公共システム開発/導入のメリット/デメリット/効果と判断基準について

公共システムの導入は、業務特性や独自要件、調達体制に応じて方式を選び、TCOとROIを比べることで、住民サービスと財政運営の両立につながります。

判断するのは3つで、クラウドかオンプレミスか、汎用型か特化型か、共同調達か単独調達かです。全体像は公共システムの完全ガイドもご覧ください。

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クラウド型とオンプレミス型のメリット・デメリット

クラウド移行後の運用経費について、中核市59市の平均2.3倍、福島市の従来比3.7倍、最大5.7倍の事例を横棒で比べた図。
平均を上回る事例もあり、移行後の費用確認が欠かせません。

公共システムでは、クラウド型とオンプレミス型のどちらを選ぶかが最初の判断になります。ガバメントクラウドへの移行が進み、クラウドは標準的な選択肢になりつつあります。ただし、すべての業務にクラウドが合うとは限らないため、それぞれのメリットとデメリットを理解することが判断の第一歩です。

クラウド型のメリットと注意すべきコスト

クラウド型は、初期投資や保守の負担を抑えやすく、テレワークにも対応しやすい方式です。利点は、導入時の負担、利用場所、運用の任せ方の三つの面にあります。

  • 小さく始めやすい:初期投資を抑えて導入できる点です。
  • 庁外から使いやすい:テレワークや外部からのアクセスにも対応しやすい点です。
  • 保守を委ねやすい:バージョンアップや災害対策を、ベンダー側に任せられます。

医療分野の電子カルテでは、クラウド型の初期費用は約10万円から数十万円、月額費用は1万円から数万円が目安です。同分野のオンプレミス型は、初期費用が200万円から500万円、月額費用が2万円から4万円で、初期負担は重くなります。

ただし、クラウドにすれば運用経費が常に安くなるとは限りません。中核市59市の調査では、移行前の運用経費は平均3億3,800万円でしたが、移行後は平均6億8,400万円、2.3倍に膨らみました。最大5.7倍の事例があり、福島市は従来比3.7倍です。

要件の積み増しや為替・賃金の上昇により、クラウド移行後に費用が膨らむことがあります。クラウド化は手段であり、コスト低下を保証するものではありません。

オンプレミス型が向くケースの判断基準

オンプレミス型は、自組織で管理しやすく、ネットワークを閉じて運用できる方式です。判断にあたっては、利点と負担の両方を見ます。

  • 統制しやすい:自組織でシステムを直接管理できる点です。
  • 閉じた環境で運用できる:外部接続を最小限に抑えたい業務に合う場合があります。
  • 自前の負担がある:初期投資や保守に加え、災害対策と更新も自組織で担います。

極めて機微な情報を扱う業務では、オンプレミス型が要件に合う場合があります。すべてを二択で決めず、業務の特性に応じて使い分けます。たとえば、住民接点や効率化が求められる業務はクラウド、極めて高い機密性が求められる業務はオンプレミスとする構成も選べます。

為替は2018年から2020年に100円から110円台でしたが、2023年から2025年には130円から160円台となり、円安が進みました。この為替変動は、クラウドの外貨建てコストを押し上げる要因です。そのため、業務特性だけでなく、総保有コストも比べて判断します。

ハイブリッド構成という第三の選択肢

クラウドとオンプレミスは、必ずしも一方だけを選ぶとは限りません。業務の特性に応じて両者を組み合わせるハイブリッド構成も、有力な選択肢です。

  • 住民向け機能:予約・申請やチャットボットを、クラウド側に置きます。
  • 機微情報を扱う基幹業務:オンプレミスや閉域網の側で運用します。

この使い分けにより、利便性とセキュリティを業務ごとに両立できます。一方で、構成が複雑になると、連携や運用管理の負担は増えます。

そのため、安全なデータ連携の設計と、障害時に原因を切り分けやすい監視体制が必要になります。機密性と利便性の要求が業務ごとに大きく異なるかも見ます。

要求が明確に分かれるなら、ハイブリッドで使い分ける価値があります。逆に要求がそろっているなら、シンプルな構成のほうが運用しやすく、運用負担も含めて評価します。

ポイント

クラウドは初期投資を抑えやすい一方、移行後に運用経費が膨らむことがあります。外部接続の要否と機微性を業務ごとに見て選び分けるのが目安です。

汎用型パッケージと特化型・フルスクラッチの判断基準

汎用型パッケージ・SaaSを中央に置き、低コスト、早い導入、標準的な要件、段階的な進め方を注釈で示した図。
標準機能に合う範囲から導入を始めやすい方式です。

次に検討するのは、汎用型のパッケージやSaaSを使うか、特化型やフルスクラッチで作るかです。汎用型を前提に考える流れが広がりつつあります。ただし、現場の独自業務をどこまで作り込むかで、コストと使い勝手のバランスは変わります。

汎用型パッケージ・SaaSのメリットと費用

汎用型は導入が早く、初期費用を抑えやすい方式です。標準的な要件に合いやすく、費用は提供形態によって異なります。

  • SaaS型校務支援:初期費用は数十万円から数百万円、月額は数万円から数十万円です。
  • パッケージ型:初期費用は数百万円から数千万円で、保守費は年10%から15%です。

SaaSは、小さく始めて効果を確かめてから本格展開する、段階的な進め方を取りやすいのが利点です。一方で、自組織独自の業務に合わせきれない場合があります。標準項目では独自の管理項目を扱えず、別ファイルで二重管理する例もあります。

選定時は、業務の何割を標準機能でカバーでき、残りを運用の工夫で吸収できるかを見極めます。標準で大半が回るなら、汎用型が合理的です。標準では回らない業務が中核を占める場合は、特化型やフルスクラッチも検討できます。

汎用型を選ぶ場合は、カスタマイズを最小限に抑えます。現場の要望に応えて標準パッケージに手を加え続けると、費用が膨らみ、保守も複雑になります。標準仕様の要件数が一部で3倍以上に増えた背景にも、独自要件の積み増しがあります。

汎用型の利点を生かすには、業務を標準に合わせる運用方針が欠かせません。安易な作り込みは、低コストと早い導入という強みを損ないます。

フルスクラッチ・特化型が向くケース

フルスクラッチや特化型は、自組織の業務に合わせて作り込めます。費用は規模によって大きく変わるため、小規模・中規模・大規模ごとの目安を見ておきます。

  • 小規模:500万円から1,500万円
  • 中規模:2,000万円から8,000万円
  • 大規模:1億円から数億円

オフショア開発を組み合わせれば、30%から50%のコスト削減も可能です。独自業務が組織の中核であれば、現場への定着につながる場合があります。

一方で、初期投資が大きく、開発期間も長くなる点がデメリットです。そのため、独自業務が組織の競争力や住民サービスの核かを問う必要があります。

独自要件を積み増すと、運用経費の膨張要因にもなります。そこで、作り込む業務と標準に寄せる業務を仕分けることが求められます。

riplaは、フルスクラッチ受託と国内開発の立場から、汎用型で回る部分は汎用型に任せる進め方を重視しています。投資は、本当に作り込む中核業務へ集中させます。

汎用型と特化型は、業務に応じて組み合わせて考えるものです。

ポイント

業務の何割を標準機能でカバーできるかを見て、標準で大半が回るなら汎用型、中核を占める独自業務は特化型やフルスクラッチを検討するのが目安です。

共同調達と単独調達のメリット・デメリット

公共システムでは、複数の組織で共同調達するか、自組織だけで単独調達するかも判断の対象になります。規模の利点と自組織への適合性は、トレードオフになることがあります。

共同調達のメリットと調整コスト

共同調達は、費用や人材を分担し、広域でサービスを統一できる方式です。ただし、導入効果と調整負担の両面を見ておく必要があります。

  • コストを分担:複数組織で負担を分け合えます。
  • 専門人材を共有:人材を確保しにくい小規模組織にも利点があります。
  • 広域で統一:サービスを組織間でそろえられます。

大阪府のデジタル人材シェアリングは、専門人材を共同で確保する仕組みの例です。規模を生かすことで、1組織あたりの負担を下げられます。

一方で、参加組織の間で要件を調整するには、時間とコストがかかります。共通仕様をまとめる過程で妥協が生じ、どの組織にも完全には合わないおそれがあります。

判断の基準は、独自要件が共通仕様に収まるかどうかです。標準業務が中心なら利点が勝り、独自性の強い業務では調整コストが上回る場合があります。

参加組織が多いほど、仕様変更や運用ルールの見直しに合意を得るまで時間がかかります。自組織だけの都合では動きにくく、意思決定の主導権も検討課題になります。

調達や運用に詳しい人材を抱えにくい小規模組織には、専門知見を共有できることが安心材料になります。コストだけでなく、意思決定の速さと自由度を、どこまで共同化と引き換えにできるかを見極めます。

単独調達が向くケースの判断

単独調達は、自組織に合わせて要件を決めやすく、意思決定も速くなります。

  • 大阪市:運用管理補助者を総合評価一般競争入札で調達。
  • 北九州市:観光AIチャットボットを公募型プロポーザルで調達。

大阪市は、自組織の運用体制に合わせて調達しています。独自性の高い業務や、スピードが求められる施策では、単独調達が機動的です。

一方で、スケールメリットは働きにくく、専門人材も自前で確保する必要があります。そのため、標準性と独自性に加え、自組織のデジタル人材の有無も判断材料になります。

標準業務が中心で人材が限られる場合は共同調達、独自性が高く速さが必要な場合は単独調達が目安です。対象業務の性質に応じて選ぶことが、コストと満足度のバランスを取ることにつながります。

ポイント

標準業務が中心で人材が限られるなら共同調達、独自性が高く速さが求められるなら単独調達が目安です。共同調達では、参加組織との調整に要する時間も判断材料になります。

運用経費(TCO)とROIで見る総合的な判断基準

公共システム導入の判断材料として、5年間の総額、KPIによる効果、現場での継続利用を3枚のカードで示した図。
費用と効果に加え、使われ続ける見込みも判断に加わります。

三つの判断に共通する基準は、総保有コスト(TCO)と投資対効果(ROI)です。初期費用だけでなく、数年間の費用と効果を合わせて判断します。

初期費用が安くても、運用段階で経費が膨らみ、総額が高くなることがあります。そのため、運用経費と効果を合わせて見ることが欠かせません。

運用経費の膨張リスクの見極め

運用経費の膨張は、公共システムの判断で最も警戒すべきリスクです。標準化やガバメントクラウド移行後の費用は、自治体の規模によっても増え方が異なります。

  • A市・人口27万人:2億800万円から7億8,400万円へ3.8倍。
  • B市・8万人:1億7,400万円から4億700万円へ2.3倍。
  • C町・1万人:3,600万円から6,600万円へ1.8倍。

中核市59市の平均では、運用経費が2.3倍に膨らみました。要件の積み増しに加え、円安や賃金改定率も費用を押し上げています。

賃金改定率は、2023年が3.2%、2024年が4.1%でした。膨張を見極めるには、提案された月額・年額の運用経費が要件の増加によってどう変わるかを、契約前に確認します。

導入後は、利用状況を継続的に監視し、不要な機能や過剰なリソースを見直すFinOpsの発想が欠かせません。そのうえで、初期費用だけでなく5年間の総額を試算し、運用経費の上振れも織り込みます。

KPIによる効果の定量化とROI判断

ROI判断の鍵は、効果をKPIで定量化することです。自治体の導入実績から、評価の考え方を見ていきます。

  • 導入効果:RPA・AI-OCRを導入した自治体の78.3%が効果を実感し、平均削減率は32.7%です。
  • 長岡市:74業務のRPA化により、年間18,603時間の削減。
  • 恵庭市:税務16業務で、年間1,100時間の削減。

窓口待ち時間の短縮率などをKPIに設定すれば、投資効果を客観的に示せます。削減効果や住民サービスの向上を金額や時間に換算し、TCOと比べます。

年間1,100時間の削減は、人件費単価で換算すれば、運用経費の一部を相殺できる規模になります。ただし、初年度の効果は計画の65%程度にとどまることが多い点にも注意が必要です。

ROIは、単年ではなく複数年で評価するのが基本です。メリットとデメリットは、TCOとKPIによる定量比較で判断することで、説明責任にもかないます。

定着率という見えにくい判断基準

TCOとROIに加えて、現場で使われ続けるかも判断基準になります。使われなければ効果は得られず、ROIがマイナスに転じてしまいます。

介護分野の調査では、関係者50名のうちICTを「知らない」が74%でした。「聞いたことがある」は20%、「理解がある」は6%です。このように、定着のハードルは想像以上に高いといえます。

ICTへの理解度に差があるため、製品やベンダーの支援体制が、現場での継続利用を支えられるかを確認します。

  • 導入時:オンボーディングの支援が手厚いか。
  • 導入後:伴走支援や利用ログに基づく継続改善があるか。

納品後に支援がない場合と、利用ログを分析して改善を続ける場合とでは、数年後の利用率に差が出ます。

riplaは、フルスクラッチ受託と国内開発の立場から、導入後も伴走して定着率を高める進め方を重視しています。

最終判断では、初期費用や機能だけでなく、現場で使われ続ける見込みも加えます。定着は、公共投資を無駄にしないための判断の観点です。

ポイント

初期費用ではなく、5年間の総額とKPIで測る効果を並べて比べるのが判断の目安です。運用経費が膨らむ要因は、提案の段階で洗い出しておきます。

まとめ

公共システムの判断では、三つの判断事項のいずれも、自組織の業務特性に合うかを見ます。対象は三つです。一つ目は方式で、クラウドかオンプレミスかを選びます。二つ目は製品の種類で、汎用型か特化型・フルスクラッチかを選びます。三つ目は調達の形で、共同調達か単独調達かを選びます。

共通する基準は、運用経費を含むTCOと、KPIで定量化したROIです。クラウド移行で運用経費が平均2.3倍になった実例は、メリットだけで選ぶことの危うさを示しています。

判断では、初期費用の安さや流行ではなく、5年間の総コストと効果を数値で比べます。方式や調達方法は、業務特性に応じて組み合わせて考えます。

riplaは、フルスクラッチ受託と国内開発を組み合わせ、TCOとROIに基づく選択を支援します。本当に作り込む業務へ投資を集中させる進め方も、一貫してサポートします。

全体像は、あらためて完全ガイドをご活用ください。

会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。