ビデオ通話アプリの事例では、音声の途切れへの対処、配信基盤の冗長化、通信方式の使い分け、画質の制御が主な論点になります。机上の費用相場だけを眺めても、自社が数人の1対1通話なのか、数十人が映る大規模配信なのかによって、最適な作り方はまるで変わります。だからこそ、自社に近い事例が参考になります。
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WebRTC音声途切れを外部SDK切替で解決した事例

ビデオ通話・音声配信アプリで最初に直面しやすいのが、WebRTCを自前で運用したときの「音声途切れ」「品質劣化」という壁です。WebRTCはブラウザやアプリ間でリアルタイム通信を実現する強力な技術ですが、ネットワークの変動が大きいモバイル環境では、パケットロスや遅延の影響を強く受けてしまいます。
この課題を外部SDKへの切替で乗り越えた代表例が、音声配信アプリのstand.fmです。
WebRTC単独運用の限界と原因切り分けの難しさ
stand.fmは導入当初、WebRTCを使って配信を実装していましたが、音声が途切れるトラブルに悩まされていました(出典:Agora導入事例)。やっかいだったのは、途切れの原因が「ユーザーの端末側」「ネットワーク側」「サーバー側」のどこにあるかを切り分ける手段がなかったことです。
リアルタイム通信は一瞬の品質劣化がそのまま体験を損なうため、原因が特定できないまま放置すると、ユーザーの離脱に直結します。これはWebRTCを自前で抱え込む多くの企業に共通する運用課題です。
ビデオ通話アプリでも事情は同じです。映像と音声の両方をリアルタイムに同期させる必要があるため、わずかなジッター(到着間隔のばらつき)やパケットロスが、フリーズや音ズレとして表面化します。
自前のWebRTC実装だけでは、こうした品質問題を見える形で計測する仕組みまで作り込む必要があり、開発と運用の負荷が重くのしかかります。事例が教えるのは、リアルタイム通信は作って終わりではなく、品質を測り続けられるかどうかで成否が分かれるという点です。
途切れてから手を打つのではなく、原因を見分けられる状態を先に作っておくことが大切です。
- 原因の切り分け:途切れが端末、ネットワーク、サーバーのどこで起きたかを見分けられるようにする
- 品質の継続計測:音声や映像の状態を数値で追い続けられる仕組みを持つ
遅延2秒以下・70%パケットロス耐性という一次データ
stand.fmは、この課題をリアルタイム通信SDKであるAgoraへの切替によって解決しました。さらに、音声の状態を細かく見られるようになり、障害の切り分けが可能になったとされています(出典:Agora導入事例)。
70%のパケットロスは、通常であれば通話が成立しないレベルの劣悪な環境です。それでも実用的な品質を保てるのは、SDK側が誤り訂正や再送を行い、適応的なコーデック制御も高度に行っているからです。
この事例から発注側が学べるのは、リアルタイム通信の品質をすべて自前で作り込むのか、実績ある外部SDKに任せるのかという、最初の意思決定の重要性です。
コラボ配信では、ライブ最大10人・収録最大4人といった同時接続の上限も、SDKの仕様として明確に設計されています。
自社のサービスがどこまでの品質と同時接続数を求めるのかを定めたうえで、自前構築とSDK活用のメリット・デメリットを比べます。その比較が、後悔しない技術選定の第一歩になります。
ビデオ通話アプリに必要な機能を体系的に整理したい場合は、関連記事『ビデオ通話アプリの必要機能や標準機能の一覧について』もあわせてご覧ください。
導入後の状態は、遅延と音声の両面から確認できます。
- 遅延:劣悪なネットワーク環境でも、遅延2秒以下で配信を続けられる
- 音声の可視化:デシベルレベルまで見えるため、障害の切り分けにつながるとされています
配信インフラを冗長化・動的選択した事例

規模が大きくなるほど深刻になるのが、配信基盤の「単一依存リスク」です。一つのクラウドサービスや一つのSDKにすべてを依存していると、その基盤に障害が起きた瞬間にサービス全体が止まってしまいます。
この課題に、複数の配信基盤を組み合わせて状況に応じて動的に切り替えるという設計で応えたのが、ライブ配信アプリPocochaを運営するDeNAです。
Amazon IVS単一依存のリスクとTencent併用
DeNAのPocochaは、当初Amazon IVS(Interactive Video Service)を用いて配信を行っていました。その後、単一の配信基盤に依存することの障害リスクを重く見て、Tencent CSSなど他社の配信サービスも併用する構成へ進化させました(出典:DeNA技術事例)。
配信インフラは、どれだけ堅牢なサービスでも完全に障害ゼロにはできません。だからこそ、片方が落ちてももう片方で配信を続けられる冗長構成が、サービスの可用性を支える土台になります。
ビデオ通話アプリにおいても、この冗長化の発想は規模が大きくなるほど欠かせません。たとえばTURN/STUNサーバ(NAT越えのための中継・経路探索を担うサーバ)が一拠点しかなければ、その拠点の障害で多くのユーザーが接続できなくなります。
配信・中継のレイヤーを複数系統で持ち、障害時に自動でフェイルオーバーできる設計にしておくことが、止まらないサービスの前提条件です。事例は、可用性を後付けではなく設計段階から織り込むべきテーマだと教えてくれます。
DeNAの事例は、配信基盤を一つに絞らない判断が障害への備えになることを示しています。
- 単一依存:一つの配信基盤が止まると、配信そのものが止まってしまう
- 併用構成:片方に障害があっても、もう片方で配信を続けられる
Strategyパターンで配信基盤を動的選択した設計
DeNAの事例で技術的に注目すべきは、配信基盤の切替を行き当たりばったりではなく、ソフトウェア設計のパターンで実現している点です。
これにより、新しい配信基盤を追加したり、障害時に別の基盤へ切り替えたりする際も、アプリ全体を作り直す必要がありません。
この「抽象化して付け替え可能にする」という設計思想は、発注側にとっても示唆を含みます。特定のSDKやクラウドに深く依存すると、後からコストを見直したり乗り換えたりしたくなったときに身動きが取れなくなります。
これはベンダーロックインと呼ばれる典型的なリスクです。最初から複数基盤を見据えた抽象化された設計を要件として求めておけば、将来の選択肢を確保できます。
riplaはフルスクラッチ受託の立場から、こうした「将来の付け替えに耐える設計」を重視して提案しています。
切替の仕組みをサーバーとクライアントの両方に持たせている点を、確認しておくとよいでしょう。
- サーバー側:配信インフラを選ぶ部分を、共通のインターフェースの裏に置く
- クライアント側:再生処理を抽象化し、使うSDKを切り替えられるようにする
補足すると、サーバー側は「BroadcastOriginManager」という共通インターフェースを設け、クライアント側は「LivePlayer」として再生処理を抽象化しています。前者はStrategyパターン、後者はFactoryパターンで、配信インフラやSDKを動的に選べるようにしています(出典:DeNA技術事例)。
WebRTC/HLSハイブリッドと適応制御の事例

ビデオ通話・配信の品質を突き詰めると、「全員に超低遅延を提供すべきか」「視聴側はある程度の遅延を許容して安定とコストを優先すべきか」という設計判断に行き着きます。
この判断を巧みに使い分けた事例が、音声SNS基盤を提供するImageFluxと、適応的な映像制御を実現したNECの取り組みです。
スピーカーはWebRTC・リスナーはHLSのハイブリッド
ImageFluxを用いたClubhouse風の音声SNSでは、発言者(スピーカー)と聴衆(リスナー)で通信方式を使い分けるハイブリッド構成が採られています。会話に参加するスピーカーはWebRTCで双方向通信を行い、聴くだけのリスナーはHLSで配信を受ける設計です(出典:ImageFlux技術事例)。
WebRTCは双方向で超低遅延ですがサーバー負荷が高く、HLSは遅延が大きい代わりに大人数への配信に強く、コストも抑えられます。両者の長所を組み合わせることで、品質とコストのバランスを取っています。
技術的に巧妙なのは、CreateMultistreamChannelWithHLSによってWebRTCの映像・音声をHLSへ変換し、キャッシュサーバで配信することで負荷を分散している点です。さらに、リスナーがスピーカーに昇格する瞬間には、HLSを停止してWebRTC接続へ切り替える処理が組み込まれています。
ビデオ通話アプリでも、「全員が対等に話す会議」と「一人が話して多数が視聴するウェビナー」では最適な構成が異なります。そのため、用途に応じて通信方式を使い分けるというこの事例の発想は、自社サービスの設計を考えるうえで大いに参考になります。
スピーカーは低い遅延を、リスナーは大人数への安定した配信を優先している点が、この事例の特徴です。
- スピーカー:WebRTCで遅延0.2〜0.5秒の双方向通信を行う
- リスナー:HLSで遅延10〜30秒の配信を受ける
スループット予測80%で画質を適応制御した事例
もう一つ、映像品質の適応制御で示唆に富むのがNECの取り組みです。NECは、通信ログの時系列データを混合モデルで解析する予測技術を開発しました(出典:NEC技術資料)。
ビデオ通話で「相手の映像が急にカクついた」「いきなり画質が落ちた」という体験は、回線変動への対応が後手に回ったときに起きます。先回りして帯域を予測し、画質・フレームレート・ビットレートを滑らかに調整できれば、ユーザーは品質劣化をほとんど意識せずに会話を続けられます。
適応ビットレート制御は、もはやビデオ通話アプリの必須要件と言ってよい領域です。事例が示すのは、リアルタイム通信の品質とは「最高画質を出すこと」ではなく「変動下でも破綻させないこと」だという本質です。
NECの取り組みでは、予測と制御を組み合わせている点が要になります。
- 予測:1〜3分先のネットワークスループットを80%以上の精度で見積もる
- 制御:予測をもとに、解像度とフレームレートを回線の状態に合わせて変える
具体的には、HD(1280×720)解像度を0.3〜5Mbpsの帯域に合わせて調整し、2〜30fpsのフレームレートも動的に切り替えています。これにより、回線が細くなる場面でもノイズの少ない配信を維持しています。
大規模刷新と失敗からの軌道修正の事例
サービスが成長すると、初期の技術構成では支えきれなくなり、配信基盤を抜本的に作り替える局面が訪れます。
この大規模刷新の進め方と、初期構成の失敗からどう軌道修正するかは、長く使われるビデオ通話アプリを目指すうえで避けて通れないテーマです。
超低遅延の新配信基盤への大刷新事例
ライブ配信サービスのSHOWROOMは、AWS・Go・Nuxt・Unityといった技術スタックで刷新を進める中で、Perlからの移行によりJSONの数値型が文字列化するといった躓きも経験しています(出典:SHOWROOM技術事例)。
この事例が発注側に伝えるのは、配信系サービスは「一度作ったら終わり」ではなく、ユーザー数や品質要求の高まりに応じて基盤を進化させ続ける必要があるという現実です。
バーチャルライブ配信アプリのREALITYのように、独自のアバター配信を軸に成長を続ける事例も、その裏側では継続的な技術投資が支えています(出典:CEDiL。また、CESA一次資料)。最初の設計時から「成長したときにどこを作り替えるか」を見据えておくことが、無理のない拡張につながります。
刷新の途中では、技術スタックの移行に伴う小さな躓きも起きることを押さえておく必要があります。
- 刷新の範囲:超低遅延の配信基盤への移行を含む、4層構成の全体
- 開発の進め方:TypeSpecとOpenAPIによるスキーマ駆動開発で、Goのモックを一括生成する
この進め方は、躓きを乗り越えて開発効率を高めるために採用しています。
初期構成の失敗から学ぶ軌道修正のパターン
これまで紹介した事例を貫くのは、「初期の技術選定でつまずいても、適切に軌道修正すれば挽回できる」という前向きな教訓です。stand.fmはWebRTC単独の限界をSDK切替で乗り越え、DeNAは単一依存を冗長構成で解消し、SHOWROOMは旧基盤を新基盤へ刷新しました。
いずれも、課題を放置せず、原因を技術的に特定し、構成を作り替えています。逆に言えば、品質劣化や障害の原因が見えないまま放置すると、ユーザーは静かに離れていきます。
発注側として大切なのは、最初から完璧な構成を求めるよりも、「計測できる仕組み」と「付け替えられる設計」を最初に確保しておくことです。
失敗・課題・リスクの観点をさらに深掘りしたい方は、関連記事『ビデオ通話アプリ開発/導入の失敗/課題/注意点/リスクについて』もあわせてご覧ください。
軌道修正の型は、何を変えたかより、なぜ変える必要があったかで見ると理解が進みます。
- 計測できる仕組み:品質を数値で示し、原因を切り分けられる状態を作る
- 付け替えられる設計:抽象化によって、基盤の乗り換えに耐えられる構成にする
まとめ
ビデオ通話・配信系アプリの事例を振り返ると、成功の鍵は、配信基盤を冗長化し、適応制御を組み合わせることで、リアルタイム通信の品質を仕組みとして保つ点にあります。
stand.fmはWebRTC単独の限界をAgoraへの切替で乗り越え、最大70%のパケットロス下でも遅延2秒以下を実現しました。DeNAのPocochaは、Amazon IVSへの単一依存をTencent併用とStrategyパターンで解消しました。
また、ImageFluxはWebRTCとHLSのハイブリッドで品質とコストを両立させ、NECは帯域予測で映像を適応制御しました。いずれも、ネットワーク変動と障害を前提に「壊れにくい構成」を選んでいます。
事例を読むときは、「変動下でも品質をどう保ったか」という技術的な視点で見ると、要点をつかみやすくなります。
自社のサービスが何人で使われ、どこまでの低遅延を求めるのかを定義し、その規模に合った配信方式と冗長構成を最初に選んでください。
riplaはフルスクラッチ受託と国内開発を組み合わせ、サービス規模から逆算した配信基盤の設計と、安定運用できるシステムづくりを一貫して支援します。全体像の確認には、あらためて完全ガイドをご活用ください。
会社紹介
株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
