工事管理システム開発のフルスクラッチ・オーダーメイド開発について

工事管理システムは、工程表や日報、安全管理などを現場ごとに支える現場運用ツールで、会社全体の基幹とは性格が違います。フルスクラッチは既存製品を使わず、自社専用に設計・開発する方式です。

開発方式は独自性・規模・保守体制で選びます。全体像は工事管理システム開発の完全ガイドもご覧ください。

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フルスクラッチとSaaS・パッケージの違い

フルスクラッチとSaaS・パッケージを、現場運用への合わせ方で左右に比べた図解。
独自の現場運用を優先するか、標準機能を活用するかで方式が分かれます。

導入方法は、フルスクラッチかSaaS・パッケージのどちらかです。現場運用の独自性や予算、システムを自社資産にするかどうかで、選ぶ方式が変わります。両者の仕組みとメリット・デメリットを順に見ていきます。

フルスクラッチ・オーダーメイド開発の特徴

フルスクラッチは既存製品を使わず、ゼロから自社専用の工事管理システムを設計・開発します。最大のメリットは、自社の現場運用に完全に合わせられる点です。

独自の日報や出面集計、安全書類に合わせられるうえ、工種別の工程管理や、既存の勤怠・原価システムとの連携にも対応できます。設計書やソースコードを自社で保有できるため、ベンダーロックインを避けやすい点も利点です。

一方で、初期費用は規模によって1,000万円から数億円に達する場合があり、開発期間も6ヶ月から数年かかります。年間保守費やサーバ費、法改正への対応費も、自社の負担になります。

現場で受け入れられる使い勝手も自分たちで作り込む必要があり、要件定義や現場検証を怠ると、費用をかけても使われないおそれがあります。

  • 適合性:独自の現場運用をシステムに反映
  • 資産性:設計書とソースコードを自社資産として保有
  • 負担:運用に合わせられる反面、費用・期間・稼働後の責任が伴う

SaaS・パッケージ導入の特徴

SaaS・パッケージは、既存の施工管理アプリや製品を利用する方式です。初期費用を抑えて、短期間で導入できるのが特徴です。

サクミル、現場ポケット、現場一番などは、初期費用が無料〜数十万円、月額4,000円〜20,000円程度で利用できます。運用開始までは1〜3ヶ月程度が目安です。

時間外労働の上限規制や電子帳簿保存法などの法改正には、ベンダーが自動更新で対応します。そのため、自社で改修費をかけずに最新の制度へ追随できる点も利点です。

導入支援やヘルプデスクが手厚いサービスも多く、特に、IT専任者が少ない中小建設会社には運用負担が軽い選択肢です。

ただし、業務を標準機能に合わせる必要があります。独自の日報や特殊な集計は実現できない場合があり、カスタマイズにも限界があります。

現場数やアカウント数が増えると月額料金も積み上がります。このため、大規模かつ長期利用では総コストがかさむこともあります。

  • 導入しやすさ:費用を抑えて短期間で始められる
  • 標準機能:業務を製品の機能に合わせる必要がある
  • 利用料:利用規模に応じて月額が積み上がる

標準に合わせる代わりに、安く・早く・楽に使えます。独自性がそれほど高くない現場運用であれば、多くの場合はこれで目的を果たせます。

ポイント

導入方式は、現場運用の独自性や予算、自社資産にしたいかで選びます。独自性が高く資産として持ちたい場合はフルスクラッチ、基本機能で足りる場合はSaaS・パッケージが候補になります。

フルスクラッチが向く企業・SaaSが向く企業

方式を選ぶ判断材料は、現場運用の独自性や規模、将来の展望です。まずは自社がどちらに当てはまるかを見極めることが、方式選定の出発点になります。

フルスクラッチが向くケース

独自の施工プロセスや集計、原価管理があり、既存製品に大幅なカスタマイズが必要な企業では、フルスクラッチが選択肢になります。

  • 独自業務:工種別工程、市販アプリでは再現できない出面・労務費按分、自社様式の安全書類・品質記録を再現したい
  • 個別連携:勤怠・給与、原価管理、建設キャリアアップシステム(CCUS)と密に結びつけたい
  • 利用規模:現場・作業員が非常に多く、ユーザー数課金の月額が高額になる
  • 自社資産:システムを競争力の源泉と位置づけ、ソースコードを保有したい

ただし、該当する企業でも全機能を作るのが最適とは限りません。標準化できる部分は既存機能に寄せ、譲れない独自要件に絞ると、費用と定着の両面で有効です。そのうえで、独自性が競争力に直結しているかを確かめてから、開発方式を選びましょう。

SaaS・パッケージが向くケース

初期コストを抑えて短期間で導入したい企業や、基本機能で現場運用の大半をカバーできる企業には、SaaS・パッケージが候補になります。

  • 基本機能で対応:工程表・日報・出面・写真・安全書類・情報共有を使いたい
  • 運用体制:IT専任者が少なく、保守や運用に自社リソースを割きにくい
  • 試験導入:初期投資を抑え、短期間で効果や現場への定着を確かめたい

法改正への対応はベンダーに任せられ、ヘルプデスクの支援も受けられます。また、まずSaaSで運用し、標準機能で足りない部分が明確になってから、その範囲だけ追加開発する方法もあります。

独自性がそれほど高くなく、初期投資を抑えたい企業や運用を簡単にしたい企業は、SaaSから始めるのが合理的です。フルスクラッチは、SaaSでは対応できない点が明らかになった段階で検討できます。

ポイント

独自の業務や個別連携が多く、標準機能では足りない企業はフルスクラッチが候補です。基本機能で現場の大半を賄え、IT専任者が少ない企業はSaaSから始めるのが合理的です。

フルスクラッチ開発の費用と工程配分

開発費だけでなく、稼働後の保守費も含めた総コストを把握しておく必要があります。見通しが不十分だと、後で思ったより高くつくことがあります。

開発費の目安と工程別の配分

費用は機能の範囲と規模で変わります。独自要件を作り込むと、初期費用が1,000万円から数億円規模になる場合があり、開発期間も6ヶ月から数年かかります。見積もりの妥当性を判断するには、工程ごとの費用配分を確かめます。

  • 要件定義:10〜15%
  • 基本設計(外部設計):15〜20%
  • 詳細設計(内部設計):10〜15%
  • 開発・製造:30〜40%
  • 結合・総合テスト/移行・導入:15〜20%/5〜10%

フルスクラッチでは特に、要件定義に十分な工数を割く必要があります。日報や出面集計、安全書類のルールを整理し、写真整理なども含めて現場の実務を洗い出します。

現場代理人やベテラン職人の暗黙知を捉えないまま開発を進めると、後から仕様変更が生じ、追加費用や納期遅延につながります。

要件定義を削って安く見せた見積もりは、後から高くつくことがあります。また、過去の工事写真や職人・協力会社のマスタは、移行やクレンジングに想定以上の時間がかかることもあります。

発注前には、要件定義とデータ移行の両方に十分な工数を割けているかを確かめることが大切です。

保守費まで含めた総保有コスト(TCO)の考え方

総保有コスト(TCO)は、初期費だけでなく稼働後の費用も含めて考えます。SaaSとの費用比較も、方式を選ぶうえで欠かせない判断材料です。

  • 保守費:フルスクラッチは開発費の15〜20%が年間目安
  • SaaS利用料:現場数・アカウント数に応じて月額が増える
  • 小規模利用:SaaSのほうが割安になりやすい
  • 大規模・長期利用:現場・人員が非常に多いと固定保守費が安くなる逆転もある
  • 小規模/数年で見直し:どちらかに当てはまる場合、フルスクラッチは割高になりがち

たとえば、開発費が3,000万円なら、年間保守費は450万〜600万円、月あたりでは37万〜50万円程度です。加えて、サーバ・インフラ維持費もかかり、写真データが増えやすい現場ツールでは特に注意が必要です。

法改正や制度変更のたびに、改修費も加わります。そのため、現場数・作業員数と利用年数を踏まえて、数年分の総コストを試算して比べる必要があります。

ポイント

開発費だけでなく、保守費やサーバ費を含めた数年分の総コストで比べます。見積もりは要件定義とデータ移行に十分な工数があるかを見たうえで、SaaSとの費用差も確かめます。

現場運用ツールならではの作り込みの勘所

ハイブリッド構成を標準機能、独自要件、連携の3層で示した図解。
標準機能と個別開発部分を連携させて構成します。

機能の実装に加えて、現場で使われるための作り込みが成否を分けます。勘所は、使い勝手とハイブリッド構成の二つです。

現場で使われる使い勝手と非機能要件

フルスクラッチは自社運用に合わせられる一方で、現場に受け入れられる使い勝手も一から作る必要があります。市販アプリには、多くの現場で磨かれた操作性があります。

  • 操作性:ITに不慣れな職人が、足場の上でも片手で直感的に使えること
  • 入力負担:日報や写真の入力手数が、現場の負担になりすぎないこと
  • 通信・記録:オフライン入力と自動同期、GPS打刻の精度を設計
  • 写真・権限:電子小黒板の改ざん検知と、協力会社の社外アカウントの扱い

公共工事では一般論として、JACICのデジタル写真管理情報基準への適合が求められる場合があります。また、社外アカウントには権限管理も必要です。

これらの非機能要件は技術的な難易度が高く、機能以上に工数がかかります。そのため、要件定義や試作で現場を検証し、使い勝手と非機能要件への投資を惜しまないことが成功の鍵です。

さらに、機能を盛り込みすぎると使い勝手を損ねて、現場で使われない事態も起こりえます。

ハイブリッド構成という現実的な折衷案

フルスクラッチかSaaSかの二者択一で迷う場合は、ハイブリッド構成が現実的な折衷案です。

工程表や日報は、標準機能で足りるならサクミルや現場ポケットなどのSaaSを使います。写真や現場チャットも、同じ考え方で標準のSaaSに任せられます。一方、独自の出面集計や原価連携、既存の基幹・勤怠システムとの連携は個別に開発します。

  • 標準機能:既存SaaSに任せて現場へ定着させる
  • 独自要件:標準で実現できない範囲だけを自社開発する
  • 連携:SaaSと個別開発部分をAPIなどでつなぐ

全体を作る場合に比べて、開発費と保守費を抑えられます。現場が直接触れる機能には、操作性の磨かれたSaaSを使える利点もあります。さらに、SaaS部分の法改正対応もベンダーに任せられます。

独自性を守りながら費用と保守負担を抑えたい建設企業には、独自性・コスト・現場定着のバランスを取りやすい構成です。特に、標準に任せる範囲を見極めることが投資対効果を高めます。

ポイント

現場に使われるかどうかが成否を分けるため、操作性や非機能要件に工数を割けるかを見ます。機能を盛り込みすぎると使われなくなるおそれもあるので、標準に任せる部分の線引きが欠かせません。

フルスクラッチ開発のベンダー選定のポイント

フルスクラッチ開発のベンダー選定で確認する納品範囲、建設分野の実績、契約条件、段階開発への理解を並べた図解。
契約前の確認項目をそろえると、納品後の支援まで比較できます。

開発会社(ベンダー)の選定は、フルスクラッチ開発の成否を左右します。工事管理システムを任せる会社は、価格だけでなく、品質や納品範囲、稼働後の保守も見て選びます。

納品範囲・建設分野の実績・契約条件の確認

まずは見積もりの工数内訳を確かめます。要件定義から移行までの各工程に、どれだけ工数と費用を見込んでいるかが、妥当性を判断する材料です。

  • 納品範囲:設計書・ソースコード・テスト仕様書を含むか
  • 建設分野の実績:現場運用ツールの開発経験があるか
  • 契約条件:保守SLAと追加開発の費用条件が明確か
  • 見積もり:RFPを作成し、2〜3社から相見積もりを取る

設計書やソースコード、テスト仕様書が手元にないと、他社へ保守や改修を頼めず、同じベンダーへの依存が続きます。

出面管理や安全書類の知見がある会社なら、要件定義が進みやすく手戻りも減ります。電子小黒板や勤怠・原価連携の経験もあわせて確かめるとよいでしょう。

SLA(サービス品質保証)や追加開発費が曖昧なままだと、稼働後に想定外の請求が重なるおそれがあります。そのため、価格だけでなく、提案内容や実績、契約条件を合わせて評価することが欠かせません。

現場を巻き込む伴走姿勢と段階開発への理解

現場運用ツールは、現場に定着するかどうかで成否が決まります。本社の要望だけで全機能を一気に作ると使われないリスクが高まるため、現場が参加する段階開発に理解がある会社を選びます。

  • 試作検証:モックアップやプロトタイプで現場の使い勝手を確かめる
  • 段階リリース:写真・日報から始め、定着後に工程表・安全書類へ広げる
  • 稼働後の支援:現場からの問い合わせに応じ、運用定着を支える

現場からのフィードバックを設計に反映できれば、予算内で価値を出しながらシステムを育てられます。一方で、要件を固めたら作るだけという姿勢や、現場実務への関心が薄い会社には不安が残ります。

フルスクラッチは、納品で終わらず現場に根づかせて改善し続ける長い取り組みです。だからこそ、技術力や実績に加えて、自社の現場を理解し、ともに育てる姿勢が成功の決め手になります。

ポイント

見積もりの工数内訳と納品範囲、契約条件を照らし合わせ、価格に加えて提案内容と実績も含めて評価します。設計書やソースコードが手元に残るかどうかで、稼働後に他社へ保守を頼めるかが左右されます。

まとめ

ここまで、方式の違いと費用、現場での作り込みを見てきました。さらに、ハイブリッド構成とベンダー選定も取り上げました。

フルスクラッチは、独自の日報や出面集計、安全書類に合わせられるうえ、既存システムとも連携できます。ソースコードも自社資産にできます。一方で、費用や保守の負担が大きく、法改正への対応も自社の責任になります。

初期費用は1,000万円〜数億円、年間保守費は開発費の15〜20%が目安です。独自性が高くない場合は、初期費用が無料〜数十万円、月額4,000円〜2万円程度で始められるSaaSが合理的です。

現場の基本機能はSaaSに任せ、独自性の高い部分だけを開発するハイブリッド構成なら、独自性とコスト、現場定着のバランスを取れます。標準に寄せられる範囲と譲れない要件を整理しておくと、判断がぶれにくくなります。

まずは、現場運用のどこに独自性があり、どこが標準機能で足りるのかを整理します。そのうえで、複数の開発会社に相談する方法もあります。

工事管理システムは現場を回す道具です。自社専用なら何でもできると考えるより、標準に寄せ、譲れない要件と使いやすさ・定着を重視して選ぶのが現実的です。

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会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。