IT人材不足の開発期間・スケジュール・納期について

開発期間と納期は、既存システムの技術的負債、要件定義の明確さ、人員確保の見通しで左右されます。

経済産業省の試算では、2030年にIT人材が最大約79万人不足します。DX・高度IT人材の不足や採用競争、人件費の高騰に加えて、「2025年の崖」もあり、開発環境は厳しさを増しています。

▼全体ガイドの記事
・IT人材不足の完全ガイド

IT人材不足が開発期間を長期化させる構造

技術的負債、属人化、ITリテラシー不足の3要因を並べた図解
複数の要因が重なると、開発前の調査や要件整理にも時間がかかります。

IT人材不足による開発期間の長期化は、単なる作業者不足だけでは説明できません。複数の構造要因が重なって起きるためです。主な要因は、レガシーシステムの技術的負債、属人化したノウハウの喪失、ユーザー企業側のITリテラシー不足です。

経済産業省は「2025年の崖」として、既存システムの課題に警鐘を鳴らしました。さらに、国内企業のIT関連費用の約80%は、既存システムの維持・運営に使われています。

その結果、新しい開発に回せる人材も予算も慢性的に不足しています。この環境を踏まえず、従来の感覚で「3か月でできるはず」と計画すると、着手前から破綻するリスクがあります。

レガシーの技術的負債と属人化による調査工数の増大

既存システムの技術的負債と属人化は、開発期間を読みにくくする大きな要因です。特に、全体像が見えないシステムでは、まず既存の仕様を調べるところから始まります。

  • 部分最適の積み重ね:部門ごとの場当たり的な改修が重なり、基幹システムがブラックボックス化した状態
  • 仕様の再調査:新機能や外部連携の前に行う、既存の処理の解読
  • 知識の属人化:特定のベテランが退職することで、内部知識が失われること
  • 古い言語への対応難:COBOLなどを扱える若手がほとんどいないこと

仕様書がない、または実装と食い違う場合は、コードから仕様を読み解くリバースエンジニアリングが必要になります。その分、本来の開発に入る前に調査工数が膨らみます。

若いエンジニアはクラウドネイティブな技術を学ぶため、レガシー保守を担える人材は市場で減りつつあります。その結果、既存システムとの接続調査が滞り、新規開発でも当初の数倍の期間がかかる場合があります。

「丸投げ」と要件定義の曖昧化による手戻り

ユーザー企業側のITノウハウが不足すると、要件定義から開発までをベンダーに任せきりにする場合があります。一見すると効率的に見えますが、自社の課題を言語化できず、仕様が曖昧になります。

  • 認識のずれ:完成後に「思っていたものと違う」と気づく場面
  • 後工程の修正:手戻りが後の工程になるほど、修正コストが大きくなります。
  • 意思決定の遅れ:発注者と受託者の間で、報告や決定に時間がかかる構図

この進め方では、変化に素早く対応するアジャイル開発も難しくなります。人材が足りない状況では、要件定義の曖昧さが特に致命的な遅延要因になります。

エンジニアが社内にいなくても、発注者は「何を実現するか」「どの業務課題を解決するか」という要件の核を握る立場にあります。そのため、ベンダーと一緒に要件を磨く体制が欠かせません。

ポイント

開発期間を読むときは、既存システムの調査に要する時間と、要件がどこまで固まっているかを先に織り込むと、期間の読み違いを減らせます。

人材不足下で納期を守る3つの戦略

生成AI、オフショア・ニアショア、需要の平準化をカードで示した図解
人材の活用と開発需要の整理を組み合わせる構成です。

人材が足りなくても、納期を守って開発を進める余地はあります。人数を増やすだけでなく、少人数で成果を出し、国内で足りない力は外部で補うという発想が鍵になります。

前節で見た構造的な課題への対応として、有効な戦略は、生成AI、オフショア・ニアショア、需要の平準化の3つです。いずれも単発の案件で終わらせず、企業のIT戦略全体に組み込んで使うものです。

生成AIによる開発リードタイムの短縮

人材不足への打ち手として即効性が高いのが生成AIです。コード作成に加えて、レガシー解析やテストなど滞りがちな工程も支援します。

  • コード作成:AI支援ツールを使うと、コードを書く時間を最大50%削減できるとするデータがあります。
  • システムテスト:AI自動化によってテスト工数を90%削減した事例
  • レガシー解析:コードから設計書への変換やテストケース生成の支援

NTTデータグループは、航空券予約システムをJava 8からJava 17へ更新した事例を公表しています。この事例は、生成AI(大規模言語モデル)を活用したものです。

全量約16,000ステップのうち、非互換となる約5%の修正箇所を中心に、AIが解析と修正案の生成を担いました。同社によれば、すべて人手で行う場合と比べて作業時間を大幅に削減し、高い生産性を実現したとされています。

同じ人数でも、AIをどこまで活用するかによって開発期間は変わります。そのため、納期短縮を考える際は、生成AIを開発工程に組み込むことが標準になりつつあります。

オフショア・ニアショアによる時差活用とスケール確保

国内で人材を確保できない場合は、海外チームを使うオフショアや、地方都市の拠点を使うニアショアが選択肢になります。どちらも、人員確保以外の効果と注意点があります。

  • 先端人材の確保:AIエンジニアやデータサイエンティストなどの先端人材を探せること
  • 人員の調整:繁忙期に増員し、落ち着いた後に縮小できる柔軟さ
  • 時差の活用:日本の夜間に海外チームが作業を進められること
  • 連携負担の軽減:ニアショアは、言語・文化の差が小さい傾向があります。

海外チームなら、国内で競争が激しい先端人材を、豊富な技術者プールから確保できます。時差を使えば、24時間体制に近い形で開発を進められ、リードタイム短縮にもつながります。

ただし、海外への完全な丸投げは品質低下や意思決定の遅れを招くリスクがあります。後述するハイブリッド体制との組み合わせが前提です。

そのため、機密性の高い案件や密な連携が必要なプロジェクトで選ばれる傾向があります。

需要の平準化とシステムの断捨離

需要の平準化は、開発需要そのものをコントロールする3つめの戦略です。まず社内システムの棚卸しと優先順位付けから始め、限られた人材を必要な案件に配分します。

  • システムの可視化:社内にあるシステムを一覧にし、現状を見えるようにすること
  • 優先度の設定:どの案件から手を付けるかという順番を決めること
  • 対象の絞り込み:未使用機能や重複システムを、開発・保守の対象から外すこと

刷新やDXを一斉に進めると、特定の時期に需要が集中し、社内外のエンジニアを奪い合って停滞することがあります。そこで、本当に競争力に直結する領域から進めれば、需要のピークをならせます。

納期遅延の多くは、やることが多すぎて人材が分散することに起因します。そのため、やらないことを決める判断が、重要案件の納期を守る近道になり、ポートフォリオ管理にもつながります。

ポイント

迷うときは、その案件が競争力に直結するかで優先順位を決め、生成AIや外部の力を使うか、やらないことにするかを選びます。

内製と外注のバランスとハイブリッド体制

開発期間を安定させるには、内製と外注を組み合わせることが基本になります。完全な内製は人材確保が難しく、育成が間に合わずに停滞しがちです。

全てを外注すると、社内にノウハウが蓄積されず、長期的なベンダーロックインや意思決定の遅れにつながります。そこで、競争力に直結するコア領域は内製し、ほかを外部に任せるスマートIT分業が現実的な解になります。この分業により、開発スピードと持続性を両立できます。

スマートIT分業による上流内製・下流委託

スマートIT分業では、工程を上流と下流に分けて、それぞれ内容に合う人材を配置します。ビジネス理解と判断が必要な上流は、社内で担います。

  • 上流工程:要件定義、アーキテクチャ設計、品質管理を社内で担う工程
  • 下流工程:明確な仕様に基づく実装やテストを、外部に委託する工程
  • 国内の役割:コアメンバーによる仕様の定義と品質の管理

上流を外部に丸投げすると、認識のずれが起きやすく、後工程の手戻りに直結します。人材が足りない場合でも、ここは社内で押さえるべき領域です。

下流を外部に任せれば、国内人材を付加価値の高い工程に集中させ、量の面でのリソースを補えます。オフショアを使う場合も、国内側が仕様と品質を管理すれば、丸投げによるリスクを抑えられます。

誰に何を任せるかが、開発スピードと品質を両立する鍵になります。ただし、分担が曖昧なまま外注比率だけを上げると、全体の進行が遅くなるおそれがあります。

リスキリング・育成のリードタイムと即戦力の併用

中長期的な人材不足への対応には、リスキリング(学び直し)による内製力の強化が有効です。ただし、育成には時間がかかります。

  • 学習期間:実務で使える力を身につけるまでの、3か月の研修例があります。
  • 戦力化まで:学習後、プロジェクトで力を発揮するまでには、さらに時間がかかります。
  • 短期の即戦力:派遣、フリーランス、アウトソーシングの活用

育成は半年から1年単位の中長期投資であり、目前の納期が迫る案件の解決策にはなりません。育成中だから大丈夫と考えると、納期に間に合わない場合があります。

短期案件では教育コストがかからず、すぐにアサインできる外部人材で、期限内の成果を目指します。同時に社内育成を進めて、内製比率を徐々に高めます。即戦力で目前の納期を守り、育成で将来の人材不足に備えるこの二段構えが、スケジュール戦略の要になります。

ポイント

外注する範囲は、上流の要件定義と品質管理を社内に残せるかで決めると、丸投げによる手戻りを避けられます。分担が曖昧なまま外注比率だけを上げないことも目安になります。

人材不足時代の現実的なスケジュールの引き方

アサイン期間、工数の余裕、段階的なリリースを順に示す図解
着手前の人員確保からリリースまでを計画に含めます。

構造的な遅延要因と対応策を踏まえると、スケジュールの引き方も従来と変える必要があります。理想的な工数どおりに組んだ計画では、人員確保の遅れや途中離脱を吸収しきれません。不確実性を前提に、バッファとリスクを計画に入れて、発注の段階から体制と日程の妥当性を見極めます。

バッファとリスクを織り込んだ計画

人材確保に時間がかかることを前提に、開発開始までの期間も計画に含めます。

  • アサイン期間:人員確保までのリードタイムを、あらかじめ工程に組み込むこと
  • 工数の余裕:開発本体の中に、全体工数の15〜20%程度を見込んでおくこと
  • 段階的なリリース:最小限の機能セット(MVP)を先に出し、あとから段階的に広げていく方法

優秀なエンジニアやベンダーは引く手あまたで、依頼後すぐに着手できるとは限りません。そのため、人員アサインまでの期間を含めた全体日程で考えることが現実的です。

バッファは、レガシー連携の調査が延びる場合や、キーパーソンが他案件に引き抜かれるリスクに備える余裕です。また、MVP後の機能は、人員状況に応じて日程を組み替えられます。そのうえで、楽観的な工数に頼らず、不確実性を織り込んだ崩れにくい計画を最初から設計することが、納期を守る最短ルートです。

発注時に確認すべき体制とスケジュールのポイント

外部発注では、見積金額や納期の数字だけで判断すると危険です。納期を守れるかは、ベンダーの人員確保や開発体制にも左右されます。

  • 人員と稼働:担当者のスキルと、他案件との兼務状況
  • 補完の仕組み:生成AIやオフショアを、工程のどこに組み込んでいるか
  • 契約形態:要件の流動性に合う契約の選択
  • 引き継ぎ:キーパーソンが離脱した場合の代替要員と、引き継ぎの方法

AIやオフショアを活用する会社は、同じ人数でも生産性が高く、リスクへの耐性も強い傾向があります。だからこそ、発注前には稼働の実態も含めて体制を見極めることが大切です。

仕様が未確定な場合や、アジャイルで進める場合は、稼働に応じて支払う準委任契約が、流動的な要件や人員状況に対応しやすい形です。成果物の完成を約束する請負契約との違いも踏まえて選びます。

属人化した体制では、担当者ひとりが離脱するだけで全体が止まるリスクがあります。発注前にこうした点を確かめ、人材が不足していても安定して進められるパートナーを選ぶことが、納期遵守の決め手になります。

ポイント

スケジュールは、人員確保の期間とバッファを最初から含めて組み、発注時にはベンダーの人員と稼働を確かめておくと、崩れにくい計画になります。

まとめ

IT人材不足は、開発期間・スケジュール・納期に影響を与えます。経済産業省は2030年に最大約79万人のIT人材が不足すると予測しています。「2025年の崖」が示す課題もあり、人材不足は一過性ではありません。

技術的負債や属人化、ユーザー企業のノウハウ不足が、開発期間を押し上げます。その対策として、生成AI、オフショア・ニアショア、需要の平準化があります。

上流を内製し、下流を委託する分業や、即戦力と育成の併用は、開発スピードと持続性の両立に役立ちます。さらに、人員確保の期間やバッファを含む崩れにくい計画も必要です。

人材不足を前提に体制と戦略を考えることが、納期を守るための判断につながります。開発の発注や社内体制づくりでは、AI活用やハイブリッド体制に強い開発パートナーへ相談することも選択肢になります。

▼全体ガイドの記事
・IT人材不足の完全ガイド

会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

もし、システム開発やプロダクト開発に関するご要望がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

・サービス概要資料のURLはこちら >>>
・お問合せページのURLはこちら >>>
・お役立ち資料のURLはこちら >>>

執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。