CLM・契約ライフサイクルマネジメント開発のPoC・プロトタイプ・モックアップ開発について

CLM(契約ライフサイクルマネジメント / Contract Lifecycle Management)の導入を検討する際、いきなり全社展開を目指した本格開発に着手すると、実際に運用を始めてから「現場の承認ルートを再現しきれていない」「移行した契約データの検索精度が低い」といった問題が発覚し、大きな手戻りにつながるケースが少なくありません。CLMは契約実務という各社ごとに事情が異なる業務プロセスをシステム化する性質上、カタログスペックだけでは自社に合うかどうかを判断しきれない領域です。そのため、本開発の前段階でPoC(概念実証)やプロトタイプ、モックアップを通じて実現可能性を検証するスモールスタートが、CLM導入を成功させるための定石になっています。

本記事では、CLM・契約ライフサイクルマネジメントのPoC・プロトタイプ・モックアップ開発に焦点を当て、それぞれの位置づけと「PoC死」を避けるための実データ検証の考え方、スモールスタートの具体的な進め方と期間・費用感、承認ワークフローと現場定着の検証ポイント、AI条項抽出・既存システム連携の検証方法、そして本開発へ進むかどうかを判断するGo/No-Go基準までを、具体的な数値とともに体系的に解説します。これからCLM導入の検証を始める法務・情報システム部門の方にとって、失敗しない進め方の判断軸が身に付く内容です。

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CLMにおけるPoC・プロトタイプ・モックアップの位置づけ

CLMにおけるPoC・プロトタイプ・モックアップの位置づけ

PoC・プロトタイプ・モックアップという言葉はしばしば同じ意味で使われますが、CLM導入の文脈ではそれぞれ役割が異なります。モックアップは、画面イメージや操作フローを画像やスライドで示す見た目の確認、プロトタイプは実際に操作できる簡易的な動作確認モデル、そしてPoCは実際の契約データや承認フローを使って「自社の業務で本当に効果が出るか」を検証する段階を指します。CLM導入では、この3段階を経ることで、開発着手後の手戻りを最小限に抑えられます。特にPoCの段階を軽視して、いきなり本開発に進んでしまうと、後になって承認ルートの再現性や検索精度の問題が発覚し、結果的に開発期間もコストも増大するというケースが多く見られます。

PoC・プロトタイプ・モックアップの位置づけ

モックアップの段階では、契約書一覧画面や承認申請画面のイメージを作成し、法務担当者や現場の利用者に見てもらいながら「操作の流れとして違和感がないか」を確認します。この段階はコストも期間もほとんどかからず、数日〜1週間程度で完了します。プロトタイプの段階では、実際にクリックして画面遷移を確認できる簡易的なシステムを用意し、承認申請から承認完了までの一連の操作を疑似的に体験してもらいます。ここで初めて「このボタンの位置がわかりにくい」「承認者への通知タイミングが実務に合わない」といった具体的なフィードバックが得られます。そしてPoCの段階では、実際の契約書データの一部と、実際の承認ルールを反映させた環境で運用を試し、業務効率化の効果やシステムの限界を定量的に検証します。CLM導入においては、このPoCの結果次第で本開発の要件が大きく修正されることも珍しくなく、検証段階への投資を惜しまないことが結果的に手戻りの防止につながります。

「PoC死」を避けるための実データ検証

CLMのPoCで陥りがちな失敗が、あらかじめ整えられた綺麗なサンプルデータだけで検証し、成功したように見えて本番導入すると全く機能しないという「PoC死」です。実際の契約書には、表記の揺れがある取引先名、部署ごとに微妙に異なるフォーマット、スキャン品質の悪いPDFといった「ノイズ」が含まれています。PoCの段階でこうした実データの一部、特に古い契約書や特殊な条項を含む契約書をあえて検証対象に含めることで、本番運用で直面する課題を前もって洗い出せます。また、現場からよく上がる質問(「この契約類型は誰の承認が必要か」「更新期限が近い契約はどう通知されるか」)や、あえて難しい失敗パターン(例外的な承認ルート、イレギュラーな契約金額)を想定した質問セットを作成し、同じ条件でシステムの挙動を繰り返し確認することが、PoC死を回避する実践的な方法です。

スモールスタートの進め方と期間・費用感

スモールスタートの進め方と期間・費用感

CLMのPoCを成功させる鍵は、対象範囲を絞り込んだスモールスタートです。全社の全契約類型を一気に検証しようとすると、連携設定や権限設計の調整だけで時間がかかり、現場の混乱を招いて「結局使われないシステム」というリスクを高めてしまいます。

スモールスタートの進め方と期間

スモールスタートでは、まず特定の業務(例えば秘密保持契約の締結のみ、あるいは特定の1部署の稟議のみ)に対象を絞って着手します。いきなり本契約を結ぶのではなく、多くのCLM・電子契約サービスが提供している14日間〜30日間程度の無料トライアルを活用し、実際の操作感や自社の業務内容に合っているかをテスト運用することが、導入失敗を防ぐための効果的な進め方です。トライアル期間中に、対象業務における一連の流れ(起案・承認・締結・保管)を実際に回してみて、想定していた効果が得られるかを確認します。期間の目安としては、モックアップとプロトタイプの確認に1〜2週間、無料トライアルを活用したPoCに2〜4週間、合わせて1〜1.5ヶ月程度が一般的なスケジュール感です。フルスクラッチでゼロからPoC用のシステムを構築するケースは少なく、多くの場合は既存のSaaSサービスのトライアル機能を活用して検証を進める点が、CLMのPoCにおける特徴といえます。

費用感(無料トライアル活用型/小規模PoC)

SaaS型のCLM・電子契約サービスが提供する無料トライアルを活用する場合、期間中の初期費用・利用料はともに0円で検証が可能です。トライアル終了後も、対象を限定した状態で運用を継続する場合は、ユーザー数課金のプラン(1ユーザー月額300円〜など)を選ぶことで、月額数千円〜数万円程度の低コストで検証を続けられます。一方、外部のコンサルティング会社に依頼して自社の契約実務を分析し、要件を整理した上でPoCを設計してもらう場合は、規模にもよりますが50万円〜150万円程度の費用がかかることもあります。フルスクラッチ開発を前提とした本格的なPoC(実データを使った承認ワークフローのカスタム実装検証など)を行う場合は、エンジニアの稼働を伴うため、300万円〜500万円程度、期間にして1〜2ヶ月程度を見込んでおく必要があります。まずは無料トライアルで自社に合うかどうかの当たりをつけ、本格的な作り込みが必要だと判断した段階で、より踏み込んだPoCへ移行するという段階的な進め方が、費用対効果の観点でも合理的です。

承認ワークフロー・現場定着の検証

承認ワークフロー・現場定着の検証

CLMのPoCで最も重視すべき検証項目の一つが、承認ワークフローが実際の社内ルールを正確に再現できているか、そして現場の従業員が実際に使い続けてくれるかという2点です。どれだけ機能が豊富なシステムでも、この2点が満たされなければ本番導入は失敗に終わります。

承認ワークフローの妥当性と管理のしやすさ

PoCの段階では、契約金額による条件分岐や複数部門での合議など、現状の複雑な社内ルールがシステム上で正確に再現できるかを検証します。特に、想定外の例外パターン(通常より高額な契約、複数事業部にまたがる契約、緊急を要する契約)を意図的にテストケースに含め、システムが破綻せずに対応できるかを確認することが重要です。あわせて管理者の視点から、人事異動があった際に組織図をインポートして承認ルートを更新できるか、ドラッグ&ドロップで承認ルートを編集できるかといった、ITスキルに依存しないメンテナンス性も検証しておくべきポイントです。この管理のしやすさが検証段階で確認できていないと、本番運用開始後に組織変更のたびにベンダーへの問い合わせや追加のカスタマイズ依頼が発生し、運用コストが想定以上に膨らむ原因になります。

現場の利用継続率(操作性・定着性)

現場の従業員がマニュアルなしでも直感的に操作できるかどうかは、PoCの段階で実際に業務を担当するメンバーに操作してもらうことでしか確認できません。特に、既存の紙の申請書とレイアウトが大きくかけ離れていないか、スマートフォンのみでも申請・承認が問題なく行えるか(外出の多い営業担当者や現場責任者にとって重要な観点)、承認待ちの通知が埋もれずに気づけるかといった点を、実際のフィードバックとして収集します。PoC期間中の利用継続率(トライアル開始時に比べて、期間終了時点でどれだけの利用者が継続して使い続けているか)は、本番導入後の定着可能性を占う重要な先行指標になります。利用継続率が低い場合は、機能を追加するのではなく、むしろ操作ステップを減らす、通知方法を変えるといったシンプルな改善で定着率が向上することも多いため、PoCの結果を踏まえた運用設計の見直しを行うことが有効です。

AI条項抽出・既存システム連携の検証

AI条項抽出・既存システム連携の検証

CLMのPoCでは、承認フローや操作性だけでなく、AIによる条項抽出・レビュー機能の精度と、既存システムとの技術的な連携可否も検証すべき重要な項目です。

AI条項抽出・レビューの精度検証

契約書からリスク条項や重要な期限・金額情報を自動で抽出するAI機能は、CLM導入の大きな魅力の一つですが、その精度は契約書のフォーマットや業界特有の言い回しによって大きく変動します。PoCの段階では、実際の契約書サンプル(特に自社独自の言い回しが含まれるものや、他社フォーマットが混在するもの)をAIに読み込ませ、抽出された条項や期限情報が正確かどうかを人手で照合します。AIが誤って重要な条項を見落としていないか、逆に問題のない条項を過剰にリスクとして警告していないかを確認し、実務で使えるレベルの精度に達しているかを判断します。あわせて、AIがなぜその判断に至ったかの根拠を示せるか(説明可能性)、AI固有のリスク(誤判定や偏った学習データによる見落とし)をどう管理する仕組みになっているかというガバナンスの観点も、法務部門にとっては重要な検証ポイントです。

電子契約・基幹システム連携のテスト

CLMは単独で完結するシステムではなく、電子契約サービスや会計・販売管理システム、チャットツールといった既存の基幹システムと連携して初めて真価を発揮します。PoCの段階で、これらのシステムとのAPI連携が想定どおりに動作するか、データの二重入力が発生しないかを実際に確認しておくことが欠かせません。連携テストを怠ると、本番運用開始後に「新しく設定する項目が想定より多い」「既存データの移行がうまくいかない」「そもそも連携がうまくいかない」といったトラブルが発覚し、大きな手戻りにつながります。特に、複数のシステムを同時に連携させる場合は、どちらか一方の仕様変更が連鎖的に影響することもあるため、PoCの段階で単体テストだけでなく、実際の業務フローに沿った結合テストまで行っておくことを推奨します。

Go/No-Go判断基準

Go/No-Go判断基準

PoCを終えたら、本格導入(Go)へ進むか、見送り(No-Go)にするかを客観的な基準で判断します。担当者の主観的な印象だけで判断すると、後になって「思ったほど効果がなかった」という事態を招きかねません。

ROI・工数削減の定量基準

Go/No-Goの判断で最も説得力のある基準は、業務時間の削減効果を金額換算した投資対効果(ROI)です。PoC期間中に、紙の印刷・郵送・押印・回覧待ちにかかっていた時間がどれだけ削減できたかを計測し、その削減工数を関係者の人件費に換算します。あわせて、印紙税や郵送費、書類の保管スペースにかかる費用の削減額も合算し、具体的な効果額を算出します。この効果額と、本稼働時に見込まれるシステムの導入・運用コストを比較し、投資額を運用開始から何ヶ月で回収できるかという投資回収期間を分析します。目安として、投資回収期間が1〜2年以内に収まる見込みがあれば「Go」と判断し、経営層や関係部署への稟議の根拠として提示できる水準といえます。

基準未達時の打ち手

ROIの基準を満たさなかった場合や、現場の利用継続率が低く定着が見込めないと判断された場合でも、すぐに導入自体を諦める必要はありません。まず検討すべきは、対象とする契約類型や部門をさらに絞り込んで再検証することです。全社的な効果が見えにくくても、特定の部署や契約類型に限定すれば明確な効果が出るケースは多くあります。次に、PoCで洗い出された操作性の問題(通知の見落とし、承認ルートの分かりにくさなど)がベンダー側の設定変更で解決できるものであれば、別のプランやオプション機能を試すという選択肢もあります。それでも改善が見込めない場合は、別のCLM・電子契約サービスを比較検討する、あるいは契約管理システムや電子契約システムといったより機能を絞った単機能のツールから段階的に導入するという代替案も現実的です。PoCを省略していきなり本開発に着手すると、一見スケジュールが短く見えても、後工程で手戻りが発生しトータルの導入期間がかえって延びるケースが多い点も、判断材料として押さえておくべきです。

まとめ

CLMのPoC・プロトタイプ・モックアップまとめ

本記事では、CLM・契約ライフサイクルマネジメント開発のPoC・プロトタイプ・モックアップ開発について、それぞれの位置づけ、実データ検証によるPoC死の回避、スモールスタートの進め方と期間・費用感、承認ワークフローと現場定着の検証、AI条項抽出・システム連携の検証、そしてGo/No-Go判断基準までを体系的に解説しました。モックアップ・プロトタイプの確認に1〜2週間、無料トライアルを活用したPoCに2〜4週間程度が目安であり、費用感はトライアル活用型であれば0円〜数万円、外部コンサルティングを伴う場合は50万円〜150万円が一つの基準になります。CLMのPoCでは、承認ワークフローの再現性と現場の利用継続率、AI条項抽出の精度、既存システムとの連携可否という4つの検証軸を押さえ、業務時間削減効果を金額換算したROIによって客観的にGo/No-Goを判断することが、導入後の失敗リスクを最小化する鍵となります。具体的な検証の進め方は、複数のCLM・電子契約サービスの無料トライアルを比較しながら、自社の契約実務に照らして相談してみることから始めることをお勧めします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。