入退室管理システム開発の保守・運用費用・ランニングコストについて

入退室管理システムは、ICカードや生体認証などで従業員・関係者の出入りを制御し、入退室ログを記録する物理セキュリティの仕組みとして、導入後も長期にわたって使い続けられるシステムです。しかし、システムを安定して運用し続けるには、リリース後のランニングコストや保守費用を正しく見積もっておくことが欠かせません。入退室管理システムは、権限管理やログ蓄積を担うソフトウェアだけでなく、扉に取り付けた電気錠やカードリーダー、フラッパーゲートといった物理的なハードウェアを伴う点が大きな特徴で、これらの機器は経年劣化するため定期的な保守が必要になります。「導入後に毎月・毎年どれくらいの費用がかかるのか」「保守契約には何が含まれるのか」といった疑問を持つ担当者は少なくありません。

本記事では、入退室管理システム開発の保守・運用費用・ランニングコストについて、費用が「ソフトウェアとハードウェアの二層」になる理由から、保守契約に含まれる内訳、SaaS型と自社開発のコスト構造の違い、見落としがちなICカード発行やログ保管のコスト、そして費用を最適化するポイントまでを解説します。なお入退室管理システムは、認証手段の一つとして顔認証を利用することはあっても、顔認証システムのように認証エンジンそのものの精度維持が主たる保守対象になるわけではなく、また受付システムのように外部からの来訪者対応が主眼でもありません。あくまで従業員・関係者が日常的に使う「ドア解錠制御」「エリア別のアクセス権限管理」「入退室ログの記録・監査」を、電気錠などのハードウェアも含めていかに止めずに維持するかが主題となる点が、これらのシステムとの違いです。これから導入を検討している方はもちろん、すでに運用中でコスト構造を見直したい方にとっても、判断軸となる情報をお届けします。

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入退室管理システムの保守・運用費用の全体像

入退室管理システムの保守・運用費用の全体像

入退室管理システムのランニングコストを考えるうえでまず理解しておきたいのが、費用が「ソフトウェア」と「ハードウェア」の二層構造になっているという点です。一般的なWebシステムであれば、保守費用の中心はサーバ代とソフトウェアの改修費ですが、入退室管理システムでは、これに加えて扉に取り付けた電気錠やカードリーダー、ゲートといった物理機器の保守・交換費が継続的に発生します。これらの機器は駆動部を持ち、日々の開閉で摩耗するため、放置すれば数年で不具合を起こし、最悪の場合「扉が開かない」「認証しても解錠しない」という業務停止に直結します。そのため入退室管理システムの保守は、ソフトウェアの安定稼働を維持する部分と、ハードウェアを点検・交換して物理的に動く状態を保つ部分の両方を含むのが基本です。年間の保守費用の相場としては、ソフトウェアの保守で初期開発費の約15〜20%を見込むのが一般的で、これに機器の保守費や監視費が加わります。まずはこの二層構造を前提に、自社のシステムがどこにどれだけのコストをかけているかを把握することが、費用を適正化する第一歩になります。

保守が「ソフトとハードの二層」になる理由

入退室管理システムの保守がソフトとハードの二層になるのは、システムの動作が物理世界と密接につながっているためです。ソフトウェア側では、権限管理や入退室ログの記録・検索、勤怠システムとの連携といった機能を安定して動かし続ける必要があり、不具合の修正やセキュリティアップデート、組織変更に伴う権限の見直しなどが継続的に発生します。一方でハードウェア側では、電気錠が確実に施解錠するか、カードリーダーがカードを正しく読み取るか、ゲートが正常に開閉するかといった物理的な動作を維持する必要があります。とりわけ電気錠やゲートは機械的な部品を含むため、開閉回数が増えるほど摩耗や故障のリスクが高まり、定期点検と部品交換が欠かせません。ソフトウェアだけを保守していても、扉の電気錠が壊れれば入退室管理は機能せず、逆にハードウェアだけを点検してもソフトの脆弱性を放置すれば情報セキュリティ上のリスクになります。この二層をバランスよく維持することが、入退室管理システムを長く安全に運用する前提になります。

年間保守費用の相場観

入退室管理システムを自社開発した場合、ソフトウェアの年間保守費用は、一般的に初期開発費の約15〜20%が相場とされています。たとえば初期開発費が1,000万円であれば、年間150万〜200万円程度がソフトウェア保守の目安です。ただし、入退室管理システムはセキュリティに直結し、「絶対に止められない」性質を持つため、24時間監視や障害時の駆けつけ対応を含めると、この比率は一般的なシステムより高めに設定されることがあります。これに加えて、電気錠やカードリーダー、ゲートといったハードウェアの定期点検・部品交換費が別途発生し、機器の台数や種類が多いほど積み上がります。SaaS型を利用する場合は、これらの保守がサービス料金に組み込まれているのが一般的で、後述するように扉ごとの月額課金という形で費用が発生します。いずれの形態でも、初期の導入費用だけを見て判断するのではなく、数年単位でかかる保守・運用費まで含めたトータルコストで比較することが重要です。まずは自社のシステムがソフトとハードそれぞれにどの程度の保守費をかけるべきかを、規模と重要度に応じて見積もっておきましょう。

保守契約に含まれる費用の内訳

入退室管理システムの保守契約に含まれる費用の内訳

入退室管理システムの保守契約には、ソフトウェアの維持からハードウェアの点検、監視体制まで、さまざまな費用が含まれます。ここでは、代表的な保守費用の内訳を項目ごとに見ていきます。

ソフトウェア保守(障害対応・権限変更・ログ監査対応)

ソフトウェア保守は、入退室管理システムの頭脳部分を安定して動かし続けるための費用です。具体的には、システムに不具合が生じた際の障害対応、OSやミドルウェアの脆弱性に対応するセキュリティアップデート、認証ロジックや管理画面の軽微な改修などが含まれます。入退室管理システムで特に運用負荷が高いのが、人事異動や組織変更、入退社に伴うアクセス権限の変更です。誰にどのエリアの権限を与えるかは日々変化するため、権限マスタのメンテナンスをどこまで保守範囲に含めるかは契約時に確認しておくべきポイントです。また、入退室ログは内部統制や情報セキュリティ認証の観点から重要な証跡となるため、監査に対応できる形でログを検索・出力できるよう機能を維持することも保守の一部になります。ISMS(ISO27001)やプライバシーマークの監査に対応するには、アクセス権限の制限やログの完全性を保つ仕組みが求められ、こうした内部統制要件を満たし続けるためのソフトウェア保守は、セキュリティシステムならではのコスト項目といえます。

電気錠・カードリーダー・ゲートのハードウェア保守

入退室管理システムならではの費用が、扉に取り付けた物理機器のハードウェア保守です。電気錠やカードリーダー、フラッパーゲートは、日々の開閉や読み取りで駆動部が摩耗し、経年劣化していきます。これらを放置すると、ある日突然「解錠しない」「カードを読み取らない」といった不具合が発生し、従業員が入館できなくなる事態を招きかねません。そのため、定期的な点検を行い、消耗した部品を計画的に交換していく予防保守が重要になります。ハードウェア保守費は、対象となる機器の台数と種類に比例して増えるため、多数の扉を管理する大規模なシステムほど負担が大きくなります。また、機器には製造メーカーによる保守サポート期間があり、これを過ぎると部品供給が終了して修理できなくなることもあるため、後継機種への計画的なリプレースも中長期的なコストとして見込んでおく必要があります。ソフトウェアと違って物理的な訪問・作業を伴うため、拠点が全国に分散している場合は、各地への出張費や作業員の稼働費も保守費用に反映されます。

24時間監視と駆けつけ保守・SLA

入退室管理システムは、セキュリティと業務の両面で「止まると困る」システムの代表格です。たとえば「管理サーバが落ちてデータセンターの扉が開かなくなる」といった事態は許されないため、システムの死活を常時監視し、異常を検知したら即座に対応できる体制が求められます。多くの場合、24時間365日の死活監視と、障害時に技術者が現地へ向かう駆けつけ保守、そして稼働率99.9%以上といったSLA(サービス品質保証)を組み合わせた契約が結ばれます。こうした手厚い監視・対応体制は、システムの信頼性を高める一方で、保守費用を大きく引き上げる要因になります。どのレベルの監視とSLAが必要かは、システムの用途によって変わります。データセンターや研究施設のように停止が許されない環境では高いレベルの保守が不可欠ですが、一般的なオフィスの一部の扉であれば、平日日中の対応で十分なケースもあります。過剰な保守レベルはコストの無駄につながるため、扉ごと・エリアごとの重要度に応じて、必要な監視・対応レベルを見極めて契約することが、コスト最適化のポイントになります。

SaaS型と自社開発のランニングコスト比較

入退室管理システムのSaaS型と自社開発のランニングコスト比較

入退室管理システムのランニングコストは、SaaS型(クラウドサービス)を利用するか、自社で開発・保有するかによって構造が大きく異なります。それぞれの費用の考え方を整理します。

1扉あたり月額課金というSaaSの料金体系

クラウド型の入退室管理サービスを利用する場合、料金体系は「1扉あたり月額いくら」という形が一般的です。ソフトウェアの利用料に加え、扉に取り付ける専用のスマートロックやリーダーをレンタルで提供するモデルが多く、1扉あたり月額1万円から数万円程度が目安になります。この形態のメリットは、初期投資を抑えて短期間で導入できること、そしてソフトウェアのアップデートやセキュリティ対応、ハードウェアの保守までをサービス料金の中で提供事業者が行ってくれることです。自社で保守体制を持つ必要がないため、情報システム部門の負担を軽減できます。一方で注意したいのは、扉の数や利用人数が増えるほど月額費用が積み上がっていく点です。数扉であれば割安に感じても、数十扉・数百扉と規模が大きくなると、月額の累計が自社開発の保守費を上回るケースも出てきます。そのため、SaaS型を選ぶ際は、現在の扉数だけでなく、将来的にどこまで扉やエリアを増やす予定かを踏まえ、規模拡大後の月額を試算したうえで判断することが重要です。

自社開発・オンプレミスのランニングコスト構造

自社開発やオンプレミスで入退室管理システムを保有する場合、ランニングコストは月額課金ではなく、複数の費目の積み上げになります。まず、システムを稼働させるサーバやネットワーク機器の維持費、クラウド上に構築する場合はその利用料が発生します。次に、前述したソフトウェア保守(初期開発費の15〜20%程度)とハードウェアの点検・交換費、そして24時間監視やSLAに応じた監視・対応費が加わります。この形態のメリットは、扉やエリアをどれだけ増やしてもSaaSのように利用人数比例で青天井に費用が増えるわけではなく、自社のセキュリティポリシーに合わせて自由に設計・運用できることです。一方で、保守を担うベンダーとの契約や、社内の情報システム部門による運用体制の維持が必要になり、固定的な保守費が継続してかかります。SaaS型と自社開発のどちらが有利かは、扉の数や求めるセキュリティレベル、社内の運用リソースによって変わります。小規模で標準的な機能で足りるならSaaS型、大規模で独自の要件が多いなら自社開発が有利になりやすい、という大まかな傾向を踏まえ、数年単位のトータルコストで比較検討することをお勧めします。

見落としがちな運用コスト

入退室管理システムの見落としがちな運用コスト

入退室管理システムのコストを見積もる際、保守契約の費用だけに目が行きがちですが、実際には日々の運用の中で発生する「見えにくいコスト」も無視できません。ここでは、見落とされがちな運用コストを取り上げます。

ICカードの発行・回収と権限運用の人的コスト

ICカードを認証手段に使う入退室管理システムでは、カードそのものの発行・運用コストが継続的に発生します。ICカード(FeliCaやMifareなどの規格)は1枚あたり数百円から数千円程度で、従業員数が多い企業では発行枚数がまとまった費用になります。さらに見落としがちなのが、カードの運用に伴う人的コストです。入社時には新しいカードを発行して適切な権限を付与し、退社時にはカードを回収して権限を無効化する必要があり、この作業を担う管理者の工数が毎月発生します。異動や役職変更のたびに権限を変更する作業も加わると、人事の動きが多い企業ほど運用負荷は高くなります。加えて、カードの紛失時には再発行と旧カードの失効処理が必要で、紛失したカードが悪用されないよう速やかに対応する運用フローも欠かせません。スマートフォンを認証手段にすればカードの物理的な発行・回収は不要になりますが、その分アプリの管理やデバイス登録の運用が必要になります。いずれにせよ、認証手段の運用には人手がかかることを前提に、管理者の工数まで含めてコストを見積もっておくことが大切です。

入退室ログの保管・監査対応コスト

入退室ログは、「いつ」「誰が」「どのエリアに」入退室したかを記録した重要なデータで、情報漏えいが起きた際の追跡や、内部統制・情報セキュリティ認証の証跡として活用されます。このログを長期にわたって保管するには、蓄積されていくデータを保存するストレージのコストがかかります。扉やエリアが多く、従業員数が多いほどログの量は膨大になり、保管期間を長く設定するほど必要なストレージも増えます。また、ISMS(ISO27001)やプライバシーマークの監査、あるいは内部監査に対応する際には、監査人が求める形でログを抽出・提示する作業が発生し、これに対応する担当者の工数もコストの一部になります。さらに、生体認証を併用する場合、顔特徴量などの生体情報は個人情報保護法上の慎重な取り扱いが求められる情報にあたり、暗号化やアクセス制限といった安全管理措置を維持する運用が必要です。こうしたログの保管と監査・法令対応にかかるコストは、導入時には見えにくいものの、セキュリティシステムを適正に運用し続けるうえで確実に発生する費用として織り込んでおくべきです。

保守運用コストを最適化するポイント

入退室管理システムの保守運用コストを最適化するポイント

入退室管理システムの保守運用コストを適正に保つには、契約内容の見極めと将来を見据えた比較が欠かせません。ここでは、コストを最適化するための実践的なポイントを整理します。

保守範囲とSLAを契約で明確にする

保守費用のトラブルを防ぐうえで最も重要なのが、保守契約の範囲を最初に明確にしておくことです。入退室管理システムはソフトとハードの両方を含むため、「ソフトウェアの障害対応はどこまで含まれるのか」「権限マスタの変更作業は保守範囲か、それとも都度費用が発生するのか」「電気錠やゲートの部品交換は保守費に含まれるのか、実費請求か」といった線引きを、契約時に一つひとつ確認しておく必要があります。特に、機能追加や大きな仕様変更は通常の保守範囲外となり、都度の追加開発費が発生することが一般的なため、どこからが追加費用になるのかを把握しておくことが重要です。あわせて、SLAで保証される稼働率や、障害発生から復旧までの目標時間、駆けつけ対応の範囲と時間帯も明記してもらいましょう。これらが曖昧なまま契約すると、いざ障害が起きたときに「その対応は契約範囲外です」と言われて追加費用がかさんだり、逆に必要のない高レベルの保守に過剰な費用を払い続けたりすることになります。保守範囲とSLAを文書で明確にすることが、コストと安心の両立につながります。

拠点・扉数の増加を見込んだTCOで比較する

もう1つのポイントは、目先の月額や年額だけでなく、将来の規模拡大を織り込んだTCO(総保有コスト)で比較することです。入退室管理システムは、事業の成長や拠点の増加に伴って、管理する扉やエリア、利用する従業員が増えていくのが一般的です。SaaS型の1扉あたり月額課金は、導入当初の少ない扉数では割安に見えても、扉数が数十・数百へと増えると累計費用が大きく膨らみます。逆に自社開発は初期費と固定的な保守費がかかる分、規模が大きくなるほど1扉あたりのコストは相対的に下がっていきます。そのため、現在の扉数だけで判断するのではなく、3年後・5年後にどこまで拡大する見込みかを踏まえ、その時点での月額・年額を試算して比較することが重要です。あわせて、ICカードの発行・運用の人的コストや、ログ保管・監査対応のコスト、機器のリプレース費用まで含めて総合的に見積もると、SaaS型と自社開発のどちらが自社にとって有利かがより正確に判断できます。導入時の安さに惑わされず、数年スパンのトータルコストで意思決定することが、コスト最適化の本質といえます。

まとめ

入退室管理システム開発の保守・運用費用まとめ

本記事では、入退室管理システム開発の保守・運用費用・ランニングコストについて、費用がソフトウェアとハードウェアの二層構造になる理由から、保守契約に含まれる内訳、SaaS型と自社開発のコスト構造の違い、ICカード発行やログ保管といった見落としがちな運用コスト、そして費用を最適化するポイントまでを解説しました。入退室管理システムのランニングコストは、ソフトウェア保守(初期開発費の15〜20%程度)に加え、電気錠やカードリーダーといったハードウェアの点検・交換費、24時間監視やSLAに応じた費用、さらにICカードの発行・運用やログ保管・監査対応の人的コストまでを含めて考える必要があります。SaaS型の1扉あたり月額課金は手軽ですが規模拡大で費用が膨らみやすく、自社開発は初期費がかかる分だけ大規模では有利になりやすいという特性があります。保守範囲とSLAを契約で明確にすること、そして将来の扉数増加を見込んだトータルコストで比較すること、この2点を押さえることで、セキュリティを維持しながら無駄のない運用が実現できます。入退室管理システムの導入や見直しを検討されている方は、まずは自社の扉数と求めるセキュリティレベルを整理し、複数の開発会社やサービスに相談してみることをお勧めします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。