電子契約システム開発のフルスクラッチ・オーダーメイド開発について

電子契約は、紙の印刷・押印・郵送をインターネット上の電子署名に置き換える仕組みです。フルスクラッチ開発は、自社の締結フローに合わせてゼロから作る方法で、初期費用は最低500万円以上です。

方式は証拠力・連携・業務適合で選び、多くはSaaSで足ります。

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電子契約システムのフルスクラッチ開発とは

電子契約システムのフルスクラッチ開発は、既製のSaaSやパッケージを使わず、自社の締結フローや連携要件に合わせてゼロから設計・開発する方法です。この方式では、電子署名、タイムスタンプ、本人確認などを自社仕様で実装します。そのため、法制度と暗号技術に対応する専門性が欠かせません。

契約書の保管・検索だけなら、一般的なデータベースと検索機能で構築できます。一方で、契約を締結するには、電子署名法と電子帳簿保存法の要件を満たす署名が必要です。

さらに、証拠力を長期に維持する技術も欠かせません。このため、フルスクラッチは一般的なシステム開発より難易度が高くなり、SaaSで満たせない明確な要件がある場合に検討する選択肢になります。

フルスクラッチが必要なケースとSaaSで足りるケースの線引き

導入目的と要件の複雑さを確認し、SaaSで満たせる範囲を先に見極めます。承認ルートが標準的で、導入速度と費用を重視する企業には、SaaSが向いています。

  • SaaSが向く場合:最短即日〜数週間で導入でき、初期費用0円、月額数百円〜数万円程度で始められる
  • 法改正対応を任せたい場合:電子帳簿保存法などの改正に伴う改修を、月額料金の範囲内でベンダーに任せる形
  • フルスクラッチを検討する場合:SaaSや大企業向け製品で対応できない特殊業務、独自承認、販売管理・会計との高度連携が必要

特殊な要件がなく標準的な締結フローで足りるなら、高額な費用と長い期間をかける必要はありません。まずは、SaaSで満たせない要件があるかを確認します。

契約管理システムのフルスクラッチとの違い

契約管理システムは保管や期限管理を担い、電子契約システムは契約の締結と法的有効性を支えます。

  • 契約管理システム:契約書の登録と保管、契約種別や相手先による検索、満了日の通知、既存契約書のデータ移行
  • 電子契約システム:電子署名、タイムスタンプ、認定タイムスタンプ局や公開鍵基盤(PKI)との連携、本人確認(eKYC)

両者は、契約業務の流れの中で併用できます。たとえば、電子契約システムで締結した契約書を契約管理システムに渡し、保管や期限管理を任せる形です。

ポイント

自社の要件がSaaSで満たせるかを先に確かめ、それでも足りない明確な要件があるときに限って、フルスクラッチを検討するのが判断の目安です。

フルスクラッチで実装が必要な要素と法要件

電子署名やタイムスタンプなど、締結後の証拠力を支える4つの技術要素を示した図解。
署名から長期保管まで、異なる技術が証拠力を支えます。

自社開発では、一般的なシステム機能に加えて、法的要件を満たす専門技術が必要です。これは、契約を保管するシステムにはない、締結システム固有の要素です。

実装内容は、暗号技術に関する要素と、法制度への準拠やワークフローに関する要素に分けて整理できます。

電子署名・タイムスタンプ・PKI・認定TSA連携の実装

法的有効性を担保する暗号技術の実装は、フルスクラッチの中でも難易度の高い領域です。開発では、本人性と非改ざん性を証明する仕組みを正しく設計します。

  • 電子署名:本人が電子証明書(ICチップ入りカード等)で署名する当事者型と、事業者がメール認証等で代行する立会人型。両方の型の実装も可能
  • タイムスタンプ:データの作成日時を記録し、その後変更されていないことを証明
  • 認定TSA・PKI:総務大臣等の認定を受けた認定タイムスタンプ局との連携や、公開鍵基盤を用いる暗号化
  • 長期署名(LTV):通常の電子証明書の有効期限である数年程度を超えて、契約の証拠力を維持する形式

これらを独自に実装するには、暗号技術の組み込み、法要件の確認、認証テストの専門知識が必要です。特に、認定TSA連携やPKI、長期署名の実装は、開発を数ヶ月単位で長期化させる要因になります。

実装に不備があると、締結した契約書が法的な証拠力を持たないおそれがあります。このため、慎重な設計と検証が必要な領域です。

eKYC・電子署名法/電子帳簿保存法への準拠と締結ワークフロー

暗号技術のほかにも、本人確認、法規制への準拠、締結ワークフローを実装します。それぞれの要件に応じて、必要な仕組みを選ぶことになります。

  • 本人確認:簡易なメール認証、または身分証・顔写真を使うオンライン本人確認(eKYC)
  • 電子署名法:本人性と非改ざん性を担保
  • 電子帳簿保存法:電子署名・タイムスタンプによる真実性と、後から探せる可視性を確保
  • 締結ワークフロー:社内承認後に相手方へ署名を依頼し、締結完了までを業務プロセスに合わせて設計

厳格なeKYCを導入する場合は、本人確認サービスとのAPI仕様を調整し、収集した個人情報を暗号化して安全に保管する必要があります。

電子帳簿保存法では、取引年月日・取引金額・取引先で検索できる状態で保存することが求められます。この要件を満たさないと、税務上の要件を欠くおそれがあります。

まず法的な中核機能を正しく実装し、そのうえで自社固有の承認フローや基幹連携を組み立てます。独自ワークフローの実現が、フルスクラッチを選ぶ主な目的になる場合もあります。

ポイント

電子署名、タイムスタンプ、eKYCは、契約の法的な有効性に直結する部分です。ここに不備があると証拠力が揺らぐため、設計と検証を慎重に進められるかを判断の目安にします。

フルスクラッチ開発の費用相場と体制

フルスクラッチでは、一般的な開発費に加えて、暗号技術や法要件に対応する専門性が必要になります。体制と費用相場を中心に、期間や技術的難易度も確認します。

開発体制と費用相場

電子署名などの専門知識を持つ人材を確保するとともに、基幹システムなどとの連携範囲に応じて初期費用を見込む必要があります。

  • 基本体制:ディレクター1名、デザイナー1名、エンジニア2名程度が最低限必要
  • 初期費用:最低500万円以上。高度な基幹・認定タイムスタンプ局・eKYC連携や複雑な機能を含むと、数千万円以上になる場合もある
  • SaaSとの比較:SaaSは月額数千円〜数万円で始められ、フルスクラッチの初期投資は大きい

一般的な開発スキルに加えて、電子署名、タイムスタンプ、PKIに精通した専門エンジニアも必要になる可能性があります。そのため、専門人材の確保が開発の難しさにつながります。

まず、SaaSでは実現できない要件や、業務効率化の効果が投資に見合うかを確認します。「自社専用のシステムが欲しい」という理由だけでは、効果が投資に見合わないおそれがあります。

開発期間と技術的難易度

独自の締結フローや高度なセキュリティ要件をゼロから設計するため、開発には半年〜数年単位を要します。期間を左右するのは、暗号技術と法要件への対応です。

  • 認定TSA・長期署名:API連携やPAdESなどの独自実装に、暗号技術、法要件、認証テストの対応が必要
  • eKYC:外部ベンダーとのAPI調整、セキュリティテスト、個人情報の安全な保管設計が必要
  • 法的有効性:契約を証拠として通用させるため、暗号技術で有効性を確実に担保する必要

認定TSAとのAPI連携やPAdESなどの実装は、開発を数ヶ月単位で長期化させる要因です。さらに、eKYCも設計・開発・テストの期間を延ばします。

一般的な機能と異なり、署名やタイムスタンプに不備があれば、締結したすべての契約の法的有効性が揺らぐおそれがあります。そのため、入念なテストが欠かせず、慎重な進行が必要です。

ポイント

費用は、専門人材を確保できるか、連携範囲がどこまで広がるかで大きく変わります。そのうえで、SaaSの月額料金と初期投資の差を比べることが判断の目安です。

フルスクラッチのリスクとハイブリッド案

SaaS+API連携を中心に、法対応と署名機能、自社独自のAPI連携や承認フローを配置した図解。
法対応と暗号技術を任せ、自社業務への適合を加える構成です。

フルスクラッチは、開発時だけでなく運用面にもリスクがあります。法改正への長期的な対応負担と、現実的な代替案を合わせて見ていきます。

法改正対応コストと運用保守の負担というリスク

フルスクラッチの運用負担は、法改正対応と要件の膨張に表れます。SaaSとの違いも含めて確認します。

  • 法改正対応:電子帳簿保存法や電子署名法の改正ごとに、自社負担で大きな費用と期間をかけて改修
  • SaaSとの違い:ベンダーが法改正対応を月額料金の範囲内で行う
  • 長期の負担:電子帳簿保存法は近年たびたび改正され、対応を続けることが重大なコスト要因になる
  • 要件の膨張:自社仕様を際限なく盛ると開発が泥沼化し、予算・期間が当初計画を超えるケースも少なくない

初期費用だけでなく、法改正対応を含む長期の運用保守費用まで見て、総保有コストで判断することが大切です。この負担を抑える案として、ハイブリッドがあります。

SaaS+API連携のハイブリッド案

法的な署名機能はSaaSに任せ、自社独自の承認フローや連携機能を組み合わせる構成です。

  • SaaSに任せる機能:法対応や暗号技術が必要な電子署名・タイムスタンプ
  • 自社で作り込む機能:基幹システムやワークフローとのAPI連携、独自の承認フロー
  • 費用例:クラウドサインまたは電子印鑑GMOサインとの連携オプションは、1環境あたり月額30,000円程度

難易度やリスクの高い機能を専門ベンダーに委ねれば、自社業務への適合を、より低い費用とリスクで目指せます。数千万円のフルスクラッチと比べると、SaaSの基本料金と月額数万円の追加費用で連携できます。

法改正への対応は、SaaS側が自動で行います。独自要件があっても、フルスクラッチだけが答えとは限りません。まずはハイブリッドで要件を満たせるかを検討します。

ポイント

法改正への対応を自社で抱え続けるかどうかが、大きな分かれ目です。法対応はSaaSに任せ、自社固有の連携だけを作り込むハイブリッド案を先に検討すると、判断しやすくなります。

電子契約システムの開発方式を選ぶ判断基準

無料トライアルから要件の境界整理、試作、実現可能性とROIの確認へ進む事前検証の流れ。
本開発の前に、要件と実現可能性を段階的に確かめます。

方式の選択を誤ると、過剰な投資や要件未達につながります。そのため、自社の状況を確認したうえで、SaaS・ハイブリッド・フルスクラッチのいずれかを選びます。

求める証拠力・連携要件・業務適合の3軸による見極め

証拠力は本人確認や長期署名の水準、連携要件は基幹・ワークフローとの連携範囲、業務適合は締結フローの特殊さで見ます。

  • 求める証拠力:標準的な立会人型署名とタイムスタンプならSaaS、厳格な本人確認も対応する専門SaaSがある
  • 連携要件:連携不要・軽微ならSaaS単体、稟議や基幹システムとの密接な連携ならSaaS+API
  • 業務適合:標準ルートならSaaS、既存の仕組みで組める独自フローならハイブリッド、既製品で実現できない特殊なフローならフルスクラッチ

多くのケースでは、SaaSかハイブリッドで要件を満たせます。フルスクラッチが候補に残るのは、3軸すべてで既製品の限界を超える事情がある場合に限られます。

PoCによる実現可能性の事前検証

フルスクラッチやハイブリッドを選ぶ場合も、PoC(概念実証)で実現可能性を確かめてから進めます。いきなり本開発に着手しないことが、失敗を避けるための要点です。

  1. 既製SaaSの無料トライアルで、自社の締結フローと取引先の反応を確かめる
  2. 標準機能で満たせる範囲と、自社固有の開発が必要な要件の境界を明確にする
  3. 必要ならモックアップやプロトタイプを作り、独自ワークフローや認定タイムスタンプ局・eKYC連携を先に検証する
  4. 実現可能性とROIを確認してから、必要な開発方式を選ぶ

この検証で、フルスクラッチが必要か、ハイブリッドで足りるかが見えてきます。技術的に難しい部分を先に確認すれば、開発中の手戻りや予算超過を抑えられます。

法要件や暗号技術が関わるため、問題が開発後に見つかると修正費用が大きくなります。だからこそ、事前検証の価値は特に高い領域です。

ポイント

証拠力、連携要件、業務適合の3軸で既製品の限界を超える事情が重なるかどうかが、フルスクラッチの要否を決めます。判断に迷うときは、PoCで実現可能性を確かめてから本開発に進むのが安全です。

まとめ

SaaSで足りる条件から、方式の判断基準までを順に整理しました。

電子署名やタイムスタンプ、PKIなどの暗号技術に加え、eKYCと法令への準拠が必要です。費用は最低500万円以上で、機能が複雑な場合は数千万円以上になることもあります。期間も半年〜数年に及びます。

最大のリスクは、法改正のたびに自社で改修を続ける負担です。一方、SaaSなら月額料金内で、法改正への対応が自動で行われます。

方式は、証拠力、連携要件、業務適合の3軸で選びます。多くの場合はSaaSかハイブリッドで要件を満たせます。

近年は、電子署名・タイムスタンプ・法対応をSaaSに任せ、自社固有の部分だけをAPIで連携するハイブリッド案が主流です。

フルスクラッチやハイブリッドを選ぶ場合は、PoCで実現可能性とROIを検証してから進めます。また、締結した契約書の長期保管や期限管理には、契約管理システムを併用するのが一般的です。

まずは自社要件を3軸で整理し、そのうえで、複数の開発会社やSaaSベンダーに相談します。

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株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。