電子契約システム開発/導入の失敗/課題/注意点/リスクについて

電子契約システムの導入では、同意が得られない、費用が膨らむ、業務が分断されて紙が残る、現場で形骸化するといった失敗が起こりがちです。

契約類型と相手方の状況を把握し、費用と連携を設計して段階的に定着させれば防げます。全体像は電子契約システムの完全ガイドもご覧ください。

▼全体ガイドの記事
・電子契約システムの完全ガイド

相手方の同意が得られず電子化が進まない失敗

電子契約でもっとも起こりやすい失敗は、相手方の同意が得られず、電子化が進まないことです。

電子契約は相手方も同意して初めて成立します。同意が得られないまま紙の運用が続くと、削減効果は限られ、投資の回収も遠のきます。

取引先の理解不足と電子化不可契約の見落とし

同意が得られない背景には、取引先が電子契約に不慣れなことや、社内ルールで紙の契約しか認められない事情があります。

  • 取引慣行:古くからの慣行や、紙の押印を求める決裁が移行の妨げになります。
  • 電子化できない契約:定期借地契約や任意後見契約は、書面での作成が必要です。
  • 導入前の棚卸し:電子化可能率と相手方の状況を確かめる進め方です。

すべての契約を電子化する前提で進めると、現実との差が生じやすくなります。特に見落としがちなのは、法律で書面の作成が義務づけられた契約です。

導入前に洗い出さないと、電子化できない契約が導入後に見つかることがあります。まず、自社の契約のうち何割が電子化できるかを把握し、同意を得やすい取引先や契約類型から進めると、現実的な電子化率を見積もりやすくなります。

相手方への説明と署名方式の負担への配慮

相手方には、電子契約の法的な有効性と、署名の手間に対する懸念があります。そこで、説明資料を用意し、初回はサポートしながら進めると、相手の不安を減らせます。

  • 法的効力:電子署名法に基づき、紙と同等の効力があることを説明します。
  • 署名の手軽さ:立会人型なら、メール認証だけで署名できます。
  • 相手方の費用:当事者型では、電子証明書の発行費が1万円前後かかります。

署名方式の選択は、相手方の負担に直結します。一般的な取引では立会人型を基本にすると、手間を抑えられます。相手の不安を減らす設計が、同意を得るうえで欠かせません。

電子化できない契約を見込まなかった失敗

相手方の同意とは別に、法律上電子化できない契約を見込まずに導入する失敗もあります。すべての契約を前提にすると、想定していたROIに届かないことがあります。

  • 契約類型の棚卸し:電子化できない契約の数を、導入前に把握しておきます。
  • 現実的なROI:電子化可能な契約の割合をもとに、削減効果を算出します。

定期借地契約や任意後見契約のように、法律で書面作成が義務づけられた契約は電子化できません。電子化率が見込みを下回ると、費用対効果が計画からずれます。

すべての契約を電子化できるとは限らないため、電子化が可能な領域から効果を出す考え方が現実的です。導入前の契約棚卸しは、失敗を避けるための準備として欠かせません。

ポイント

電子化は相手方の同意が前提になるため、電子化できる契約の割合と相手方の状況を先に確かめ、対象を段階的に広げられるかを見極めます。

想定外の従量課金で費用が膨らむ失敗

送信料、AIオプション費、システム連携費用を金額とともに示す図
費目ごとに発生する単位や金額の幅が異なります。

送信料やオプション費を含めずに比べて選ぶと、運用が始まってから「思ったより高い」と感じることがあります。費用の構造を理解したうえで、プランを選ぶ必要があります。

送信料の従量課金を見積もらなかった失敗

送信料は1件あたり50〜300円で、平均は税込110〜220円程度です。契約件数が多い企業ほど、従量課金が総額を押し上げます。

  • 少量利用:クラウドサインは、月5件で12,100円です。
  • 大量利用:同じプランでも、月200件だと55,000円まで膨らみます。
  • 固定費型:送信が無料のマネーフォワードクラウド契約は、約7,128円/月です。

クラウドサインの試算は、基本料金11,000円に送信料220円を加えたものです。月に数件の想定で契約しても、全社で大量に送信すると、月額が予想の数倍になることがあります。

導入前に年間の契約件数を見積もり、複数プランの総額を試算しておきます。送信料の有無で損益分岐点が変わるため、月に何件を超えると固定費型のほうが得かを計算します。

一方で、送信料が件数に左右されない固定費型は、件数の多い企業に有利です。料金プランは、自社の件数を当てはめて判断します。

AIオプションや連携費用の見落とし

基本料金だけを見て契約すると、後からオプション費用や連携のカスタマイズ費用が積み上がることがあります。

  • AI機能:AI-OCRやAI契約レビューは、月額数万円の追加になることがあります。
  • システム連携:CRMや会計連携のカスタマイズは、数十万〜数百万円かかる場合があります。
  • 費用の確認:見積もりを、初期費用や月額基本料、送信料などに分けて確かめます。

クラウド型は初期費用が0円のものが多い一方で、連携をカスタマイズすると追加費用がかかることがあります。そのため、必要な機能が各費目に含まれているかを確認します。

AI機能は費用対効果を見極めたうえで、まず基本機能で運用し、段階的に追加する方法が堅実です。また、IT導入補助金を活用すると、実質負担を抑えられる場合もあります。

費用の仕組み全体を把握しておくと、想定外のコスト増を防げます。

補助金の活用機会を逃した失敗

費用面では、IT導入補助金などの活用機会を逃す失敗もあります。制度を知らず、申請時期も把握していないと、本来得られるはずの補助を受けられないことがあります。

  • 対象枠:インボイス枠やセキュリティ対策推進枠では、導入費用の一部が補助されます。
  • 申請条件:補助率、対象経費、ハードウェア条件、締め切りを事前に確かめます。
  • 導入計画:システム選定と並行して、申請日程を計画に組み込みます。

電子契約への関心は高まっており、ITトレンドの資料請求数は前年同期比236%増という調査があります。申請が集中する時期は審査に時間がかかる可能性もあるため、日程には余裕を持たせます。

準備に時間の余裕があれば、実質負担を抑えながら導入できます。補助金を導入計画に組み込んでおくと、無駄な費用負担を避けやすくなります。

ポイント

送信料やオプション費、連携費を含めた総額を年間の契約件数で試算し、補助金の活用も含めて比べると、想定外の費用増を抑えられます。

業務が分断され紙データが残る失敗

電子契約の導入後に挙がった3つの業務課題と調査割合を横棒で比べた図
3つの課題はいずれも3割を超えています。

ContractSの2023年10月調査では、約8割が導入後に課題を感じています。内訳は、一元管理できない39.5%、システム間の分断38%、紙データの未処理33.6%です。

電子契約を単体で導入し、前後の業務連携や過去データの移行を後回しにすると、こうした課題につながります。

システム間の分断で二重入力が残る失敗

署名システムが契約管理や会計、経費精算とつながっていないと、同じ情報を何度も入力する二重入力が残ります。

  • 連携設計:契約データの前後で使う業務システムとの連携を、導入時に設計しておきます。
  • 業務フロー:署名だけでなく、契約・文書・稟議・帳票を通した流れで捉えます。

「システム間で業務が分割され非効率」は、38%が課題に挙げています。転記作業が残ると、電子化による効率化の効果は半減します。

たとえば、KEC関西電子工業振興センターは、会計連携によって申請処理を約4割削減しました。連携まで設計すると、二重入力の削減につながります。

過去の紙契約が未処理のまま残る失敗

新規契約を電子化しても、過去の膨大な紙契約が別々に管理されていると、一元管理はできません。その結果、電子と紙が混在し、探す手間や更新期限の見逃しが残ります。

  • 優先して移行:更新が近い契約、高額な基本契約、係争リスクのある契約を先に扱います。
  • 後回しにする契約:保管期限が迫っていない古い契約は、後から移します。
  • 検索用情報:契約日、当事者、金額、更新期限をメタデータとして持たせます。

紙データが未処理のまま課題に挙がる背景には、移行計画を立てずに導入した事情があります。全件を一度にスキャンするのは現実的ではないため、優先順位を決めて登録します。そうすれば、全文検索や条件検索で呼び出せます。

AI-OCRを使う場合も、重要な項目は人の目で検証する前提で進めます。

AI-OCRの誤認識を検証せず登録した失敗

紙データの移行を急ぐあまり、AI-OCRの読み取り結果を検証せずに登録してしまう失敗もあります。

AI-OCRは契約日、当事者、金額を自動で読み取れますが、金額の桁や当事者名を誤ることがあります。

  • 重要項目の確認:金額や当事者を、人の目で検証します。
  • 運用への組み込み:AI-OCRを一次抽出に使い、確認の工程を後に設けます。

検証を省くと、誤ったメタデータが蓄積して、検索や管理に支障が出ます。AIは、人の作業を補助するものとして位置づけます。

AIの効率と人の正確性を組み合わせると、移行の速さとデータ品質を両立できます。検証の工程が、信頼できる契約データベースを支えます。

ポイント

電子契約は署名だけでなく前後の業務と連携させ、過去の紙契約の移行計画もあわせて立てると、二重入力や紙の残存を減らせます。

現場で使われず形骸化する失敗

権限管理、シャドーIT対策、段階的な展開、運用ルールを並べたチェックリスト図
統制と使いやすさを支える要素が並びます。

もっとも根が深い失敗は、導入したシステムが現場で使われず、形骸化してしまうことです。

機能が揃っていても、社員が紙の運用に戻り、一部の契約しか電子化されないことがあります。その原因は、社内への定着(チェンジマネジメント)を軽く見たことにあります。

権限放置とシャドーITによる統制崩れ

形骸化の一つの形として、権限設定の放置とシャドーITがあります。権限の設計が不十分だと、機密情報が制限なく閲覧され、統制が崩れます。

  • 権限管理:部署や役職に応じて設計し、定期的に棚卸しします。
  • シャドーIT対策:使いやすさとサポートを整え、公式システムへの一本化を図ります。

退職者や異動者の権限を放置すると、不要なアクセス権が残ります。さらに、使いにくさを理由に現場が別ツールを使い始めると、契約が分散して管理されます。権限とツールの統制は、運用ルールに明文化して継続的に管理します。

スモールスタートと運用ルールによる形骸化の防止

最初から全社・全契約を電子化すると、現場の混乱や抵抗を招きます。そこで、一部の契約類型や部署で試し、定着につなげる方法が有効です。

  • 段階的な展開:小さな成功を積み重ねてから対象を広げます。
  • 運用ルール:権限、承認ルート、社内マニュアル、窓口を整えます。
  • 現場への伴走:使われ続けることを、導入後の目標に置きます。

導入率が78.3%(2025年調査)まで高まった今も形骸化が起きるのは、段階的な定着を飛ばすケースが多いためです。現場が迷わず使える環境が欠かせません。

riplaは、フルスクラッチ受託と業務伴走の立場から、契約・文書・稟議・帳票を貫く業務フローの再設計と、定着までの伴走を重視しています。

失敗を避けるには、現場の業務に寄り添うことが近道です。技術だけでなく、課題データが示す運用上の問題にも向き合います。

乗り換え時のデータ移行を誤った失敗

すでに電子契約を使っている企業でも、別のシステムへの乗り換えで失敗することがあります。

旧システムで締結済みの契約には、法定保存期間中にアクセスできる必要があります。解約の時期を誤ると、契約書にアクセスできない期間が生まれます。

  • 事前確認:エクスポートの可否とデータ形式を調べておきます。
  • 移行順序:PDFとメタデータを新システムに取り込んでから、旧システムを解約します。
  • 並行稼働:新規の締結を先に切り替え、過去分は計画的に移します。

契約日、当事者、金額などのメタデータを保持しておかないと、新システムで検索や管理ができません。データの保持にも注意が必要です。

乗り換えは新規導入より難しく、データの保持や解約の時期を誤ると、深刻なトラブルにつながります。そのため、移行計画を立ててから実行します。

ポイント

現場で使われ続けるには、権限とシャドーITの統制、段階的な展開や運用ルールによる定着を、導入前から計画に組み込むことが大切です。

まとめ

電子契約の失敗は、相手方の同意が得られないこと、費用が膨らむこと、業務が分断されて紙データが残ること、現場で形骸化することにまとめられます。導入後に約8割が課題を感じていることからも、ツールを入れるだけでは成功しないと分かります。

相手方への配慮と費用の把握、連携の設計を進めると、これらの失敗を防げます。移行の計画と段階的な定着も欠かせません。導入前には、電子化できる割合と契約件数を洗い出すとともに、既存システムや紙の契約の状況も確かめます。

導入後も運用ルールを整え、現場に定着するまで支援を続けます。riplaは、リスクの洗い出しから、使われ続ける仕組みづくりまでを一貫して担います。

全体像の確認には、あらためて完全ガイドをご活用ください。

会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。