CLM(契約ライフサイクルマネジメント)の導入プロジェクトで、成否をもっとも大きく左右するのが要件定義です。CLMは契約の作成・審査・承認・締結・保管・更新管理という幅広いフェーズを横断するため、自社のどの業務をどこまでシステム化するのかを正確に整理し、RFP(提案依頼書)や要件定義書に落とし込めるかが、現場に使われるシステムになるか、形骸化するかの分かれ目になります。一次データでも、電子契約導入後の課題として「システム間で業務が分割され非効率」が38%を占めており、要件段階で業務の連続性を設計できなかった企業が多いことがうかがえます。
本記事は、CLM・契約ライフサイクルマネジメントのRFP・要件定義書・提案依頼書を、発注企業の視点から具体的に解説する「要件定義特化」の記事です。既存の承認ルートの可視化と再現要件、電子帳簿保存法・電子署名法への準拠要件、CRM/SFA・会計システムとの連携要件、紙契約のデータ移行とメタデータ保持要件、AI-OCR/AI契約レビューの要否切り分け、そしてRFPに盛り込むべき項目まで、実務に即して掘り下げます。読み終えるころには、ベンダーに渡すRFPの骨子が描けるはずです。なお、全体像をまだ把握していない方は、まずCLM・契約ライフサイクルマネジメントの完全ガイドから読むことをおすすめします。
▼全体ガイドの記事
・CLM・契約ライフサイクルマネジメントの完全ガイド
既存の承認ルートを可視化して要件化する

CLMの要件定義は、「どんな機能が欲しいか」のリストアップから始めてはいけません。出発点は、自社が今どのように契約の起案・審査・承認を回しているかを徹底的に可視化することです。契約業務は、長年の慣行や部門ごとの細かな取り決めの積み重ねでできています。これを無視して理想論で機能を決めると、現場の実態と噛み合わないシステムができあがります。
現状の承認フローと例外処理を洗い出す
最初に行うべきは、現状(AsIs)の承認フローの可視化です。契約の種類ごとに、誰が起案し、どの順で誰が審査・承認し、金額や取引種別でルートがどう変わるのかを洗い出します。法務部門の審査が必須なのはどの契約か、海外取引や高額契約で追加される決裁者は誰か、緊急時に簡略化されるルートはあるか。建前のフロー図ではなく、現場が実際に運用している例外処理まで拾うことが重要です。
契約業務には、「この取引先だけは社長が直接決裁する」「金額が大きい案件は法務部長が口頭で先に確認する」といった、明文化されていない慣行が必ずあります。これらを見落とすと、システム化した途端に現場が回らなくなります。AsIsの可視化は地道な作業ですが、ここで承認の実態を正確につかむことが、後の要件漏れを防ぎ、現場に使われるCLMを生む土台になります。承認ルートの複雑さは、稟議システムやワークフローシステムの要件と共通する領域でもあります。
可視化のヒアリングでは、契約の起案から締結に至るまでの所要時間と、どこで滞留が起きているかも把握します。「決裁者の不在で数日止まる」「法務の確認待ちが長い」といったボトルネックを特定できれば、システム化で解消すべき課題が明確になります。これがToBe(あるべき業務の姿)を描く出発点になります。AsIsを単なる現状記録で終わらせず、課題の所在まで掘り下げることが、システム化で本当に効果の出る部分を見極める要件定義の質を高めます。
条件分岐ルートの再現要件を定義する
可視化した承認フローを、システムで再現するための要件として定義します。ここで核になるのが条件分岐の再現性です。「契約金額が一定額を超えたら役員承認を追加する」「特定の契約類型は法務審査を必須にする」といった分岐ルールを、すべて言語化します。この分岐ルールが曖昧だと、リリース後に「本来通すべき決裁者を飛ばして契約が締結された」という内部統制上の重大な事故につながりかねません。
あわせて、現状の承認ルートをそのまま再現するのか、この機会に再設計するのかも判断します。長年の運用で承認段階が無駄に多くなっているケースは珍しくなく、システム化は承認ルートをスリム化する好機でもあります。ただし、再設計は内部統制規程との整合確認が必要なため、法務・内部監査部門を巻き込んで進めます。「現状再現」か「再設計」かを要件段階で明確にしておくことが、ベンダーの見積りと開発範囲を左右します。
承認ルートの要件化では、権限と職務分掌の定義も欠かせません。誰が起案でき、誰が審査・承認でき、誰が締結操作を行えるのかを役割ごとに明確にします。とくに、起案者と最終承認者が同一人物にならないようにする職務分掌は、不正防止の観点で重要です。代理承認や、承認者不在時のエスカレーションのルールも要件に含めます。これらを曖昧にすると、運用開始後に「誰が承認すべきか分からない」「承認が止まる」という事態を招きます。承認の権限設計まで踏み込んで要件化することが、現場で破綻しないワークフローの条件です。
法令準拠と既存システム連携の要件化

承認ルートの次に詰めるべきが、法令準拠とシステム連携の要件です。CLMは法的効力を持つ契約を扱うため、電子署名法・電子帳簿保存法への準拠が必須要件になります。さらに、契約データを孤立させず、CRM/SFAや会計システムと連携させることで、二重入力の解消と業務の連続性を確保します。ここを要件段階で詰めないと、前述の「システム間で業務が分割され非効率(38%)」という課題に直面します。
電子帳簿保存法・電子署名法への準拠要件
法令準拠の要件では、電子帳簿保存法と電子署名法の二つを軸に整理します。電子帳簿保存法では、電子取引データを「日付・金額・取引先」で検索できる検索要件や、改ざん防止措置(タイムスタンプ等)を満たす必要があります。これらをCLMが標準で満たすのか、追加設定が必要なのかを要件として明記します。法対応が不十分なシステムを導入すると、税務調査で指摘を受けるリスクが生じます。
電子署名法については、採用する署名方式(立会人型/当事者型)が同法第3条の要件を満たし、紙の契約書と同等の法的効力を持つことを確認します。自社の契約のうち、高い証拠力が求められるものはどれか、相手方が電子証明書を用意できるかを整理し、方式の要件を定義します。なお、定期借地契約や任意後見契約のように書面交付が法律で義務付けられ電子化できない契約類型もあるため、「電子化対象外の契約」を要件で切り分けておくことも欠かせません。
法令準拠の要件は、将来の法改正への追従も視野に入れます。電子帳簿保存法や電子署名に関する制度は、近年たびたび見直しが行われてきました。クラウド型を選ぶ場合は、法改正にベンダー側が標準アップデートで対応してくれるかを確認し、要件に含めます。オンプレミスや独自開発の場合は、改正対応の保守体制をどう確保するかを検討します。法対応を「導入時点で満たす」だけでなく「将来も満たし続けられる」ことまで要件化しておくと、後から制度変更で慌てる事態を避けられます。
システム連携と紙契約のデータ移行要件
連携要件では、既存のCRM/SFA・会計・経費精算システムと、どのデータを、どの方向に、どのタイミング(リアルタイムかバッチか)で連携するかを定義します。たとえばSFAの取引先マスタをCLMに取り込めば、契約起案時の当事者入力が不要になり、二重入力が解消されます。連携可能なインターフェース(API・CSV・ファイル連携)を事前に把握しておかないと、ベンダーが正確な見積りを出せません。連携範囲の明確化が、業務の連続性と見積り精度を同時に左右します。
見落とされがちなのが、過去の紙契約のデータ移行要件です。新規契約だけを電子化しても、過去契約が紙のままでは一元管理は実現しません。移行要件では、どの契約を、どこまでのメタデータ(契約日・当事者・金額・更新期限)を保持して移行するか、AI-OCRで自動読み取りするか手入力するか、優先順位はどう付けるかを定義します。一次データでは「導入前の紙データが未処理」が課題の33.6%を占めており、移行を要件から外すと一元管理は絵に描いた餅になります。riplaはフルスクラッチ受託と業務伴走の立場から、連携と移行を含めた業務全体の連続性を要件に織り込む支援を重視しています。
他社サービスからの乗り換えを伴う場合は、移行要件がさらに複雑になります。既存システムに溜まった契約データを、メタデータを保持したまま新システムへ移せるか、データの抽出形式は何か、移行期間中に新旧どちらで契約を管理するか、旧サービスの解約タイミングをいつにするかを要件として整理します。乗り換えの段取りを誤ると、移行期間中に契約情報が宙に浮き、更新期限を見落とすリスクが生じます。新規導入前提の比較記事では語られにくいこの「乗り換えの泥臭い段取り」こそ、既存システムを持つ企業が要件で押さえるべき要点です。
AI機能の要否切り分けとRFPへの落とし込み

要件が整理できたら、それをRFP(提案依頼書)に落とし込みます。RFPの質が、集まる提案と見積りの質を決めます。曖昧なRFPには曖昧な見積りしか返ってこず、横並びの比較ができません。CLMは機能の幅が広く費用幅も大きいため、RFPで土俵を揃えることが、見積りの妥当性を判断する大前提になります。とくにAI機能の要否は、コストに直結するため慎重に切り分けます。
AI-OCR・AI契約レビューの要否を切り分ける
AI機能は魅力的に見えますが、すべての企業に必要なわけではありません。AI-OCRは、過去の紙契約を大量に移行する場合に効果が大きい一方、移行が一度きりなら外部サービスへの委託で済むこともあります。AI契約レビューは、法務の一次チェック工数が大きい企業ほど効果が出ますが、月数件の契約しか扱わない企業では費用対効果が見合いません。AI機能を「必須・優先・将来」のどれに位置づけるかを、自社の契約件数と法務工数に照らして判断します。
要件化の際は、AI機能が標準機能か月額数万円規模の追加オプションかを確認し、想定される工数削減効果と天秤にかけます。AIには誤認識のリスクがあるため、AIの出力を人が必ず確認するフローも併せて要件に含めます。AI機能を安易に「あった方がよい」で必須にすると、費用が膨らみプロジェクト全体を圧迫します。要否を冷静に切り分けることが、予算管理の生命線になります。
切り分けの実務では、機能要件を「必須・優先・将来」の三段階で分類します。契約・締結・一元管理といった核となる機能は必須に、AI契約レビューやAI-OCRのように効果は大きいが初期になくても運用できる機能は優先や将来に位置づけます。こうして優先度を付けておけば、見積りが予算を超えたときに、どの機能を初期リリースから外すかを冷静に判断できます。すべてを必須にすると、予算オーバー時に削るものがなくなり、プロジェクトが頓挫します。優先度付けは、要件定義書の中でも投資判断に直結する重要な工程です。
RFPに盛り込むべき項目と見積り判断
RFPには、最低限以下の項目を盛り込みます。プロジェクトの目的とKGI(契約締結リードタイムの短縮やコスト削減など)、現状(AsIs)と目指す姿(ToBe)の業務フロー、機能要件(作成・審査・締結・管理の各フェーズ/必須・優先・将来の分類付き)、法令準拠要件(電帳法・電子署名法)、連携要件(CRM/SFA・会計の連携範囲)、紙契約の移行要件、予算とスケジュール、そして開発・運用の体制要求です。とくに承認ルートの再現要件と連携・移行要件は、CLM特有の差がつく部分として具体的に記述します。
集まった見積りは、内訳を精査して妥当性を判断します。「カスタマイズ費」「移行費」が一式でまとめられている場合は、内訳の開示を求めます。機能ごと・工程ごとに工数と単価が示されていれば、どこにコストがかかっているかが見え、追加要件が発生したときの単価ルールも事前に取り決められます。要件定義書とRFPが詳細であるほど、ベンダーは精緻な見積りを出さざるを得ません。riplaはフルスクラッチ受託と国内開発の立場から、要件の透明な整理と見積り内訳の明示を重視しています。要件定義の精度が、そのまま見積りの妥当性判断の精度を決めるのです。
非機能要件と定着・運用設計の要件化

機能要件に目が行きがちですが、契約という機密情報を扱うCLMでは、非機能要件と、導入後の定着・運用を見据えた要件も同じ熱量で詰める必要があります。ここを曖昧にすると、リリース後に「遅い」「漏れる」「現場で使われない」というトラブルが起き、要件定義の努力が水の泡になります。最後の仕上げとして、これらを要件に織り込みます。
セキュリティ・権限・可用性の非機能要件
非機能要件の中でも、セキュリティはCLMで最重要です。契約には金額や取引条件といった機密情報が含まれるため、部門別・役職別のアクセス制御、通信の暗号化、操作証跡の記録などを要件化します。誰がどの契約を閲覧・編集できるかの権限設計を曖昧にすると、見せてはいけない契約が他部門から見えてしまう事故につながります。IPA(情報処理推進機構)のガイドラインなどを参照しつつ、自社の情報セキュリティポリシーに沿った要件を定めます。
可用性も見逃せません。契約の起案・承認・締結が止まると、ビジネスのスピードに直接影響します。稼働率の目標、障害時の復旧時間、バックアップ体制を要件に明記し、ベンダーが適切なインフラ構成を見積もれるようにします。クラウド型を選ぶ場合は、ベンダー側のSLA(サービス品質保証)の内容も確認します。非機能要件を具体的に記述することで、リリース後の「止まる」「漏れる」というトラブルを未然に防げます。
段階導入と社内定着を見据えた要件
要件定義では、「導入して終わり」ではなく「現場に定着するまで」を見据える視点が欠かせません。一次データでは導入企業の約8割が課題を抱えており、その多くが定着の問題です。要件段階で、どの契約類型・どの部門からスモールスタートするか、段階的にどう全社へ広げるかのロードマップを描いておくと、いきなり全面導入して現場が混乱する失敗を避けられます。優先度の高い契約類型から始め、効果を検証しながら拡大する計画を要件に含めます。
運用設計の要件として、操作マニュアルの整備、現場教育の進め方、権限・承認ルートの運用ルールも事前に検討します。さらに、IT導入補助金などの活用を視野に入れる場合は、補助金の対象範囲(ソフトウェア費用やハードウェアの条件)や申請スケジュールを要件検討と並行して進めると、初期投資を抑えられます。riplaはフルスクラッチ受託と業務伴走の立場から、機能要件だけでなく、非機能要件と定着・運用設計までを一体で要件化し、導入後に形骸化しないCLMを実現する支援を重視しています。要件定義の射程を運用定着まで伸ばすことが、投資を成果に変える分かれ目です。
まとめ

CLM・契約ライフサイクルマネジメントの要件定義・RFP・提案依頼書は、機能の列挙からではなく、既存の承認ルートを可視化し、条件分岐の再現要件を固めることから始めるのが鉄則です。そのうえで、電子帳簿保存法・電子署名法への準拠、CRM/SFA・会計との連携、紙契約のメタデータ保持移行を要件に落とし、AI-OCR/AI契約レビューの要否を費用対効果で切り分けます。これらをRFPに目的・連携・移行・体制要求まで明記すれば、ベンダーの提案を横並びで比較でき、見積りの妥当性も判断できます。
「システム間で業務が分割され非効率」という課題が示す通り、要件段階で業務の連続性を設計できるかが、CLM導入の成否を分けます。現場の承認実態と既存システムを正確に映した要件こそが、形骸化しないCLMを生みます。riplaはフルスクラッチ受託と国内開発を組み合わせ、承認ルートの可視化から法令準拠・連携・移行の要件化、RFP作成までを発注企業と協働で支援します。全体像の確認には、あらためて完全ガイドをご活用ください。
株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
