ECサイト/システム開発の進め方/やり方/流れや方法/手法/工程/手順

本記事では、ECサイト・システム開発の進め方・やり方・流れや方法・手法・工程・手順について、要点を整理して解説します。結論として、ECサイトおよびECシステムの開発は、要件定義・企画から設計・開発、テスト・リリースまでの各フェーズを計画的に進めることが成功の前提条件です。構築方式の選定はプロジェクト全体の方向性を決定づける重要な判断であり、自社の事業規模、予算、将来的な拡張性を総合的に考慮して最適な方式を選ぶ必要があります。

  • ECサイト/システム開発の全体像
  • ECサイト/システム開発の進め方
  • 費用相場とコストの内訳
  • 見積もりを取る際のポイント

ECサイトやECシステムの開発を検討されている企業担当者の方にとって、「どのような流れで開発を進めるのか」「費用はどれくらいかかるのか」「発注先をどう選べばよいのか」といった疑問は尽きないものです。経済産業省の調査によると、国内BtoC-EC市場規模は2024年に約24.8兆円に達し、BtoB-EC市場も含めると400兆円を超える規模にまで成長しています。こうした市場拡大を背景に、新規にECサイトを立ち上げる企業だけでなく、既存のECシステムをリニューアルする企業も増加の一途をたどっています。しかし、ECサイトの開発は単にショッピングカートを設置すれば完了するものではなく、要件定義から設計、開発、テスト、リリース、そして運用保守に至るまで、多くの工程を計画的に進める必要があります。

本記事では、ECサイトおよびECシステム開発の全体像を俯瞰したうえで、具体的な進め方を3つのフェーズに分けて詳しく解説します。さらに、費用相場やコストの内訳、見積もりを取る際に押さえておくべきポイントまで、実務で役立つ情報を網羅的にお伝えします。初めてECサイトの開発に取り組む方はもちろん、リニューアルや機能拡張を検討されている方にとっても、プロジェクトを成功に導くための実践的な指針となるはずです。

本テーマに関する全体ガイドは、以下の記事をご覧ください。

▼全体ガイドの記事
・ECサイト/システム開発の完全ガイド

ECサイト/システム開発の全体像

ECサイト/システム開発の全体像

ECサイトの開発は、事業戦略の策定からシステムの本番稼働までを一連のプロジェクトとして捉える必要があります。開発手法にはウォーターフォール型とアジャイル型の2つのアプローチがあり、プロジェクトの規模や要件の確定度合いによって最適な手法が異なります。一般的に、要件がある程度固まっている中〜大規模なECシステム開発ではウォーターフォール型が採用されることが多く、スピード重視で段階的にリリースしたい場合にはアジャイル型が選ばれる傾向にあります。いずれの手法であっても、企画・要件定義、設計、開発、テスト、リリース・運用という基本的な工程は共通しており、各工程で何を決め、何を作り、何を確認するのかを事前に理解しておくことが、プロジェクト成功の第一歩となります。

ECサイトの構築方式と選択肢

ECサイトの構築方式は大きく5つに分類されます。第一に「ASP・SaaS型」で、Shopify、BASE、STORESといったクラウドサービスを利用する方法です。月額数千円から利用でき、専門知識がなくても短期間でECサイトを立ち上げられる反面、デザインや機能のカスタマイズ性には制約があります。第二に「オープンソース型」で、EC-CUBEやMagentoなどのオープンソースソフトウェアを自社サーバーやクラウド環境に構築する方法です。初期費用は比較的抑えられますが、サーバーの構築・運用やセキュリティ対策を自社で行う必要があるため、一定の技術力が求められます。第三に「パッケージ型」で、ecbeingやコマース21といった商用パッケージを導入する方法です。ECに必要な機能が標準搭載されており、カスタマイズも柔軟に行えるため、年商数億円以上の中〜大規模EC事業者に多く採用されています。導入費用は500万〜3,000万円程度が相場となります。第四に「フルスクラッチ型」で、ゼロからすべてを自社仕様で開発する方法です。自由度は最も高いものの、開発期間は6ヶ月〜1年以上、費用も3,000万〜1億円以上かかることが一般的で、年商数十億円規模の大手企業向けの選択肢です。第五に「ヘッドレスコマース型」で、フロントエンド(ユーザーが見る画面)とバックエンド(注文管理や在庫管理)を分離し、API連携で接続する最新のアーキテクチャです。commercetoolsやShopify Hydrogen、medusajsなどが代表的なプラットフォームであり、複数チャネル(Webサイト、モバイルアプリ、店舗端末など)で統一された購買体験を提供できる点が大きなメリットとなります。

2025年から2026年にかけてのEC開発においては、いくつかの注目すべきトレンドが存在します。まず、AIを活用したパーソナライゼーション機能の実装が急速に広がっています。商品レコメンドエンジン、チャットボットによる購買支援、画像検索による類似商品提案など、AIが購買体験を大きく向上させる要素として組み込まれるケースが増えています。あるアパレルEC企業では、AIレコメンドエンジンの導入により客単価が平均18%向上し、コンバージョン率も1.4倍に改善した事例が報告されています。次に、マイクロサービスアーキテクチャの採用が進んでいます。従来のモノリシック(一枚岩)な構成から、決済、在庫管理、顧客管理、検索などの機能を独立したサービスとして構築し、APIで連携させるアプローチです。この方式を採用することで、特定の機能だけを独立してアップデートしたり、トラフィックが集中する機能だけをスケールアウトしたりすることが容易になります。また、越境EC対応のニーズも高まっており、多言語・多通貨対応、国際配送連携、現地決済手段の導入といった機能要件がプロジェクトに含まれるケースが増加しています。財務省の貿易統計によると、日本のEC事業者による越境EC取引額は2024年に約5,200億円に達し、5年前と比較して約2.3倍に成長しています。さらに、サステナビリティへの関心の高まりから、カーボンフットプリントの表示機能やエシカル商品のフィルタリング機能を実装するECサイトも登場しており、社会的な価値を組み込んだEC開発が今後ますます重要になると見込まれています。

ECサイト/システム開発の進め方

ECサイト/システム開発の進め方

ECサイト開発のプロジェクトは、大きく「要件定義・企画フェーズ」「設計・開発フェーズ」「テスト・リリースフェーズ」の3段階に分けて進行します。それぞれのフェーズで何を行い、どのような成果物を作成し、どのような判断を下す必要があるのかを順を追って解説します。プロジェクト全体の期間は、ASP型であれば1〜3ヶ月、パッケージ型で3〜6ヶ月、フルスクラッチ型で6ヶ月〜1年以上が一般的な目安です。

要件定義・企画フェーズ

ECサイト開発において、最も重要かつ時間をかけるべきフェーズが要件定義・企画です。このフェーズでの意思決定がプロジェクト全体の品質、コスト、スケジュールを大きく左右するため、十分な検討と関係者間の合意形成が不可欠となります。まず取り組むべきは、事業戦略とECサイトの位置づけの明確化です。自社のビジネスモデルにおいてECサイトがどのような役割を果たすのか、ターゲット顧客は誰なのか、競合他社と比較してどのような差別化を図るのかといった上位の戦略を固めることから始めます。ある食品メーカーの事例では、この段階で「実店舗との連携を重視し、オンラインとオフラインの会員データを統合する」という方針を明確にしたことで、後の設計フェーズでスムーズにOMO(Online Merges with Offline)対応のシステム設計に落とし込むことができました。

次に、具体的な機能要件と非機能要件を整理します。機能要件とは、商品検索、カート機能、決済処理、会員管理、ポイントシステム、クーポン管理、レビュー機能、お気に入り登録、注文履歴、配送状況追跡といった、ECサイトに実装する具体的な機能の一覧です。一方、非機能要件とは、同時アクセス数への対応(ピーク時に1万人が同時にアクセスしても問題なく動作するかなど)、レスポンス速度(ページ表示が3秒以内に完了するかなど)、セキュリティ要件(PCI DSSへの準拠、個人情報保護法への対応など)、可用性(99.9%以上の稼働率を保証するかなど)を指します。これらを要件定義書としてドキュメントに落とし込み、発注側と受注側の双方で認識を揃えることが、後工程でのトラブル防止に直結します。

また、このフェーズでは外部システムとの連携要件も洗い出しておく必要があります。基幹システム(ERP)との在庫連携、物流システム(WMS)との出荷連携、CRMとの顧客データ連携、会計システムとの売上データ連携、決済代行サービス(GMOペイメントゲートウェイ、SBペイメントサービスなど)との接続、配送業者のAPIとの連携など、ECサイトは多くの外部システムと接続するケースが大半です。これらの連携仕様を早い段階で把握しておかないと、開発フェーズに入ってから「連携先のAPIが想定と異なっていた」「必要なデータが取得できなかった」といった手戻りが発生するリスクがあります。要件定義・企画フェーズの標準的な期間は、小規模案件で2〜4週間、中〜大規模案件で1〜3ヶ月です。

設計・開発フェーズ

要件定義が固まったら、設計・開発フェーズに進みます。このフェーズは「基本設計」「詳細設計」「実装(コーディング)」の3つの工程で構成されるのが一般的です。基本設計では、システム全体のアーキテクチャを決定します。サーバー構成(オンプレミスかクラウドか、AWSかGCPかAzureか)、データベース設計(商品マスタ、顧客マスタ、注文テーブルなどの構造)、画面遷移図(トップページから商品一覧、商品詳細、カート、決済、注文完了までの流れ)、API設計(フロントエンドとバックエンドの通信仕様)などを定義します。近年のEC開発ではAWSを採用するケースが特に多く、Amazon EC2やAmazon RDS、Amazon S3、Amazon CloudFrontといったサービスを組み合わせて、スケーラブルかつ高可用性のインフラを構築するのが主流となっています。

詳細設計では、基本設計で定めた方針をもとに、各機能の処理ロジック、画面レイアウト(ワイヤーフレーム)、データベースの項目定義、外部連携のインターフェース仕様などを具体化します。特にUI/UXデザインは、ECサイトのコンバージョン率に直結する重要な要素です。デザインツール(Figma、Adobe XDなど)を使ってモックアップを作成し、ユーザビリティの観点からレビューを行います。ある化粧品ECの事例では、商品詳細ページのデザインをユーザーテストで3回改善した結果、カート投入率が従来比で32%向上しました。モバイルファーストの設計も必須であり、2025年時点でEC取引の約72%がスマートフォン経由で行われていることを踏まえると、スマートフォンでの表示・操作性を最優先で設計することが求められます。

実装工程では、設計書に基づいてプログラムを作成します。フロントエンド開発にはReact、Next.js、Vue.js、Nuxt.jsなどのフレームワークが広く使われており、バックエンド開発にはPHP(Laravel)、Python(Django)、Ruby(Ruby on Rails)、Java(Spring Boot)、Node.js(Express、NestJS)などが選択されます。ECパッケージを利用する場合は、パッケージの標準機能をベースに、自社固有の要件に合わせてカスタマイズ開発を行います。開発フェーズでは、Git等のバージョン管理ツールを活用したコード管理、コードレビューによる品質担保、CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)パイプラインの構築によるデプロイの自動化が重要な実践事項です。設計・開発フェーズの期間は、パッケージ型で2〜4ヶ月、フルスクラッチ型で4〜8ヶ月が標準的な目安となります。

テスト・リリースフェーズ

ECサイトのテスト工程は、システムの品質と信頼性を確保するための極めて重要なプロセスです。テストは段階的に実施され、単体テスト、結合テスト、システムテスト(総合テスト)、ユーザー受け入れテスト(UAT)の順に進行するのが一般的です。単体テストでは個々の機能(商品検索、カート追加、決済処理など)が設計通りに動作するかを検証します。結合テストでは、複数の機能やモジュールを組み合わせた際に正しく連携するかを確認します。たとえば、「商品をカートに入れてクーポンを適用し、決済を完了するまでの一連の流れ」が途切れなく動作するかを検証するのが結合テストの典型的なシナリオです。

システムテストでは、本番に近い環境で負荷テスト(大量のアクセスに耐えられるか)、セキュリティテスト(脆弱性がないか)、パフォーマンステスト(ページの表示速度が許容範囲内か)を実施します。特にECサイトにおいては、セール時やキャンペーン時にアクセスが集中するケースが想定されるため、負荷テストは必須です。過去には、大手ECサイトがセール開始直後にアクセス集中でダウンし、数千万円規模の機会損失が発生した事例もあります。負荷テストツールとしては、Apache JMeterやGatling、Locustなどが広く使われており、想定ピーク時の2〜3倍のアクセス量でテストを行うことが推奨されます。ユーザー受け入れテストでは、発注側の担当者が実際にECサイトを操作し、ビジネス要件を満たしているかを最終確認します。

テストが完了したら、リリースに向けた準備に移ります。ドメインの設定、SSL証明書の導入、本番環境へのデプロイ、データ移行(既存ECサイトからのリニューアルの場合は顧客データや注文履歴の移行)、Google AnalyticsやGoogle Search Consoleの設定、各種決済サービスの本番切り替えなど、リリース前に対応すべき項目は多岐にわたります。リリース方式としては、一斉切り替え(ビッグバンリリース)とカナリアリリース(一部のユーザーから段階的に新サイトへ切り替える方式)があり、リスクを最小化するためにはカナリアリリースが推奨されます。リリース後は、初期のアクセス状況やエラーログを注意深くモニタリングし、問題があれば迅速に対応できる体制を整えておくことが重要です。リリース直後の2週間は「ハイパーケア期間」として、通常時よりも手厚いサポート体制で運用にあたるのが業界の標準的な慣行です。

費用相場とコストの内訳

ECサイト開発の費用相場とコスト内訳

ECサイト開発の費用は、構築方式や規模、求める機能によって大きく異なります。ここでは、費用を構成する主要な要素を分解して解説し、予算計画の策定に役立つ情報をお伝えします。

人件費と工数

ECサイト開発の費用の大部分を占めるのが人件費です。開発会社はエンジニアの稼働時間(人月)を基準に見積もりを算出するのが一般的で、1人月あたりの単価はエンジニアのスキルレベルや役割によって異なります。プロジェクトマネージャー(PM)は月額80万〜150万円、システムアーキテクトは月額100万〜180万円、バックエンドエンジニアは月額70万〜120万円、フロントエンドエンジニアは月額60万〜110万円、UI/UXデザイナーは月額60万〜100万円、QAエンジニア(テスト担当)は月額50万〜90万円が2025年時点の相場となっています。

構築方式別の開発費用の目安としては、ASP・SaaS型(Shopifyなどを使った構築)では初期費用が50万〜200万円程度で、デザインのカスタマイズやアプリの導入費用が中心となります。オープンソース型(EC-CUBEなど)では200万〜800万円程度で、カスタマイズの範囲によって大きく変動します。パッケージ型では500万〜3,000万円程度で、標準機能のカスタマイズ量と外部システム連携の数によって費用が決まります。フルスクラッチ型では3,000万〜1億円以上となり、機能の複雑さと開発期間に応じて上限は青天井です。これらの費用を理解するうえで重要なのは、「機能を1つ追加するたびに工数が増え、費用が積み上がる」という構造です。たとえば、ポイントシステムの実装には通常2〜4人月(140万〜480万円程度)、定期購入(サブスクリプション)機能の実装には3〜6人月(210万〜720万円程度)、在庫管理システムとのリアルタイム連携には2〜5人月(140万〜600万円程度)がそれぞれ必要となります。要件定義の段階で機能の優先順位を明確にし、「必須機能」と「あれば望ましい機能」を区分けしておくことが、予算内でプロジェクトを完遂するための鍵です。

初期費用以外のランニングコスト

ECサイトの費用を考える際に見落とされがちなのが、リリース後のランニングコストです。初期開発費用だけで予算を組んでしまうと、運用開始後に資金が不足するという事態に陥りかねません。主なランニングコストとしては、まずサーバー・インフラ費用があります。AWSを利用する場合、小〜中規模のECサイトで月額5万〜30万円、大規模サイトでは月額30万〜100万円以上が目安です。トラフィックの増減に応じて費用が変動する従量課金制であるため、セール時やTV露出時にはコストが跳ね上がる可能性があることも考慮に入れておく必要があります。

次に、保守・運用費用があります。システムの監視、障害対応、セキュリティパッチの適用、バグ修正、小規模な機能改善などを開発会社に委託する場合、月額20万〜80万円程度が相場です。一般的に、初期開発費用の15〜20%が年間の保守費用の目安とされています。たとえば、初期開発費用が1,000万円のECサイトであれば、年間150万〜200万円(月額約13万〜17万円)が保守費用の目安となります。さらに、決済手数料も重要なランニングコストです。クレジットカード決済の場合、決済額の3.0〜3.6%が手数料として発生するのが一般的で、月商1,000万円のECサイトであれば月額30万〜36万円の決済手数料が発生します。その他にも、ドメイン費用(年額1,000〜5,000円)、SSL証明書費用(無料〜年額10万円)、メール配信サービス費用(月額数千〜数万円)、CDN費用、WAF(Webアプリケーションファイアウォール)費用などが加算されます。5年間のTCO(総所有コスト)で見ると、初期開発費用の2〜3倍のランニングコストが発生するケースが珍しくないため、プロジェクトの予算策定時には中長期的な視点でコストを見積もることが大切です。

見積もりを取る際のポイント

ECサイト開発の見積もりポイント

ECサイト開発の見積もりは、開発会社によって金額に大きな差が出ることがあります。同じ要件であっても、会社の規模、技術力、プロジェクト管理体制によって見積金額が2〜3倍の開きが生じることも珍しくありません。適正な価格で質の高い開発パートナーを見つけるために、押さえておくべきポイントを解説します。

要件明確化と仕様書の準備

見積もりの精度を上げるために最も重要なのは、依頼側が要件をできる限り明確にしておくことです。「ECサイトを作りたい」という抽象的な依頼では、開発会社もリスクを見込んだ高めの見積もりを出さざるを得ません。逆に、実現したい機能、想定する商品数、月間のアクセス数、必要な決済手段、連携すべき外部システムなどを具体的に整理してから依頼すれば、より正確な見積もりが返ってきます。理想的には、RFP(提案依頼書)を作成して開発会社に提示するのが望ましい方法です。RFPには、プロジェクトの背景と目的、対象ユーザーと想定規模、必要な機能一覧と優先順位、非機能要件(性能、セキュリティ、可用性)、希望するスケジュールと予算感、選定基準を記載します。RFPを作成する余裕がない場合でも、最低限「どのような商品を何点くらい扱うのか」「月間の想定売上規模はどれくらいか」「既存システムとの連携は必要か」「スマートフォン対応は必須か」「運用保守も依頼するのか」といった基本情報を整理してから相談するだけでも、見積もりの精度は格段に向上します。

複数社比較と発注先の選び方

ECサイト開発の発注先を選ぶ際には、最低でも3社以上から見積もりを取得して比較検討することを推奨します。比較のポイントは、単純な金額の大小だけではありません。まず、EC開発の実績を確認します。自社と同じ業種・業態のECサイトを手がけた経験があるかどうかは、プロジェクトの成否を大きく左右する要素です。食品ECと、アパレルECと、BtoB向け部品ECでは、求められる機能や業務フローが大きく異なるため、自社のビジネスに近い実績を持つ開発会社を選ぶことで、要件のヒアリング段階から的確な提案を受けることができます。

次に、提案内容の具体性と網羅性を評価します。優れた開発会社の見積書は、工程ごとの工数内訳が明確に記載されており、「設計: ○人月」「フロントエンド開発: ○人月」「バックエンド開発: ○人月」「テスト: ○人月」「PM: ○人月」といった形で費用の根拠が透明化されています。一方、「ECサイト構築一式: ○○万円」のように一括でしか金額が記載されていない見積書は、後から追加費用が発生するリスクが高いため注意が必要です。さらに、コミュニケーション体制も重要な評価基準です。プロジェクト期間中のミーティング頻度、進捗報告の方法、担当者の窓口が明確かどうか、緊急時の連絡体制が整っているかどうかを確認します。開発会社の規模が大きすぎると、実際の開発が下請け会社に丸投げされるケースもあるため、「実際に開発を担当するメンバーは誰か」を事前に確認しておくことも大切です。契約形態についても、準委任契約(工数ベースで報酬を支払う形態)と請負契約(成果物の完成に対して報酬を支払う形態)の違いを理解し、プロジェクトの特性に合った契約形態を選択することが重要です。

注意すべきリスクと対策

ECサイト開発プロジェクトには、いくつかの典型的なリスクが存在します。最も多いのが「スコープクリープ(要件の肥大化)」です。開発が進むにつれて「この機能も追加したい」「あの画面も変更したい」といった要望が次々と発生し、当初の見積もりを大幅に超過してしまうケースは後を絶ちません。この対策としては、要件定義の段階でスコープを明確に文書化し、追加要件が発生した場合の費用・スケジュールへの影響を都度合意するプロセスを設けることが有効です。変更管理のルールをプロジェクト開始時に定めておくことで、スコープクリープのリスクを大幅に軽減できます。

次に注意すべきは「ベンダーロックイン」のリスクです。特定の開発会社やプラットフォームに過度に依存してしまうと、将来的に別の会社への切り替えやシステムの移行が困難になる場合があります。このリスクを回避するためには、ソースコードの所有権が発注側にあることを契約書で明確にし、技術仕様書やAPI仕様書などのドキュメントを納品物に含めることが重要です。また、標準的な技術スタック(広く使われているプログラミング言語やフレームワーク)を採用することで、将来的なメンテナンスや開発者の確保が容易になります。

セキュリティリスクも見過ごすことはできません。ECサイトは顧客の個人情報やクレジットカード情報を扱うため、情報漏洩が発生した場合の影響は甚大です。過去の事例では、ECサイトからの個人情報流出事故により、1件あたり平均約3万円の賠償金が発生し、ブランドイメージの毀損による売上減少まで含めると被害総額が数億円に達したケースもあります。対策としては、開発段階からセキュリティ要件を組み込む「セキュリティ・バイ・デザイン」のアプローチを採用し、WAFの導入、定期的な脆弱性診断、PCI DSS準拠(クレジットカード情報を扱う場合)、アクセスログの監視体制の構築を行うことが求められます。加えて、プロジェクトの進捗遅延リスクへの対策として、マイルストーンを細かく設定し、各マイルストーンでの成果物確認と軌道修正を行うアジャイル的なアプローチを取り入れることも効果的です。2週間単位のスプリントを設定し、各スプリントの終わりに動くソフトウェアをデモする形式を採用することで、早い段階で問題を発見し、手戻りを最小限に抑えることが可能になります。

まとめ

ECサイト開発のまとめ

ECサイトおよびECシステムの開発は、要件定義・企画から設計・開発、テスト・リリースまでの各フェーズを計画的に進めることが成功の前提条件です。構築方式の選定はプロジェクト全体の方向性を決定づける重要な判断であり、自社の事業規模、予算、将来的な拡張性を総合的に考慮して最適な方式を選ぶ必要があります。費用については、初期開発費用だけでなく、リリース後のランニングコストまで含めた中長期的な視点で予算を計画することが大切です。見積もりの段階では、要件を可能な限り明確にしたうえで複数の開発会社から提案を受け、金額だけでなく実績、提案内容の具体性、コミュニケーション体制、契約形態を総合的に評価して発注先を選定することを推奨します。また、スコープクリープ、ベンダーロックイン、セキュリティリスクといった典型的なリスクに対しては、プロジェクト開始前から対策を講じておくことで、トラブルの発生確率を大幅に下げることが可能です。ECサイト開発は決して簡単なプロジェクトではありませんが、正しい進め方を理解し、信頼できる開発パートナーと連携することで、事業成長を力強く後押しするECサイトを実現することができます。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。