社内エンジニア不足の完全ガイド

社内エンジニア不足は、人材の地域偏在、レガシー保守への予算集中、多重下請け構造が重なって深刻になっています。

対策の軸は、短期の外部活用から始めて、段階的に内製化へ進めることです。各テーマの詳しい内容は、下の関連記事でも確認できます。

この記事でわかること(関連記事一覧)

関連記事では、不足対策の進め方、おすすめの開発会社、発注と委託の方法を、それぞれ紹介しています。

社内エンジニア不足の全体像と構造的要因

社内エンジニア不足を中央に置き、採用市場の逼迫、多重下請け、レガシー保守、地域偏在を結んだ図です。
複数の要因が重なって人材確保を難しくします。

社内エンジニア不足は、採用市場の逼迫だけでなく、日本のIT産業の構造に根ざしています。多重下請けやレガシー保守も人材不足の背景にあり、これらが重なるため、解決が難しくなっています。

2030年79万人不足と地方偏在というマクロ課題

IT人材の不足規模と地域偏在は、複数の統計に表れています。

  • 2030年の不足:低位約16.4万人、中位約44.9万人、高位約78.7万人
  • 必要な生産性向上:中位需要で毎年3.54%、高位需要で5.23%。2040年のAI・ロボット人材不足は約326〜339万人
  • 地域偏在:AI専門人材は1都3県以外で充足できる地域が事実上なく、地方企業ほど採用が難しい
  • 受講生の地域:マナビDX Quest(2022年・1,988名)の54.9%が関東圏
  • 国際順位:IMD調査のデジタル競争力は63カ国中29位、技術スキルは62位

多重下請け構造とレガシー保守80%問題

人材確保を難しくする構造要因は、多重下請けとレガシーシステムの維持負担です。

  • 多重下請け:ユーザー企業が大手SIerへ発注し、二次・三次の協力会社へ再委託するため、発注側にノウハウが残りにくい
  • 内製化の壁:長期の発注側企業では、要件定義や設計をリードする人材が不足しやすい
  • 2025年の崖:経産省「DXレポート」では、IT関連費用の約80%が現行維持・レガシー保守に使われる
  • 保守負担:少数の担当者とベテラン退職が重なり、放置時は最大12兆円の経済損失リスクがあると同レポートは警告

▶ 詳細はこちら:社内エンジニア不足の対策プロセス

ポイント

不足の背景は採用市場だけでなく、多重下請けやレガシー保守といった構造にあります。判断の目安は、自社の不足がどの要因によるものかを切り分けて考えることです。

社内エンジニア不足を補う打ち手の進め方

短期の即戦力確保、中期の体制再設計、長期の内製化と育成を順につないだ図です。
外部活用から社内体制づくりへ、時間をかけて重心を移します。

社内エンジニア不足への対応は、採用や外注を一度きりで終えず、段階に合わせて進めます。短期の即戦力確保、中期の体制再設計、長期の内製化と育成を、自社の状況に応じて組み合わせることが基本です。

現状把握フェーズ:人材ポートフォリオの可視化

まず、社内のIT業務とスキルを洗い出します。そのうえで、担当者や担当システムごとに、ブラックボックス化の程度と退職リスクを確認します。

経済産業省「DX推進スキル標準(DSS-P)」の5類型を使うと、不足する役割を把握できます。

  • ビジネスアーキテクト
  • デザイナー
  • データサイエンティスト
  • ソフトウェアエンジニア
  • サイバーセキュリティ

「現状業務×時間配分」のマップを作り、レガシー保守、新規開発、企画・要件定義それぞれの比率を数字にまとめると、硬直した構造を経営層に示せます。

選択肢設計フェーズ:7つの確保手段の組み合わせ

人材確保の選択肢は、費用と立ち上げ期間で差が出るほか、品質リスクやノウハウの蓄積のしやすさも異なります。発注側は、目的に応じて組み合わせます。

  • 中途採用・社内育成:採用やリスキリングで社内人材を確保する
  • フリーランス・SES:外部人材や開発戦力を活用する
  • 受託開発委託:開発業務を委託する
  • ラボ型契約:チームを継続的に確保する
  • オフショア開発:海外の開発人材を活用する

短期の戦力確保にはSESやフリーランスが、中期の安定運用にはラボ型が候補になります。長期の内製化では、社内育成と技術顧問・CTO代行を併用する形が考えられます。

外部リソースを初期に多く使い、3〜5年かけて内製比率を高める「ハイブリッド・段階移行モデル」を選ぶ企業が増えています。

確保手段ごとの詳しい進め方は、社内エンジニア不足の対策プロセスで紹介しています。

ポイント

対策は一度に完結させず、短期の外部活用から長期の内製化へ、自社の状況に合わせて段階的に組み合わせます。迷ったときは、現状業務の一覧を先に作り、どの段階に当たるかを見るのが目安です。

外部パートナーの選び方

外部活用で最も大きな課題は、ベンダーロックインを避けながら、自社にノウハウを残して成果を出す設計です。

発注先の選定精度は、プロジェクトの成否の8割を左右します。そのため、表面的な単価だけでなく、技術力、ノウハウ移管の姿勢、チェンジマネジメント能力を総合して評価します。

ノウハウ移管姿勢と実績の見極め

選定で特に重視したいのは、自社にナレッジを残そうとする姿勢です。発注側の人材が並走して学べる体制があるかを確かめます。

  • 共同作業:ペアプロやコードレビューへの同席
  • 設計記録:設計ドキュメントの作成義務
  • 教育:エンジニア向け教育プログラムの提供
  • 引継ぎ:契約終了時の手順の明文化

実績を確認するときは、業界や規模、技術スタックが近い案件を3件以上ヒアリングします。可能であれば、過去の顧客にも話を聞きます。

ミッションクリティカル領域に生成AIを実装しているかどうかも、技術投資への姿勢を測る材料になります。

避けるべきベンダーの兆候

中長期で依存関係を生むおそれのあるベンダーには、いくつかの共通した兆候があります。経産省検討会も、人月精算に固執するベンダーは、生産性向上の恩恵を発注側に返しにくい構造を持つと指摘しています。

  • 独自仕様:独自フレームワークやブラックボックスのコードを納品する
  • 文書化に消極的:ドキュメント整備に協力しない
  • 単価引き上げ:人月単価の値上げを頻繁に提案する
  • AI活用に否定的:生成AIの導入や利用に後ろ向きな姿勢を示す

地域ITベンダーも、事業者によって提供する価値が異なります。多重下請けに安住する事業者がいる一方で、ユーザー企業と直接つながる地元のDX支援者へ移る事業者もいます。

発注側は、提案の段階で自社に組織を残したい考えを伝え、その実現策を確認します。

▶ 詳細はこちら:社内エンジニア不足でおすすめの開発会社

ポイント

選定では、表面的な単価よりも、自社にノウハウを残す姿勢を重視します。依存を生みやすい兆候があるか、同じ業界や規模の案件で実績があるかを、判断の材料にするとよいでしょう。

費用相場と補助金活用

コストは人月単価だけでは測れないため、立ち上げ、ナレッジ蓄積、契約終了後の移行まで含めたTCO(総保有コスト)で評価します。

IT導入補助金や人材開発支援助成金などを組み合わせれば、実質的な負担を抑えられます。

▶ 詳細はこちら:社内エンジニア不足の見積相場や費用/コスト/値段について

選択肢別の費用目安

費用は契約形態によって幅があります。採用費や月額を比べるときは、単価と期間に加えて、生産性向上の効果も一緒に見ます。そこで、経産省試算の毎年3.54〜5.23%の生産性向上を、自社のKPIに置いておきます。

  • 中途採用:年収と紹介料30〜35%を含め年800万〜1,500万円規模
  • フリーランス・SES:月単価70万〜150万円、SESは月60万〜120万円
  • ラボ型:チーム月額300万〜800万円
  • オフショア:ニアショア比で60〜80%水準
  • 技術顧問・CTO代行:月20万〜80万円程度

外部人材の寄与を数字で評価しておくと、費用が妥当かどうかを判断できます。

補助金・助成金の組み合わせ戦略

活用できる制度には、ITツールの導入、人材育成、非正規雇用からの転換を支援するものがあります。

  • IT導入補助金:中小企業のITツール導入費を最大450万円程度補助
  • 人材開発支援助成金:リスキリングや専門人材育成の研修費を補助
  • キャリアアップ助成金:非正規から正社員への転換などを支援

制度を組み合わせれば、外部委託と社内育成を並行しても自己負担を抑えられます。一方で、補助金の申請には実際の工数がかかり、事業計画書の作成、見積の取得、エビデンスの整備が必要です。

社内人材が少ない企業ほど申請準備で詰まりやすいため、代行業者を使うか、補助金支援を含めて伴走するベンダーに頼むかを、初期に決めておきます。

補助金に頼らない方法として、無料の生成AIツールや低価格のSaaSを使うPoCも検討できます。

発注やノウハウ移管の進め方は、社内エンジニア不足の発注・委託方法で紹介しています。

ポイント

費用は人月単価だけでなく、立ち上げからナレッジ蓄積、移行までを含めたTCOで比べると判断しやすくなります。補助金は組み合わせ次第で負担を抑えられますが、申請の工数も見込んでおく必要があります。

発注・外注方法とノウハウ残存戦略

社内にエンジニアが少ない企業は、要件を翻訳する「ブリッジ役」の確保から始めます。ブリッジ役がいないまま発注経験が浅い状態でベンダーに丸投げすると、要件定義が不足し、その結果、使えないシステムが納品される典型的な失敗に陥ります。

契約形態の使い分けと「人月商売」脱却

契約形態は、完成責任、仕様変更の柔軟さ、チームの確保期間をもとに使い分けます。

  • 請負契約:完成責任を伴い、固定スコープに適する
  • 準委任契約:仕様変更に柔軟に対応しやすい
  • ラボ型:中長期の専属チーム確保に適する

経産省検討会では、生成AIによって定型的なプログラミングの価値が下がるなか、人月精算から成果や価値をもとにした契約への転換が議論されています。

初期はラボ型や準委任で柔軟性を確保しつつ、成果物の利用権、改変権、ソースコードの所有権を明確にしておきます。契約終了後も自社で運用し続けられる条項を盛り込みます。

生産性向上率や機能のリリース速度をKPIにした成果報酬を一部加える契約は、人月商売から移る第一歩として注目されています。

ペアプロ・コードレビューによるノウハウ蓄積

ノウハウ移管を形だけのものにしないため、具体策を契約に含めます。

  • 共同開発:ペアプログラミングやコードレビューへの同席
  • 設計記録:設計判断を文書に残す義務
  • 知識共有:月次のナレッジ共有会の開催
  • 環境の保有:GitリポジトリとCI/CD環境を発注側が持つこと

座学に加えて、実プロジェクトのOJTを組み込みます。ベンダーのシニアと自社のジュニアがペアで実装する体制を最低6か月続けると、実務力の育成につながります。

発注時の契約とノウハウ移管については、社内エンジニア不足の発注・委託方法もあわせてご覧ください。

生成AIによる生産性向上と教育パラドックス

生成AIは社内エンジニア不足への現実的な選択肢です。コーディング、テスト、文書作成、データ分析で生産性向上が報告されています。

一方で、若手の基礎作業をAIが代替すると、経験を積めなくなる「教育パラドックス」が起きます。そのため、導入と育成はセットで検討します。

大手事例に学ぶ生成AI実装のリアル

NTTデータは、航空券予約システムのJava 8から17への更新に生成AIを活用しました。約16,000Stepのうち約5%に非互換があり、手作業と比べて大幅な生産性向上を実現しました。

日立製作所は、重要領域で蓄積したナレッジを生成AIと組み合わせた「生成AI共通基盤」を整備し、開発プロセス全体の効率化を進めています。

マナビDX Questでは、スーパーの食品売上予測AIや部品製造の発注内示AI予測の事例があります。後者は誤差を従来比で半分以下に改善しました。

生成AI失敗事例と運用ルール整備

運用ルールを決めないまま生成AIを導入すると、情報漏洩や誤案内、著作権やライセンスの問題につながります。

  • 利用方針:社内利用ポリシーの策定
  • 入力制限:入力してよい情報の境界の決定
  • 出力確認:出力をチェックする手順の整備
  • 監査:利用ログの保管と監査体制の整備

若手教育は、AIへの指示の出し方、出力の評価、設計判断への活用を学ぶOJTへ移します。あわせて、経済産業省の2024年DSS改訂で追加されたプロンプトエンジニアリングや倫理的課題を、社内研修に組み込みます。

長期視点での内製化と人材育成

外部活用は即効性があります。そのうえで、3〜5年のスパンで社内エンジニア組織を段階的に立ち上げ、内製化と人材育成を積み重ねていきます。

リスキリングと処遇連動の人事制度

リスキリングの定着には、学習制度と対象者に合わせたキャリア設計が必要です。

  • 処遇との連動:学習を給与や役職に結びつけ、業務時間内の学習や成果に基づく昇給を検討する
  • 社内認定:認定資格と等級を連動させる
  • 40代以上の参加:40代以上を巻き込むには制度面の手当てが鍵となる
  • 非IT職の成長先:業務知識を活かし、ビジネスアーキテクトやプロダクトオーナーを目指す

マナビDX Questの受講生(2022年・1,988名)は、30代が35.9%、20代が26.4%を占め、若手が中心でした。

AI時代に育てるべき人材像の再定義

AI時代に育てる人材には、コーディング以外の力も求められます。

  • 仮説検証:試作から仮説を見いだす力
  • デザイン:顧客体験を追求する考え方で、経産省検討会でも再評価が議論されている
  • 事業理解:事業ドメインへの深い理解
  • 地域での育成:NECアカデミーパートナープログラムはDX研修教材と講師育成を支援
  • 候補人材との連携:地域・業界のコミュニティや大学・高専との協働

社内エンジニア不足対策で失敗しないためのポイント

現状業務の一覧化、発注側の参加、PMの配置、AI利用ポリシーの整備をカードで示した図です。
開始前に役割とルールをそろえると、失敗の芽を減らせます。

失敗には共通点があります。要件が不足したまま使えないシステムが生まれる、ベンダーロックインに陥る、実務で動けない人材が育つ、利用ルールを決めないままAIを導入するといったケースが目立ちます。

よくある失敗パターンと回避策

失敗を避けるには、プロジェクトを始める前に対策を確かめておきます。

  • 場当たり外注:現状業務の一覧化
  • 要件定義の丸投げ:発注側も検討の場に加わること
  • PM不在:発注側のPMの配置
  • レビュー不足:ペアレビューの契約への明記
  • 育成とAI利用:研修とOJTの並行と、AI利用ポリシーの整備

場当たり的な外注や要件の丸投げは、進捗と品質の管理を崩す原因にもなります。また、研修だけでOJTがないと、実務で動けない「自称DX人材」が生まれます。

チェンジマネジメントと経営層の巻き込み

対策を現場だけで進めると頓挫します。そのため、レガシー保守に予算の80%が使われる状況を変えるには、経営層が攻めのIT投資への配分を決める必要があります。

生産性向上率3.54〜5.23%を経営のKPIに結びつけ、放置したときの最大12兆円の損失リスクや、サイバー攻撃、競争力低下の懸念も合わせて示します。

失敗を許容する組織風土も欠かせません。初期PoCの失敗を学びとして組織の知見に変える仕組みがなければ、育成や内製化は形だけのものになります。

ポイント

失敗を避けるには、要件定義への発注側の参加と、発注側のPMの配置を、開始前に決めておくことが目安になります。経営層を巻き込めるかどうかも、対策が続くかを左右します。

まとめ

社内エンジニア不足は、人材需給やレガシー保守の負担が重なった構造問題です。地域偏在や多重下請けも背景にあるため、対策は短期の外部活用から長期の育成・内製化まで、時間軸で組み合わせて進めます。

まず現状業務を一覧にし、採用や育成、外部委託を段階的に組み合わせます。そのうえで、契約にノウハウ移管を含め、生成AIの利用ルールと若手育成も同時に設計します。

人月商売からの脱却、地域ITベンダーの変化、デザインスキルの再評価を踏まえ、生産性向上率3.54〜5.23%を経営目標につなげます。

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張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。