SaaSアプリ開発の保守・運用費用・ランニングコストについて

SaaSアプリの保守・運用費用は、保守の範囲、テナント数、SLA(サービス品質保証)の水準によって変わり、月額数万円程度から100万円以上まで幅があります。さらに、継続的なアップデートにかける予算も、全体の金額を左右します。

▼全体ガイドの記事
・SaaSアプリ開発の完全ガイド

SaaSアプリの保守・運用費用の全体像

SaaSアプリのランニングコストを、インフラ・ホスティング、外部SaaS/API、保守・運用の人件費、継続的なアップデートに分けた図。
費目を並べると、継続支出の発生源を見渡せます。

SaaSアプリは、初期開発費よりもリリース後の継続コストが大きくなりやすいサービスです。契約テナントが増えるほど、インフラの負荷が高まり、セキュリティ要件への対応も増えていきます。さらに、競合に対抗する機能追加が続くことも、継続コストを押し上げる理由です。

年間保守費は初期開発費の15〜20%が目安です。ランニングコストは、この保守費に、インフラ費、外部サービス費、継続的なアップデート費が加わって構成されます。見積もるときは、費目ごとに分けて考えると、どこで費用が増えるかが見えてきます。

年間保守費は初期開発費の15〜20%が目安

年間保守費は初期開発費を基準に見積もります。保守費でまかなうのは、リリース後のシステムを安定して動かし続けるための作業です。新機能の追加は、この保守費とは切り分けて考えます。

  • バグ修正:運用中に見つかった不具合の修正です。
  • セキュリティ対応:脆弱性が見つかったライブラリなどの更新です。
  • バージョンアップ:依存パッケージの更新への追従です。
  • 小規模な機能改善:運用中に出てくる細かな改善です。

たとえば、1,500万円で開発した場合、年間225万〜300万円程度が目安です。

SaaSアプリは多くのテナントが日常業務で使うため、障害の影響範囲が広くなります。そのため、不具合対応の優先度も高くなる傾向があります。

課金基盤や認証サービスの仕様が変わると、それに追従する保守も継続的に発生します。

見積もりを比べるときは、保守費が初期開発費の15〜20%に収まっているかを確かめます。

24時間365日の監視や積極的な機能追加を求める場合は、保守費とは別枠の予算が必要です。

ランニングコストを構成する要素

SaaSアプリの継続費用は、発生源ごとに分けて洗い出すと、見積もりの漏れが減ります。

  • インフラ・ホスティング:クラウドサーバーやデータベースの利用料です。
  • 外部SaaS/API:決済、認証、監視などの外部サービス費です。
  • 保守・運用の人件費:社内で対応するか外部に委託するかで形態が変わります。
  • 継続的なアップデート:機能追加や改善に充てる予算です。

インフラ費は、テナント数やアクセス量に応じて変わる従量課金が中心です。

保守・運用の人件費は、求める対応レベルによって月額の固定費が変わります。

継続的なアップデート費は、競合対策やチャーン(解約)の防止に充てる費用です。こうした費用は、テナント数の増加に合わせて連動して膨らみます。

SaaSアプリのランニングコストは、初期は小さくても、成長とともに大きくなる構造になっています。

ポイント

見積もりを比べるときは、保守費が初期開発費の15〜20%に収まるかを、まず一つの目安にします。大きく外れる場合は、保守に含まれる作業の中身に理由があるかを見ます。

インフラ・ホスティング費用

テナント数の増加から、サーバーのスペックや台数、データベース容量と通信量を経て、インフラ費用が上昇する流れを示す図。
利用規模の伸びが複数のインフラ項目へ波及します。

インフラ・ホスティング費用は、テナント数の増加に敏感に反応します。マルチテナント基盤では1つのシステムを複数の企業で共有するため、テナントが増えるほど、サーバー負荷、データ量、通信量が増えます。

インフラ費は、クラウドの従量課金が基本です。

テナントが増えるにつれて、スケールに伴う付随費用も加わります。

マルチテナント基盤のクラウド従量課金

クラウド費用は、規模とデータ構成の両面から判断する必要があります。

  • 従量課金:利用量に応じてクラウド費用が変わります。
  • 共有データベース:リソースを効率よく使えるため、費用を抑えやすい方式です。
  • データベース分離:分離性とセキュリティに優れる方式です。

AWS・Google Cloud・Azureなどを使う中規模SaaSは、月額5万〜50万円以上が相場です。

サービス開始直後でテナントが少ない時期は、月額数万円程度に抑えられます。

テナントが増えると、サーバーのスペックや台数が増えます。

データベース容量と通信量も増えるため、費用は段階的に上がります。

共有データベース方式では、特定のテナントの負荷が他に及ばない設計が欠かせません。

テナントごとにデータベースを分ける方式は、その数に比例して維持費が増えます。

見積もりでは、現在の規模に加えて、1年後・3年後の成長も織り込んでおく必要があります。

スケールに伴う費用増とSSL・CDN

成長の段階では、費用の増え方と通信の保護を同時に見通しておくことが大切です。

  • インフラの高度化:負荷の増加に応じた構成の見直しです。
  • SSL・独自ドメイン:通信の保護とドメインの維持にかかる費用です。
  • CDN:表示速度の向上と、オリジンサーバーの負荷軽減に役立ちます。

単純なサーバーの増強で対応できない場合は、開発会社がロードバランサーを導入します。

データベースの分散化やCDNの活用も、インフラ構成の高度化に含まれます。

中〜大規模のトラフィックに対応する段階では、インフラ費用が10〜30%程度増加します。

SaaSアプリは、使われるほど収益とインフラ費用がともに増える構造です。そのため、テナントあたりの収益とインフラコストの均衡を監視する必要があります。ユニットエコノミクス(顧客1社あたりの採算)が成り立つ設計かどうかが、事業継続の鍵です。

SSL証明書は年間約3,000円〜8万円、独自ドメインは年間1,000円〜5万円です。BtoB向けのSaaSでは通信の保護が欠かせないため、これらの維持費も発生します。

テナントごとに独自ドメインを割り当てる場合は、証明書の自動更新が必要になります。カスタムドメイン機能では、証明書の自動発行や更新に運用コストがかかります。

グローバルに利用されるSaaSアプリであれば、CDNの導入を検討する価値があります。

ポイント

インフラ費は、今のテナント数ではなく、1年後や3年後に見込むテナント数を基準に見積もります。成長の速さが読めないと、稼働後に予算が足りなくなることがあります。

ライセンス・外部SaaS/API費用

SaaSアプリは、課金・認証・監視などを外部サービスに任せることで、開発を効率化できます。ただし、外部サービスには、利用規模に応じた継続費用が発生します。

課金基盤(Stripe等)と決済手数料

サブスクリプション課金の費用は、初期実装費と決済手数料に分けて考えます。

  • 初期実装:課金機能の実装費で、80万〜200万円です。
  • 決済手数料:決済のたびに、売上に応じて発生する費用です。
  • 標準機能:請求や解約などの管理機能です。

課金機能の初期費用は1〜3人月に当たり、一度きりのコストです。一方で、決済手数料は売上に対して一定の料率がかかり、売上の増加に比例して増えます。

事業計画では、決済手数料を売上原価の一部として扱い、料金設計に反映させます。

課金基盤には、プランの変更や解約、請求書の発行といった機能が備わっています。支払いに失敗したときのリトライにも対応しているため、自前で実装する工数を減らせます。

標準機能を使えば、課金まわりの保守負担を大きく抑えられます。反対に、独自の複雑な課金ロジックを作り込むほど、その後の保守費は増えていきます。

認証・監視・アプリストア費用

課金基盤以外の外部サービスも、利用規模に応じて費用を見積もる必要があります。

  • 認証・バックエンド:FirebaseやSupabase、Auth0などのサービスです。
  • 監視ツール:障害の検知と原因の究明を担うツールです。
  • アプリストア:モバイル提供時に必要になる年間費です。

認証・バックエンドサービスは、初期には月額10〜200ドル程度になることがあります。日本円では約1,500円〜3万円程度ですが、利用量に応じて変わります。

認証回数、メッセージ送信数、同時接続ユーザー数が主な課金要素です。テナントとユーザーが増えるほど、認証やバックエンドのコストは上がります。

監視では、エラートラッキング、ログ管理、APMを組み合わせて使います。APMはアプリケーションのパフォーマンス監視を指し、障害の原因究明に役立ちます。

監視ツールの月額料金は、ログの量やデータの保持期間によって変わります。

アプリストアの費用は、iOSのApp Storeが毎年99米ドル(約1.4万円)です。なお、AndroidのGoogle Playは初回のみ25米ドル(約3,300〜3,600円)です。

外部サービスは、規模が拡大した後の費用もあらかじめ試算しておくことが大切です。

ポイント

課金の仕組みは、独自に作り込むほどその後の保守費が増えます。標準機能で足りる範囲を先に確かめると、自前で作る部分を絞りやすくなります。

保守契約の形態とSLA

保守運用の3段階を並べ、オンデマンド対応は月額10万〜30万円、営業時間内対応は月額30万〜60万円、24時間365日監視・対応は月額60万〜100万円以上と示した図。
対応時間が広がるにつれて、月額相場も上がります。

外部ベンダーへの保守費用は、どこまで手厚い対応を求めるかで変わります。中でも、SLA(サービス品質保証)の水準は月額費用を左右する要素です。

システムの停止は顧客の業務損害に直結するため、発注側は対応範囲を明確にしておく必要があります。

SLA水準別の月額相場(3段階)

保守運用の月額相場は、求める対応レベルに応じて3段階に分かれます。

  • オンデマンド対応:障害発生時だけ対応し、月額は10万〜30万円です。
  • 営業時間内対応:平日の日中に対応し、月額は30万〜60万円です。
  • 24時間365日監視・対応:即時対応を含む体制で、月額は60万〜100万円以上です。

オンデマンド対応は、利用テナントが少ない段階に適しています。

一定のテナント数に達し、日中の安定稼働を確保したい場合は、営業時間内対応を選びます。

24時間365日対応は、BtoB SaaSやミッションクリティカルな用途で求められます。

SLAの水準は、顧客との契約上の約束に直結します。たとえば稼働率99.9%保証などを掲げる場合は、保守体制にも相応の費用がかかります。

提供するSLAと保守費のバランスは、事業計画の段階で設計しておきます。

ラボ型契約(準委任)の特徴

継続的に改善するSaaSアプリには、ラボ型契約(準委任契約)が適しています。

  • 月額固定費:専属の開発チームを、一定期間まとめて確保する形です。
  • 柔軟な対応:契約期間内の仕様変更や追加開発に応じられます。
  • 継続改善:保守と機能追加を同じチームが担当する形です。

ラボ型契約は、成果物を完成させて終える請負契約とは異なります。継続的に手を入れ続けるSaaSアプリとは、相性のよい契約です。

同じチームが担当し続けることで、プロダクトへの理解が深まり、改善の品質も安定します。

月額が固定なので予算を見通しやすく、社内での採用の負担も軽くできます。

専属チームを確保するため、稼働が少ない月でも固定費はかかります。そのため、継続的な改善ニーズがあるフェーズで効果を発揮します。

SaaSの運用では、障害対応と進化のための開発体制を確保することが重要です。

契約書では、対応範囲とSLAを明確にし、契約期間と対応時間も確認しておきます。また、休日や夜間の対応の有無や、自動更新による囲い込みにも注意が必要です。

ポイント

保守のSLA水準は、顧客との契約上の約束から逆算して決めます。24時間365日の対応は、約束として必要な場合に限って選ぶと、月額費用を抑えられます。

SaaS特有の継続コストと最適化

SaaSには、成長を続けることやチャーン(解約)を防ぐための、継続的な投資が欠かせません。

継続的アップデートとセキュリティ監査

リリース後も機能を改善し続けることで、競合との差別化を保ちやすくなります。

  • 追加開発:顧客の要望に応じて機能を追加する予算です。
  • セキュリティ認証:法人向けでは、取得と監査への対応が必要です。
  • モバイル追従:OSのメジャーアップデートに合わせて行う改修です。

初年度は、初期開発費の30〜50%を追加開発の予算として確保しておきます。たとえば1,500万円で開発した場合は、年間450万〜750万円が目安になります。

この予算は、初期開発費の15〜20%を基準とする保守費とは別枠で考えます。特に総保有コスト(TCO)を考える際には、追加開発費が見落としやすい項目です。

法人(エンタープライズ)向けでは、厳格な認証や監査が取引の条件になることがあります。

ISO 27001やSOC 2に対応する場合は、開発・運用費が20〜50%上振れします。

認証を取得したあとも、継続的な監査対応や脆弱性診断の費用が毎年発生します。

モバイル版では、iOSやAndroidのメジャーアップデートに毎年追従する必要があります。OSアップデートへの改修は、1回につき数十万円規模の費用がかかり続けます。

保守や追加開発などの継続費用を事業計画に織り込むことが、長期運営の前提になります。

コスト最適化の実践策

ランニングコストは、機能、インフラ、保守範囲の順に見直していくと、管理がしやすくなります。

  • 機能の絞り込み:利用状況から需要の低い機能を見直す取り組みです。
  • インフラ最適化:予算管理と割引の活用による費用の抑制です。
  • 保守範囲の切り分け:自社とベンダーの担当を分けておくことです。
  • 標準機能の活用:独自実装を抑えることです。

使われていない機能にも、インフラ費と保守費はかかります。そのため、機能を整理することが有効です。

クラウドのオートスケーリング設定が不適切だと、費用が急増することがあります。トラフィックの急増時に費用が跳ね上がるこのリスクは、「パケ死」と呼ばれています。

予算アラートや上限の設定を行い、リザーブドインスタンスを活用します。

コミットメント割引を使うことも、インフラ費の抑制につながります。

保守費が初期開発費の15〜20%に収まっているかを確認し、委託する範囲を明確にします。

ヘルプデスクなどの運営業務まで含めると、月額費用はさらに膨らみます。

課金基盤やBaaSの標準機能に任せる範囲を広げるほど、保守の対象は減ります。

初期に作り込みすぎないことが、後の運用コストを左右します。

設計段階からランニングコストを意識することが、長期的な最適化につながります。

ポイント

保守費とは別に追加開発の予算を見込むかどうかが、判断の分かれ目になります。法人向けの認証や監査が求められる場合は、開発・運用費の上振れも一緒に見込んでおくと安心です。

まとめ

年間保守費は、初期開発費の15〜20%が基本です。1,500万円の開発なら、年間225万〜300万円が目安になります。

中規模SaaSのクラウドインフラ費は、月額5万〜50万円以上です。スケールに伴い、インフラ費が10〜30%増えることもあります。

決済手数料、認証、監視、アプリストアの費用も積み上がります。

SLA水準別の保守費は、月額10万〜100万円以上の幅があります。求める対応レベルによって、その幅のどこに収まるかが変わります。

継続的なアップデート費は、初年度に初期開発費の30〜50%が目安です。

ISO 27001やSOC 2への対応では開発・運用費が20〜50%上振れし、モバイル版ではOSアップデートへの追従に1回数十万円規模かかります。

SaaSアプリは、初期は小さくても成長とともにランニングコストが大きくなります。テナント数を見越したインフラ設計が、費用計画を立てる際の前提になります。

課金基盤やBaaSの標準機能を活用し、独自実装を抑えることも重要です。ラボ型契約は、継続改善の体制を確保する選択肢になります。

使われない機能を整理すると、不要な維持コストを削減できます。さらに、初期開発費だけでなく、リリース後の総保有コスト(TCO)まで見据えて予算を立てます。

▼全体ガイドの記事
・SaaSアプリ開発の完全ガイド

会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

もし、システム開発やプロダクト開発に関するご要望がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

・サービス概要資料のURLはこちら >>>
・お問合せページのURLはこちら >>>
・お役立ち資料のURLはこちら >>>

執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。