公共システム開発/導入の失敗/課題/注意点/リスクについて

公共システムの失敗は、運用経費の膨張、移行時の業務麻痺、投資の無駄、情報漏えいとシステム停止の4つに分けられます。費用管理や段階的な移行などで回避を目指せるほか、自組織で避けるべき問題を先に見つける材料にもなります。これから投資する組織にとって、失敗の類型と回避策を知っておくことは保険になります。

全体像をまだつかめていない方は、まず公共システムの完全ガイドから読むとよいでしょう。

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運用経費が膨張する財政リスク

A市3.8倍、B市2.3倍、C町1.8倍と、移行後の運用経費の従来比を並べた図解。
比較対象を同じ従来比でそろえています。

公共システムの失敗では、運用経費の膨張が財政に大きな影響を与えます。実際、標準化やガバメントクラウド移行を契機に、想定を大きく上回る組織が増えています。

これは一つの組織だけの失敗ではなく、全国で共通する構造課題です。そのため、膨張の仕組みを事前に理解し、対策を検討しておく必要があります。

運用経費が平均2.3倍に膨張した実態

中核市市長会の調査によると、中核市59市の移行前の運用経費は平均3億3,800万円でした。移行後は平均6億8,400万円となり、2.3倍に膨らんでいます。

最大で5.7倍に達した事例もあり、福島市では従来比3.7倍でした。規模別に見ても、A市(人口27万人)は2億800万円から7億8,400万円へ3.8倍になっています。

B市(8万人)は1億7,400万円から4億700万円へ2.3倍、C町(1万人)は3,600万円から6,600万円へ1.8倍です。どの規模でも増加しています。

運用経費が増える背景には、標準仕様書の要件数、為替、賃金改定があります。

  • 要件数:標準仕様書で求められる項目が増加
  • 為替:円安による変動
  • 賃金:改定率が上昇

為替は、2018年から2020年の100円から110円台に対し、2023年から2025年には130円から160円台へ円安に振れています。

また、賃金改定率も2023年に3.2%、2024年に4.1%と上昇しています。

回避の鍵は、要件の積み増しを抑えることと、5年間の総コストを試算してから投資を判断することです。初期費用だけで決めると、運用時に財政を圧迫することになります。

クラウドコスト肥大化を防ぐFinOpsの視点

運用経費の膨張を放置すると、クラウドコストも際限なく肥大化します。

その対策として知られるのがFinOpsで、クラウドの使い方を継続的に管理する考え方です。クラウドは使った分だけ課金される従量制が基本です。

使い方を見直さなければ、想定外のコストが積み上がります。そのため、管理では次の4つの取り組みを続けます。

  • 利用状況:継続した監視
  • 月次点検:費用の確認と不要な機能の削減
  • 投資対効果:KPIでの測定
  • 投資配分:効果の薄い領域の縮小と、高い領域への振り向け

KPIとしては、窓口待ち時間の短縮率や処理時間の削減量を設定します。

次に、設定した指標で、コストに見合う効果が出ているかを定期的に検証します。

コストと効果の両面から見直さなければ、運用経費だけが膨らみ続けます。財政リスクは、導入時の判断に加えて、運用中の継続的な管理で抑えます。

独自要件の積み増しが招くコスト膨張

運用経費が膨らむ背景には、独自要件の積み増しがあります。標準仕様書の要件数は平均で従来の1.2倍となり、一部の業務では3倍以上に増えています。

組織ごとの独自要件は、開発や保守の費用を押し上げます。また、標準に寄せられる部分まで作り込むと、運用時の経費も膨らみます。

要件定義では、独自要件を次の3つの観点で確認します。

  • 必要性:業務上、本当に欠かせない機能か
  • 代替手段:標準の機能や業務で置き換えられないか
  • 慣行の見直し:長年の慣行を、システム化の機会に改める余地がないか

業務そのものを標準に合わせて見直すことが、コスト膨張を抑えます。前述の運用経費2.3倍は、独自要件を放置した先にある現実です。

要件を絞るのは、機能を諦めるためではなく、持続可能な運用を守るための判断です。

ポイント

運用経費は導入後も積み上がるため、要件の積み増しを抑え、5年間の総コストで投資を判断することが目安です。運用中も費用と効果を見直す必要があります。

移行・運用で業務が麻痺するリスク

段階的な切り替え、業務フローに沿った訓練、サポート要員の配置、習熟時間の確保を示すチェックリスト。
切り替えの方式と現場支援を組み合わせて、移行直後の混乱を抑えます。

財政リスクと並んで深刻なのが、移行や運用を誤って業務が麻痺するリスクです。公共システムは住民生活に直結するため、一時的な停止でも大きな影響が出ます。

業務が止まると、住民への影響だけでなく、組織への信頼も大きく損なわれます。実際、移行時期や研修設計を軽視した失敗が起きています。

一斉移行で外来待ち時間が3倍になった失敗

象徴的なのが、電子カルテの一斉移行で外来が麻痺した事例です。ある医療機関では、電子カルテを一斉に切り替えた初日に現場の習熟が追いつかず、外来待ち時間は平均3倍となりました。さらに、患者からクレームが殺到しました。

原因は、操作研修が機能説明に偏り、実際の診療フローに沿った訓練が不足していたことです。失敗の本質は、システム性能ではなく移行の進め方にあります。

移行時には、次の4つの対策を組み合わせます。

  • 移行方式:一斉ではなく段階的な切り替え
  • 操作研修:実際の業務フローに沿った訓練
  • 移行直後の支援:手厚いサポート要員の配置
  • 切り替え時期:年度末や繁忙期を避け、習熟の時間を確保

住民や患者に直結する業務ほど、慎重な移行が求められます。

移行は技術作業であると同時に、新しいやり方を身につける学習の過程です。その学びの側面を軽視した計画が、外来麻痺のような失敗を招きます。

データ移行のクレンジング不足による誤表示

移行に伴うもう一つのリスクが、データ移行の不備です。移行元データを、クレンジング(不整合の修正)しないまま新システムへ移した結果、未納情報が誤表示された事例があります。誤ったデータは、住民への誤通知や誤った対応につながります。

信頼を損なうこの失敗は、技術的なミスというより移行計画の詰めの甘さが招きます。移行時には、次の4点を決めておきます。

  • 移行範囲:移行対象とするデータ
  • 担当責任:クレンジングを担う責任者
  • 移行後の検証:データの確認方法
  • 過渡期の連携:新旧システムが並行稼働する間の受け渡し方法

段階移行では、移行済みの業務と未移行の業務が並行して動くため、業務をまたぐデータの扱いが難しくなります。

データ移行と過渡期の連携は地道な作業ですが、軽視した失敗が後を絶ちません。連携が曖昧なままだと、移行期間中に業務が回らなくなるおそれがあります。

ポイント

移行は一斉でなく段階的に進め、研修は実際の業務フローに沿って行い、移行前にデータの不整合を直しておくことが、業務の麻痺を防ぐ土台になります。

安さ優先と定着失敗による投資リスク

公共システムでは、投資した費用が無駄になる失敗も珍しくありません。たとえば、安さだけで選んだ結果、既存システムと連携できなくなった事例があります。

導入後に現場で使われず、利用率が上がらない失敗もあります。原因は、目先のコストや導入の成立だけを見て、運用後の定着を軽視したことです。

安さ優先で連携できず二重入力に陥った失敗

価格だけで選んだ結果、既存システムと連携できず、同じ情報を両方に入力する二重入力が起きた事例があります。連携できないシステムは、現場の負担を増やします。

この事例では、最終的に入れ替えが必要になりました。そのため、入れ替え費用と移行負担が二重に発生し、当初の投資は実質的に全損しました。

調達時は、価格以外に次の3点も評価します。

  • 連携要件:調達時に明確にし、既存システムとの接続を確かめる
  • 判断基準:初期費用だけでなく、運用までを含めた総コストで比較
  • 再導入の負担:調達、移行、現場の習熟にかかる手間

初期費用が安くても、二重入力が生じれば人件費が継続してかかります。さらに、入れ替えでは新たな調達費用に加えて、再度のデータ移行や現場の習熟も必要になります。

安さ優先は、初期投資を無駄にするだけでなく、やり直しの投資も招きます。連携性を重視した総合評価は、初期費用を押し上げるように見えても、二重の損失を避けるための合理的な判断です。

納品して終わりで利用率が下がる失敗

導入したシステムが使われない定着失敗も、投資リスクの一つです。納品時点でベンダーの関与が終わると、利用ログが確認されず、使われない機能が放置されます。

その結果、利用率が下がる悪循環に陥ります。実際、介護分野の関係者50名への調査では、ICTを「知らない」が74%、「聞いたことがある」が20%でした。

同じ調査で「理解がある」とした人は、わずか6%です。現場がツールを理解していないという、根深い課題があります。

定着を支えるには、導入後の継続支援が欠かせません。そのため、調達時には次の4つの支援を要件に含めます。

  • 利用ログ:月次の分析
  • 現場改善:聞き取りをもとにした使い方とUIの改善
  • 導入支援:手厚いオンボーディング
  • 調達要件:RFPへの運用支援と改善提案の明記

定着の目標は、現場が理解して使い続けられる状態をつくることです。riplaはフルスクラッチ受託と国内開発の立場から、現場業務を起点に設計します。

riplaは、段階的な定着と導入後の伴走を一貫して重視しています。そのため、投資を全損させないよう、定着まで設計に含めています。

RFPには、「納品後の運用支援」「利用ログの分析と改善提案」「現場ヒアリングに基づく改善」を記載します。こうしておくと、納品後もベンダーが関与する役務を定められます。

ICTを理解している人が6%だった調査結果は、現場の理解を育てる支援の重要性を示しています。システムは渡すだけでは使われず、継続的な支援があってこそ投資の回収につながります。

ポイント

価格だけで選ばず、既存システムとの連携と運用までを含めた総コストで比べ、納品後の運用支援を要件に含めることが基準になります。

情報漏えいとシステム停止のリスク

窓口業務を中央に置き、紙の手順書、実地訓練、SLAと責任分界点、一次対応者で囲むBCPの図解。
紙での代替手順と事業者間の役割決めが、停止時の対応を支えます。

公共システムで避けたいのは、住民の機微な情報の漏えいと、システム停止による業務の全面停止です。一度起きれば、住民の信頼を根底から損ないます。

便利な機能があっても、非機能要件を軽視すれば失敗は致命的です。実際、設定ミスや停止への備えの不備が起きています。

設定ミスによる個人情報漏えいの失敗

ベンダー任せの設定により、患者の個人情報が外部から閲覧できる状態になった事例があります。原因は高度な攻撃ではなく、権限やアクセス制御を誰も確認しなかったことです。

公共システムは機微な情報を大量に扱います。そのため、小さな設定の見落としが大規模な漏えいに直結します。

漏えいを防ぐには、設定と運用の両面で次の3点を確認します。

  • 権限管理:業務に即したアクセス制御の設計
  • 設定点検:定期的な見直しと第三者による確認
  • 監査ログ:アクセス履歴の記録

監査ログに、誰がいつどのデータへアクセスしたかを記録すれば、不正の抑止と、万一の際の追跡が可能になります。

セキュリティを左右するのは、機能の有無だけでなく、設定と運用を確実に行えるかどうかです。

システム停止に備えるBCPの不備

システム停止に備えたBCP(業務継続計画)の不備も、リスクの一つです。サイバー攻撃や大規模障害が起きたとき、備えがなければ窓口業務は完全に止まります。

マルチベンダー環境では、ガバメントクラウドへの接続エラーのたびに、組織側が原因を切り分ける負担も報告されています。障害対応の体制づくりが課題です。

停止に備えるには、紙による代替運用と事業者間の対応を決めておく必要があります。

  • 代替運用:紙のフローと手順書の用意
  • 実地訓練:紙の手順による演習の定期的な実施
  • 契約上の分担:SLAと責任分界点の明確化
  • 障害対応:一次対応者の設定

システムが止まっても業務を続けられるよう、職員が実際に動ける状態にしておきます。

BCPは平時には目立ちませんが、有事には組織と住民を守ります。障害は起きるものとして備えることが、公共システムのリスク管理の要点です。

マルチベンダーの責任分界が曖昧なリスク

システム停止に関わるリスクとして、マルチベンダー環境での責任分界の曖昧さがあります。ガバメントクラウドへの移行などでは、複数の事業者がレイヤーごとに関与する構造が一般的です。

各事業者の責任範囲が曖昧だと、障害のたびに組織側が原因を切り分けることになり、復旧が遅れます。接続エラーのたびに組織側が切り分けを強いられる点も、すでに報告されています。

調達時は、SLA(サービス品質の保証水準)と責任分界点を契約に明記します。そのうえで、契約では次の3点を具体化します。

  • 担当範囲:事業者ごとの責任範囲の確定
  • 連絡手順:一次受付窓口とエスカレーションの手順
  • 復旧目標:障害時の復旧時間の設定

大阪市のように、運用管理を支援する人材を別途調達し、切り分けを専門家に委ねる体制も有効です。責任分界が明確であれば、迅速な復旧につなげられます。

マルチベンダー時代のリスク管理は、契約段階で責任分界を設計することから始まります。

ポイント

権限と設定の点検、監査ログ、紙による代替運用を含むBCP、責任分界の明確化を、システムの稼働前に決めておく必要があります。

まとめ

まとめると、公共システムの失敗は、運用経費の膨張、移行による業務麻痺やデータ事故、連携不能と定着失敗、情報漏えいとBCP不備に分けられます。

データでも、中核市59市の運用経費が平均2.3倍、外来待ち時間が3倍、ICT認知率が6%と示されています。

共通する対策は、初期費用ではなく5年間の総コストで判断することと、一斉ではなく段階的に移行することです。加えて、納品後の定着支援や、セキュリティとBCPも設計に含めます。

現場業務を起点にし、運用まで見据えることで対策を実行できます。riplaは、フルスクラッチ受託と国内開発を組み合わせ、要件整理から定着・運用まで一貫して支援しています。

全体像を確認するには、あらためて完全ガイドをご活用ください。

会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。