スクラム開発の保守・運用費用・ランニングコストについて

スクラム開発の保守・運用費用は、体制の規模、契約形態、技術的負債への対応によって変わり、月額で80万〜320万円程度が目安になります。

費用の内訳を押さえておくと、見積もりの話し合いで確認すべき点が分かります。全体像はスクラム開発の完全ガイドもご覧ください。

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スクラム開発の保守・運用コストの考え方

チームを維持する月次コストを中心に、人的体制、インフラ・ライセンス、技術的負債を示す図
人・基盤・品質の支出を同じ枠組みで捉えます。

スクラムでは、初期開発と保守・運用の境界が曖昧です。スプリントは1週間〜4週間の周期で動くソフトウェアを積み上げ、1スプリントを2週間で設定する場合もあります。リリース後も同じリズムで運用するため、保守と開発を分けて考えにくくなります。

ウォーターフォール型では、納品後に保守フェーズへ切り替わり、その後、保守契約を別途締結するのが一般的です。一方、スクラムではリリース後も同じチームがスプリントを続けます。

スクラムのスプリントでは、新機能の追加、既存機能の改善、バグ修正が混在します。技術的負債の解消も、スプリントの作業に含まれます。そのため、保守・運用費用は開発を止めずに続けるランニングコストになります。

固定額の保守契約で考えるより、チームを維持する月次コストで捉えるほうが実態に合います。その月次コストは、次の3要素に分かれます。

  • 人的体制:エンジニアや各ロールを継続して確保する費用
  • インフラ・ライセンス:クラウドやSaaS、開発ツールの費用
  • 技術的負債:将来の改修コストを抑えるための対応費用

技術的負債を軽視すると、将来の改修費用が次第に膨らみます。だからこそ、保守・運用費用は、プロダクトを健全に育て続けるための投資として設計します。

保守を継続開発として捉えるコスト構造

スクラムの保守・運用費は、継続開発を支える体制を維持するための費用です。その中身は、次の4点にまとめられます。

  • 継続開発:壊れた箇所の修理だけでなく、プロダクトを継続的に成長させる
  • 改善の流れ:ユーザーの声でバックログを更新し、優先度の高い順に実装する
  • 見積もり方:バグ件数ではなく、チームを維持する期間で費用を考える
  • 最小構成:エンジニア1名がスクラムマスターを兼務し、POは発注側が担当する

この構造を理解しないまま、リリース後は費用がほぼ不要と考えると、予算が大きく狂います。

ポイント

保守と開発を分けて見積もるか迷ったら、同じチームがリリース後も続けて動くかを基準にします。続くなら、保守費もチームを維持する月次コストとして見積もります。

体制維持コストと人月単価の目安

スクラムマスター、アジャイルコーチ、プロジェクトマネージャー、フルスタックエンジニアの月額単価レンジを4枚のパネルで示す図
ロールごとに異なる単価レンジを見比べられます。

スクラムの保守・運用費用では、人的体制のコストが大半を占めます。適切に運用するには、スクラムマスターやアジャイルコーチが欠かせません。さらに、経験豊富なエンジニアも継続してチームにアサインします。

スクラム人材の月額単価相場

フリーランス市場での月額単価は、ロールごとに目安が異なります。

  • スクラムマスター:月額60万〜90万円程度
  • アジャイルコーチ:月額80万〜120万円程度
  • プロジェクトマネージャー:月額80万〜130万円程度
  • フルスタックエンジニア:月額70万〜100万円程度

アジャイルコーチは、複数チームの導入・改善を支援する上位の専門家です。経験豊富なアジャイルコーチは、月額100万円を超えることも珍しくありません。

プロジェクトマネージャーとエンジニアは、いずれもスクラム経験のある人材を指します。スクラムに精通した人材は市場価値が高く、その分、体制維持コストも高めになります。

安価な人材だけで体制を固めると、形だけのアジャイルになるおそれがあります。改善が回らない「なんちゃってアジャイル」は、かえってコストを膨らませます。

チーム構成別の月次コストモデル

月次コストは、単価とチーム構成を組み合わせて試算します。

  1. 小規模では、エンジニア1名がスクラムマスターを兼務する構成です。
  2. 中規模では、エンジニア2〜3名とスクラムマスター1名で構成します。

小規模チームでは、フルスタックエンジニア1名の月額を80万円とします。この場合の月次体制コストは、おおむね80万〜120万円程度です。なお、プロダクトオーナーは発注側が担当します。

中規模チームでは、エンジニア1名を月額80万円として、2〜3名分で160万〜240万円になります。これにスクラムマスター1名の80万円を加えると、月次コストはおおむね240万〜320万円程度です。

スクラムでは、1スプリントごとの単価ではなく月単位で費用が続きます。年間で見ると、中規模チームの維持に3,000万〜4,000万円規模が必要です。

初期開発費用だけでなく、リリース後の月次費用も年間予算に含めます。そのうえで、投資対効果をプロダクトが生み出す価値と照らし合わせ、体制規模を決めます。また、SaaSやローコード開発ツールを使う場合は、そのライセンス費用も見込んでおきます。

ポイント

単価の安さだけで人を選ぶと、改善が回らず費用がかえって膨らみます。スクラムの経験と改善力を基準に人選を考えます。

準委任・ラボ型契約と保守の関係

契約形態によって、費用の発生方法とリスクの所在は大きく変わります。スクラムは仕様を固定せず、スプリントごとに柔軟に範囲を変えます。そのため、従来の請負契約より準委任契約やラボ型契約が合います。

請負契約が合わない理由

契約を考えるうえでは、仕様の変化と費用の発生方法を合わせて見ることが欠かせません。

  • 請負契約:完成物に報酬を払い、仕様を固定する方式
  • 適する開発:要件を確定してから進めるウォーターフォール型
  • スクラムの課題:スプリントごとに要件と完成範囲が変わる
  • 準委任契約:人材の能力と稼働時間に対して月額で支払う方式

保守・運用でも、次の改善内容はプロダクトバックログによって変わります。このため、完成物を固定する方式より、一定の体制で誠実に業務を遂行する準委任が合います。準委任の費用は、月額の人月単価に稼働月数を掛ける人月ベースで発生します。

ラボ型契約とハイブリッド契約

ラボ型契約は、準委任契約の一形態としてスクラムに適しています。一定期間、専属の開発チームを確保し、稼働に対して月額固定で支払います。

  • 契約期間:たとえば6か月や1年にわたりチームを確保
  • 運用方法:毎回の発注をせず、安定したチームで継続
  • 知識蓄積:プロダクト理解が進み、生産性向上を期待

長期的に改善を続ける保守・運用フェーズと相性が良い契約です。また、基本契約と個別契約を組み合わせるハイブリッド方式もあります。

共通事項を基本契約にまとめ、機能の要件が固まった段階で、機能ごとに個別契約を順次結びます。準委任の柔軟性を保ちながら、各機能の費用を見通しやすくします。

いずれの契約でも、費用の基本はチームを維持する月額コストです。金額は人月単価とチーム構成で決まります。そのうえで、自社のプロダクトの継続性に合う契約を選ぶことが重要です。

ポイント

仕様を変える前提なら準委任かラボ型を、要件を先に確定できる開発なら請負を候補にします。契約を選ぶ基準は、仕様をスプリントごとに変えるかどうかです。

技術的負債とリファクタリングのコスト

技術的負債は、保守・運用コストを押し上げる見落とされやすい要因です。目先の開発速度を優先して、コードの内部品質を犠牲にした状態を指します。

その結果、将来の改修コストが増えていきます。特にスクラムは新機能を継続的に出すため、内部品質が後回しになりやすい構造です。

負債が改修コストを押し上げる仕組み

技術的負債は、新機能を優先する判断と内部品質の後回しから蓄積します。

  • 蓄積の原因:POが新機能を優先し、改善を提案しにくくなる
  • 短期の見え方:新機能は続くが、コードの複雑さが増す
  • 改修負担:同じ機能追加でも工数が増え、費用が跳ね上がる
  • 見えにくさ:速度低下の理由が伝わらず、対策投資が遅れる

この負債は、将来の自分への利息付きの借金にたとえられることもあります。放置するほど、返済、つまり解消の負担が重くなります。

スプリント単位での負債解消と自動化投資

負債は、スプリントごとにリファクタリングして継続的に解消します。

  • 作業割合:各スプリントの10〜20%を内部品質に充てる
  • 合意事項:改善時間をチームとプロダクトオーナーで決める
  • 自動化:テストとデプロイをCI/CDで効率化する

この割合を守れば、新機能の速度を落とさずに負債の蓄積を抑えられます。短期的には新機能のリリースが遅く見えることもあります。それでも、中長期では、リファクタリングが改修コストを抑える確実な投資になります。

自動化で手作業を減らせば、ランニングコストを抑えられます。CI/CDがないと、手動テストや手動デプロイに毎回時間を取られます。自動化環境を早く整えるほど、スプリントごとの保守作業が効率化し、人的コストの削減にもつながります。

自動化への初期投資には、一定の工数が必要です。ただし、継続運用するプロダクトであれば、その投資は確実に回収できます。負債対応とテスト自動化は、いずれも長期の費用を抑えるための支出です。

ポイント

改善の時間をどこまで割くかに迷ったら、同じ機能追加に工数が増えていないかを見ます。工数が増えてきたら、内部品質に充てる時間を増やす目安になります。

内製化と属人化リスクへの対策

保守に必要な最低限の文書として、コードコメント、README、意思決定記録、API仕様を4層に示す図
実装の意図から連携仕様まで、引き継ぐ情報をそろえます。

長期的に費用を抑えるには、内製化と属人化の対策が欠かせません。外部ベンダーに依存し続けるか、自社で開発体制を持つかを、あわせて検討します。この選択は、費用構造だけでなくプロダクトの持続可能性にも関わります。

内製化がもたらすコストと価値

スクラムでは、準委任契約よりも内製化がベストとされることがあります。自社雇用なら、外部ベンダーとのゴールのずれを減らせます。プロダクトオーナーと開発チームも、同じ組織の一員として協力できます。

  • 費用構造:外注の変動費から社員人件費の固定費へ転換
  • 短期負担:採用コストや教育コストが発生
  • 長期価値:知識が社内に蓄積し、改善効率が高まる

長期で運用する場合は、外注よりトータルコストを抑えられる可能性があり、開発効率とコスト効率の向上も見込めます。

一方で、プロダクトオーナーの人事異動によって知見が失われるリスクもあります。そこで、運用プロジェクトチームを編成し、組織として知識を維持します。あわせて、一人に頼らず、チームで知識を共有する文化も必要です。

ドキュメント不足が招く保守コストの暴騰

属人化は、将来の保守コストを暴騰させる大きなリスクです。アジャイルだから文書は不要という誤解があると、保守が困難になります。担当者が退職すると、機能の保守が事実上できなくなるおそれもあります。

スクラムの原則は、包括的な文書より動くソフトウェアを重視することです。ただし、文書を一切作らないという意味ではありません。保守・運用に必要な最低限の文書は、確実に残す必要があります。

  • コードコメント:実装の意図を書き残す
  • README:利用や運用の手順を共有する
  • 意思決定記録:アーキテクチャ上の判断を記録する
  • API仕様:連携に必要な仕様をまとめる

実践策としては、完了の定義(Definition of Done)に最低限必要な文書を含めます。完了の定義は、機能が本当に完成したと言える条件のチェックリストです。文書の更新を条件に加えれば、作成を開発フローに組み込めます。

こうしておけば、担当者が交代しても知識を引き継げ、保守費用の急増を防げます。文書への投資は、将来の保守コストを抑える保険として機能します。

ポイント

内製化を検討するかは、担当者が替わっても保守を続けられるかで判断します。文書が残っていなければ、属人化のリスクが高いと考えます。

まとめ

スクラムの保守・運用費用は、継続開発のコスト構造で考えます。保守費用は、不具合を直す費用にとどまらず、プロダクトを継続的に育てるチームの月次コストです。

スクラムマスターは月額60万〜90万円、エンジニアは70万〜100万円が目安です。中規模チームでは、月次240万〜320万円程度を見込みます。

契約は、準委任やラボ型が基本です。また、技術的負債はスプリントごとに解消し、テスト自動化へ早めに投資します。

さらに、内製化を検討し、完了の定義(DoD)に文書の更新を組み込めば、属人化を防げます。最後に、複数の開発会社に体制と費用を相談し、継続的なコスト構造を前提に進めます。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。