本記事では、SaaS開発の進め方・やり方・流れや方法・手法・工程・手順について、要点を整理して解説します。結論として、SaaSはリリースして終わりではなく、リリース後の運用と継続的な改善こそが成功の鍵を握ります。SaaSビジネスでは、MRR(月間経常収益)、チャーンレート(解約率)、LTV(顧客生涯価値)、CAC(顧客獲得コスト)といったKPIを定期的にモニタリングし、データドリブンな意思決定を行うことが求められます。
- SaaS開発の全体像と基本的な流れ
- 企画・要件定義フェーズの進め方
- 設計・アーキテクチャフェーズの進め方
- 開発・実装フェーズの進め方と手法
- リリース・運用フェーズの進め方と成功のポイント
SaaS(Software as a Service)の開発を検討しているものの、「どのような手順で進めればよいのか」「どのような開発手法を採用すべきか」「社内で開発するのか外注するのか」といった疑問を抱えている企業担当者の方は少なくありません。SaaS市場は急速に成長を続けており、総務省の情報通信白書によると、国内クラウドサービス市場は2025年時点で約6兆円規模に達しています。サブスクリプション型のビジネスモデルが主流となる中、自社独自のSaaSプロダクトを開発して市場に投入する企業が増え続けています。
本記事では、SaaS開発の全体的な進め方について、企画フェーズからリリース・運用フェーズまでの流れを体系的に解説します。初めてSaaS開発に取り組む方はもちろん、既存のオンプレミスシステムをSaaS化したいとお考えの方にも参考になる内容をお届けしますので、ぜひ最後までお読みください。
本テーマに関する全体ガイドは、以下の記事をご覧ください。
▼全体ガイドの記事
・SaaS開発の完全ガイド
SaaS開発の全体像と基本的な流れ

SaaS開発は、従来のパッケージソフトウェア開発やオンプレミスシステム開発とは根本的に異なるアプローチが求められます。SaaSはクラウド上で提供されるサブスクリプション型サービスであり、ユーザーはブラウザやAPIを通じてサービスにアクセスします。そのため、マルチテナントアーキテクチャ、スケーラビリティ、継続的なアップデート運用、セキュリティ対策など、SaaS特有の技術的要件を開発の初期段階から考慮しなければなりません。一般的なSaaS開発の流れは、「企画・市場調査」「要件定義」「設計」「開発・実装」「テスト」「リリース」「運用・改善」の7つのフェーズに分けられ、全体の開発期間は小規模なMVP(Minimum Viable Product)で3〜6ヶ月、本格的なプロダクトで6ヶ月〜1年半程度が目安となります。
SaaS開発と従来型システム開発の違い
SaaS開発と従来型のシステム開発には、ビジネスモデル・技術アーキテクチャ・運用方針の3つの面で大きな違いがあります。ビジネスモデルの面では、従来型のシステム開発が受託開発や一括納品を前提とするのに対し、SaaSはサブスクリプション型の継続課金モデルを採用します。そのため、開発の目的も「納品してプロジェクトを完了させる」ことではなく、「ユーザーに継続的な価値を提供し、解約率(チャーンレート)を低減する」ことに変わります。技術アーキテクチャの面では、SaaSはマルチテナント方式で複数の顧客が同一のインフラとアプリケーションを共有する構成が基本となります。テナントごとのデータ分離、権限管理、カスタマイズ性を確保しつつ、運用コストを最適化する設計が求められます。運用方針の面では、SaaSはリリース後も頻繁なアップデートと機能改善が前提となるため、CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)パイプラインの構築や、フィーチャーフラグを活用したA/Bテストなど、モダンな開発プラクティスの導入が重要です。
SaaS開発の7つのフェーズ
SaaS開発は以下の7つのフェーズで進行します。第1フェーズの「企画・市場調査」では、ターゲット市場の規模、競合サービスの分析、ペルソナの設定を行います。第2フェーズの「要件定義」では、機能要件と非機能要件を洗い出し、MVP(最小限の実行可能な製品)として最初にリリースすべき機能を絞り込みます。第3フェーズの「設計」では、システムアーキテクチャ、データベース設計、API設計、UI/UXデザインを行います。第4フェーズの「開発・実装」では、実際のコーディングとインフラ構築を進めます。第5フェーズの「テスト」では、単体テスト、結合テスト、負荷テスト、セキュリティテストを実施します。第6フェーズの「リリース」では、本番環境へのデプロイとユーザーへの公開を行います。第7フェーズの「運用・改善」では、ユーザーフィードバックの収集と機能改善を継続的に実施します。各フェーズは独立しているわけではなく、アジャイル開発手法を採用する場合は第3〜第6フェーズを反復的に繰り返しながら、段階的にプロダクトを完成させていきます。
企画・要件定義フェーズの進め方

SaaS開発の成否は、企画・要件定義フェーズの品質に大きく左右されます。このフェーズでは、「誰の」「どのような課題を」「どのように解決するか」を明確にし、開発チーム全体が共有できるビジョンとロードマップを策定します。SaaS市場は競争が激しいため、既存サービスとの差別化ポイントを明確にしておくことが特に重要です。
市場調査と競合分析の方法
SaaS開発を始める前に、まずターゲット市場の規模と成長性、競合サービスの状況を徹底的に調査する必要があります。市場調査では、TAM(Total Addressable Market:最大市場規模)、SAM(Serviceable Available Market:利用可能市場規模)、SOM(Serviceable Obtainable Market:獲得可能市場規模)の3段階で市場を分析し、事業としての実現可能性を検証します。たとえば、人事管理SaaSを開発する場合、国内の人事管理システム市場規模(TAM)は約2,000億円、中小企業向けクラウド型に限定した市場(SAM)は約500億円、初年度に獲得を狙う市場(SOM)は約10億円、といった形で段階的に絞り込みます。競合分析では、直接競合(同じ領域のSaaS)と間接競合(Excelやスプレッドシートなどの代替手段)の両方を洗い出し、機能比較表を作成します。さらに、既存サービスのユーザーレビューやSNSでの評判を調査し、ユーザーが不満を感じているポイントや満たされていないニーズを特定することが、差別化の方向性を定める上で有効です。
MVP(最小限の実行可能な製品)の定義
SaaS開発において、MVP(Minimum Viable Product)の定義は成功の鍵を握る重要なステップです。MVPとは、ターゲットユーザーの最も重要な課題を解決するために必要最小限の機能を備えた製品のことであり、市場に素早く投入してユーザーからのフィードバックを得ることを目的としています。MVPの定義では、すべての要望を詰め込むのではなく、「この機能がなければユーザーがサービスを使わない」というコア機能に絞り込むことが重要です。具体的な手法としては、ユーザーストーリーマッピングが有効です。ユーザーの行動を時系列で洗い出し、各ステップで必要な機能を縦軸に優先度順で並べ、「最初のリリースで必要な機能」と「将来追加する機能」を明確に区分けします。MVPの開発期間は3〜6ヶ月を目安とし、初期投資を抑えながら市場の反応を確認することで、大規模な投資判断を行う前にピボット(方向転換)の機会を確保します。成功したSaaSの多くは、最初のMVPでは非常にシンプルな機能しか備えておらず、ユーザーの声をもとに機能を拡充していった経緯があります。
設計・アーキテクチャフェーズの進め方

設計・アーキテクチャフェーズでは、要件定義で洗い出した機能要件と非機能要件をもとに、システム全体の構造を決定します。SaaSの設計では、マルチテナントアーキテクチャ、スケーラビリティ、セキュリティの3つが特に重要なテーマとなります。
マルチテナントアーキテクチャの設計
マルチテナントアーキテクチャとは、複数の顧客(テナント)が同一のアプリケーションインスタンスとインフラを共有する仕組みです。SaaS開発においては、コスト効率と運用効率を高めるために、マルチテナント方式の採用が一般的です。マルチテナントの実装方式は大きく3つに分類されます。第1の方式は「共有データベース・共有スキーマ」で、すべてのテナントのデータを同一のデータベーステーブルに格納し、テナントIDカラムでデータを分離します。最もコスト効率が高い反面、テナント間のデータ分離に細心の注意が必要です。第2の方式は「共有データベース・個別スキーマ」で、同一のデータベースサーバー内でテナントごとに異なるスキーマ(名前空間)を使用します。データ分離の安全性とコスト効率のバランスが取れた方式です。第3の方式は「個別データベース」で、テナントごとに独立したデータベースを用意します。データ分離の安全性は最も高いですが、テナント数の増加に伴い運用コストが上昇します。どの方式を選択するかは、セキュリティ要件、コンプライアンス要件、想定テナント数、カスタマイズ要件を総合的に判断して決定します。金融や医療など高度なデータ分離が求められる業界向けSaaSでは第3の方式が適しており、一般的なBtoB SaaSでは第1または第2の方式が採用されるケースが多いです。
技術スタック・インフラの選定
SaaS開発における技術スタックの選定は、プロダクトの品質、開発速度、運用コストに直結する重要な意思決定です。フロントエンドでは、React、Vue.js、Next.jsなどのモダンなJavaScriptフレームワークが広く採用されています。特にBtoB SaaSの管理画面やダッシュボードには、Reactと状態管理ライブラリを組み合わせた構成が主流です。バックエンドでは、Node.js(TypeScript)、Python(Django/FastAPI)、Ruby on Rails、Go、Javaなど選択肢が豊富ですが、SaaSの場合は非同期処理やリアルタイム通信への対応力、スケーラビリティを考慮した選定が求められます。インフラはAWS、Google Cloud Platform(GCP)、Microsoft Azureの3大クラウドから選択するのが一般的で、マネージドサービスを活用することで運用負荷を大幅に軽減できます。データベースは、PostgreSQLやMySQLなどのリレーショナルデータベースに加え、Redis(キャッシュ)、Elasticsearch(全文検索)、MongoDB(非構造化データ)などを用途に応じて組み合わせます。また、コンテナ技術(Docker/Kubernetes)を採用することで、環境の再現性とスケーラビリティを確保できます。
開発・実装フェーズの進め方と手法

開発・実装フェーズでは、設計をもとに実際のコーディングとインフラ構築を進めます。SaaS開発では、アジャイル開発やスクラム手法を採用し、短いイテレーション(1〜2週間のスプリント)で機能を段階的にリリースしていくアプローチが主流です。
アジャイル・スクラム開発の進め方
SaaS開発ではアジャイル開発、特にスクラムフレームワークの採用が標準的な手法となっています。スクラムでは、プロダクトオーナー、スクラムマスター、開発チームの3つの役割を設定し、1〜2週間のスプリントサイクルで開発を進めます。各スプリントの開始時にスプリントプランニングを実施し、バックログから今回のスプリントで実装する機能を選択します。スプリント中は毎日15分のデイリースクラムで進捗を確認し、障害があれば即座に対処します。スプリントの終了時にはスプリントレビュー(デモ)で成果物を確認し、スプリントレトロスペクティブ(振り返り)でプロセスの改善点を洗い出します。SaaS開発においてアジャイル手法が適している理由は、市場やユーザーの要望に対して柔軟に対応できる点にあります。ウォーターフォール型の開発では、半年〜1年かけて要件通りのシステムを構築しても、リリース時には市場のニーズが変わっている可能性があります。一方、アジャイル開発であれば、2週間ごとに動くソフトウェアを確認しながら方向性を微調整できるため、市場の変化に素早く対応することが可能です。
CI/CDとDevOpsの導入
SaaS開発では、CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)パイプラインの構築が不可欠です。CIとは、開発者がコードをリポジトリにプッシュするたびに、自動的にビルドとテストが実行される仕組みです。CDは、テストに合格したコードを自動的に本番環境またはステージング環境にデプロイする仕組みです。GitHub Actions、GitLab CI/CD、CircleCI、AWS CodePipelineなどのツールを活用してCI/CDパイプラインを構築します。SaaSでは複数のテナントが同時にサービスを利用しているため、ダウンタイムを最小化するデプロイ戦略が重要です。ブルーグリーンデプロイメントでは、新旧2つの環境を用意し、トラフィックを瞬時に切り替えることでゼロダウンタイムデプロイを実現します。カナリアリリースでは、新バージョンを一部のユーザーにのみ先行公開し、問題がないことを確認してから全体に展開します。また、フィーチャーフラグを導入することで、コードレベルで機能のON/OFFを制御し、特定のテナントやユーザーグループにのみ新機能を提供することも可能です。これらのDevOpsプラクティスを組み合わせることで、安全かつ頻繁なリリースサイクルを実現できます。
リリース・運用フェーズの進め方と成功のポイント

SaaSはリリースして終わりではなく、リリース後の運用と継続的な改善こそが成功の鍵を握ります。SaaSビジネスでは、MRR(月間経常収益)、チャーンレート(解約率)、LTV(顧客生涯価値)、CAC(顧客獲得コスト)といったKPIを定期的にモニタリングし、データドリブンな意思決定を行うことが求められます。
モニタリングと運用体制の構築
SaaSのリリース後は、サービスの可用性とパフォーマンスを継続的に監視する運用体制を構築する必要があります。監視すべき項目は、サーバーのCPU・メモリ使用率、レスポンスタイム、エラーレート、データベースのクエリ性能、ストレージ使用量など多岐にわたります。Datadog、New Relic、Grafana+Prometheusなどの監視ツールを導入し、閾値を超えた場合にSlackやPagerDutyにアラートが通知される仕組みを構築します。また、SaaS事業者として、SLA(サービスレベルアグリーメント)で保証する稼働率(一般的には99.9%以上)を達成するために、冗長構成やフェイルオーバーの仕組みも事前に設計しておく必要があります。障害発生時のインシデント対応フローも明文化し、対応優先度の判定基準(P1:サービス全停止、P2:一部機能停止、P3:パフォーマンス劣化など)と対応手順を定めておくことが重要です。運用チームの体制としては、SRE(Site Reliability Engineering)の考え方を取り入れ、運用の自動化と信頼性向上を継続的に推進する組織づくりが理想的です。
ユーザーフィードバックと継続的改善
SaaSの成長を持続させるためには、ユーザーからのフィードバックを体系的に収集し、プロダクトの改善に反映するサイクルを確立することが不可欠です。フィードバックの収集方法としては、アプリ内のフィードバックフォーム、NPS(Net Promoter Score)調査、ユーザーインタビュー、サポートチケットの分析、プロダクトアナリティクス(Mixpanel、Amplitude、PostHogなど)による行動データ分析などがあります。収集したフィードバックは、「頻度」「影響度」「ビジネスインパクト」の3軸で優先順位をつけ、プロダクトバックログに反映します。特にSaaSでは、チャーンの原因分析が極めて重要です。解約したユーザーに対するアンケートや、解約前の行動パターンの分析を通じて、解約の予兆を早期に検知し、カスタマーサクセスチームが先回りして対応する体制を整えることが、LTV(顧客生涯価値)の最大化に直結します。また、プロダクトロードマップを四半期ごとに見直し、市場環境やユーザーニーズの変化に柔軟に対応できる体制を維持することも、SaaS事業の成功には欠かせない要素です。
▼全体ガイドの記事
・SaaS開発の完全ガイド
株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

もし、システム開発やプロダクト開発に関するご要望がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
・サービス概要資料のURLはこちら >>>
・お問合せページのURLはこちら >>>
・お役立ち資料のURLはこちら >>>


株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
