社内エンジニア不足の保守・運用費用・ランニングコストについて

システムやアプリは、リリースして終わりではありません。むしろ、稼働させ続けるための保守・運用こそが、長期にわたって企業のIT予算を圧迫する大きな要素です。そして、社内にエンジニアがいない企業にとって、この保守・運用フェーズは開発フェーズ以上に難しい問題をはらんでいます。なぜなら、社内に技術を理解できる人がいないと、システムを自社で保守できず、外部のベンダーに頼り続けるしかなくなるからです。その結果、毎月の保守費用が固定的に発生し続けるだけでなく、改修や機能追加のたびに追加費用がかかり、気づけば特定のベンダーから抜け出せない状態に陥っていた、というケースが後を絶ちません。社内エンジニア不足は、開発時のコストよりも、むしろリリース後のランニングコストにおいて、より深刻で長期的な負担となって表れるのです。

本記事では、社内にエンジニアがいない・採用できない企業を前提に、システムの保守・運用費用とランニングコストの考え方を体系的に解説します。自社で保守できないことが招くベンダーロックインや属人化、退職リスクといった見えにくい代償、レガシー化したシステムを抱え続けることでランニングコストが肥大化していく構造、そしてSaaSやパッケージの活用、SES・技術顧問・準委任での継続支援、内製化支援と助成金を組み合わせて保守負担を下げていく現実的な打ち手までを、具体的なポイントとともにお伝えします。これからシステム開発を検討している経営者や事業責任者の方はもちろん、すでに外部ベンダーに保守を任せていて、その費用が妥当なのか不安を感じている担当者の方にとっても、判断の指針となる内容です。最後までお読みいただくことで、社内エンジニア不足という制約の中でも、保守・運用コストを賢くコントロールする視点が身に付くはずです。

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自社で保守できないことが招く見えにくい代償

自社で保守できないことが招く見えにくい代償

社内にエンジニアがいない企業がシステムの保守・運用をすべて外部ベンダーに丸投げすると、短期的には社内リソースの不足を補えますが、中長期では月々の費用以上の代償を支払うことになります。その代償は、請求書には現れない、見えにくい形で蓄積していきます。具体的には、特定のベンダーから抜け出せなくなるベンダーロックイン、システムの中身が誰にもわからなくなる属人化・ブラックボックス化、そしてシステムを理解する人材がいなくなることで生じる退職リスクの三つです。これらは、開発を外部に委ねた瞬間から静かに進行し、数年後に「他社に乗り換えたくてもできない」「改修したくても中身がわからない」という形で表面化します。社内エンジニア不足の企業が保守・運用コストを考えるとき、月額費用の大小だけに目を向けていると、こうした構造的なリスクを見落としてしまいます。まずは、自社で保守できないことが何を意味するのかを正しく理解することが、賢いコスト管理の出発点になります。

ベンダーロックインで主導権を失う

保守・運用をすべて外部委託すると、自社内に技術的な知識やノウハウが一切蓄積されず、特定のベンダーに過度に依存する状態、いわゆるベンダーロックインに陥ります。この状態の何が問題かというと、保守費用の交渉や改修の発注において、自社が主導権を失ってしまうことです。システムの中身を理解しているのが委託先のベンダーだけになると、「この保守費用は高いのではないか」「この改修にこの金額は妥当か」と感じても、それを検証する手立てがありません。他社への乗り換えを検討しようにも、システムの仕様やソースコードを引き継ぐコストが膨大になるため、現実的には今のベンダーに頼り続けるしかなくなります。結果として、相見積もりによる価格の適正化が働かず、ランニングコストが高止まりしやすくなります。社内にエンジニアがいないという状態は、単に作業を外注しているということではなく、コストの妥当性を判断する力そのものを手放しているということでもあるのです。このロックインを避けるには、契約時点でソースコードや設計ドキュメントを自社が確保できるようにしておくこと、そして後述するように、保守の一部でも自社が関われる体制を徐々に作っていくことが重要になります。

属人化・退職リスクで知識が失われる

長期間にわたって運用され、改修が繰り返されたシステムは、その経緯を知る特定の担当者しか中身を理解できない「属人化・ブラックボックス化」が進みます。これは社外のベンダー側でも社内側でも起こり得る問題で、社内にエンジニアがいない企業の場合、その知識はほぼ完全に外部の特定の人に依存することになります。そして最も恐ろしいのが、その人が退職や異動でいなくなったときです。システムを理解しているベテランのエンジニアが離職したり高齢化で引退したりすると、システム改修に必要なノウハウが完全に失われ、ちょっとした不具合の修正すらできなくなります。これは単なる不便にとどまらず、システムの機能停止やセキュリティ上の脆弱性が放置されることによるサイバー攻撃のリスクなど、事業継続そのものを脅かす重大なリスクに直結します。社内に技術がわかる人が一人もいないと、こうした事態が起きても、何が問題でどう対処すべきかを社内で把握できず、対応が後手に回ります。保守・運用コストを考えるうえで、こうした知識継承の断絶リスクは、金額には表れないものの、いざ顕在化したときの損失が極めて大きい要素です。属人化を放置せず、知識を組織に残す仕組みを意識することが、長期的なコストとリスクの両面で重要になります。

ランニングコストが肥大化していく構造

ランニングコストが肥大化していく構造

社内にエンジニアがいない企業がシステムを外部に保守させ続けると、ランニングコストは時間とともに膨らんでいく傾向があります。これは個別の保守契約が高いという話ではなく、システムが老朽化し、改修が積み重なるにつれて維持にかかる費用が構造的に増えていくという問題です。新しい機能を作るための投資よりも、すでにあるシステムを動かし続けるための費用が予算の大半を占めるようになると、企業はIT投資の身動きが取れなくなります。この「維持にコストを吸い取られる」構造は、社内に技術がわからないと気づきにくく、毎年の保守費用を当たり前のものとして払い続けているうちに、新規投資の余力を失っていきます。社内エンジニア不足の企業が保守・運用コストを管理するには、まずこの肥大化のメカニズムを理解し、何にどれだけ払っているのかを可視化することが第一歩です。そのうえで、肥大化を食い止めるための打ち手を、早い段階から検討しておく必要があります。

維持費が予算の大半を奪う

レガシー化したシステムを外部に保守・運用させ続けると、企業のIT関連費用のうち約8割が、現行ビジネスを維持・運営するためだけに費やされてしまうという、極めて偏った費用構造に陥ることが指摘されています。本来であれば、IT予算は新しい価値を生む攻めの投資に振り向けたいところですが、その大半が既存システムを動かし続けるための守りの費用に消えてしまうのです。さらに、老朽化が進んでシステムの不具合が頻発するようになると、維持管理費はさらに増大し、将来的にはIT予算の9割以上を保守点検やメンテナンスに割かなければならなくなると推計されています。これは、新たなIT投資の原資を奪い、企業の競争力を徐々にむしばんでいく深刻な問題です。社内にエンジニアがいない企業の場合、こうした肥大化が起きていることに気づきにくく、また気づいても自社で改善する手立てがないため、保守費用を払い続けるしかない状態に固定されがちです。一般的に、受託開発したシステムの年間保守費用は初期開発費の数パーセントから十数パーセントが相場とされますが、システムが古くなり複雑化するほどこの比率は上がっていきます。保守費用を抑えるには、システムを肥大化・複雑化させないこと、そして払っている費用の内訳を定期的に見直すことが欠かせません。

保守費用の内訳を見える化する

ランニングコストの肥大化を食い止める第一歩は、いま自社が何にどれだけ払っているのかを見える化することです。社内にエンジニアがいないと、保守契約の内容を「月額いくら」という総額でしか把握しておらず、その中身が監視なのか、障害対応なのか、軽微な改修なのか、機能追加なのかを区別できていないことがよくあります。しかし、保守費用の内訳を分解してみると、「ほとんど使っていない機能のために高額な保守費を払い続けている」「障害対応の実績がほとんどないのに高い監視費用を払っている」といった無駄が見えてくることがあります。内訳がわからないままでは、適正化の議論すらできません。技術がわからない場合でも、保守契約の項目ごとに費用と稼働実績を一覧にしてベンダーに説明を求めるだけで、見直しの糸口がつかめます。前章で触れた翻訳役の技術顧問のような外部の専門家に、保守契約の妥当性をセカンドオピニオンとして評価してもらうのも有効です。社内エンジニア不足の企業にとって、保守費用は「払い続けるもの」と諦めがちですが、内訳を可視化し、定期的に棚卸しするだけで、不要な支出を削り、ランニングコストを実態に見合った水準へと近づけられます。コストを管理する第一歩は、見えないものを見えるようにすることなのです。

保守負担を下げる選択肢

保守負担を下げる選択肢

社内にエンジニアがいない企業が保守負担を下げるには、そもそも保守の手間がかかりにくい仕組みを選ぶという発想が有効です。すべてを自社専用にゼロから作り込むほど、その保守は属人化し、外部依存も強まります。逆に、世の中の標準的なサービスやツールを活用すれば、保守の多くを提供元に任せられ、自社で抱えるべき負担を大きく減らせます。社内エンジニア不足という前提に立つなら、保守を「自社で頑張る」のではなく「保守の必要がない、あるいは少ない形を選ぶ」という戦略が理にかなっています。ここでは、SaaSやパッケージの活用によって保守負担そのものを軽くするアプローチと、自社で抱えきれない部分をSESや技術顧問、準委任といった形で外部の手を借りながら、必要な分だけ柔軟に補うアプローチの二つを見ていきます。いずれも、社内に技術者を抱えられない企業が、現実的にランニングコストをコントロールするための有力な選択肢です。

SaaS・パッケージで保守を任せる

保守費用とブラックボックス化のリスクを同時に下げる有効な手段が、標準化対応です。これは、独自の要件に合わせてゼロから作るスクラッチ開発を極力避け、パッケージソフトやSaaS、業界共通の標準システムへの移行を最優先で検討するというアプローチです。SaaSやパッケージであれば、システムの保守やアップデート、セキュリティ対応の多くを提供元のベンダーが担ってくれるため、社内にエンジニアがいなくても安定して使い続けられます。自社専用にフルスクラッチで作ったシステムは、その保守を自社か委託先が丸ごと背負う必要がありますが、SaaSなら月額の利用料の中に保守が含まれており、ランニングコストの見通しも立てやすくなります。ポイントは、自社の業務プロセスを無理にシステムに合わせていく姿勢です。標準仕様にどこまで業務を寄せられるかを分析し、独自のこだわりを少し手放して標準に合わせることで、自社での保守負担やIT投資を抑えつつ、将来の変化にも柔軟に対応できる体制を構築できます。すべてをSaaSに置き換えられるわけではありませんが、差別化に直結しない汎用的な業務ほど、SaaSやパッケージに任せる価値が高くなります。社内エンジニア不足の企業にとって、保守を自社で抱え込まない仕組みづくりは、ランニングコストを構造的に下げる最も効果的な打ち手の一つです。

SES・技術顧問・準委任で必要な分だけ補う

SaaSやパッケージだけでは賄えない、自社独自のシステムの保守については、外部の手を必要な分だけ借りる形が現実的です。常勤のエンジニアを採用・雇用すると、人件費という大きな固定費を毎月負担し続けることになりますが、SES(エンジニアの常駐型支援)や技術顧問、準委任契約といった形態であれば、必要な期間・必要な工数だけ専門家の力を借りられます。たとえば、月に数日だけ技術顧問にシステムの状態を見てもらう、繁忙期や改修が集中する時期だけSESで人手を増やす、といった柔軟な使い方ができます。これにより、フルタイムのエンジニアを抱えるほどのコストをかけずに、保守に必要な技術力を確保できます。重要なのは、こうした外部支援を「丸投げ」にするのではなく、自社が主導権を握りながら部分的に活用することです。準委任契約は、成果物の完成を約束する請負契約と異なり、実際にかかった工数に応じて費用が発生する方式で、保守のように作業量が変動する業務との相性が良いとされています。社内にエンジニアがいないからといって、すべてを一社のベンダーに固定の保守契約で任せきりにするのではなく、SESや技術顧問、準委任を組み合わせて必要な分だけ補う体制を組めば、ランニングコストを実態に合わせて柔軟にコントロールできます。外部リソースを賢く使い分けることが、社内エンジニア不足の企業の保守戦略の要になります。

内製化支援と助成金で自社保守へ移行する

内製化支援と助成金で自社保守へ移行する

外部依存とランニングコストの肥大化から抜け出す根本的な解決策は、保守・運用の主導権を徐々に自社に取り戻していくことです。とはいえ、社内にエンジニアがいない企業がいきなり完全な内製保守に切り替えるのは現実的ではありません。そこで有効なのが、外部の伴走型支援を受けながら、段階的に自社で保守を担える体制を作っていくアプローチです。最初は外部に開発・保守の実務を委ねつつ、自社のメンバーが少しずつ運用の知識を身につけ、軽微な改修なら自社で対応できる範囲を広げていく。この移行を進めることで、外部に払い続ける保守費用を徐々に圧縮し、同時にベンダーロックインや属人化のリスクも軽減できます。そして、この内製化への移行にかかる人材育成のコストは、国や自治体の助成金を活用することで大幅に抑えられます。社内エンジニア不足を一時的に外注で補いながらも、その間に自社の保守能力を育てておくことが、長期的なランニングコストを下げる最も確実な道筋になります。

伴走型支援で段階的に自走する

完全な外部依存から脱却し、自社で開発・運用の主導権を握る内製化への移行が、多くの企業に求められています。社内にエンジニアがいない状態からこれを実現するには、外部の専門ベンダーをチームに招き入れ、自社の担当者と一緒にプロジェクトを進める伴走型の支援が有効です。ベンダーが手を動かして開発や保守を進めつつ、その過程で社内のメンバーに対して、システムの構造や運用の手法を実地で教えていく形です。これにより、最初は外部に頼っていた保守も、徐々に自社で軽微な対応ができるようになり、ベンダーへの依存度を計画的に下げていけます。たとえば、要件定義や品質管理といった中核の判断は自社が担い、大量の実装作業は外部に委ねるハイブリッドな体制を取りながら、運用のノウハウを社内に移転してもらうのです。重要なのは、ベンダーを単なる作業の委託先ではなく、自社の自律性を育てるパートナーとして選ぶことです。納品して終わりの従来型ではなく、ユーザー企業が自走できるようになるまで伴走してくれる支援を選べば、保守を外注し続ける状態から、自社でコントロールできる状態へと段階的に移行できます。この移行こそが、ランニングコストの肥大化と外部依存リスクを同時に解消する、社内エンジニア不足の企業にとっての本質的な解決策です。

助成金で人材育成コストを圧縮する

内製化に向けて自社で保守・運用を担う人材を育成するにはコストがかかりますが、国や自治体の助成金を活用することで、その負担を大幅に削減できます。代表的なものが人材開発支援助成金で、中小企業の場合、デジタルスキルなどの教育訓練にかかる経費の最大6割、訓練期間中の賃金の最大75パーセントが助成されます。また、IT導入補助金のデジタル化推進枠では、最大450万円(補助率は最大4分の3)が支給され、ITツールの導入とそれに伴う研修費用が対象となります。これらをうまく組み合わせれば、人材育成にかかる実質的な負担を大きく軽くできます。実際の事例として、あるITベンダーでは、助成金と自治体の補助金を併用することで、総額500万円規模のDX人材育成プログラムを実質100万円程度で実施し、コスト負担を抑えながら自社の人材を育て、内製化への土台を築いた実績があります。社内にエンジニアがいない企業にとって、人材育成は「お金も時間もかかる遠い目標」に感じられがちですが、こうした公的支援を活用すれば、想像よりもずっと低い負担で第一歩を踏み出せます。外部への保守費用を払い続けるだけの状態から、その一部を自社の能力を育てる投資へと振り向けることが、長期的にランニングコストを下げ、外部依存から抜け出すための賢い選択です。助成金の活用を前提に内製化の計画を立てることで、コストの壁は大きく下がります。

まとめ

社内エンジニア不足の保守・運用費用・ランニングコストまとめ

本記事では、社内にエンジニアがいない・採用できない企業を前提に、システムの保守・運用費用とランニングコストの考え方を解説しました。自社で保守できないことは、月々の費用以上に、ベンダーロックインによる主導権の喪失、属人化・ブラックボックス化、そして担当者の退職による知識の断絶という、見えにくい代償をもたらします。また、レガシー化したシステムを外部に保守させ続けると、IT予算の8割から9割が維持費に吸い取られ、新規投資の余力を失う構造に陥りがちです。この肥大化を食い止めるには、まず保守費用の内訳を見える化し、そのうえでSaaSやパッケージの活用で保守負担そのものを軽くすること、SESや技術顧問、準委任で必要な分だけ外部の手を借りることが有効です。そして根本的な解決策は、伴走型支援を受けながら段階的に自社で保守を担えるようにし、その人材育成には助成金を活用してコストを圧縮することです。社内エンジニア不足という制約の中でも、保守を「払い続けるもの」と諦めず、仕組みと体制を工夫すれば、ランニングコストは着実にコントロールできます。保守・運用に不安を感じている方は、まず信頼できるパートナーに現状を相談し、自社に合ったコスト最適化の道筋を描くことから始めてみてください。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。