スクラム開発のフルスクラッチ・オーダーメイド開発について

スクラムによるフルスクラッチ開発は、要件の不確実性、独自性の高さ、継続的な改善の必要性を見極めたうえで、短いスプリントごとに価値を確かめながら進める方法です。

まずスクラムとの相性を見て、次に要件の育て方と開発手段の違いを確認し、最後に契約と費用の考え方に進みます。

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フルスクラッチ開発とスクラムの相性

スクラムとフルスクラッチ開発に向く3ケースと定型・小規模なシステムを並べた4枚の図解。
変更の少ない定型業務では、既製品も選択肢に入ります。

フルスクラッチ開発は、既存のパッケージやテンプレートに頼らず、システムをゼロから独自に構築する方法です。顧客固有の要件を実現しやすい一方で、何を作るかは開発の途中で固めていく必要があります。

スクラムは、開発の途中で生じるユーザー要求の変化を受け入れる進め方です。成果物がまだ決まっていない状態から始まるオーダーメイド開発と相性がよく、要件を育てながら作れます。とくに、何を作るかを開発中に固めていく場面で、スクラムは有効に働きます。

要件が固定され、仕様変更がほとんどない定型業務システムでは、スクラムの利点は小さくなります。反対に、変化の激しい新規事業やプロダクトでは、独自の顧客価値を段階的に生み出せます。

両者の相性がよいのは、正解が分からないまま作り始める難しさがあるからです。独自プロダクトでは、試作を経て初めて修正点が分かる場合もあります。

ウォーターフォール型では、初期の仕様と現実のずれが終盤の大規模な手戻りにつながります。これに対してスクラムでは、短いスプリントで動くものを作り、フィードバックを受けて方向を変えられます。

そのため、不確実性が高いほどスクラムの価値は高まります。正解を探りながら作るフルスクラッチの性質に合った進め方です。

スクラム×フルスクラッチが向くケース

スクラムによるフルスクラッチ開発は、次のようなケースに特に向いています。

  • 新規事業・新規プロダクト:市場の反応を見ながら、スプリントごとに方向を修正できる
  • 競合との差別化:独自機能で、既製品では難しい業務フローや体験を実現する
  • 長期的な成長:機能追加や改善を続ける場合は、継続開発モデルの効果が大きい
  • 定型・小規模なシステム:変更が少なく、短期間・低予算なら既製品も候補に入る

最後のケースでは、パッケージやSaaSを使うほうが合理的な場合もあります。まずは、自社のプロダクトがどちらの性質に近いかを見極めることが、開発手法を選ぶ出発点になります。

ポイント

要件が固まり変更が少ない業務は既製品も候補にし、正解が見えない独自プロダクトほど、スクラムでのフルスクラッチが合っています。

プロダクトオーナーが要件を育てる進め方

プロダクトバックログ、1〜4週間のスプリント、スプリントレビュー、バックログのリファインメントが循環する図。
レビューの意見を次のバックログへ戻す流れが見て取れます。

プロダクトオーナー(PO)は、スクラムによるオーダーメイド開発の中心となる人です。最初から完璧な仕様書を用意せず、開発を進めながら要件を育てていきます。その進め方は、プロダクトバックログを作るところから始まります。

プロダクトバックログの作成と優先順位付け

POは、プロダクトの方向性を定め、ビジネス価値や市場ニーズを踏まえて、機能や要求を優先度の順に並べたリストを作ります。このリストがプロダクトバックログで、開発で作るものの源になります。

バックログは、一度決めて固定する仕様書とは違い、変わり続ける生きたリストです。要件は、スプリントとフィードバックを繰り返すなかで育っていきます。

  1. 1〜4週間のスプリントごとに、動くソフトウェア(インクリメント)を完成させる
  2. スプリントレビューなどで、ステークホルダーの意見を受け取る
  3. ユーザーの課題や市場の変化に応じて、バックログをリファインメントする

POは、フィードバックを次のバックログに反映し、プロダクトの要件をその都度更新します。作りながら正解に近づけていくこの進め方は、独自価値を生むフルスクラッチ開発に適しています。

フルスクラッチ特有の品質管理の必要性

フルスクラッチは自由度が高い反面、メンバーの技術力の差がプロジェクトの結果に直結しやすい点がリスクになります。アーキテクチャ設計から実装方針まで、チームが自ら決めるため、品質にばらつきが生まれます。

「アジャイルならドキュメントは不要」と考えて設計書を残さないと、属人化が進みます。その結果、保守や引き継ぎが難しくなり、ローコード開発などと比べても技術的負債を抱えるリスクが高まります。

リスクを抑えるには、自由度を活かしながら品質を管理する仕組みが欠かせません。とくにフルスクラッチでは、ローコードなど以上に厳密なルール作りが求められます。

  • コードレビュー:実施を徹底する
  • 完了の定義:Definition of Doneに必要な文書作成を含める
  • 設計方針:アーキテクチャ方針を明文化しておく

こうした管理を続けることが、フルスクラッチの品質を保つ条件になります。

ポイント

バックログを更新し続けられるか、設計書などで品質と引き継ぎを保てるかが、要件を育てる進め方の成否を分けます。どちらも、開発の途中で続ける取り組みです。

パッケージ・SaaS・ローコードとの比較

独自システムを作る手段には、フルスクラッチ以外にパッケージソフト、SaaS、ローコード開発もあります。それぞれの利点と制約を、プロジェクトの要件に照らして比べます。

スクラムは特定の開発手段に限らず、これらの選択肢とも組み合わせられます。開発手段と進め方を別々に選ぶことで、コストと価値のバランスを検討できます。

自由度と制約のトレードオフ

選択肢の違いは、立ち上げの速さ、実現できる要件、品質管理の負荷に表れます。自社の独自要件に当てはめて、それぞれの特徴を見比べます。

  • パッケージ・SaaS・ローコード:短期間・低コストで価値検証しやすいが、機能の範囲に制約がある
  • フルスクラッチ:技術的に可能な独自要件を実現しやすいが、品質管理の負荷が大きい

パッケージやローコードは、標準機能の範囲で済むなら短期間で導入できます。たとえばSaaSは契約後すぐに使い始められ、ローコードなら限られた工数で動くものを作れます。

一方で、複雑な独自要件は既存基盤の仕様に阻まれることがあります。フルスクラッチは自由度が高いものの、技術力の差や属人化を管理する必要があります。

どちらを選ぶかは、短期・低コストを優先して制約を受け入れるか、自由度と品質管理の負荷を重視するかで決まります。

ローコードでもアジャイルは主流

スクラム(アジャイル)は、フルスクラッチ専用の手法ではありません。自治体などのシステム開発では、用意された機能を使うローコード開発の約3分の2(64.0%)が、アジャイル手法で行われています。

開発手段とプロセスは別々に選べるため、組み合わせを考えるときは、適用範囲と割り当ての2つの面で見極めます。

  • プロセスの適用範囲:スクラムはローコードやSaaSのカスタマイズにも使え、単純な対応関係にはなりません
  • 開発手段の割り当て:独自性が必要な中核はフルスクラッチ、汎用的な周辺機能はSaaSやローコードで組む方法があります

まず、どこに独自性が必要で、どこは既製品で足りるのかを分けます。そのうえで、スクラムは選んだ構成に共通する進め方として役立ちます。

ポイント

既製品で足りる機能と、独自性が必要な中核を分けられるかで、フルスクラッチとパッケージ・SaaS・ローコードの組み合わせが決まります。

契約形態と規模見積もりの考え方

予算管理と進捗管理を中央に置き、準委任契約、内製化、ストーリーポイントとベロシティを結んだ図。
契約の選択肢と見積もり指標が、予算と進捗の管理につながります。

スクラムによるフルスクラッチ開発では、契約形態と規模見積もりの考え方が従来型の開発と異なります。仕様を柔軟に変えていくため、契約と進捗管理の方法を合わせて検討します。

成果物を固定する請負契約ではなく、準委任契約を用います。規模はストーリーポイントとベロシティに基づいて見積もります。

契約形態と見積もりの手法は、どちらも予算管理と進捗管理に関わります。

準委任契約と内製化のメリット

仕様を柔軟に変えながら育てるスクラムでは、準委任契約か内製化を検討します。

  • 準委任契約:専門人材の能力や稼働時間を調達し、仕様変更ごとの契約手続きを減らす
  • 内製化:自社でエンジニアを雇用し、外部との目標のずれを抑えながら、POと開発チームが協力しやすい状態を作る

仕様変更が頻繁に起きるフルスクラッチでは、準委任契約によって管理の手間を減らせることが大きな意味を持ちます。一方で、内製化は準委任契約以上に、スクラム本来の力を引き出しやすい体制です。

独自プロダクトを長期的に育てるなら、内製化がスクラムの価値をいっそう高めます。ただし、採用や育成には時間と費用がかかるため、立ち上げ期は準委任で外部の力を借り、徐々に内製の比率を高めていく方法が現実的です。

ベロシティに基づく規模見積もり

スクラムでは、時間(人月)ではなく、労力や複雑さを総合したストーリーポイントで相対的に見積もります。各機能の重さを点数にし、バックログ全体のポイント数で規模を把握します。

ポイント数とチームの実績を組み合わせると、次の作業量やリリース時期を見通せます。

  1. 過去のスプリントで完了したポイント数の平均をベロシティとして算出し、次のスプリントの作業量を決める
  2. バックログ全体のポイント数を平均ベロシティで割り、完了予測やリリース計画を立てる

残りの作業量は、バーンダウンチャートで追えるようにします。そのうえで、完了予測をステークホルダーと定期的に共有すれば、全体像が見えにくいオーダーメイド開発でも、実績に基づいて完成時期をつかめます。発注側が進捗を見通すための道具にもなります。

ポイント

仕様が変わり続ける前提なら、準委任契約で契約手続きを減らし、ベロシティで完了予測を立てるほうが、予算と進捗を追う手間を抑えられます。

フルスクラッチの費用感と期間目安

フルスクラッチのスクラム開発では、費用と期間の目安を押さえておく必要があります。費用の基本は、チーム人数と月額単価、稼働月数から算出するバーンレート(月次消費額)です。総額は、人月単価、チーム規模、期間を掛け合わせて見積もります。

チーム規模と開発期間の相場

国内のアジャイル開発の実態からは、チーム規模と期間の目安が読み取れます。

  • チーム規模:国内プロジェクトの約8割が8名以下です
  • 開発期間:半数が2〜4か月で、スプリントは通常1〜4週間単位です
  • 初回リリース:8名以下のチームなら、2〜4か月が一つの目安です

これは典型的な例で、プロダクトの複雑さや独自要件の多さによっては、より長期・大規模になることもあります。すべての機能を完成させてからリリースする進め方とは違います。

コア機能(MVP:Minimum Viable Product)を早期にリリースし、その後もスプリントを続けて育てていきます。そのうえで、初回リリースまでの費用と期間は、継続開発のランニングコストとは分けて考えます。

人材単価と月次バーンレート

アジャイル型のフルスクラッチ開発では、各ロールの月額単価が費用の基礎になります。メンバーエンジニアの場合、月額65万〜75万円程度で、年収に換算すると約780万〜900万円です。

  • フルスタックエンジニア:月額70万〜100万円程度
  • プロジェクトマネージャー:月額80万〜130万円ほど
  • スクラムマスター:月額60万〜90万円程度
  • アジャイルコーチ:導入支援で月額80万〜120万円程度

これらは、スクラム経験者を含む各ロールの月額単価の目安です。単価にチーム人数を掛けた金額が、1か月あたりのランニングコストになります。

たとえば、月額70万円のメンバーエンジニア3名は計210万円です。月額80万円のスクラムマスター1名を加えると、月次バーンレートは約290万円になります。

この構成で4か月開発する場合、初回リリースまでの概算費用は約1,160万円です。ここに、発注側がPOを担う場合の社内コストや、インフラ・ツールのライセンス費用が加わります。

PoCや準備フェーズを経て初期のベロシティが安定すると、総額をより精度高く見通せます。

ポイント

費用は月次バーンレートで捉え、初回リリースまでの金額と継続開発のランニングコストを分けて考えると、予算の全体像をつかみやすくなります。

まとめ

スクラムとフルスクラッチの相性、POによる要件の育て方、開発手段との比較を見てきました。契約と規模見積もり、費用と期間の目安も確認しました。

要件が未確定のままでも始められ、POがフィードバックを受けながらバックログを育てられる点が強みです。要件を段階的に作り込めます。

自由度の高さには、技術力の差や属人化のリスクも伴います。そのため、ローコードなど以上に厳密な品質管理が必要です。

契約は請負ではなく準委任が基本で、内製化はスクラムの価値を高めます。さらに、規模はストーリーポイントとベロシティで見積もります。

費用は人月単価、チーム規模、期間で算出し、進捗はバーンダウンチャートで見ます。初回リリースは8名以下・2〜4か月が目安ですが、複雑さに応じて変わります。

独自プロダクトを開発するときは、これらの考え方を踏まえ、複数の開発会社に体制と進め方を相談することが勧められます。

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会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。