本記事では、SaaS開発の発注・外注・依頼・委託方法について、要点を整理して解説します。結論として、SaaSはリリースして終わりではなく、リリース後の運用・保守と継続的な機能改善が事業成功に不可欠です。リリース後の委託体制についても、開発フェーズの発注と同時に計画しておくことが重要です。
- SaaS開発の発注・外注の全体像
- 発注前に準備すべきこと
- 契約形態の選び方と注意点
- 発注後のプロジェクト管理と品質確保
- リリース後の運用委託と継続的改善の発注
SaaS(Software as a Service)プロダクトの開発を外部に発注したいと考えているものの、「どのような手順で発注すればよいのか」「契約形態はどれを選ぶべきか」「発注前に準備すべきことは何か」といった疑問を抱えている企業担当者の方は少なくありません。SaaS開発の外注・委託は、従来のシステム開発とは異なるポイントが多く、適切なパートナー選定と契約設計が成功の鍵を握ります。特に、SaaSはリリース後も継続的な改善と運用が前提となるビジネスモデルであるため、発注時点で開発後の運用体制まで見据えた計画を立てることが重要です。
本記事では、SaaS開発の発注・外注・委託の方法について、発注前の準備から契約締結、プロジェクト運営、品質管理まで、実務に必要な情報を体系的に解説します。初めてSaaS開発を外部に委託する方にも分かりやすい内容となっていますので、ぜひ参考にしてください。
本テーマに関する全体ガイドは、以下の記事をご覧ください。
▼全体ガイドの記事
・SaaS開発の完全ガイド
SaaS開発の発注・外注の全体像

SaaS開発を外部に発注する際のプロセスは、「発注前の準備」「開発会社の選定」「契約締結」「開発プロジェクトの推進」「リリースと運用体制の構築」の5つのステップに分かれます。各ステップで押さえるべきポイントを理解し、漏れのないプロセスで進めることが、プロジェクト成功の基盤となります。
自社開発と外注の判断基準
SaaS開発を外注するかどうかの判断は、自社のリソース、技術力、事業戦略を総合的に考慮して行います。外注が適しているのは、以下のようなケースです。第1に、社内にSaaS開発の経験を持つエンジニアが不在または不足している場合です。SaaS開発にはマルチテナントアーキテクチャ、クラウドインフラ設計、サブスクリプション課金システムの実装など、専門的なスキルセットが求められるため、これらの経験を持つエンジニアの採用・育成には時間がかかります。第2に、市場投入のスピードを優先する場合です。エンジニア採用から始めると数ヶ月〜半年以上のリードタイムが必要ですが、外注であれば即座に開発リソースを確保できます。第3に、初期投資を変動費化したい場合です。正社員エンジニアの採用は固定費ですが、外注は開発期間に応じた変動費として管理できます。一方、自社開発が適しているのは、SaaS事業が中長期的な経営戦略の柱であり、技術力の内製化が不可欠と判断される場合や、頻繁な仕様変更と迅速な対応が求められる場合です。
発注から開発完了までの全体フロー
SaaS開発の発注から開発完了までの全体フローは、以下の流れで進行します。まず「発注前準備」(1〜2ヶ月)では、プロダクトの目的・ターゲット・主要機能を整理し、RFP(提案依頼書)を作成します。次に「開発会社の選定」(1〜2ヶ月)では、候補企業のリストアップ、RFPの送付、提案書の受領と比較評価、プレゼンテーション(コンペ)の実施を経て、発注先を決定します。「契約締結」(2〜4週間)では、契約形態の決定、基本契約書と個別契約書の締結、秘密保持契約(NDA)の締結を行います。「開発プロジェクトの推進」では、要件定義・設計・開発・テストの各フェーズを進行管理しながら推進し、期間はプロジェクトの規模によって異なります。最後の「リリースと運用体制の構築」では、本番環境へのデプロイ、運用・保守体制の構築、成果物の検収を行います。全体の所要期間は、小規模SaaSで6〜9ヶ月、中規模SaaSで9〜18ヶ月、大規模SaaSで18ヶ月〜3年程度が目安です。
発注前に準備すべきこと

SaaS開発の発注を成功させるためには、発注前の準備が極めて重要です。準備が不十分なまま発注すると、開発中に要件の認識齟齬が頻発し、スケジュール遅延やコスト超過の原因となります。
RFP(提案依頼書)の作成方法
RFP(Request for Proposal:提案依頼書)は、開発会社に対してプロジェクトの概要と要件を伝え、提案と見積もりを依頼するための文書です。SaaS開発のRFPには、以下の項目を含めることが推奨されます。「プロジェクトの背景と目的」では、なぜSaaSを開発するのか、ターゲット市場、解決したい課題、ビジネス目標を明記します。「プロダクトの概要」では、SaaSの全体像、主要な機能一覧、ターゲットユーザー像(ペルソナ)を記載します。「技術要件」では、マルチテナント対応の有無、想定ユーザー数、パフォーマンス要件、セキュリティ要件、対応ブラウザ・デバイス、外部サービス連携の要件を明記します。「スケジュール」では、開発開始希望時期、MVP リリース希望時期、本格リリース希望時期を記載します。「予算」では、全体予算の上限や、フェーズごとの予算配分の希望を記載します。「提案時の要件」では、提案書のフォーマット、提出期限、プレゼンテーションの有無を指定します。RFPの品質が提案の品質を左右するため、できるだけ具体的に記述することが重要です。ただし、技術的な実装方法については、開発会社の知見を活かせるよう、過度に限定しないことも大切です。
予算とスケジュールの策定
SaaS開発の予算策定では、初期開発費用だけでなく、リリース後の運用・保守費用、マーケティング費用、カスタマーサポート費用を含めた総合的な事業計画を立てることが重要です。初期開発費用の相場は、小規模MVPで500万〜2,000万円、中規模SaaSで2,000万〜5,000万円、大規模SaaSで5,000万〜2億円程度です。予算に余裕を持たせるために、見積もり額の10〜20%程度をコンティンジェンシー(予備費)として確保しておくことをおすすめします。開発プロジェクトでは、要件変更や技術的な課題により追加費用が発生することが珍しくないためです。スケジュールについては、開発期間だけでなく、発注前の準備期間(1〜2ヶ月)、開発会社の選定期間(1〜2ヶ月)も考慮した上で、リリース希望日から逆算してプロジェクト全体のタイムラインを設計します。特にSaaSビジネスでは、市場投入のタイミングが競争優位性に直結するため、MVP戦略を採用して段階的にリリースする計画が有効です。
契約形態の選び方と注意点

SaaS開発の外注における契約形態は、プロジェクトの進行方法、リスク配分、費用の管理方法に大きく影響します。自社のプロジェクト特性に合った契約形態を選択することが、スムーズなプロジェクト運営のために不可欠です。
請負契約と準委任契約の違い
SaaS開発の外注で主に使われる契約形態は、「請負契約」と「準委任契約」の2つです。請負契約は、開発会社が成果物(完成したSaaSプロダクト)の納品を約束する契約形態です。メリットとしては、費用が事前に確定するため予算管理がしやすい点、成果物に対する瑕疵担保責任(契約不適合責任)が発生するため品質保証がある点が挙げられます。デメリットとしては、開発途中での仕様変更に対応しにくい点、変更が発生した場合に追加費用の交渉が必要な点があります。要件が明確に定まっている場合や、予算を厳密に管理したい場合に適しています。準委任契約は、エンジニアの稼働(労務)に対して報酬を支払う契約形態です。メリットとしては、開発途中での仕様変更や優先順位の変更に柔軟に対応できる点、アジャイル開発手法との相性が良い点が挙げられます。デメリットとしては、開発期間が延びれば費用も増加する点、成果物に対する直接的な品質保証がない点があります。SaaS開発のように市場の反応を見ながら仕様を調整していくプロジェクトには、準委任契約の方が適しているケースが多いです。実務では、要件定義・設計フェーズは準委任契約で柔軟に進め、開発フェーズは要件が固まった段階で請負契約に切り替えるという、ハイブリッド型のアプローチも採用されています。
契約時に確認すべき重要条項
SaaS開発の契約を締結する際には、いくつかの重要な条項について慎重に確認・交渉する必要があります。第1に「知的財産権の帰属」です。開発されたソースコード、ドキュメント、デザイン成果物の著作権が発注者側に帰属する旨を明記することが重要です。特にSaaS開発では、プロダクトのソースコードが事業の根幹をなす資産となるため、権利の帰属は最も重要な契約条項です。第2に「秘密保持義務」です。開発過程で共有される事業戦略、顧客情報、技術情報の秘密保持について明確な規定を設けます。第3に「瑕疵担保責任(契約不適合責任)」です。請負契約の場合、納品後に発見された不具合への対応期間と範囲を明記します。一般的には納品後3ヶ月〜1年の期間が設定されます。第4に「中途解約条件」です。プロジェクトの方針変更や開発会社のパフォーマンス不足などにより、契約を途中で解約する場合の条件(通知期間、精算方法、成果物の取り扱い)を事前に定めておきます。第5に「再委託の制限」です。開発会社が作業の一部を別の会社やフリーランスに再委託する場合の条件(事前承諾の要否、再委託先の管理責任)を明確にしておきます。
発注後のプロジェクト管理と品質確保

SaaS開発の発注後、プロジェクトを成功に導くためには、発注者側の適切な関与とプロジェクト管理が不可欠です。「発注したら後は開発会社にお任せ」という姿勢では、期待通りのプロダクトが完成しないリスクが高まります。
コミュニケーション体制の構築
SaaS開発プロジェクトでは、発注者と開発会社の間で密接なコミュニケーション体制を構築することが、プロジェクト成功の最も重要な要素の一つです。具体的には、以下のコミュニケーション体制を構築することをおすすめします。定例ミーティングは、週1回〜隔週で実施し、開発の進捗状況、課題・リスクの共有、次のスプリントの計画確認を行います。アジャイル開発の場合は、スプリントレビュー(デモ)に発注者側のプロダクトオーナーが参加し、成果物を直接確認して方向性のフィードバックを行うことが理想的です。日常的なコミュニケーションには、SlackやTeamsなどのチャットツールを活用し、質問や確認事項をリアルタイムでやり取りできる環境を整えます。また、プロジェクト管理ツール(Jira、Asana、Backlogなど)を共有し、タスクの進捗状況やバグの管理を可視化することで、発注者側もプロジェクトの状況をリアルタイムで把握できます。発注者側には、プロジェクトに一定の時間をコミットできるプロダクトオーナー(もしくはプロジェクト責任者)をアサインすることが不可欠です。
品質管理と検収のポイント
SaaS開発の品質を確保するためには、各開発フェーズでのレビューと検収プロセスを明確に定義しておくことが重要です。要件定義フェーズの検収では、要件定義書の内容が自社のビジネス要件を正確に反映しているか、漏れがないかを確認します。設計フェーズの検収では、システムアーキテクチャ設計書、データベース設計書、画面設計書(ワイヤーフレーム)が要件を適切に実現する設計になっているかをレビューします。開発フェーズでは、スプリントごとのデモで動くソフトウェアを確認し、期待する動作と合致しているかを検証します。テストフェーズでは、テスト計画書とテスト結果報告書のレビューに加え、UAT(User Acceptance Test:ユーザー受入テスト)を発注者側で実施し、実際のユーザー視点での品質を確認します。最終検収では、要件定義書で定義した全ての機能と非機能要件(パフォーマンス、セキュリティ、可用性など)が満たされているかを網羅的に確認します。検収基準は契約時に明確に定義しておくことで、検収時のトラブルを防ぐことができます。
リリース後の運用委託と継続的改善の発注

SaaSはリリースして終わりではなく、リリース後の運用・保守と継続的な機能改善が事業成功に不可欠です。リリース後の委託体制についても、開発フェーズの発注と同時に計画しておくことが重要です。
運用・保守契約の設計
SaaSの運用・保守契約では、対応範囲、SLA(サービスレベルアグリーメント)、費用体系を明確に定義することが重要です。運用・保守の対応範囲としては、障害対応(緊急度別の対応時間の定義)、セキュリティパッチの適用、バグ修正、パフォーマンス監視、バックアップ・復旧対応などが含まれます。SLAでは、稼働率の保証水準(一般的には99.9%以上)、障害発生時の応答時間(P1障害で30分以内、P2障害で2時間以内など)、復旧目標時間を具体的に定義します。費用体系は、月額固定費(保守基本料)に加え、障害対応やバグ修正の工数に応じた従量課金を組み合わせるケースが多いです。月額の保守費用は、初期開発費用の1〜2%程度(月額)が一般的な相場です。たとえば、初期開発費用が3,000万円のSaaSであれば、月額30万〜60万円程度の保守費用が目安となります。
継続的な機能改善の発注方法
SaaSの事業成長に伴い、新機能の追加や既存機能の改善を継続的に行う必要があります。継続的な改善開発の発注方法としては、主に「スポット発注」と「ラボ型契約」の2つがあります。スポット発注は、改善内容が確定した段階で都度見積もりを取り、個別に発注する方式です。費用の管理がしやすい反面、発注のたびに見積もり・承認プロセスが必要となり、スピード感に欠ける場合があります。ラボ型契約は、エンジニアを一定期間確保し、月額固定費で継続的に開発を進める方式です。発注のたびに見積もりプロセスを経る必要がないため、スピーディーに改善を進められます。SaaS事業の成長フェーズにある場合は、ラボ型契約で安定的な開発リソースを確保し、プロダクトバックログの消化を加速させるアプローチが有効です。将来的に自社開発体制への移行を見据えている場合は、外部の開発会社から段階的にナレッジトランスファー(技術移管)を受けながら、社内エンジニアの採用・育成を並行して進めるロードマップを策定しておくことも重要です。
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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
