スクラム開発は、リリースして終わりではなく、リリース後も継続的にプロダクトの価値を向上させていくことを前提としたフレームワークです。1〜4週間のスプリントを繰り返しながら動くソフトウェアを積み上げていくこのアプローチは、初期開発だけでなく、運用・保守フェーズにおいても従来型とは異なる考え方を必要とします。とりわけ、「スクラムで作ったプロダクトの保守・運用費用はどう見積もればよいのか」「スプリントを回し続ける体制の維持コストはいくらかかるのか」「請負契約が使えないなら、保守はどんな契約形態になるのか」といった疑問は、発注を検討する企業担当者にとって重要な論点になります。スクラムは継続を前提とする以上、ランニングコストの設計が成否を左右すると言っても過言ではありません。
本記事では、スクラム開発における保守・運用・ランニングコストに焦点を当て、スプリントを継続する運用体制とDevOps、準委任契約やラボ型契約との相性、プロダクトオーナーやスクラムマスターを含む体制維持コストの月額目安、技術的負債とリファクタリングのコスト、内製化との関係や属人化リスクへの対策までを、具体的な費用感とともに体系的に解説します。最後までお読みいただくことで、スクラムならではの継続的なコスト構造を理解し、現実的な運用予算を設計するための判断軸が身に付くはずです。
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スクラム開発の保守・運用コストの考え方

スクラム開発における保守・運用コストを考えるうえで、まず理解しておくべきは「初期開発と保守運用の境界が曖昧である」という点です。ウォーターフォール型では、開発フェーズが完了して納品された後に保守フェーズへと明確に切り替わり、保守契約を別途締結するのが一般的です。一方スクラムでは、リリース後も同じチームが同じリズムでスプリントを回し続けることが多く、「新機能の追加」「既存機能の改善」「バグ修正」「技術的負債の解消」が一つのスプリントの中に混在します。つまり、スクラムにおける保守・運用コストは「開発を止めずに継続するためのランニングコスト」として捉えるのが実態に即しています。月額いくらの保守契約、という固定的な発想よりも、「チームを維持し続けるための月次コスト(バーンレート)」という発想の方がスクラムには馴染みます。
このランニングコストは、大きく「人的体制コスト」「インフラ・ライセンスコスト」「技術的負債への対応コスト」の3つに分類できます。最も大きな割合を占めるのが人的体制コストで、スクラムチームを構成するエンジニア、スクラムマスター、プロダクトオーナーといった人材を継続的に確保するための費用です。次にインフラ・ライセンスコストとして、クラウドの利用料やSaaS・開発ツールのライセンス費用が継続的に発生します。そして見落とされがちなのが技術的負債への対応コストで、これを軽視すると将来の改修費用が雪だるま式に膨らみます。以降の章で、これらのコスト要素を順に詳しく見ていきます。スクラムの保守・運用費用は、これらを総合した「プロダクトを健全に育て続けるための投資」として設計する必要があります。
「保守」ではなく「継続開発」というコスト構造
スクラムの保守・運用が従来型と異なるのは、それが「壊れたものを直す」受動的な保守ではなく、「プロダクトを継続的に成長させる」能動的な継続開発である点です。リリース後のスプリントでは、ユーザーからのフィードバックを受けてプロダクトバックログを更新し、優先度の高い改善から順に実装していきます。この継続開発を支える体制を維持するコストが、スクラムにおけるランニングコストの本質です。したがって、コストを見積もる際には「月に何件のバグを直すか」ではなく、「どの規模のチームを何か月維持するか」という人月ベースの考え方になります。たとえば、エンジニア2名・スクラムマスター(兼任の場合あり)・プロダクトオーナー(発注側が担当することが多い)という最小構成のチームを維持するだけでも、相応の月次コストが継続的に発生します。この構造を理解せずに「リリース後はほとんど費用がかからない」と想定すると、予算計画が大きく狂う原因になります。
体制維持コストと人月単価の目安

スクラムの保守・運用費用の大半を占めるのが、チームを維持し続けるための人的体制コストです。スクラムを適切に運用・保守し続けるには、優秀なスクラムマスターやアジャイルコーチ、経験豊富なエンジニアをチームにアサインし続ける必要があり、これらの人材は市場価値が高騰しています。ここでは、各ロールの月額単価の目安と、それらを組み合わせた現実的な体制コストのモデルを示します。発注側が予算を組む際の基準としてご活用ください。
スクラム人材の月額単価相場
スクラムを運用できる人材のフリーランス市場における単価相場(月額)の目安は、ロールごとに次のようになっています。スクラムマスター(チームのプロセスを支え、障害を除去する役割)は月額60万〜90万円程度。アジャイルコーチ(複数チームの導入・改善を支援する上位の専門家)は月額80万〜120万円程度で、経験豊富であれば100万円を超えることも珍しくありません。スクラム経験のあるプロジェクトマネージャーは月額80万〜130万円程度。スクラム経験のあるフルスタックエンジニアは月額70万〜100万円程度が相場です。これらの単価が示すのは、スクラムに精通した人材は一般的なエンジニアよりも市場価値が高く、その分だけ体制維持コストも高めになるという現実です。安価な人材で固めようとすると、スクラムの形だけ真似て本質的な改善が回らない「なんちゃってアジャイル」に陥り、かえってコストが膨らむことになりかねません。
チーム構成別の月次コストモデル
これらの単価をもとに、現実的なチーム構成での月次コストを試算してみましょう。小規模なプロダクトの継続運用を担う最小チームとして、フルスタックエンジニア1名(月額80万円)+スクラムマスター兼務(プロダクトオーナーは発注側が担当)という構成であれば、月次の体制コストはおおむね80万〜120万円程度になります。中規模プロダクトを安定的に育てる標準的なチームとして、エンジニア2〜3名(各80万円=160万〜240万円)+スクラムマスター1名(80万円)という構成では、月次でおおむね240万〜320万円程度を見込む必要があります。スクラムでは1スプリント(2週間)あたりではなく、月単位でこのコストが継続的に発生し続ける点が重要です。年間で考えれば、中規模チームの維持には3,000万〜4,000万円規模のランニングコストがかかる計算になります。発注側としては、初期開発費用だけでなく、リリース後も継続するこの月次コストを前提に、年間予算と投資対効果(プロダクトが生み出す価値)を見比べて体制規模を決定することが求められます。なお、SaaSやローコード開発ツールを基盤として利用している場合は、それらのライセンス購入費用もランニングコストとしてあらかじめ予算化しておく必要があります。
準委任・ラボ型契約と保守の関係

スクラム開発の保守・運用コストを理解するには、契約形態の理解が欠かせません。なぜなら、契約形態によって費用の発生の仕方やリスクの所在が大きく変わるからです。スクラムは事前に仕様を固定せず柔軟にスコープを変更するため、従来の請負契約とは相性が悪く、準委任契約やラボ型契約が基本となります。ここでは、各契約形態の特徴と、保守・運用フェーズにおける費用構造との関係を解説します。
なぜ請負契約が使えないのか
請負契約は、ベンダーが「成果物を完成させること」を約束し、その完成に対して報酬が支払われる契約です。仕様が明確に固定されている前提で成立するため、要件をあらかじめすべて確定するウォーターフォール型には適しています。しかしスクラムは、事前に仕様を固定せず、スプリントごとに要件を見直しながら作っていく手法です。「何を完成させるか」が動き続けるため、ベンダーが完成義務を負う請負契約では原理的に実施できません。保守・運用フェーズも同様で、「次に何を改善するか」がプロダクトバックログの優先順位次第で変わるため、固定的な成果物を約束する契約には馴染みません。そこで採用されるのが、専門人材の「能力や稼働時間」を調達する準委任契約です。準委任契約は、成果物の完成ではなく、一定の体制で誠実に業務を遂行することに対して報酬が支払われる形態で、スクラムの継続的な開発・保守の性質に合致します。費用は「月額○○万円×稼働月数」という形で、人月ベースで発生するのが基本です。
ラボ型契約とハイブリッド契約
準委任契約の一形態として、スクラムの継続運用に特に適しているのがラボ型契約です。ラボ型契約は、一定期間(たとえば6か月や1年)にわたって専属的な開発チーム(ラボ)を確保し、その稼働に対して月額固定で費用を支払う方式です。毎回の発注手続きを繰り返す必要がなく、安定したチームでスプリントを回し続けられるため、保守・運用フェーズのように長期的に改善を継続するプロジェクトと相性が良いのが特徴です。チームがプロダクトの知識を蓄積していくため、スプリントを重ねるほど生産性が高まる効果も期待できます。また、契約手法の工夫として、プロジェクト全体に共通する事項を「基本契約」として結び、機能単位で要件がある程度固まった段階で順次「個別契約」を結んでいくハイブリッドな方式(基本/個別契約モデル)も提唱されています。これにより、準委任の柔軟性を保ちつつ、各機能の費用見通しを立てやすくする折衷が可能になります。いずれの形態でも、保守・運用フェーズの費用は「チームを維持する月額コスト」が基本であり、その金額は前章で示した人月単価とチーム構成によって決まります。発注側は、契約形態ごとのコスト発生の仕組みを理解したうえで、自社のプロダクトの継続性に合った契約を選ぶことが重要です。
技術的負債とリファクタリングのコスト

スクラム開発の保守・運用コストを語るうえで、最も見落とされやすく、かつ最も影響が大きいのが「技術的負債」のコストです。技術的負債とは、目先の開発スピードを優先してコードの内部品質を犠牲にした結果、将来の改修コストが増大していく状態を指します。スクラムは「目に見える新機能」を継続的に出していく手法であるがゆえに、内部品質への投資が後回しにされやすいという構造的なリスクを抱えています。ここでは、技術的負債がどのように保守コストを押し上げるのか、そしてそれをどう管理するのかを解説します。
負債が改修コストを押し上げる仕組み
技術的負債が蓄積する典型的なパターンは、プロダクトオーナーが新機能の開発を優先しすぎ、開発者が「内部品質の改善やリファクタリングに時間を割きたい」と言い出せない環境に陥ることです。短期的には新機能が次々とリリースされて順調に見えますが、その裏でコードの複雑さが増し、ちょっとした修正にも多大な時間がかかるようになっていきます。負債が膨らむと、同じ機能追加でも以前の何倍もの工数を要するようになり、将来的な改修コストが跳ね上がります。これは保守・運用フェーズのランニングコストを静かに、しかし確実に増大させる要因です。さらに厄介なのは、技術的負債が見えにくいことです。バグのように顕在化しないため、経営層や発注側からは「なぜ最近、開発スピードが落ちたのか」が理解されにくく、適切な対策投資の判断が遅れがちになります。負債のコストは「将来の自分への利息付きの借金」と表現されることがあり、放置すればするほど返済(解消)の負担が重くなるという性質を持っています。
スプリント単位での負債解消と自動化投資
技術的負債を適切に管理する鍵は、負債を溜め込まず、スプリントごとにリファクタリングの時間を確保して継続的に解消していくことです。具体的には、各スプリントの作業量のうち一定割合(たとえば10〜20%)を内部品質の改善やリファクタリングに充てる、というルールをチームとプロダクトオーナーで合意しておきます。これにより、新機能開発のスピードを保ちながら、負債の蓄積を抑制できます。短期的にはリファクタリングに時間を割く分だけ新機能のリリースが遅れるように見えますが、中長期的にはこれが改修コストを抑える最も確実な投資になります。もう一つの重要なコスト最適化策が、テストとデプロイの自動化(CI/CD)です。継続的インテグレーション・継続的デリバリーの仕組みが整備されていないと、毎スプリントで同じ手作業(手動テストや手動デプロイ)に時間を奪われ、ランニングコストが高止まりします。早い段階で自動化環境を整えておくことで、スプリントを重ねるごとに保守作業の効率が上がり、人的コストを実質的に削減できます。自動化への初期投資は一定の工数を要しますが、継続運用するプロダクトであればその投資は確実に回収できます。技術的負債への対応とテスト自動化は、目先のコストを増やすように見えて、実は長期のランニングコストを最小化するための賢明な支出なのです。
内製化と属人化リスクへの対策

スクラムの保守・運用コストを長期的に最適化するうえで避けて通れないのが、内製化と属人化リスクへの対策です。外部ベンダーに依存し続けるか、自社で開発体制を持つか。この選択は、ランニングコストの構造だけでなく、プロダクトの持続可能性そのものに関わります。ここでは、内製化のメリットとコスト面の意味、そして担当者交代時にコストが暴騰するのを防ぐドキュメント戦略を解説します。
内製化がもたらすコストと価値
スクラムにとって、準委任契約以上に「ベスト」とされるのが、自社でエンジニアを直接雇用する内製化です。内製化により、外部ベンダーとの間に生じがちな「目指すゴールのズレ」がなくなり、プロダクトオーナーと開発チームが完全に同じ組織の一員として柔軟に協力し合えるようになります。コスト面で見ると、内製化は「外注の月額単価を払い続ける変動費」から「社員人件費という固定費」への転換を意味します。短期的には採用コストや教育コストがかかりますが、長期的にプロダクトを継続運用するのであれば、外注よりトータルコストを抑えられる可能性があります。加えて、プロダクトの知識が自社内に蓄積されるため、改善のスピードと精度が向上し、結果として開発効率(=コスト効率)が高まります。ただし、内製化には特有のリスクもあります。たとえば、プロダクトオーナーの人事異動によってプロジェクトの知見が失われるリスクです。これに対しては、運用プロジェクトチームを編成し、組織としてナレッジを維持する仕組みを整えることが求められます。一人の優秀な担当者に依存するのではなく、チームとして知識を共有する文化を作ることが、内製化のコストメリットを持続させる条件です。
ドキュメント不足が招く保守コストの暴騰
スクラムの保守コストを将来にわたって暴騰させる最大のリスクが、属人化です。「アジャイル=ドキュメント不要」という誤解から設計書や仕様書をまったく残さないでいると、その機能を作った担当者の退職時に保守が事実上不可能になる、という致命的な事態を招きます。スクラムの原則は「包括的なドキュメントよりも動くソフトウェアを」ですが、これは「ドキュメントを一切作るな」という意味ではありません。保守・運用を継続するうえで必要な最低限のドキュメント(コードコメント、README、アーキテクチャの意思決定記録、API仕様など)は確実に残す必要があります。実践的な対策として有効なのが、これらの最低限必要なドキュメントを「完了の定義(Definition of Done)」に組み込むことです。完了の定義とは、「ある機能が本当に完成したと言える条件」のチェックリストで、ここに「必要なドキュメントが更新されていること」を含めておけば、ドキュメント作成が開発フローの一部として確実に実行されます。これにより、担当者が交代しても知識が引き継がれ、保守コストの突発的な増大を防げます。ドキュメントへの投資は一見コストに見えますが、実際には将来の保守コスト暴騰を防ぐ保険として機能するのです。
まとめ

本記事では、スクラム開発の保守・運用費用・ランニングコストについて、継続開発というコスト構造の考え方、体制維持コストと人月単価の目安、準委任・ラボ型契約との関係、技術的負債とリファクタリングのコスト、そして内製化と属人化リスクへの対策までを体系的に解説しました。スクラムの保守・運用は「壊れたものを直す保守」ではなく「プロダクトを継続的に育てる開発」であり、その費用はチームを維持する月次コスト(バーンレート)として捉えるのが実態に即しています。スクラムマスター月額60万〜90万円、フルスタックエンジニア月額70万〜100万円といった単価を基準に、中規模チームなら月次240万〜320万円程度が一つの目安です。契約は請負ではなく準委任・ラボ型が基本となり、技術的負債はスプリントごとに解消し、テスト自動化に早期投資することが長期コストの最小化につながります。さらに、内製化とドキュメントのDoD組み込みによって属人化を防ぐことが、保守コストの暴騰を回避する鍵です。スクラムでのプロダクト運用を検討される際は、これらの継続的なコスト構造を前提に、複数の開発会社に体制と費用を相談してみることをお勧めします。
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株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
