スクラム開発は、不確実性の高い新規事業で大きな効果を発揮する一方、要件が固まった案件や組込みシステムには不向きとされます。
導入の可否は、メリットとデメリットを両面から見て、自社のプロジェクトの性質に照らして決めます。全体像をまだ把握していない方は、スクラム開発の完全ガイドから読むことをおすすめします。
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スクラム開発のメリット

スクラムのメリットは、変化への対応力とスピードに集約されます。短いスプリントを繰り返し、動くものを早く届けながら市場の反応を取り込んでいくため、要件が動く領域でこそ真価を発揮します。
発注者にとって価値の大きいメリットは、変化への柔軟性とスピード、そしてリスクの早期発見です。
変化への柔軟性とスピードというメリット
スクラム最大のメリットは、要件が変わっても契約をやり直さずに吸収できる柔軟性です。この柔軟性の中心にあるのは、やることリストであるプロダクトバックログです。
新規事業のように「何を作るべきか」が走りながら見えてくる領域では、この柔軟性が大きな価値を持ちます。市場の反応を見て次に作るものを決められます。そのため、誰も使わない機能に時間を費やすリスクを減らせます。
もう一つの大きなメリットがスピードです。日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の2012年の調査では、企業が企画段階で最も重視する項目は、納期で47%を占めました。品質が29%、コストが24%でした。
多くの企業は、コストや品質より「早く市場に出すこと」を重視しているといえます。スクラムは価値の高い機能から先にリリースできるため、このスピード要求に応えやすい手法です。さらに、全機能の完成を待たずに一部をいち早く投入できる点は、競争の速い市場で大きな武器になります。
- 方針転換:プロダクトバックログを組み替えて、契約を変えずに進め方を変えられる点
- 市場投入:価値の高い機能から順に出し、市場の反応を先に得やすい。
リスクの早期発見と投資の無駄を減らすメリット
完成まで何か月も経ってから問題に気づくウォーターフォールとは違い、スクラムは小さいうちに軌道修正できます。
こうした仕組みによって、誰も使わないシステムに巨額を投じるという最悪の事態を、構造的に避けられます。加えて、動くものが常に積み上がっているため、途中でプロジェクトを打ち切っても、それまでに作った価値の高い機能は手元に残ります。
全機能の完成を前提とするウォーターフォールでは、途中で中断すると使えないものしか残らないことがあります。一方、スクラムは投資が無駄になりにくい構造です。この「早く失敗を発見し、投資を守る」特性は、不確実性の高いプロジェクトほど大きなメリットになります。
メリットを引き出す要件定義の進め方は、『スクラム開発のRFP・要件定義書・提案依頼書について』もあわせてご覧ください。
- ズレの早期発見:完成前に、作ったものと期待のずれが表面化する仕組み
- 投資の保全:途中で打ち切っても、価値の高い機能が手元に残る点
スプリントごとに動くものを作ってレビューで確認するため、食い違いは数週間以内に見つかります。
スクラム開発のデメリット
メリットの裏側には、相応のデメリットもあります。スクラムは、向かない状況で使うとかえって混乱を招く手法です。
実際、日本のスクラム導入率は20%を超えたものの、導入プロジェクトの半数近くが失敗しているとされます。この失敗率の高さは、デメリットを軽視した導入が多いことの裏返しでもあります。
完成時期・総額が事前に見えにくいデメリット
スクラムの最も分かりやすいデメリットは、最終的な完成時期と総額を事前に確定しにくいことです。
予算を一円単位で固定して稟議を通す組織や、納期を厳密に守る義務がある案件にとっては、大きな障壁になります。準委任契約が前提となるため、完成責任を求める従来の発注の感覚とも合いません。
ベロシティの計測やバーンダウンチャートで進捗を見える化すれば、このデメリットはある程度和らげられます。ただし、完全には解消されません。「不確実なものを不確実なまま進める」という割り切りを、組織が文化として受け入れられるかが問われます。
特に、予算と納期の硬直性が高い組織では、このデメリットがスクラム導入の最大の障害になります。言い換えれば、このデメリットを許容できるかどうかは、後述する判断基準の重要な一項目になります。
- 完成時期:要件を固定しないため、契約時点で約束しにくい
- 総額:予算を一円単位で固定する組織では、稟議の前提と合わせにくい点
発注者の関与負担と人材不足というデメリット
もう一つのデメリットは、発注者側に相応の関与が求められることです。
仕様書を渡して完成を待つ丸投げは、スクラムではできません。発注者側にこうした関与を担える人材と時間の余裕がなければ、スクラムは空回りします。この関与の負担は、統制力というメリットと表裏一体でもあります。
さらに深刻なのが、スクラムを正しく回せる専門人材の不足です。2012年時点で、スクラム関連の有資格者は米国が75,000人を超えていたのに対し、日本は500人未満にとどまっていたとされます。
また、国内では経験者の層が薄いのが実情です。経験の浅いチームが見よう見まねでスクラムを始めると、イベントが形骸化し、半数近くが失敗するという統計どおりの結末をたどりがちです。
人材不足は、外部のスクラムマスターやアジャイルコーチを活用すればある程度補えます。ただし、相応のコストがかかるため、デメリットとして見込んでおく必要があります。
- 関与の中身:優先順位の判断と、スプリントレビューでのフィードバック
- 人材の確保:有資格者や経験者が少なく、外部支援には相応のコストがかかる点
請負か準委任か、契約形態の判断基準

スクラム導入の判断において、契約形態の選択は避けて通れません。請負契約と準委任契約のどちらを選ぶかは、メリットとデメリットのバランスを左右します。
要件を固定しないスクラムには、準委任が基本的に適します。ただし、組織の事情によっては、請負やハイブリッドが選ばれることもあります。それぞれの特性と選び方を見ていきます。
準委任が基本となる理由と請負との違い
準委任契約は、専門的な業務の遂行そのものを対価の対象とする契約です。要件が動くスクラムでは作るものを事前に決めきれないため、完成責任を負う請負契約とは本質的になじみません。
一方、準委任は「専門人材の能力と稼働」を調達する形になります。この形が、スクラムで準委任が基本とされる理由です。
請負契約のメリットは、完成責任が受注者にあるため発注者が安心しやすいことです。ただし、要件変更のたびに契約のやり直しや追加見積もりが発生します。
ある金融系SIerでは、スクラムと準委任を組み合わせて、この契約手続きのやり直しに伴う管理の手間を減らせたとされています。
要件が頻繁に動く案件では、請負の「完成保証」というメリットより、変更のたびに発生する契約事務の負担の方が重くなります。判断の原則は、要件がどれだけ動くかです。動くなら準委任、固まっているなら請負を選ぶのが基本です。
- 準委任:契約を変えずに、優先順位の変化へ追従できる形
- 請負:完成責任が受注者にあり安心しやすい一方、変更のたびに契約事務が生じる
ハイブリッド契約を選ぶべきケースの判断
組織の予算制度や調達ルールが準委任を認めにくい場合は、ハイブリッド型が現実的な選択肢になります。
ハイブリッド型では、予算稟議に必要な「大枠の見積もり」を確保しつつ、実装段階ではスクラムの柔軟性を活かせます。
東京都が準委任での調達を成功させた例もあります。一方で、多くの組織がまずハイブリッドから入るのは、既存の制度との折り合いをつけやすいからです。
ハイブリッドを選ぶかどうかの基準は、組織の予算・調達制度がどれだけ硬直的かです。制度が柔軟で準委任を認められるなら、純粋なスクラムの方がメリットを最大化できます。
制度の制約が強いなら、無理に準委任を貫くより、ハイブリッドで現実的に進める方が成功の確率は高まります。重要なのは、固定部分と柔軟部分の境界を明確にし、どこからをスクラムで動かすのかを関係者で合意することです。契約形態は、自社の制度の実情とプロジェクトの不確実性の両方を見比べて選んでください。
- 固定部分:要件定義や全体構想など、請負で範囲を固める上流の工程
- 柔軟部分:その後の実装を、準委任のスクラムで回す工程
適用領域とストーリーポイントの判断基準

スクラムを導入すべきかの最終判断は、「どんなプロジェクトに向き、どんなプロジェクトに向かないか」という適用領域の見極めに帰着します。
あわせて、スクラムの代表的な手法であるストーリーポイント見積もりを採用すべきかも、判断のポイントになります。この二つを押さえておくと、自社で判断するための物差しになります。
新規事業に向く領域と、固定要件・組込みの不向きな領域
スクラムが向く代表例は、新規事業やデジタルサービス、Webアプリケーションです。業務改善のための内製開発も、このなかに入ります。
スピードが競争力に直結する案件でもあるため、納期を重視する企業のニーズにも合います。
逆に向かないのは、要件が完全に固まっている案件や、組込みシステムのように安全性の検証が重い領域です。仕様が確定して変更の余地がないなら、スクラムの柔軟性は使いどころがありません。完成時期を確約できるウォーターフォールの方が合います。
組込みや制御系は、一度のミスが人命や重大事故に関わります。そのため、頻繁なリリースより厳格な検証が優先され、スクラムの短いサイクルとは相性が悪くなります。
不確実性が高くスピードが価値になる領域はスクラム、要件が固まっていて確実性が最優先なら、ウォーターフォールが向きます。この線引きが、適用を判断する基本です。
導入後に陥りやすい失敗パターンは、『スクラム開発の失敗・課題・注意点・リスクについて』もあわせてご覧ください。
- 向く領域:要件が走りながら固まり、市場の反応を見て方向を調整する案件
- 向かない領域:要件が確定している案件や、安全性の検証が重い組込み・制御系
ストーリーポイント見積もりの是非と判断
スクラムでは、作業量を時間ではなく相対的な大きさで見積もるストーリーポイントが広く使われます。ただし、その採用には是非があります。
メリットは、絶対時間で見積もる際の心理的なプレッシャーや個人差を排し、チームの共通認識を作りやすいことです。見積もりの過程でリスクや前提のズレが表面化し、要件理解が深まる効果もあります。チームで議論しながら見積もるプランニングポーカーは、この対話の価値を引き出す手法です。
一方で、デメリットや批判もあります。ストーリーポイントが独り歩きし、チーム間の優劣を比べる指標に誤用されると、ポイントを水増しする動機が生まれ、見積もりの意味が失われます。また、相対見積もりの考え方に慣れるまで時間がかかり、初期は混乱しがちです。
短期・単発のプロジェクトや、見積もり文化が浸透していない組織では、無理に導入しないという見極めが現実的です。
手法は目的ではなく道具であり、採否は自社の状況に合わせて決めることが大切です。
- 採用が有効な体制:チームが安定して継続的に開発を回せる場合
- 採用を控える状況:短期・単発のプロジェクトや、見積もり文化が浸透していない組織
まとめ
振り返ると、要点は「不確実性が高く、要件が動き、発注者が関与できる案件では、準委任を選べるならスクラムのメリットがデメリットを上回る」という見極めに集約されます。メリットは、変化への柔軟性とスピード、リスクの早期発見であり、JUASの調査が示す納期重視のニーズに応えます。
一方、完成時期や総額が見えにくいこと、発注者の関与負担、人材不足というデメリットがあります。導入率20%・失敗率約半数という現実が、これを裏づけています。
契約形態は、要件の動きやすさで準委任かハイブリッドかを選びます。適用領域は、新規事業には向き、組込みや固定要件には向きません。これが基本の線引きです。
スクラムは万能の手法ではありません。メリットだけで飛びつかず、これまでの観点で自社の案件を冷静に評価することが、失敗を避ける最大の鍵です。自社にとって決め手となる観点を見極め、スクラムが適するのか、ハイブリッドやウォーターフォールが妥当かを判断してください。
riplaはフルスクラッチ受託と準委任での伴走を通じて、この導入可否の見極めから支援しています。全体像の確認には、あらためて完全ガイドをご活用ください。
会社紹介
株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
