IT人材不足への対処は、採用人数を増やすだけでなく、業務課題を整理し、必要な役割を定義し、外部の開発力と社内の知識を組み合わせて定着させる一連のプロセスです。要件整理から選定、設計・開発、テスト、稼働、定着までを6つのフェーズに分けて進めると、限られた人材でも優先順位を保ったまま成果につなげやすくなります。
本記事では、プロダクト開発や情報システム部門でIT人材不足に悩む企業向けに、実務で使える進め方、判断基準、チェック項目、費用の考え方、見積もりで確認すべき内容を整理します。IPAや経済産業省の公開情報を踏まえ、採用・リスキリング・外部パートナー活用をどの場面で組み合わせるか、開発後にノウハウを社内へ戻す方法まで具体的に解説します。
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IT人材不足の全体像

IT人材不足とは、単にプログラマーの人数が足りない状態ではありません。事業の目的をデジタル施策へ落とし込む人、業務を設計する人、開発する人、データやセキュリティを守る人が、必要なタイミングで揃わない状態を含みます。最初に「何人採用するか」ではなく、「どの成果に、どの役割が、いつ必要か」を決めることが重要です。
不足しているのは人数よりも役割と時間です
経済産業省の調査では、IT人材の需給ギャップは2030年に中位シナリオで約59万人、最大で約79万人の不足になると推計されています(出典:経済産業省「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査」、2016年)。この数字は古い推計だから無意味なのではなく、需要が増える一方で供給が追いつきにくい構造を理解する材料です。2025年公開のIPA「DX動向2025」でも、日本企業のDX推進人材は85.1%が不足しており、状況が一時的な採用難だけではないことが示されています(出典:IPA「DX動向2025」、2025年)。
たとえば、企画担当者はいるものの要件を仕様へ変換できない、開発者はいるものの業務部門との調整に時間を取られる、リリース担当者が不在でテストが後回しになる、といった状態です。こうした役割の欠落を見ずに採用を続けると、採用できた人材が調整業務に埋もれ、開発スピードも定着率も改善しません。
内製・採用・外部活用を目的別に組み合わせます
内部育成は業務知識を蓄積しやすく、採用は中長期の体制を作りやすい方法です。一方、納期が決まった開発や不足している専門領域の補強には、外部の開発チームや専門家を活用するほうが合理的な場合があります。選択の基準は「内製か外注か」という二択ではなく、事業理解を社内に残す役割と、短期間で成果物を作る役割を分けられるかです。
なお、DSSではDX推進人材をビジネスアーキテクト、デザイナー、データサイエンティスト、ソフトウェアエンジニア、サイバーセキュリティの5類型で整理しています(出典:経済産業省・IPA「デジタルスキル標準」、2024年)。この分類を採用要件や外部パートナーの提案比較に使うと、「フルスタック人材が欲しい」という曖昧な依頼を、必要な役割の組み合わせへ分解できます。
IT人材不足への進め方

IT人材不足の解消は、次の6フェーズで進めると判断がぶれにくくなります。各フェーズの成果物を残し、次へ進む条件を合意しておくことがポイントです。人材を採用する場合も外部チームを組成する場合も、作業の順序は変わりません。
1. 要件整理:不足を業務と役割に分解します
最初に、経営課題、現場の困りごと、開発したい機能を混ぜずに書き出します。「人が足りない」ではなく、「受注登録の二重入力をなくしたい」「月次集計を3営業日短縮したい」「障害対応を特定社員から引き継ぎたい」のように、業務と成果で表現することが必要です。
要件整理のチェック項目は、対象ユーザー、対象業務、現行の手順、入力データ、連携先、権限、期限、成功指標、社内で保持したい知識の9点です。さらに、DSSの5類型を使い、企画・業務設計・UI・データ・開発・セキュリティのどこが不足しているかを色分けします。ここで「採用が必要な役割」と「一時的に外部で補う役割」を分けると、過剰な採用計画を避けられます。
2. 選定:不足する能力と補完方法を決めます
選定では、採用、社内育成、開発会社への委託、ラボ型の外部チーム、フリーランス、オフショアなどを比較します。短期の納期、専門スキルの希少性、業務知識の重要度、セキュリティ要件、将来の内製化方針を軸に評価してください。たとえば、業務知識が重要で長期運用する中核領域は社内責任者を置き、短期間のUI改善や特定技術の導入は外部専門家で補う設計が現実的です。
選定時の確認項目は、担当者の実績だけでは足りません。プロジェクト責任者が誰か、要件定義を誰が担うか、レビューと品質保証を誰が行うか、担当者が離脱したときに代替できるか、成果物とソースコードの権利がどうなるか、終了時の引き継ぎを契約に含めるかまで確認します。提案書に人数だけが書かれ、役割と成果物が書かれていない場合は、比較できる状態になっていないと判断できます。
3. 設計・開発:社内担当者を意思決定に残します
設計・開発では、外部へ丸投げしないことがIT人材不足の再発防止になります。社内側にはプロダクトオーナーまたは業務責任者を置き、優先順位、受け入れ条件、業務上の例外を決めてもらいます。外部チームには設計、実装、レビュー、ドキュメント作成を任せても、業務上の意思決定まで委譲しない線引きが必要です。
開発中は、毎週のデモで実際の画面や動作を確認し、決定事項を議事録と課題台帳に残します。生成AIを要件整理やテストケースのたたき台に使う場合も、機密情報を入力してよい範囲、生成物を人がレビューする責任者、著作権や脆弱性の確認方法を決めておきます。AIで作業速度が上がっても、レビューと育成の機会まで削ると、若手が判断力を身につけにくくなるためです。
4. テスト:人材不足を品質不足に変えない仕組みを作ります
テストは開発者だけに任せず、単体テスト、結合テスト、業務シナリオテスト、権限テスト、データ移行テスト、負荷・セキュリティ確認に分けます。特に業務部門が実際のデータと手順で確認する受け入れテストを、リリース直前ではなく早い段階から実施してください。後から大きな仕様変更が発生すると、外部チームの稼働も社内確認の時間も増えます。
品質のチェックリストには、テスト観点、担当者、合格条件、不具合の重大度、再テストの期限、リリース判定者を含めます。品質保証の担当者が不足している場合は、第三者レビューや専門会社のテスト支援を短期で入れる方法があります。人材不足を理由にテストを省略するのではなく、重要な業務とリスクの高い変更へ確認を集中させることが現実的です。
5. 稼働:運用責任と問い合わせ経路を明確にします
稼働時は、システムが動くことだけでなく、障害や問い合わせに対応できることを確認します。一次受付、切り分け、エスカレーション、復旧判断、利用者への連絡を誰が行うかを運用フローにします。外部チームへ依頼する場合は、対応時間、連絡手段、対象外作業、追加費用の発生条件、ログの保管場所を契約書や運用設計書に明記してください。
稼働後の1か月は、問い合わせ件数、障害の再発、手作業の残存、利用率、処理時間を計測します。採用した人材や外部チームが忙しいからと運用データを取らないと、改善効果を説明できず、次の予算も確保しにくくなります。業務のどの部分が改善したかを、開発前のベースラインと比較できるようにしておくことが重要です。
6. 定着:ノウハウを社内へ戻して再発を防ぎます
定着フェーズでは、外部の人材がいなくても最低限の判断と運用ができる状態を目指します。設計書を納品して終わりにせず、社内担当者とのペア作業、コードレビューへの参加、運用訓練、障害訓練、月次の振り返りを組み込みます。引き継ぎ対象はソースコードだけではなく、なぜその設計にしたか、変更時にどこへ影響するか、判断に迷う業務ルールは何かまで含めます。
リスキリングを行う場合は、受講修了数ではなく、実務で使える成果物と行動で評価します。研修後に担当する小さな改善案件、相談できるメンター、学習時間、評価制度、次のキャリアを先に決めることが定着率を高めます。育成した人が異動や退職で離れるリスクもあるため、知識を個人に閉じ込めず、ドキュメント、ペア作業、複数担当制で分散してください。
IT人材不足の費用相場とコストの内訳

IT人材不足対策の費用は、採用、育成、外部支援、開発、運用のどこまでを含めるかで変わります。単純な「エンジニア1人の月額」だけで比較すると、要件整理やテスト、引き継ぎの費用が抜けて後から追加請求になりやすいため、フェーズごとの工数と成果物で見積もります。
人月単価は役割と経験で幅があります
公開されている2025年時点の目安では、プロジェクトマネージャークラスは月70万〜130万円、シニアエンジニアは月80万〜120万円、中堅エンジニアは月50万〜70万円程度とされています(出典:株式会社ripla「官公庁のシステム開発の見積相場や費用/コスト/値段について」、2025年)。これはあくまで人月単価の目安であり、会社の所在地、契約形態、専門性、稼働率、セキュリティ要件、成果物の責任範囲によって変動します。
たとえば、PM0.5人月、中堅エンジニア2人月、シニアエンジニア0.5人月を1か月依頼する場合、上記のレンジを機械的に当てはめた作業費はおおよそ135万〜255万円です。ただし、これは人月単価だけで算出した仮置き例で、要件定義、デザイン、テスト、管理費、クラウド、ライセンス、税、交通費は別途になる場合があります。提案書では、含む費用と含まない費用を分けて確認してください。
費用は6フェーズと周辺コストに分けます
見積書では、要件整理・企画、選定支援、設計・開発、テスト、稼働支援、定着・引き継ぎを別行にします。加えて、プロジェクト管理、UIやUX、データ移行、外部サービス連携、クラウド利用料、監視・保守、セキュリティ診断、教育・マニュアル作成を確認します。IT人材不足の解消が目的なら、最後の引き継ぎと教育を削らないことが大切です。
内製化の費用は研修費だけではありません。参加者の稼働時間、メンターの時間、実務で試すための小規模案件、採用・定着施策、学習環境も含めて考えます。外部活用の費用が高く見えても、採用待ちによる機会損失や既存社員の残業、障害の再発まで含めて比較すると、短期の外部支援が合理的になることがあります。
総額は単価×工数とリスク予備費で考えます
概算は「役割ごとの単価×フェーズごとの工数+環境・ライセンス費+予備費」で計算します。予備費を一律に上乗せするのではなく、現行システムの調査不足、データの品質、外部連携、権限設計、業務部門の確認遅れなど、リスクごとに発生条件を置いてください。IPAも、経験と勘だけでなく実績データに基づく定量的なプロジェクト管理が重要だと説明しています(出典:IPA「ソフトウェア開発分析データ集」、2020年以降公開)。
見積もりの精度が低い段階で一つの金額に固定するより、初期調査、要件定義、開発の三段階で見直すほうが安全です。特に現行システムが複雑で資料が不足している場合は、最初から本開発の固定額を求めず、調査・要件整理を先行契約にする方法があります。これにより、IT人材不足を理由に曖昧なまま発注するリスクを下げられます。
IT人材不足対策の見積もりを取る際のポイント

複数社から見積もりを取るときは、安い順に並べるのではなく、同じ前提で比べられる状態を作ります。RFPや依頼書が曖昧なままだと、各社が異なる範囲で見積もるため、金額差が技術力の差なのか、作業範囲の差なのか分からなくなります。
依頼書には目的・範囲・成果物・体制を入れます
非IT部門がRFPを作る場合は、技術用語から書き始める必要はありません。まず、背景、解決したい業務課題、利用者、対象範囲、対象外の範囲、現行業務の流れ、必要な連携、データ量、セキュリティ条件、希望時期、予算の考え方、納品後に社内で担うことを整理します。機能一覧だけでなく、受け入れ条件を「担当者が何を確認できれば完了か」で書くことが有効です。
生成AIをRFP作成の壁打ちに使うこともできます。たとえば「この業務フローから、抜けている例外処理、確認すべき権限、テスト観点を質問形式で洗い出してください」と依頼し、出力を現場担当者と確認します。ただし、社内情報や個人情報を入力する可否、出力内容の確認者、最終決定者は自社で定めます。AIの回答を要件の正解とみなさず、質問を増やす道具として使うことが安全です。
提案比較では人材の質と引き継ぎを確認します
比較表には、会社名と金額だけでなく、役割、経験領域、稼働率、担当期間、レビュー体制、品質保証、業務理解の進め方、コミュニケーション方法、使用する開発基盤、セキュリティ対応、成果物、引き継ぎ方法を入れます。面談では、過去の成功談だけでなく、仕様変更や遅延、不具合、担当者交代が起きたときにどう対応したかを質問してください。
特に重要なのは、外部チームの稼働が終わったあとに社内が困らないかです。コードや設計書の納品だけでなく、運用手順、判断履歴、未解決課題、技術的負債、次に手を入れる箇所を残せるか確認します。定例会で社内担当者が質問し、作業を一部担当し、最終的に単独で小さな変更を行えるかを定着の指標にすると、引き継ぎの実効性を評価できます。
追加費用と失敗リスクの条件を先に確認します
見積もりで注意したいのは、「別途」「必要に応じて」「想定外」という表現です。どの条件で追加費用になるのか、変更管理の単位は何か、月次の上限はあるか、納期に影響する要因は何かを具体化します。データ移行の件数、外部APIの仕様変更、脆弱性対応、ブラウザや端末の対応範囲、ユーザー受け入れテストの回数などは、後から差が出やすい項目です。
また、金額だけを下げるために要件整理やテストを削ると、稼働後の修正費用と社内負担が増えることがあります。初期段階では、必須機能と将来機能を分け、最小のリリース範囲を決めます。そのうえで、品質と引き継ぎに必要な作業は残し、優先順位の低い機能を後ろへ送る判断が、予算と納期を守る方法です。
IT人材不足に関するよくある質問

IT人材不足への対応では、採用すべきか、外部へ依頼すべきか、どこから着手すべきかで迷いやすくなります。ここでは、実務で相談されることが多い質問に、判断の軸を添えて回答します。
IT人材不足の対策は何から始めればよいですか?
まず、採用計画ではなく、止まっている業務と必要な成果を1枚に整理します。対象業務、期限、利用者、現行の問題、必要な役割、社内で残したい知識を明確にしてから、採用・育成・外部活用を比較すると、手段が目的化しにくくなります。
内製化と外部委託はどのように使い分けますか?
事業や業務の判断を社内に残したい場合は、社内責任者を置いたうえで、不足する専門性や開発量を外部で補う組み合わせが有効です。納期が近い、特定技術が必要、品質保証が不足している場合は外部活用を先行し、定例レビューとペア作業で社内へ知識を移します。長期的には、外部に任せる領域と社内で育てる領域を契約前に分けておくことが重要です。
IT人材不足対策の見積もりは何を基準に選べばよいですか?
総額だけでなく、作業範囲、役割、成果物、品質保証、体制、追加費用の条件、引き継ぎまで同じ表で比較します。最も安い提案ではなく、目的を達成するための前提が明確で、変更や担当者交代にも対応でき、社内に知識が残る提案を選ぶことが安全です。
生成AIを使えばIT人材不足は解消できますか?
生成AIは、調査、設計書のたたき台、コード補助、テストケース作成などの生産性向上に役立つ可能性がありますが、業務判断、品質保証、セキュリティ、運用責任まで代替するものではありません。AIを使うほど、目的を定義し出力をレビューする人材が必要になります。利用範囲とレビュー体制を決め、まずは低リスクの業務で効果を測ってから対象を広げることをおすすめします。
まとめ

IT人材不足の進め方で最も重要なのは、人を増やす前に、必要な役割と成果を定義することです。要件整理、選定、設計・開発、テスト、稼働、定着の6フェーズに分け、各段階の成果物と判断者を明確にすれば、採用・育成・外部活用を組み合わせてもプロジェクトの責任が曖昧になりません。
最初の一歩は不足の棚卸しと小さな成果です
まずは、止まっている業務、期限、必要な役割、社内で残す知識を整理し、1つの小さな改善案件を選びます。短期の外部支援で成果を出しながら、社内担当者が要件整理やレビューに参加し、次の改善を自力で進められる状態を作ることが、IT人材不足を一時的な穴埋めで終わらせない方法です。
費用は短期の作業費と長期の定着費で評価します
見積もりは、人月単価と開発工数だけでなく、要件整理、テスト、運用、教育、引き継ぎ、予備費まで含めて比較します。公開単価はあくまで目安なので、前提条件と追加費用の条件を確認し、業務の改善効果と社内に残る能力を含めて投資判断を行うことが、再発しないIT人材不足対策につながります。
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会社紹介
株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
