業務システム刷新で見直すべき機能・対象範囲の一覧について

業務システムの刷新では、残す・削る・作り直す機能を分けるため、まず対象範囲を洗い出します。対象はアプリだけでなく、データ、インフラ、業務プロセス、外部連携まで広がります。ここでは、層別、業務システム別、横断の観点で一覧にします。刷新全体の進め方は業務システム刷新の完全ガイドをご覧ください。

刷新で見直す「対象範囲」の5つの層

業務システム刷新の対象範囲を、アプリ層、データ層、インフラ層、業務プロセス層、外部連携の5層に分けた図。
画面の見直しから、業務の流れや外部との接続まで確認範囲が広がります。

業務システムの刷新で「機能を見直す」というと、画面や帳票といった目に見える部分だけでなく、その裏側も含みます。対象範囲を漏れなく洗い出すには、システムを層(レイヤー)に分けて捉えるのが有効です。ここでは、アプリ層、データ層、インフラ層、業務プロセス層、外部連携の5つに分けて、層ごとに見直すべきことを一覧で整理します。

層別に整理しておけば、「画面は新しくしたが裏のデータ構造は古いまま」といった中途半端な刷新を防げます。

各層の見直し範囲は、チェックリストにして関係者で共有し、抜け漏れを早い段階で洗い出すことをおすすめします。

アプリ層・データ層・インフラ層で見直す対象

アプリ層は、ユーザーが直接触れる画面・帳票・業務ロジックの集まりです。

  • アプリ層の機能:使われていない画面や、現場が表計算ソフトで代わりに行っている処理を洗い出し、刷新後に残す機能と廃止する機能に分ける
  • 削減候補:長年の改修で肥大化したメニューや、特定の担当者しか使わない独自アドオン
  • データ層のマスタ:商品・取引先・品目などの持ち方と、過去データの移行範囲
  • 統合の検討対象:重複したコード体系や、システムごとにバラバラなマスタ
  • インフラ:オンプレミスからクラウドへの移行可否、サーバーとミドルウェアの保守期限、可用性とバックアップの要件

これら3層は依存関係が複雑になりがちなため、富士通の「ソフトウェア地図」などを使うと、アプリ資産の複雑さや依存関係が見て取れます。機能とデータ・処理のつながりも把握しやすくなります(出典:富士通)。

業務プロセス層と外部連携で見直す対象

業務プロセス層では、システムの裏側にある業務の流れそのものを見直します。受注から出荷、請求までの一連の流れに無駄な承認や二重入力がないか、紙やExcelで運用している工程がないかを確認し、刷新を機に標準化できる部分を一覧にします。

業務のやり方を変えずにシステムだけを入れ替えても、効果は半減します。また、外部連携は見落とされやすいものの、刷新の難所になりやすい領域です。

  • すべて洗い出す対象:取引先とのEDI、金融機関とのファイル連携、会計システムや経費精算サービスとのAPI連携など
  • 連携の仕様:連携先の仕様変更予定や、レガシーな連携方式の刷新可否も確認しておく

5層の見直し対象は、一度にすべてを作り替えるのではなく、機能単位で切り出して段階的に移行するストラングラーパターンを前提に考えると現実的です。

ポイント

対象範囲で迷ったら、データ、インフラ、業務プロセス、外部連携の各層にも見直す項目がないかを確かめます。画面だけを新しくして裏のデータが古いままになる事態を防ぐ目安です。

業務システム別に見直す機能の一覧

販売管理、在庫・倉庫管理、生産管理、購買・調達を、見直す機能要素の領域として並べた図。
システムごとに確認する機能を分けると、周辺への影響も検討しやすくなります。

刷新の対象となる代表的な業務システムには、販売管理、在庫・倉庫管理、生産管理があります。ほかの業務システムも、下の節で機能ごとに一覧にします。これらは互いにデータを連携しているため、一つを刷新すると周辺システムへ波及します。

ここでは、システムごとに「刷新時に特に見直すべき機能要素」を一覧にします。自社の業務に当てはめながら、どの機能を残し、どの機能を見直すかをチェックする際の出発点としてご活用ください。なお、会計や勤怠・給与は税制改正や労働法制の改正に追従する必要があり、ほかのシステムとは異なる固有事情を抱えています。

販売管理・在庫・生産管理で見直す機能要素

販売管理・受発注システムでは、伝票の流れや単価の決め方を中心に、4つの機能要素を確認します。

  • 伝票フロー:見積・受注・出荷・請求の流れと二重入力の有無
  • マスタ:取引先・商品の情報の整理と統合
  • 単価・与信:掛け率の決め方、信用の管理、締め処理
  • 外部連携:受発注EDIやECサイト・モールとの接続方式

在庫・倉庫管理では、入出庫の記録やロケーション、実際の在庫数を数える運用を確認します。

  • 現品管理:ハンディターミナルやバーコードの利用
  • 在庫連携:引当ロジックと、販売・生産管理との接続
  • 拠点管理:複数の倉庫にまたがる在庫をどこまで把握するか
  • ロット管理:賞味期限やトレーサビリティの要否

生産管理では、所要量計算(MRP)、工程進捗、原価計算を確認します。

  • マスタ:部品表(BOM)と品目情報の正確さ
  • 進捗:計画と実績の差異、工程の見える化
  • システム連携:購買・在庫システムとの接続範囲
  • 現場運用:Excelで回している作業をどこまでシステム化するか

購買・調達、会計・経費、人事・勤怠・給与で見直す機能要素

購買・調達では、申請から発注、検収までの流れを見直します。

  • 申請・承認:購買依頼の出し方と、ワークフローの回し方の簡素化
  • マスタ:仕入先と品目の情報の統合
  • 発注・支払:発注残、検収、支払の突合
  • 外部連携:電子契約や請求書受領サービスとの接続

会計・経費システムでは、制度改正への対応が見直しの中心になります。

  • インボイス:適格請求書制度への対応
  • 証憑保存:電子帳簿保存法に沿った電子保存
  • 経費精算:ワークフローとスマートフォン入力
  • 仕訳連携:販売・購買からのデータ受け渡しと月次決算の早期化

人事・勤怠・給与では、法改正への追従と、従業員の利便性を確認します。

  • 労働時間:客観的な記録と上限規制への対応
  • 税・保険料:社会保険料率や税率の変更への追従
  • 申請:年末調整や各種申請のペーパーレス化
  • 給与・会計連携:勤怠から給与計算、会計までを一貫して扱う

ポイント

見直す機能を決めるときは、システム同士のデータ連携で周辺に波及する範囲も合わせて見ます。会計・経費と人事・勤怠・給与は制度改正への追従が要るため、個別に検討する目安です。

業務システム横断で共通して見直す機能

マスタ統合、帳票・伝票の電子化、権限・内部統制、外部連携を横断的な見直し項目として示す図。
共通機能をプロジェクト初期にそろえることで、システム間の整合を取りやすくなります。

業務システムごとの見直しに加えて、複数のシステムにまたがって共通で見直すべき機能要素があります。特に、これらは個別最適に陥りやすく、全社で刷新の効果を出すうえで欠かせない観点です。

ここでは、マスタ統合や帳票・ワークフローを中心に、複数のシステムにまたがる観点を一覧にします。

これらの横断機能は、業務システム単体の刷新だけでなく、システム全体の整合性に関わります。そのため、刷新のプロジェクト初期にこの横断観点を共有しておくと、後工程での手戻りを減らせます。

マスタ統合・帳票電子化・ワークフロー・内部統制

マスタ統合は、横断見直しの中心です。商品・取引先・品目などのマスタがシステムごとに別々に存在すると、集計や連携のたびに名寄せが必要になります。そこで、コード体系を統一し、どこが正本となるマスタかを定める「マスタ管理の方針」を見直します。

帳票・伝票の電子化も、共通の見直し対象です。紙で回している伝票や、押印が前提の承認をワークフローに置き換えると、リモートワークにも対応しやすくなります。

  • 承認ルート:分岐や代理承認のルールを、この機会に整理しておくとよいでしょう。
  • 権限・内部統制:誰がどのデータにアクセスし、どの操作ができるかを見直します。

職務分掌に沿った権限設計や、操作ログの取得、承認と実行の分離といった統制機能は、刷新時にあらためて要件として明文化しておくべき領域です。

外部連携・レポーティング・改正対応とアドオン削減

外部連携では、API・EDI・ファイル連携などのインターフェースを横断して洗い出します。

連携方式が古い場合は、刷新を機に標準的なAPI連携へ寄せられないかを検討します。連携の仕様や頻度を一覧にしておくと、移行時の影響範囲を把握できます。

レポーティングも見直しの対象です。各システムに散らばったデータを集約し、経営や現場が必要とする指標をダッシュボードで見られるかどうかは、刷新の価値を左右します。

  • 改正対応:インボイス制度や電子帳簿保存法、社会保険料率の変更などに追従しやすい仕組みかを確認します。
  • 属人化した独自アドオン:過去の要望で積み上げたカスタマイズが、保守コストや刷新の障害になっているケースは少なくありません。

削減候補は、本当に必要な機能か、標準機能で代替できないかを一つずつ精査して一覧にすると、刷新の負担を抑えられます。

ポイント

業務システムごとに見直すと個別最適に陥りやすいため、マスタ、帳票・ワークフロー、権限の方針は刷新の初期に関係者で話し合う目安になります。

費用・期間の目安と見直し範囲の決め方

見直す機能や対象範囲を一覧にしたら、最後に「どこまで刷新するか」を、費用・期間の目安と照らして決めます。

見直し範囲が広いほど、費用も期間も増えます。そのため、全社で同時に作り替えるのか、優先度の高いシステムから段階的に進めるのかを判断します。ここでは、代表的な刷新パターンの目安を整理します。

範囲を絞り込む際は、これまでの章で一覧にした機能要素のうち、改正対応や保守期限といった「待ったなし」の項目を優先します。残す機能・削る機能・作り直す機能の仕分けが、そのまま費用と期間の見積りにつながります。

刷新パターン別の費用・期間の目安

刷新の費用と期間は、見直す範囲によって変わります。代表的な2つのパターンを比較します。

  • クラウド移行型:既存機能を活かして基盤を刷新。数百万円〜1,000万円台、3〜6ヶ月が目安
  • 再構築型:業務プロセスから作り直す。2,000万円〜数千万円、12〜18ヶ月以上が目安

単一業務システムの小〜中規模刷新は、3,000万円〜1.5億円程度が目安です。

SI費(設計・開発・テストなど)は、全体の60〜75%を占める傾向があります。

見直し範囲を広げるほどSI費が増えるため、範囲の絞り込みが費用を左右します。

費用を抑えつつリスクを下げるには、ストラングラーパターンで機能単位に切り出し、優先度の高い範囲から段階的に移行する進め方が有効です。すべてを一度に置き換えず、見直し範囲を分けて着実に進めることで、稼働後のトラブルも局所化できます。

見直し範囲を決める判断の進め方

見直し範囲を決めるときは、まず現状の機能と対象範囲を洗い出し、見える形にすることから始めます。富士通の「ソフトウェア地図」のようなツールを使うと、機能やデータの依存関係が見て取れ、どこから手を付けるかの判断材料が揃います(出典:富士通)。

そのうえで、ここまでの一覧で挙げた観点を使い、「残す・削る・作り直す」を仕分けます。

  • 優先度:改正対応や保守期限が迫る機能は、優先度を上げる
  • 削減候補:利用頻度が低い独自アドオンは、削減候補とする
  • 実装方針:仕分けた結果をどう実装するかを整理する段階で、7Rのような手法分類を使うと、見直し範囲と実装方針が結びつきやすくなる

判断に迷う場合は、業務部門と情報システム部門が同じ一覧を見ながら議論することが大切です。現場の運用実態を知る業務部門と、技術的な制約を知る情報システム部門の双方の視点をそろえることで、過不足のない見直し範囲を定められます。

ポイント

迷ったときは、改正対応や保守期限といった「待ったなし」の項目から範囲を絞ります。範囲が広いほど費用と期間が増えるため、段階的な移行も候補にします。

まとめ

業務システム刷新の対象を、5つの層と、販売管理から人事・勤怠までのシステム別に整理しました。また、横断項目として、マスタ、帳票、権限、連携、法改正、アドオンも確認しました。

機能を残す・削る・作り直すに仕分け、制度対応や保守期限の近い範囲から段階的に進めます。業務部門と情報システム部門で一覧を共有し、費用と期間を踏まえて対象を決めると、計画を具体化できます。

開発を相談する前に、関連するホワイトペーパーもご覧ください。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。