クラウドのフルスクラッチ・オーダーメイド開発は、業務の要件に合わせてシステムを作り込む開発方式です。既製のSaaSやテンプレートで要件を満たせない場合の選択肢になります。
進めるときは、要件・設計の方向性・運用体制を先に定め、小さく検証しながら段階的に進めます。
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クラウド開発におけるフルスクラッチ・オーダーメイド開発の位置づけ

クラウド上でシステムを実現する方法には、既製SaaSやテンプレートの利用から独自開発まで段階があります。それぞれ、独自に作り込む範囲の広さが異なります。
- 既製品の利用:SaaSやテンプレートをそのまま使う形。
- サービスの組み合わせ:フルマネージドサービスを束ねた構成。
- 部分的な独自開発:必要な部分だけをオーダーメイドで作る。
- フルスクラッチ:アプリケーションとインフラを要件に合わせて作り込む。
クラウドのフルスクラッチでは、仮想サーバーやマネージドデータベースなどを土台として使えます。サーバーレス基盤やオブジェクトストレージも、土台の候補になります。仮想ネットワークやアクセス権限管理も活用し、独自に作るのは主にアプリケーションと業務ロジックです。
中心となる判断は、どこまでをマネージドサービスに任せ、どこからを独自に作るかです。さらに、独自部分をクラウド前提で設計するか、従来型の構造にするかも決めます。これは、特定ベンダーのサービス名の組み合わせより上位にある、アーキテクチャの方向性を定める判断です。
フルスクラッチとテンプレート・マネージドサービス活用の違い
開発方式は、自由度と費用・期間のバランスで比べると違いが見えてきます。
- テンプレート活用:標準的な構成を用意できる。
- マネージドサービス活用:インフラの構築と運用にかかる工数を抑えられる。
- フルスクラッチ:業務要件に合わせて、細部まで作り込める。
テンプレートは、クラウド事業者やベンダーの構築ひな型を使うため、ゼロからの開発より低コストかつ短期間で済みます。マネージドサービス活用型では、仮想サーバー上にミドルウェアやデータベースを自前で構築せず、マネージドデータベースやサーバーレス関数、コンテナ基盤を組み合わせます。
フルスクラッチでも基盤サービスは活用しつつ、業務ロジックとデータモデルを独自に設計します。画面や外部連携の設計も、その範囲に含まれます。自由度は高い反面、費用はノーコードやテンプレート利用の場合より数倍以上に膨らむことがあります。
また、クラウドネイティブなプラットフォームやSaaSを作る場合の費用相場は、約250万円から3,000万円以上です。マイクロサービス化などで要件が複雑になるほど、工数と費用も大きくなります。そこで、標準的な部分はサービスやテンプレートに任せ、独自性が必要な部分に絞ることが、費用対効果を左右します。
フルスクラッチが適するケース(高セキュリティ要件・複雑なマイクロサービス構成)
既製テンプレートやSaaSで要件を満たせない場合は、独自開発が選択肢になります。代表例は、高度なセキュリティ・コンプライアンス要件があるケースです。
- 厳格な情報管理:保存場所やアクセス制御、監査ログに基準がある場合。
- 複雑なサービス連携:独自の業務ロジックをマイクロサービスで実現するケース。
金融・医療・官公庁などでは、厳格なデータ管理が求められます。そのため、仮想ネットワークで分離し、最小権限に沿った権限設計や操作ログの記録を組み合わせます。
コンテナ実行基盤やサーバーレス関数を活用して、各サービスを疎結合に構成します。サービス間連携、データ整合性、スケーリングは、それぞれ個別に設計します。
ただし、連携が増えると、設計・実装工数が数倍から数十倍に跳ね上がるリスクがあります。ベンダーロックインも起きやすいため、注意が必要です。
厳格な情報管理や複雑な業務要件があり、独自設計の価値が費用増を上回る場合に、フルスクラッチの真価を発揮します。一方、汎用的な要件で足りる場合は、サービスやテンプレートを活用するほうが費用と期間の面で合理的です。
クラウドネイティブ設計とリフト&シフト設計の判断軸

上流で最初に決めるのは、クラウドネイティブ設計とリフト&シフト的設計のどちらを基本方針にするかです。その判断は、3つの方針の違いを押さえたうえで行います。
- クラウドネイティブ:クラウド特有の技術を前提に設計し、弾力性を引き出す。
- リフト&シフト:既存資産の構造を保ち、移行のハードルを下げる。
- 組み合わせ:システムの特性に応じて、両方を選ぶ。
クラウドネイティブ設計は、コンテナ、マイクロサービス、サーバーレスを前提にします。クラウドの特性を活かせる一方で、設計の難易度は高くなります。
リフト&シフト的設計は、オンプレミス由来の資産や構造をできるだけ保ってクラウドへ移します。移行しやすい反面、クラウドのメリットを十分に活かせないことがあります。どちらが正解とは限りません。
クラウドネイティブ設計(コンテナ・マイクロサービス・サーバーレス)が適するケース
トラフィックの変動が大きく、自動スケーリングが必要なサービスで効果を発揮します。
- 弾力性:アクセスに応じてリソースを増減できる。
- 機能単位の変更:一部の機能だけを改修・拡張できる。
- 運用の自動化:保守工数を減らし、自動デプロイを進められる。
サーバーレスでは、アクセスが少ない時間帯の待機コストをゼロに近づけられます。常時稼働のサーバーを持たないぶん、管理の手間が減り、従量課金も活用できます。
機能を独立させる構成は、変化の速いビジネス要件への対応にも役立ちます。また、サーバーレスやマネージドサービスでは、OSやミドルウェアのパッチ適用も不要になります。
ただし、複雑な連携では、設計・実装・テストの工数が従来型の数倍から数十倍になるリスクがあります。特定クラウドのサービスに依存するほど、他社クラウドへの移行が難しくなる場合もあります。そのため、採用の前に、弾力性と俊敏性が事業価値につながり、複雑さに見合う効果があるかを確かめます。
リフト&シフト的設計が適するケースとオンプレ思考の落とし穴
リフト&シフトは、仮想サーバー(IaaS)を中心とした従来型の設計です。常時高負荷で極めて低いレイテンシーが必要なシステムに適する場合があります。
- 高負荷・低遅延:専用サーバーで安定した性能を得やすい。
- 早期移行:既存の構造を保ち、移行の負担を小さくする。
- 移行後の改善:ボトルネックをサービスに置き換える計画を立てる。
必要なときだけ起動するサーバーレスより、常時稼働の専用サーバーが安定する場合があります。また、既存の構造を保ったまま短期間で移すと、可用性やインフラ調達の速さといったクラウドの利点を早期に得られます。移行の負担が小さいリフト&シフトは、現実的な選択肢です。
なお、リフト&シフトには見落としやすい落とし穴があります。それは、オンプレミス時代の設計思想をそのままクラウドへ持ち込むことです。
オンプレミスでは、将来の負荷を見込んだ余裕のある構成が一般的でした。その構成を従量課金のクラウドで常時稼働させると、未使用分にも課金され、毎月無駄な料金が積み上がります。
さらに、仮想サーバーを運用する限り、監視、障害対応、セキュリティ更新の工数や人件費も必要です。そこで、リファクタリングを前提にすると、クラウドのコストメリットを取りこぼしにくくなります。
費用感の違いと具体事例
クラウドネイティブ設計とリフト&シフト的設計では、費用の構造が異なります。実際のコスト差を具体的な数字で確認すると、設計方針を決める材料になります。
クラウドネイティブ化によるインフラコスト削減の事例
クラウドネイティブ化による費用面の効果は、公開されている事例から確認できます。
- ニフティ株式会社:月額インフラコストを従来の約3分の1に圧縮。
- 東部ガス株式会社:月々のクラウド費用を2万5000円程度に抑える見込み。
ニフティ株式会社はエンジニアブログで、従来のWeb三層構造から構成を刷新した結果を公表しています。新構成は、コンテナ実行基盤、サーバーレスデータベース、フルマネージドAPIサービスが中心です。常時稼働サーバーを従量課金型へ置き換えたことが、コスト圧縮に寄与しました。
ITmediaが報じた東部ガス株式会社の事例では、ポータルアプリをサーバーレス中心にスクラッチ開発しました。アイドル時に無駄な費用が発生しない設計が、ランニングコストの削減につながっています。
フルマネージドAPIサービスを使うと、バックエンドのインフラ構築作業の多くを省けます。そのうえで、データ構造の定義と処理ロジックの実装だけでAPIを立ち上げられ、実装費も抑えられます。
リフト&シフトのままでは、利用が少ない時間にもサーバーが稼働し、固定費が高止まりしやすくなります。
費用・期間の目安と人月単価
開発費は、システムの規模と作り込みの範囲によって変わります。
- 小規模な検証環境:設計から動作確認まで、20万〜30万円程度が目安。
- 本格的な開発:250万円から3,000万円以上が相場。
- 一般的なエンジニア:人月単価は月額50万〜80万円程度。
- 専門人材:月額80万〜120万円以上の水準。
本格開発には、クラウドネイティブ基盤やSaaSの新規開発が含まれます。マイクロサービス化などで要件が複雑になるほど、工数と費用は膨らみます。
開発費の大部分は人件費のため、人月単価の把握が欠かせません。設計経験が豊富なシニアやクラウド認定資格を持つ専門人材は、100万円を超えるケースも少なくありません。
開発費とは別に、稼働後のインフラ利用料と保守運用費が継続して発生します。年間の保守費用は、初期開発費の10%から20%程度が目安です。さらに、5年間の総保有コスト(TCO)では、運用費が初期開発費と同等以上になることもあります。
従量課金を放置すると費用が増え続けるため、継続的な最適化が必要です。コスト最適化ツールで利用状況を一覧にし、定期的に確認すると、月額の10%から30%程度を削減できる余地があります。
日中だけ稼働する社内システムを夜間に自動停止すると、最大50%程度の削減が見込めます。また、常時稼働するリソースを一定期間の契約による割引の対象にすると、最大72%程度の削減余地があります。
内製開発と外部委託・ハイブリッドアプローチ
フルスクラッチを進める際は、内製か専門ベンダーへの外部委託かによって、費用構造と社内ノウハウの蓄積が変わります。
クラウドネイティブ設計には高度なスキルが必要で、体制づくりが成否に関わります。そのため、内製の利点と課題を押さえたうえで、外部委託やハイブリッドの考え方を比べることが大切です。
内製開発のメリットと課題
内製は長期的な支払いを抑えながら、クラウドのノウハウを社内に蓄積できます。
- 委託費の抑制:外部へ継続して払う費用がかからない。
- 継続的な改善:業務を理解する自社チームが、システムを手直しし続けられる。
- 人材と運用の負担:専門人材の採用・育成や監視体制が必要になる。
システムを長く使うほど、費用対効果が高まります。仕様の変化が速く、新しいマネージドサービスも次々に登場する領域です。そのため、社内に知見があれば、新しいサービスを取り込みながらシステムを進化させられます。
専門人材には、基盤サービスからコンテナ、サーバーレス、セキュリティまでの知識が求められます。採用や育成には、相応のコストと時間がかかります。
認定資格と設計経験を持つ人材は需要が高く、採用競争も激しくなっています。さらに、月額100万円を超える単価も珍しくありません。
安定運用には24時間365日の監視・対応が必要になる場合があります。その場合は、シフト体制や人件費の負担も考慮に入れます。
マイクロサービスは運用が複雑になるため、内製だけで抱えると、属人化する恐れがあります。
外部委託・ハイブリッドアプローチの推奨
外部委託は、専門人材の採用・育成や24時間監視の負担を減らせます。
- 外部委託:専門性を活かせるが、社内に知見が残りにくい面がある。
- 内製:業務知識を活かせる半面、人材と運用体制の確保が必要。
- ハイブリッド:社内の業務領域と外部の専門領域を分担する形。
経験豊富なパートナーであれば、可用性や拡張性を考慮した設計、セキュリティ、コスト最適化を短期間で実現できます。クラウド人材が十分でない段階でも、質の高い構築を進めやすくなります。一方で、知見がベンダーに集約されると、契約中は委託費が続き、営業時間外の対応に制約が出る場合もあります。
ハイブリッドでは、業務理解が必要なアプリ開発や日常運用を内製します。高度な設計、コンテナやサーバーレス基盤、セキュリティ実装は外部に委託します。さらに、24時間365日の監視も、専門性が必要な外部委託の領域に含めます。
多くの企業にとっては、内製と外部委託を併用する方法が、最も費用対効果の高い選択肢になります。この体制であれば、社内の知見を蓄積しながら、コスト、品質、自走力のバランスを取れます。
社内人材を育てながら内製比率を高める方法として、外部委託で基盤を立ち上げる進め方もあります。
マルチクラウド戦略を見据えた設計・発注のポイント

成功させるには、単一のクラウドだけでなく、将来のマルチクラウドも見据えた設計判断が必要です。ベンダー依存を避けるため、可用性や費用、事業継続性の観点で、各社の強みを使い分けます。
特に、ロックインを避ける設計と、パートナー選定や上流工程の進め方が判断の分かれ目になります。
ベンダーロックイン回避とマルチクラウド前提の設計
クラウドネイティブ設計を進めるほど、特定クラウドのサービスに依存し、他社へ移りにくくなることがあります。
- クラウドの使い分け:構成要素ごとに、機能と費用の利点を比べる。
- 可搬性の確保:業務ロジックをサービス固有の仕様から切り離す。
- 運用計画:学習や接続検証、費用の把握を計画に含める。
業務ロジックが固有仕様に結びつくと、乗り換え時に大規模な作り直しが必要になります。複数クラウドを組み合わせる戦略は、単一ベンダーへの依存を避ける一つの方法です。
各社には異なる料金体系と強みがあります。たとえば、既存ライセンスを活用できるクラウドや、AIの無料枠が充実したクラウドがあります。安価なサーバーレス環境を提供するクラウドもあります。
構成要素ごとに機能と費用の利点があるクラウドを選ぶと、可用性向上やコスト最適化を狙えます。ロックインの緩和にもつながります。
コンテナなど可搬性の高い技術や、複数クラウドで使える標準的な仕組みも有効です。ただし、複数クラウドの学習期間や接続検証の工数は、予定に影響する場合があります。
複数クラウドの費用は見える化し、継続的に最適化するFinOps的な運用も欠かせません。こうした課題は、検証で具体化しながら、自社の要件に沿って段階的に確かめます。
パートナー選定と要件定義・設計フェーズの重要性
外部に発注する場合は、技術力と上流工程の進め方を確認してパートナーを選びます。
- 実績と技術力:基盤、セキュリティ、最適化の経験の有無。
- 設計の提案力:業務特性や負荷に合う方式を示せるか。
- 上流工程:要件定義・設計に全体工数の20%から30%を充てる。
- 小規模検証:負荷や費用を確かめてから、規模を広げる。
コンテナやサーバーレス、マルチクラウドの設計・構築経験を確かめます。資格保有者の在籍状況や、クラウドネイティブ化による費用削減、マルチクラウドの実績も、技術力を測る材料になります。
可用性、拡張性、セキュリティといった非機能要件を、具体的な数値に落とし込めるかどうかも見ておきます。加えて、業務特性、トラフィックの変動、レイテンシーに応じた方式を提案できるかも、パートナーを比べる判断材料になります。
着手後の仕様変更は、要件定義の段階より費用が10倍以上になるという「デバッグコストの法則」が知られています。だからこそ、上流に時間を割きます。
クラウド移行では、システムを「稼働中」「不要」「縮小可能」に分けて精査します。そのうえで、各領域をIaaS・PaaS・SaaSのどれに寄せるかを決めます。
大規模開発をすぐに契約せず、影響範囲の小さい単一システムで検証環境を作ります。負荷特性や費用、従量課金への適応を確かめたうえで、成功したモデルから段階的に広げます。
技術と業務の両面を理解して提案できるパートナー選びが、開発・構築の成否を左右します。
まとめ
クラウドのフルスクラッチは、すべてを一から自作する方法ではなく、豊富なマネージドサービスを基盤に、高度なセキュリティや複雑なマイクロサービスなどを独自に作る方式です。
クラウドネイティブかリフト&シフトかは、負荷変動やレイテンシー、コストで選びます。要件定義と小規模検証を経て、体制や発注先を決め、段階的に進めます。
ニフティ株式会社は月額インフラ費を従来の約3分の1に圧縮しました。また、東部ガス株式会社は月々の費用を2万5000円程度に抑える見込みでした。
クラウドネイティブ化は運用費を抑えられる一方で、複雑な構成では工数が増え、ロックインにも注意が必要です。
マルチクラウドも視野に入れながら、内製と外部委託を分担します。要件定義・設計と小規模検証を経て段階的に広げると、手戻りや費用超過を防ぎやすくなります。
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会社紹介
株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
