災害対策(DR)システムの発注・外注では、守る業務と許容停止時間を先に決め、標準化できるバックアップ・レプリケーションはSaaSやクラウドサービス、独自の復旧手順や連携は個別開発に分けることが成功の近道です。
「バックアップを取っていれば安心」と考えて発注すると、業務影響度分析(BIA)、RTO・RPOの合意形成、依存関係の洗い出し、復旧訓練、有事の責任分界まで設計できず、後から追加費用や復旧できないリスクが発生しやすくなります。本記事では、災害対策(DR)システムを発注・外注・委託する担当者に向けて、発注形態の選び方、RFPと要件の整理、契約形態、費用相場、委託先の選定、見積比較までを順番に解説します。
▼全体ガイドの記事
・災害対策(DR)システム開発の完全ガイド
災害対策(DR)システムとは何ですか?

災害対策(DR)システムとは、自然災害だけでなくランサムウェアやクラウド障害などで本番環境が停止した際に、重要なデータと業務システムを別拠点・別リージョンへ切り替え、事業を再開するための仕組みです。単なるバックアップと違い、アプリケーション、インフラ、ネットワーク、運用手順まで含めて「復旧を実行できる状態」にする計画・設計・訓練までを含みます。
発注前に守る業務と許容停止時間を決めます
発注書やRFPの冒頭で「どの業務を、どこまでの時間で、どの程度のデータ損失まで許容して復旧するのか」を明記すると、ベンダーの見積範囲がぶれにくくなります。業務影響度分析(BIA)を行わずに「災害対策をしたい」とだけ伝えると、各社の前提がばらばらになり、価格の単純比較ができなくなります。
発注前には、現行資産の棚卸し(サーバー、データベース、アプリケーション、ネットワーク、DNS、認証、外部SaaS、委託先)と、想定する障害シナリオ(自然災害、ランサムウェア、設定ドリフト、認証基盤障害、委託先停止、クラウドリージョン障害)を業務図として整理します。担当者がExcelで補正している箇所や、通信断で電話や手作業へ切り替える手順まで可視化すると、単なる製品導入ではなく、業務を止めないためのシステム要件として整理できます。
データ所在地と委託・再委託の範囲も確認します
個人情報を委託先や再委託先で扱う場合は、個人情報保護委員会のガイドラインに沿って、委託先選定、契約上の安全管理措置、再委託の把握、監査・取扱状況の確認を行う必要があります(出典: 個人情報保護委員会「個人情報保護法ガイドライン(通則編)」)。一律に「DRシステムの導入」を義務付ける法律があるわけではなく、業界・データ種別・委託形態ごとの要件を確認することが重要です。データの保管先が国内か海外か、再委託先まで含めた所在地も、発注前に明確にしておきます。
災害対策(DR)システムの発注形態はどれを選ぶべきですか?

発注形態は、クラウドバックアップサービス、ノーコード/SaaS連携、ローコード・パッケージ活用、フルスクラッチ開発の順に自由度と負担が大きくなります。最初から全機能を自社専用にするのではなく、バックアップ・レプリケーションのように共通化しやすい領域と、業務固有の判断・通知・承認のように差別化したい領域を切り分けて選ぶことが重要です。
クラウドサービス・SaaSは短納期で始めたい場合に向きます
AWS Elastic Disaster RecoveryやAzure Site Recoveryのようなクラウドサービスは、遠隔リージョンへのレプリケーション、テスト起動、復旧起動を従量課金で利用でき、初期開発の負担を抑えやすい選択肢です。市場ルールや脅威動向が変わった際に、サービス提供者側の標準改修を利用できる点もメリットです。ただし、これらは基盤サービスであり、要件定義、設計、移行、運用までは自社かSIerが担う必要があります。
NEC Cloud IaaSのように、休止サーバーとポータル操作を組み合わせた月額制のDRサービスもあり、既存の物理サーバーやVMware環境を大きく変えずに導入しやすい選択肢です。RFPには標準機能と追加機能を分けて回答してもらい、月額料金に含まれる台数、データ量、サポート時間、訓練支援の範囲を確認してください。
個別開発・スクラッチは独自の復旧制御に向きます
独自の復旧手順の自動化、複雑な承認フロー、基幹系との厳格な整合性確認が競争力や事業継続の要になる場合は、個別開発やスクラッチ開発を検討します。独自ロジックを組み込める一方、要件定義、制度調査、性能試験、障害対応、改修予算、担当者の引き継ぎまで自社が継続して関与する必要があります。
スクラッチを選ぶ場合でも、レプリケーションや監視、バックアップまで全てをゼロから作る必要はありません。標準サービスを部品として使い、業務固有の判断・通知・連携だけをAPIで分離するコンポーザブルな構成にすると、将来の要件変更時の影響範囲を抑えやすくなります。設計書、手順書、データモデル、テスト資産を納品対象に含めることも、ベンダー依存を避けるポイントです。
発注前にRFPと要件を整理する方法

RFPは、ベンダーに機能一覧だけを渡す文書ではありません。どの業務を、どのデータで、何時間以内に、どの精度で復旧するのかを伝え、各社の提案条件をそろえるための文書です。発注側で決められない項目は「提案してほしい事項」として残し、必須条件と加点条件を分けてください。
業務要件は復旧順序と例外処理まで書き出します
業務要件には、対象業務、現行資産、業務ごとのRTO・RPO、復旧順序、縮退運転の可否、依存する外部サービスを含めます。特に「本番の設定変更が待機系に反映されない場合」「担当者が不在の場合」「複数障害が同時発生した場合」の手順を記載すると、現場で使える要件になります。
業務担当者だけでなく、情報システム、経理、法務、保安、セキュリティの関係者で確認することが大切です。復旧順序を決める際は、部門ごとの都合ではなく、事業全体への影響度から優先度をつけることで、有事に判断が割れることを防げます。
非機能要件は復旧時間・保存期間・セキュリティを数値化します
非機能要件には、RTO・RPO、バックアップ頻度、世代管理数、ログ保存期間、権限分離、暗号化、監視時間、サポート時間を記載します。「安全」「止まらない」と書くだけでは見積もりも受入試験もできないため、例えば復旧開始から何分以内に主要業務が使えるようになるかまで決めます。
セキュリティ要件では、IPA「情報セキュリティ10大脅威 2025」が示す3-2-1ルール(3つのコピー、2種類の媒体、1つは遠隔地保管)を基本にし、バックアップ用アカウントの分離、MFA、暗号化、イミュータブル(改ざん耐性)ストレージ、管理操作ログを要件に含めます(出典: IPA「情報セキュリティ10大脅威 2025 セキュリティ対策の基本と共通対策」)。ランサムウェアがバックアップ自体を狙うケースが増えているため、復元ポイントの選択やオフライン保管も確認します。
契約形態と開発の進め方をどう決めますか?

DRシステムでは、業務調査やBIAを行う前に詳細仕様を固定しにくいため、要件定義は準委任、仕様が確定した開発や成果物は請負とする組み合わせが使いやすい場合があります。契約形態の名前だけで判断せず、どの工程をどの責任で進め、何をもって完了とするかを工程ごとに定義してください。
準委任と請負の違いを成果物と責任で整理します
準委任は、専門家の知見や作業の提供を受けながら、発注者と受託者が協力して要件を具体化する工程に向きます。BIA、現行資産の棚卸し、方式比較、PoCなど、結果を事前に完全固定しにくい作業で使われます。作業時間だけを管理するのではなく、会議体、成果物、意思決定の期限、追加作業の承認方法を契約に記載してください。
請負は、合意したシステムや文書などの成果物を完成させ、検査・受入を行う工程に向きます。復旧手順の自動化、テスト結果、運用設計書、復旧訓練の手順書、データ移行結果などを納品物に分け、検収基準を明確にします。復旧テストで基準を満たさなかった場合の追加対応や瑕疵の範囲も決めておくことが大切です。
企画から本番移行までを六つの段階で管理します
進行は、第一に対象業務と災害シナリオの決定、第二にBIAによるRTO・RPOの合意形成、第三に現行資産の棚卸し、第四に方式比較とPoC、第五に設計・開発・テスト、最後に本番移行と復旧訓練という順で管理します。各段階の終了条件を決め、要件が残ったまま次の工程へ進まないようにしてください。
開発期間は、クラウドバックアップ中心の小規模整備で数週間〜2か月、ノーコード/SaaS連携で1〜4か月、ローコード・パッケージ活用で2〜5か月、フルスクラッチ・基幹連携で6か月〜1年以上が一つの目安です。これはシステム開発だけの期間であり、復旧訓練の設計と実施は別に見積もります。
災害対策(DR)システムの費用相場と内訳

DR専用開発の全国一律の公的な相場は公開されていません。以下は、公開されている提供形態、リサーチ情報をもとにした2026年時点の概算・推定レンジです。正式な見積ではないため、RFPでは条件をそろえて複数社から取得してください(出典: NotebookLMリサーチノート、公開情報をもとにした2026年時点の概算・推定)。
導入パターン別の費用相場を把握します
クラウドバックアップ等の小規模整備は初期費用50万〜100万円、期間は数週間〜2か月です。ノーコード/SaaS連携は100万〜800万円、1〜4か月、ローコード・パッケージ活用は300万〜1,500万円以上、2〜5か月が目安になります。複雑な基幹系と独自の復旧制御を含むフルスクラッチ・基幹連携は800万〜3,000万円以上、6か月〜1年以上と見込まれます。
運用費は初期費用の年15%前後を置く慣行的な目安がありますが、クラウドの従量料金や24時間運用の有無で変動します。AWS Elastic Disaster Recoveryは100台・30TB構成の月額合計例が6,389.03米ドル、NEC Cloud IaaSは仮想サーバー5台・10Mbps回線で月額35万円〜と公開されており(出典: AWS「Elastic Disaster Recoveryの料金」、NEC「Cloud IaaS DRサービス」、いずれも2026年確認)、方式によって運用費の水準が大きく異なることが分かります。
見積書では開発費を工程と機能に分けます
見積書には、要件定義・BIA、業務設計、レプリケーション設計、復旧手順の自動化、外部接続、データ移行、権限・監査ログ、性能試験、セキュリティ、教育、復旧訓練を別項目で記載してもらいます。機能単位だけでなく、設計、実装、テスト、管理、移行の工数が含まれるかも確認してください。
見積比較で最も注意したいのは、安い提案の中に要件定義、結合試験、復旧訓練、24時間サポート、制度改定対応が含まれていないケースです。含む・含まない・別途見積の三つに分け、追加費用が発生する条件を確認してください。
委託先の選定と見積比較で確認すべきポイント

委託先は、知名度や提示価格だけで選ばず、DR実績、外部接続の経験、試験と運用の体制、セキュリティ事故対応力を総合的に比較します。稼働後に復旧訓練を継続できることが重要なため、開発時の技術力だけでなく、保守・障害対応・訓練支援まで同じ担当者が説明できるかを見てください。
DR実績・連携・運用の三つの経験を確認します
第一に、同規模・同業種でのDR構築実績と、RTO・RPOを満たす設計根拠があるかを確認します。第二に、既存システムやネットワークとの連携を設計・運用した経験を確認します。第三に、24時間監視、障害時の一次切り分け、復旧訓練の設計、制度改定のリリース管理を誰が担うのかを確認します。この三つは別の会社や別の再委託先に分かれる場合があるため、体制図を提出してもらうと安心です。
実績を確認するときは、単に「DRに強い」と聞くのではなく、対象業務、最大データ量、障害事例と再発防止策、復旧訓練の頻度、導入後のサポート窓口を質問します。可能であれば、匿名化した運用設計書の目次や、復旧訓練の報告書サンプルを見せてもらい、提案書の抽象的な表現を具体化してください。
責任分界と撤退時のリスクまで契約します
DRシステムでは、外部サービスの障害、通信事業者の障害、設備側の不具合、担当者の操作ミスが同時に起こる可能性があります。どの事象をベンダーの責任とし、どの事象を発注者や外部サービスの責任とするか、検知、連絡、暫定対応、復旧、再発防止、費用負担の流れをSLAと運用手順書に落とし込みます。
さらに、委託先を変更する場合に備えて、データを標準形式で取り出せるか、設計書と手順書を受け取れるか、ソースコードの利用権があるか、移行期間に旧システムを使えるかを確認します。安価な初期費用でも、解約時にデータが取り出せず、同じ会社へ依存し続けるなら、長期的な総保有コストは高くなります。ベンダーロックインと撤退時のデータ移行方法は、契約前に必ず確認してください。
よくある質問(FAQ)

最後に、災害対策(DR)システムの発注・外注で特に質問されやすい内容をまとめます。費用や期間は対象業務、既存環境、可用性の条件によって変わるため、ここでは判断の基準を示します。
DRシステムの発注費用はいくらですか?
小規模なクラウドバックアップ整備で50万〜100万円、ノーコード/SaaS連携で100万〜800万円、ローコード・パッケージ活用で300万〜1,500万円以上、フルスクラッチ・基幹連携で800万〜3,000万円以上という概算・推定レンジがあります。いずれも公開価格ではなく、対象業務や可用性、連携範囲によって変わります。
委託先は何社に見積依頼すべきですか?
まずは、クラウド基盤サービス、既存インフラとの親和性が高いベンダー、複雑なハイブリッド環境に対応できるベンダーを比較できるよう、3〜5社程度へ同じRFPを提示すると比較しやすくなります。必須要件を満たす会社に絞り、PoCや復旧訓練のデモで通常処理と異常処理を確認してください。
発注から稼働まで何か月かかりますか?
クラウドバックアップ中心なら数週間〜2か月、ノーコード/SaaS連携なら1〜4か月、ローコード・パッケージ活用なら2〜5か月、フルスクラッチ・基幹連携なら6か月〜1年以上が一つの目安です。稼働希望日から逆算し、システム開発だけでなく、復旧訓練の設計と実施を含めた全体工程で計画することが重要です。
有事の責任分界は契約前にどこまで決めればよいですか?
検知、連絡、暫定対応、復旧、再発防止、費用負担の流れを、SLAと運用手順書の両方に落とし込むことが望ましいです。特に、担当者不在時の代替手順、通信断時の切り替え方法、複数障害が同時発生した場合の優先順位は、契約前に具体的な数値と役割分担で合意しておくと、有事の混乱を防げます。
まとめ

災害対策(DR)システムを発注・外注するときは、最初に守るべき業務、許容停止時間、データ損失、データ所在地、委託・再委託の範囲を決めます。そのうえで、BIA、資産棚卸し、方式比較、PoC、復旧訓練を含む業務フローに落とし込みます。
発注前に対象範囲と優先順位を確認します
対象業務、データ量、RTO・RPO、既存システムを決め、最初のリリースで必須の機能と将来追加する機能を分けます。標準化できるバックアップ・レプリケーションはクラウドサービス、独自の復旧制御は個別開発とする考え方が、納期と費用の両方を管理しやすくします。
見積と運用を一体で判断します
RFPには復旧時間、可用性、監査ログ、BCP、セキュリティ、試験、教育、保守SLA、責任分界を記載し、見積もりは初期費用だけでなく回線、監視、訓練、改修、運用を含む総保有コストで比較してください。
最後に、開発会社の納期だけで稼働開始日を決めないことが重要です。BIA、資産棚卸し、PoC、結合試験、復旧訓練、担当者教育まで含めて計画し、脅威動向の変化にも継続的に対応できる体制を契約で確保すると、長く安定して使える災害対策(DR)システムになります。
▼全体ガイドの記事
・災害対策(DR)システム開発の完全ガイド
会社紹介
株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

もし、システム開発やプロダクト開発に関するご要望がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
・サービス概要資料のURLはこちら >>>
・お問合せページのURLはこちら >>>
・お役立ち資料のURLはこちら >>>


株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
