェクト全体の期間は、SaaS型の導入であれば1〜3か月、パッケージカスタマイズ型で3〜8か月、フルスクラッチ型で8〜18か月が一般的な目安となります。ここでは各フェーズのポイントを、卸売・商社の業務実態に即して詳しく解説します。
要件定義・企画フェーズ
卸売・商社向けEC開発の成否を左右する最も重要な工程が、この要件定義・企画フェーズです。このフェーズでは「どの取引先との取引をEC化するのか」「現在の受発注プロセスのどこにボトルネックがあるのか」「EC化によってどのような定量的成果を実現するのか」を明確にします。まず取り組むべきは、現行の受発注業務フローの可視化です。ある食品卸の事例では、業務フローの詳細分析を行った結果、1件の電話受注に平均12分、FAX受注のデータ入力に平均8分を要しており、営業事務担当者1人あたり1日に約60件の受注処理を行っていることが判明しました。この工程をEC化することで、受注処理時間を1件あたり2分以下に短縮し、営業事務の工数を約70%削減するという定量目標を設定しています。要件定義書に盛り込むべき項目としては、機能要件として「取引先別価格テーブル管理」「ロット単位発注」「承認ワークフロー」「在庫リアルタイム連携」「請求書自動発行」「出荷ステータス通知」などの個別機能を列挙するとともに、非機能要件として「同時アクセス300ユーザーに対するレスポンス3秒以内」「99.9%以上の稼働率」「SSL/TLSによる通信暗号化とIPアドレス制限」なども明記する必要があります。さらに重要なのが、既存の基幹システム(販売管理システム、在庫管理システム、会計システムなど)との連携要件の整理です。多くの卸売企業では、受注データを基幹システムに手入力する二重作業が発生しているケースが多く、ECシステムから基幹システムへのデータ自動連携を実現することで、入力ミスの防止と業務効率の大幅な改善が期待できます。このフェーズの所要期間は一般的に4〜10週間で、プロジェクトマネージャー、営業部門の担当者、物流担当者、情報システム部門、開発会社のSEが連携してワークショップ形式で進めるのが理想的です。IPA(情報処理推進機構)の調査によると、要件定義に十分な工数を投入しなかったプロジェクトでは、開発フェーズ以降で30〜50%のコスト増加が生じるリスクがあることが報告されており、この工程への投資は決して惜しむべきではありません。
設計・開発フェーズ
要件定義が完了したら、次は設計・開発フェーズに移ります。設計工程は「基本設計(外部設計)」と「詳細設計(内部設計)」の2段階で進められます。基本設計では、画面遷移図、データベースのER図、API設計書、システム構成図などECシステムの骨格となる設計書を作成します。卸売・商社向けEC開発の基本設計で特に注意すべきポイントは3つあります。1つ目は、取引先別価格管理のデータ設計です。取引先ランク、商品カテゴリ、数量条件、期間条件などが複合的に絡む価格計算ロジックを、拡張性を持たせながら設計する必要があります。価格テーブルの構造が不十分だと、後から新しい価格体系を追加する際に大規模な改修が必要になるため、将来の商流変化も見据えた柔軟な設計が求められます。2つ目は、基幹システムとの連携方式の設計です。販売管理システム(例:大塚商会のSMILE、OBCの商奉行、SAPなど)との連携をAPIによるリアルタイム同期で行うのか、バッチ処理による定期連携で行うのか、あるいはCSVファイルの入出力で簡易に対応するのかによって、開発コストと運用負荷が大きく変わります。ある機械部品商社では、既存の販売管理システムにAPIが用意されていなかったため、RPAを活用してECの受注データを基幹システムに自動転記する中間的なソリューションを採用し、フルAPI連携の開発コスト(約800万円)を約200万円に圧縮した事例もあります。3つ目は、商品マスタの統合設計です。卸売企業が扱う商品数は数千から数万SKUに及ぶことが多く、メーカー型番、自社品番、JANコードなど複数の識別子が混在する商品データを一元管理するマスタ設計は非常に重要です。開発工程では、フロントエンド(React、Next.js、Vue.jsなどが主流)とバックエンド(Node.js、Python/Django、PHP/Laravel、Java/Spring Bootなどが代表的)を並行して進めるのが一般的です。開発チームの体制としては、中規模案件の場合、プロジェクトマネージャー1名、リードエンジニア1名、フロントエンドエンジニア1〜2名、バックエンドエンジニア2〜3名、インフラエンジニア1名の構成が標準的です。スプリント期間は2週間が最も一般的で、各スプリントの終了時にはデモを実施し、発注側の営業部門や物流担当者のフィードバックを次のスプリントに反映させる運用が推奨されます。卸売ECの開発では、取引先へのヒアリングも欠かせません。主要取引先5〜10社程度にプロトタイプを見せてフィードバックを収集し、実際の発注業務に使いやすいUIに仕上げていくプロセスが、EC化後の利用率向上に直結します。
テスト・リリースフェーズ
開発が完了した機能は、品質を担保するために複数のレイヤーでテストを実施します。卸売・商社向けEC開発では、まず単体テストで各APIエンドポイントや価格計算ロジックが仕様どおりに動作するかを検証します。特に取引先別価格テーブルの計算ロジックは、組み合わせのパターンが膨大になるため、テストケースの設計に十分な工数を確保する必要があります。ある化学品商社のEC開発プロジェクトでは、価格計算ロジックだけで約1,200パターンのテストケースを作成し、全パターンの自動テストを構築しています。次に結合テストでは、ECフロント、バックエンド、基幹システム連携、決済モジュールなど複数のモジュールを連携させた状態で、受注から出荷までの一連のビジネスフローに問題がないかを確認します。システムテスト(総合テスト)では、本番環境に近い状態で実際の業務シナリオに沿ったテストを行い、同時に100社200ユーザーがアクセスした場合のパフォーマンスや、在庫データの整合性、与信チェックの正確性などを検証します。さらに受入テスト(UAT)として、社内の営業事務担当者や物流担当者に加え、主要取引先にもテスト環境を公開して実際に発注操作を行ってもらうことが推奨されます。取引先からのフィードバックはEC化後の利用率に直結するため、UATで寄せられた改善要望には優先的に対応すべきです。テストフェーズ全体の所要期間は、中規模案件で4〜8週間を確保するのが一般的です。リリース方法としては、いきなり全取引先にEC利用を開放するのではなく、まず取引頻度が高く協力的な10〜20社程度の取引先を対象にパイロットリリースを行い、2〜4週間の試験運用を通じて問題点を洗い出した後に段階的に対象を拡大するアプローチが強く推奨されます。ある日用品卸では、約2,000社の取引先のうちまず上位30社で1か月間のパイロット運用を実施し、受注データの整合性チェックや画面の使い勝手に関する約50件の改善要望を反映した後に全社展開を行うことで、EC利用率を半年で65%にまで引き上げた実績があります。また、ECシステムの導入と並行して、取引先向けの操作マニュアルの整備やオンライン説明会の開催といった運用支援の準備も忘れてはなりません。
費用相場とコストの内訳

BtoB卸売・商社向けのEC開発費用は、構築方式や機能の複雑さ、基幹システムとの連携範囲によって大きく異なります。ここでは費用構造を正しく理解するために、人件費・工数の観点とランニングコストの観点から詳しく解説します。
人件費と工数
EC開発費用の大半を占めるのが人件費です。開発会社に支払う費用は「エンジニアの人月単価 × 工数(人月)」で算出されるのが基本です。2025年時点の国内相場として、プロジェクトマネージャーの人月単価は120万〜180万円、シニアエンジニアが100万〜150万円、ミドルクラスのエンジニアが80万〜120万円、ジュニアエンジニアが50万〜80万円が目安です。大手SIerに発注する場合はこれらの単価がさらに1.3〜1.5倍程度高くなる傾向があります。卸売・商社向けEC開発の費用を構築方式別に見ると、SaaS型(Bカート、楽楽B2Bなど)の場合は初期設定費用50万〜300万円に加えて月額利用料が5万〜30万円程度です。パッケージカスタマイズ型(EC-CUBEベースなど)は初期費用300万〜1,500万円で、カスタマイズの範囲が広がるほど費用が上昇します。フルスクラッチ型は1,500万〜8,000万円が一般的な相場で、基幹システムとの連携やマルチ倉庫対応など複雑な要件を含む場合は1億円を超えるケースもあります。工数の内訳としては、要件定義に全体の15〜20%、設計に20〜25%、開発(フロントエンド・バックエンド・基幹連携)に30〜35%、テスト・品質保証に15〜20%、プロジェクト管理とデータ移行に5〜10%が配分されるのが標準的です。卸売EC特有のコスト要因として、商品マスタの移行費用も見落とせません。数万SKUの商品データを旧システムやExcelから新ECシステムに移行する作業は、データクレンジングを含めると100万〜500万円程度の費用が発生することがあります。また、取引先マスタの移行(取引先別価格テーブル、与信情報、過去の取引履歴など)も同様に手間のかかる工程であり、事前にデータの品質と量を把握したうえで見積もりに含めておくことが重要です。
初期費用以外のランニングコスト
BtoB卸売ECの運用において見落とされがちなのがランニングコストです。初期開発費用の安さだけで発注先を決めてしまうと、運用開始後に想定外の出費に直面するケースが少なくありません。ランニングコストの主な構成要素は、サーバー・インフラ費用、保守運用費用、決済手数料、ライセンス費用の4つです。サーバー・インフラ費用は、AWSやGoogle Cloud、Azureなどのクラウドサービスを利用する場合、月額10万〜60万円が中規模ECサイトの相場です。卸売ECでは月末に注文が集中する傾向があるため、ピーク時のトラフィックに耐えられるスケーリング設計とそのコストを見込んでおく必要があります。保守運用費用は、バグ修正、セキュリティパッチの適用、OS・ミドルウェアのアップデート対応、取引先からの問い合わせ対応などを含み、初期開発費用の15〜20%を年間の保守費として見込むのが業界標準です。たとえば初期費用が2,000万円のECシステムであれば、年間300万〜400万円の保守費用が発生します。決済手数料については、BtoB向け後払い決済サービス(Paid、NP掛け払いなど)を利用する場合、取引金額の1.5〜3.5%程度の手数料が発生します。月間の取引額が5,000万円の場合、決済手数料だけで月75万〜175万円になる計算です。ただし、掛売り決済代行を利用することで自社の未回収リスクを軽減できるため、貸倒損失の削減効果と比較して判断する必要があります。ライセンス費用としては、ECパッケージの年間ライセンス料(50万〜300万円程度)、サードパーティAPIの利用料(物流連携、帳票作成、メール配信など)があります。TCO(Total Cost of Ownership:総所有コスト)の観点からは、5年間のトータルコストで投資判断を行うことが重要です。たとえば初期費用が500万円のSaaS型と初期費用2,000万円のフルスクラッチ型を比較する場合、SaaS型は月額利用料20万円が5年間で1,200万円、合計1,700万円となり、フルスクラッチ型は保守費年間400万円の5年間で2,000万円、合計4,000万円となります。ただし、フルスクラッチ型はカスタマイズの自由度が高く、取引先数の増加に伴うスケーラビリティでも優位性があるため、単純な金額比較だけでなく、中長期的なビジネス成長を見据えた判断が求められます。
見積もりを取る際のポイント

BtoB卸売・商社向けEC開発の見積もりは、発注先に依頼を丸投げするのではなく、自社側でもしっかりと準備を整えたうえで進めることが、適正な価格で高品質なシステムを手に入れるための鍵となります。ここでは、見積もり精度を高めるための具体的なポイントを3つの観点から解説します。
要件明確化と仕様書の準備
見積もりの精度は、発注側が提示する情報の質に大きく左右されます。「卸売向けのECサイトを作りたい」という抽象的な依頼だけでは、開発会社はリスクを考慮して安全マージンを多く乗せた高めの見積もりを出さざるを得ません。一方、取引先別の価格テーブルの仕様、受発注フローの業務フロー図、連携する基幹システムのインターフェース仕様、取り扱い商品数やSKU数、想定取引先数と同時アクセス数などを事前に整理して提示すれば、開発会社は正確な工数算出が可能になり、結果的に適正価格が提示される可能性が大幅に高まります。理想的にはRFP(提案依頼書)として、「プロジェクトの目的・背景(なぜEC化するのか)」「EC化の対象範囲(全取引先か一部か、全商品か一部カテゴリか)」「必要な機能一覧と優先度」「非機能要件(性能、セキュリティ、可用性)」「連携する既存システムの一覧と仕様」「予算と期間の目安」「期待する開発手法と体制」をまとめたドキュメントを準備するのが望ましいです。RFP作成に社内リソースが不足している場合は、ITコンサルタントやEC導入支援の専門会社に作成を依頼する選択肢もあります。RFP作成支援の費用は50万〜200万円程度が相場ですが、この投資により見積もりのブレが大幅に縮小し、結果として開発費用全体の適正化につながるケースが数多く報告されています。
複数社比較と発注先の選び方
BtoB卸売EC開発の発注先を選定する際は、最低でも3社以上から見積もりを取得し、多角的に比較検討を行うことが鉄則です。発注先の候補としては、大手SIer、BtoB-EC専業の開発会社、中堅の受託開発会社、フリーランスチーム、オフショア開発会社の5つのカテゴリが考えられます。大手SIerはプロジェクト管理の安定感や大規模開発の実績に強みがありますが、人月単価が高く最低発注金額も大きくなりがちです。BtoB-EC専業の開発会社はドメイン知識の深さが大きなアドバンテージで、卸売業特有の商慣習を理解したうえでの提案が期待できます。中堅の受託開発会社はコストと品質のバランスに優れ、柔軟な対応力が強みです。比較の際に最も重視すべきは、同業界(卸売・商社)のBtoB-EC開発実績の有無です。食品卸のECと工業部品商社のECでは、必要な機能も商慣習も大きく異なるため、自社の業界を理解している開発会社を選ぶことで、要件定義のスピードと品質が格段に向上します。次に見るべきは提案内容の具体性です。見積書の工数が「EC構築一式」という大項目だけで記載されている場合と、「取引先別価格テーブル機能:フロントエンド○人月、バックエンド○人月」のように機能単位で細分化されている場合では、後者のほうが圧倒的に信頼性が高いと判断できます。また、パイロットリリース後のサポート体制、取引先への導入支援の有無、基幹システム連携に関する技術的な知見なども、見積もりの金額だけでなく確認しておくべき重要な要素です。ある建材卸の事例では、見積もり金額が最も安かった会社ではなく、2番目に安い会社を選定しました。その理由は、建材業界の受発注フローに精通した専任PMが配置され、基幹システム(大塚商会のSMILE)との連携実績が5件以上あったためです。結果として、要件定義の手戻りが最小限に抑えられ、当初の見積もり金額から5%以内の差異でプロジェクトが完了しています。
注意すべきリスクと対策
BtoB卸売・商社向けEC開発のプロジェクトには、いくつかの典型的なリスクが存在します。最も発生頻度が高いのが「取引先のEC移行が進まない」というリスクです。ECシステムを開発しても、取引先が従来どおり電話やFAXで発注を続けてしまうと、EC化の投資効果が大幅に損なわれます。対策としては、EC利用時の価格優遇(EC限定の割引率設定)、24時間365日いつでも発注できる利便性の訴求、注文履歴のワンクリック再発注機能の提供など、取引先にとってのメリットを明確にする施策を事前に設計しておくことが重要です。ある文具卸では、EC経由の発注に対して0.5%のリベートを付与する施策を導入したところ、3か月でEC利用率が15%から55%に急増したという実績があります。2つ目のリスクは「基幹システムとの連携トラブル」です。販売管理システムや在庫管理システムとのデータ連携は、仕様書が十分に整備されていない古いシステムの場合、想定以上の調査・開発工数が必要になることがあります。対策としては、要件定義の早い段階で連携先システムの技術的な調査を行い、プロトタイプレベルのPoC(概念実証)を実施して連携の実現可能性を検証することが推奨されます。PoCの費用は50万〜150万円程度ですが、本開発に入ってから連携がうまくいかないことが判明した場合の手戻りコスト(数百万円規模)と比較すれば、十分に価値のある先行投資です。3つ目は「スコープクリープ(要件の膨張)」で、開発が進むにつれて「この機能も追加してほしい」という要望が増え、予算やスケジュールを大幅に超過してしまうケースです。対策としては、MVP(Minimum Viable Product)の範囲を要件定義の段階で明確に定義し、追加要望はフェーズ2以降の開発として切り分けるルールを合意しておくことが有効です。4つ目として、セキュリティリスクへの対応も見逃せません。BtoB卸売ECは取引先の企業情報や取引条件、場合によっては個人情報も扱うため、開発段階からセキュアコーディングの実践、脆弱性診断の実施、SSL/TLSによる通信暗号化、アクセスログの監視体制構築を計画に組み込む必要があります。情報セキュリティインシデントが発生した場合の損害は、システム復旧費用に加えて取引先からの信頼失墜による売上減少も含めると数千万円に達する可能性があり、事前対策のコストと比較して極めてリスクが大きいことを認識しておくべきです。
まとめ

本記事では、BtoB卸売・商社向けの通販/EC開発について、全体像から具体的な進め方、費用相場、見積もり時のポイントまでを体系的に解説しました。卸売・商社向けEC開発を成功に導くためには、まず要件定義・企画フェーズにおいて現行の受発注業務を徹底的に可視化し、EC化によって実現すべき定量目標を明確にすることが出発点です。構築方式の選定では、SaaS型、パッケージカスタマイズ型、フルスクラッチ型、ヘッドレスコマース型のそれぞれの特性を理解し、自社の商品数、取引先数、基幹システムの状況、中長期的なビジネス計画を踏まえて最適な方式を判断することが重要です。設計・開発フェーズでは、取引先別価格管理のデータ設計、基幹システムとの連携方式、商品マスタの統合設計といった卸売・商社特有の技術課題に十分な注意を払う必要があります。テスト・リリースフェーズでは、主要取引先を対象としたパイロットリリースと段階的な展開が、EC利用率の早期向上とリスク低減の両方を実現する有効なアプローチです。費用面では、初期開発費用だけでなく、サーバー費用、保守運用費用、決済手数料、ライセンス費用を含めた5年間のTCOで投資判断を行うことが不可欠となります。発注先の選定においては、卸売・商社向けBtoB-EC開発の実績を持つ企業を最低3社以上比較し、見積もりの粒度、基幹システム連携の技術力、取引先への導入支援体制まで含めて総合的に評価することを強く推奨します。まずは自社の受発注業務の現状分析とRFPの整備から着手し、明確な要件のもとで見積もりを依頼することが、プロジェクト成功への最も確実な第一歩です。
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・BtoB卸売・商社向けの通販/EC開発の完全ガイド

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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
