社内エンジニア不足の保守・運用費用・ランニングコストについて

年間保守費用の相場は、初期開発費の数パーセントから十数パーセントです。外部依存や老朽化、内製化の進み具合で、幅が変わります。

内製化支援の事例では、総額500万円規模の人材育成を実質100万円程度で実施しています。全体像は社内エンジニア不足の完全ガイドもご覧ください。

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自社で保守できないことが招く見えにくい代償

外部委託で進むベンダーロックイン、属人化・ブラックボックス化、退職リスクを並べた図解。
知識と主導権が社外に偏るほど、保守の選択肢が狭まります。

社内にエンジニアがいない企業が保守・運用を外部ベンダーに任せると、短期的には不足する人手を補えます。

しかし中長期では、月々の費用には表れない代償が、見えにくい形で積み重なっていきます。

  • ベンダーロックイン:特定のベンダーから抜け出しにくくなります。
  • 属人化・ブラックボックス化:システムの中身がわからなくなります。
  • 退職リスク:知識を持つ人材が離れると対応が滞ります。

これら三つのリスクは、開発を外部に委ねた時点から静かに進みます。そして数年後には、他社へ乗り換えられない状態や、改修できない状態として表に出てきます。

月額費用だけを見ていると、社内エンジニア不足が生む構造的なリスクを見落としがちです。だからこそ、自社で保守できないことが何を意味するのかを理解することが、コスト管理の出発点になります。

ベンダーロックインによる主導権の喪失

ベンダーロックインは、委託先だけがシステムの技術情報を持つ状態で起きます。

  • 交渉力の低下:保守費用や改修費用の妥当性を、自社で検証しにくくなります。
  • 乗り換えの困難さ:仕様やソースコードを引き継ぐ負担が増えます。

保守・運用を外部に委託し続けると、自社には技術知識やノウハウが蓄積されません。その結果、システムの中身を知っているのはベンダーだけという状態になります。

そのため、ランニングコストは相見積もりによる価格の適正化が働きにくく、高止まりしやすくなります。社内にエンジニアがいない状態は、費用の妥当性を判断する力を手放すことにもつながります。

ロックインを避けるには、契約時点でソースコードと設計ドキュメントを自社で確保しておくことが欠かせません。さらに、保守の一部に自社が関わる体制を段階的に作れば、特定のベンダーへの依存を弱められます。

属人化・退職リスクによる知識の喪失

長期運用と改修を繰り返すうちに、特定の担当者しか経緯を理解できない状態が進みます。

  • 知識の集中:社外や社内の特定担当者に理解が偏ります。
  • 引き継ぎ断絶:退職や異動で改修ノウハウが失われます。
  • 事業継続リスク:不具合や脆弱性への対応が遅れます。

属人化やブラックボックス化は、社外のベンダー側でも社内側でも起こり得ます。特に社内にエンジニアがいない企業では、知識が外部の特定の人にほぼ完全に依存してしまいます。

ベテランの離職や高齢化による引退が重なると、軽微な不具合さえ直せなくなることがあります。

機能停止や脆弱性の放置によるサイバー攻撃は、事業継続を脅かします。社内に技術を理解する人がいないと、問題の所在も対処の方法も把握できません。

知識継承の断絶は金額として見えにくいものの、顕在化したときの損失は極めて大きくなります。そのため、知識を組織に残す仕組みを、長期的なコストとリスクの両面から考えておく価値があります。

ポイント

ソースコードや設計ドキュメントの扱いが曖昧なら、契約前に確認しておく必要があります。契約時点で自社が受け取れる資料を、判断の基準にしてください。

ランニングコストが肥大化していく構造

保守費用を見直す際に確認する契約項目、稼働実績、第三者評価の三項目を示した図解。
費目と実績を分けると、説明を求める箇所が見つかります。

外部保守を続けると、ランニングコストは時間とともに膨らみやすくなります。個別の契約単価だけでなく、老朽化や改修の積み重ねも維持費を押し上げます。維持費が予算の大半を占めると、新しい機能への投資が難しくなります。

社内に技術がないと肥大化に気づきにくいので、まずは支出の内訳を洗い出すことが第一歩になります。肥大化を抑える打ち手も、早い段階から検討しておく必要があります。

維持費による予算の圧迫

レガシー化したシステムは、放っておくと維持費の比重がどんどん上がっていきます。

  • 予算の偏り:既存システムの維持費が新しい投資を圧迫します。
  • 老朽化の進行:不具合が増えるほど保守費用が膨らみます。

IT関連費用の約8割が、現行ビジネスの維持・運営だけに使われる構造が指摘されています。将来はIT予算の9割以上を保守点検やメンテナンスに要するとも推計されています。

維持費に偏ったIT予算が続けば、新たな投資の原資が失われ、競争力も削られていきます。社内にエンジニアがいない企業は、肥大化に気づいても改善の手立てを持ちにくい状態です。

一般的な受託開発システムの年間保守費用は、初期開発費の数パーセントから十数パーセントが相場です。ただし、システムが古く複雑になるほど、保守費用の比率は上がっていきます。

保守費用を抑えるには、システムを肥大化・複雑化させないことが欠かせません。あわせて、支払っている費用の内訳を定期的に見直すことも大切です。

保守費用の内訳の把握

ランニングコストの肥大化を止めるには、まず支払先と金額を把握する必要があります。

  • 契約項目:監視、障害対応、改修などの費目を分けます。
  • 稼働実績:実際の対応件数と費用を照合します。
  • 第三者評価:技術顧問に契約の妥当性を見てもらいます。

社内にエンジニアがいないと、保守契約を月額の総額だけで把握しがちです。実際に、監視・障害対応・改修の費用が分けられていないケースもあります。

内訳を分解すると、使っていない機能や実績の少ない監視への支出が見つかることがあります。逆に言えば、内訳がわからなければ、費用の適正化について話し合うこともできません。

技術に詳しくなくても、項目ごとの費用と稼働実績を一覧にすれば、委託先に説明を求められます。その一覧は、第三者の目で見てもらう際の材料にもなります。後述する技術顧問に、保守契約をセカンドオピニオンとして評価してもらう方法も有効です。

保守費用を払い続けるだけにせず、内訳を定期的に見直すことが大切です。

見えない支出を把握できれば、不要な費用を削って、実態に合う水準へ近づけられます。

ポイント

保守費用が月額の総額でしか見えていないなら、肥大化に気づくのが遅れているサインです。費目ごとに分けて実績と照合すると、見直す余地が見えてきます。

保守負担を下げる選択肢

SaaS・パッケージによる保守負担の軽減を中心に、標準化対応、スクラッチ開発の回避、更新対応の委任、汎用業務の標準仕様への適応を示した図解。
汎用業務を標準仕様に寄せるほど、個別保守を減らせます。

保守負担を下げるには、もともと保守の手間が少ない仕組みを選ぶ発想が有効です。専用に作り込むほど属人化が進み、外部への依存も強まりやすくなります。

たとえば、標準的なサービスやツールなら、保守の多くを提供元に任せられます。

仕組みそのものを軽くする方法と、外部の手を必要な分だけ借りる方法があります。どちらも、技術者を社内に抱えられない企業がコストを管理するための選択肢です。

SaaS・パッケージで保守を任せる方法

保守費用とブラックボックス化を同時に抑えるには、標準化対応が効果的です。

  • 標準化:スクラッチ開発を避け、標準仕様を優先します。
  • 保守の外部化:更新やセキュリティ対応を提供元に任せます。
  • 業務の適応:汎用業務を標準仕様に寄せていきます。

標準化対応では、パッケージソフトやSaaS、業界共通の標準システムへの移行を優先します。

SaaSやパッケージなら、保守やアップデート、セキュリティ対応の多くを提供元に任せられます。そのため、社内にエンジニアがいなくても、安定して使い続けられます。

一方で、フルスクラッチのシステムは、自社か委託先が保守を丸ごと背負う必要があります。SaaSは月額利用料に保守が含まれるので、ランニングコストの見通しを立てやすい点も利点です。

発注側は、自社の業務プロセスを標準仕様にどこまで寄せられるか、事前に分析しておきたいところです。

独自のこだわりを手放して標準に合わせれば、保守負担やIT投資を抑えられます。さらに、標準化は将来の変化にも柔軟に対応できる体制につながります。

ただし、すべてをSaaSへ置き換えられるわけではありません。差別化に直結しない汎用業務ほど、SaaSやパッケージに任せる価値が高くなります。そのため、自社の強みに関わる機能かどうかで、専用に作るか標準サービスを使うかを決められます。

SES・技術顧問・準委任の使い分け

SaaSやパッケージで賄えない独自システムには、外部の手を必要な分だけ借りる方法が現実的です。

  • 技術顧問:月に数日など必要な頻度で相談します。
  • SES:繁忙期や改修時だけ人手を増やします。
  • 準委任:実際の工数に応じて費用を払います。

常勤エンジニアを採用すると、人件費という固定費を毎月負担し続けることになります。一方、SESはエンジニアの常駐型支援で、必要な期間と工数だけ専門家を借りられます。

たとえば、技術顧問に月数日だけ状態を見てもらい、繁忙期だけSESで人手を増やす使い方があります。この形なら、フルタイムのエンジニアを抱えるほどのコストをかけずに、保守の技術力を確保できます。

外部支援は丸投げにせず、自社が主導権を握ったうえで部分的に活用することが大切です。

準委任契約は、成果物の完成を約束する請負契約とは異なります。実際にかかった工数に応じて費用が発生するため、作業量が変動する保守と相性がよい方式です。

一社に固定の保守契約で任せず、外部支援を組み合わせれば、費用を柔軟に調整できます。社内エンジニア不足の企業にとって、外部リソースを使い分けることが保守戦略の要になります。

ポイント

機能を作り込むほど保守の手間と依存が増えるため、機能ごとに標準サービスで足りるかを先に確かめるのが目安です。

内製化支援と助成金による自社保守への移行

外部依存とランニングコストの肥大化から抜け出すには、保守の主導権を自社へ戻す必要があります。ただし、エンジニアがいない企業がいきなり完全な内製保守へ切り替えるのは現実的ではありません。

そこで有効なのが、外部の伴走型支援を受けながら、段階的に自社で担える体制を作る方法です。

人材育成のコストについては、国や自治体の助成金を活用する道もあります。

伴走型支援による段階的な自走

内製化へ移る際は、外部の専門ベンダーに頼りながら、少しずつ社内の力をつけていく進め方が効果的です。

  • 伴走支援:外部専門家と自社担当者が一緒に進めます。
  • 知識移転:システム構造や運用方法を実地で学びます。
  • 役割分担:自社と外部で担う範囲を分けて決めます。

開発や保守の途中で知識を受け取ることで、外部に頼る範囲を少しずつ狭められます。

はじめは外部に頼っていた保守も、軽微な対応から自社で担えるようになります。ベンダーへの依存度を計画的に下げれば、外部へ払う保守費用の圧縮にもつながります。

役割の分け方も一通りではありません。たとえば、要件定義や品質管理は自社が担い、大量の実装は外部に委ねる形があります。

パートナーを選ぶ際は、納品後に終わる委託先ではなく、自走まで伴走してくれる相手かどうかを見ることが重要です。そうすれば、保守を外注し続ける状態から、自社でコントロールできる状態へ段階的に移れます。

助成金による人材育成コストの圧縮

人材育成の費用は、目的に合う制度を選ぶことで抑えられます。

  • 教育訓練:人材開発支援助成金で育成費を抑えます。
  • IT導入:IT導入補助金でツール導入と研修を補います。
  • 併用:助成金と自治体補助金を組み合わせます。

中小企業の教育訓練費は最大6割、訓練期間中の賃金は最大75パーセントまで助成されます。

一方、IT導入補助金のデジタル化推進枠では、最大450万円が支給されます。補助率は最大4分の3で、ITツールの導入と研修費用が対象になります。

助成金と自治体の補助金を併用すれば、人材育成の実質的な負担を軽くできます。あるITベンダーでは、総額500万円規模のDX人材育成を実質100万円程度で実施しました。この事例では、両者を併用して内製化の土台を築いています。

外部への保守費用の一部を、自社の能力を育てる投資へ振り向けることが大切です。助成金を前提に内製化を計画すれば、長期的なランニングコストを下げられます。

ポイント

自社が握る工程を先に決め、残りを外部に任せる線を引けるかが目安です。社内で担える保守を一覧にしておくと、次の一歩を決めやすくなります。

まとめ

社内エンジニアがいない企業では、保守・運用費用を月額だけで判断できません。外部依存は、ベンダーロックインや属人化、担当者の退職による知識断絶を招きます。

IT関連費用の約8割が現行ビジネスの維持・運営に使われ、将来はIT予算の9割以上を保守点検やメンテナンスに要するとも推計されています。だからこそ、まずは保守費用の内訳を洗い出し、支出の偏りを把握することが欠かせません。

SaaSやパッケージで保守負担を軽くし、SESや技術顧問、準委任で必要な分を補う方法があります。そのうえで、伴走型支援により自社保守へ段階的に移り、人材育成には助成金を活用します。

社内エンジニアが不足していても、仕組みと体制を工夫すれば、ランニングコストは管理できます。保守・運用に不安がある場合は、信頼できるパートナーに相談し、自社に合う道筋を描いてみてください。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。