GCP導入/構築のフルスクラッチ・オーダーメイド開発について

GCPのフルスクラッチ開発では、要件の独自性、開発体制、マネージドサービスの活用範囲を見極めて設計することで、費用対効果と運用性を高められます。

適するケースから、体制と方式の選び方、設計の注意点、費用と発注までを順に見ていきます。全体像は、次の記事にまとめています。

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GCPにおけるフルスクラッチ・オーダーメイド開発の位置づけ

フルスクラッチ開発を中央に置き、実行基盤、データ・設計、既製の活用の3面と本文中の例を注釈した図。
自前で組む範囲と既製サービスに任せる範囲を分けて考えられます。

フルスクラッチ・オーダーメイド開発の定義

フルスクラッチは、既存パッケージ、ノーコード/ローコード、SaaSテンプレートを使わず、要件に沿ってゼロから設計・実装する方法です。GCPでは、各種の基盤やネットワーク、権限を自由に組み合わせられます。そこで、自前で組む範囲は、実行基盤、データ・設計、既製の活用の3つの面から見ていきます。

  • 実行基盤:Compute Engine、GKE(Google Kubernetes Engine)、Cloud Run、Cloud Functions
  • データ・設計:Cloud SQL、Cloud Spanner、BigQuery、VPC、IAM
  • 既製の活用:ノーコードツール、SaaSテンプレート、Cloud SQLやBigQueryなどのマネージドサービス

既製の方法は、短期間・低コストで立ち上げやすい一方で、独自業務や複雑な要件には限界があります。なお、オーダーメイド開発は、要件定義から独自仕様で作る点でフルスクラッチとほぼ同じ意味です。既製品のカスタマイズとは区別されます。

既製の枠で要件を満たせるか、独自性が必要かを、まず見極めます。要件の定義が曖昧なままだと、既製サービスで足りる案件にも不要な工数や費用をかけるおそれがあります。

フルスクラッチが適するケース

フルスクラッチは費用と期間がかかるぶん、既製品では満たせないセキュリティ要件や複雑な連携がある場合に選ぶことに合理性があります。

  • 厳格な要件:金融・医療機関などで独自の監査ログやアクセス制御が必要
  • 複雑な連携:複数サービスを分割し、GKEで制御するマイクロサービス構成
  • 既製品で十分:一般的な業務システムやサービスの組み合わせで要件を満たせる

特に金融・医療機関では、一般的なWebシステム以上に高度で厳密なセキュリティ・コンプライアンス要件が求められます。

複雑な連携の典型例は、複数サービスを業務ドメインごとに分け、GKEで管理する構成です。通信やデータ整合性を細かく制御する場合は、既製品では対応できず、独自設計が必要になることがあります。

既存SaaSやマネージドサービスで要件を満たせるなら、フルスクラッチの必然性は低くなります。そのため、費用と期間の面でも、マネージドサービスを活用するほうが合理的な選択になることが多いです。

ポイント

判断の目安は、既製の枠で要件を満たせるかどうかです。既製品で満たせない独自性の部分にだけ、フルスクラッチを使う形を検討します。

内製開発とSIer・外部委託の違い

開発体制は費用対効果を左右します。内製と外部委託、それぞれの利点と課題を踏まえ、専門性や運用後の体制から選びます。さらに、両者を組み合わせる方法もあります。

内製開発のメリット・デメリット

内製体制を検討するときは、社内に残る知見と人材育成の負担を合わせて見ます。

  • 外部費用:長期的に外部への支払いを抑えやすい
  • 社内知見:GCPの設計・運用ノウハウが社内に蓄積する
  • 専門人材:採用・育成に相応のコストと時間がかかる
  • 手戻り:経験が浅い体制では設計のやり直しで長期化するリスクがある

社内エンジニアは業務背景を把握しているため、仕様変更や機能追加にも柔軟に対応できます。その結果、コミュニケーションコストも抑えられます。

一方で、高度なアーキテクチャ設計、GKEのコンテナ管理、BigQueryのデータ基盤には専門性が必要です。さらに、Google Cloud認定資格を持つ人材は需要が高く、採用競争も激しい状況です。

内製を選ぶ場合は、既存メンバーのスキルを客観的に把握するとともに、育成にかけられる時間を現実的に見積もります。

外部委託のメリット・デメリットとハイブリッドアプローチ

外部委託の体制は、専門知識をすぐ使えるか、社内に知見が残るか、費用のバランスが取れるかの3点で比べられます。

  • 外部の専門性:GCPの知識や実装経験を活用し、管理負担も委託できる
  • 全面委託:内製より高費用になりやすい
  • ハイブリッド:中核業務は内製し、専門領域は外部に任せる

GKEのマイクロサービス構築やBigQueryの分析基盤では、経験豊富な外部パートナーの知見が役立ちます。一方で、全面委託では、開発で得た知識が自社に十分残らないことも課題です。

具体的には、自社の業務やサービスの中核ロジックを内製し、高度なGCP設計、セキュリティ実装、リソース階層の整備は外部に委託します。

この分担なら、立ち上げの速度と品質を確保しやすくなります。加えて、リリース後の運用や改善を自社で主導する体制も育てられ、費用対効果の面で最も評価される方法です。

ポイント

内製は社内の知見が残る一方で、専門人材の採用と育成に時間がかかります。中核は内製し、専門領域を外部に委託すると両立しやすくなります。

マネージドサービス・テンプレート活用との比較

フルスクラッチを検討するときは、マネージドサービスやテンプレートと比べて考えます。費用面と、実行基盤にGKEかCloud Runを選ぶ考え方を、順に見ていきます。

フルスクラッチと定型サービス活用のコスト比較

独自に作る範囲と既製機能に任せる範囲の線引きが、開発費やインフラ管理の工数を左右します。

  • ノーコード活用:エンタープライズ向けSaaS開発で250万〜600万円程度のケースがある
  • フルスクラッチ:同等機能でも数倍以上のコストになることがある
  • マネージド活用:インフラ構築・管理の工数を減らしやすい

テンプレートやマネージドサービスは、動作確認済みの実装を提供します。一方で、フルスクラッチでは、その実装を要件定義から設計、コーディング、テストまでの工程を経て一から作ります。

GCPでは、Compute Engine上に基盤を自作する代わりに、Cloud SQL、BigQuery、Cloud Runなどを使えます。そのため、インフラの構築や管理の工数を大幅に減らせます。

独自性が必要な中核ロジックだけを作り、周辺機能はマネージドサービスに任せる方法もあります。部分的なフルスクラッチ設計は、費用対効果を高める現実的な選択肢です。

GKEとCloud Runのアーキテクチャ選択

マイクロサービスの実行基盤は、システムの性質に合わせて選びます。判断材料になるのは、連携の複雑さとアクセスの変動性です。

  • GKE:複雑な連携や細かなネットワーク制御、スケーリング調整に向く
  • Cloud Run:間欠的なアクセスのサービスやAPIに適する
  • 併用:高負荷のコアはGKE、変動する周辺機能はCloud Runで動かす

GKEはKubernetesベースのコンテナ管理基盤です。ただし、クラスタの設計や運用には専門知識が要ります。

GKEは運用の自由度が高い反面、常時稼働を前提とする費用も発生します。

これに対し、Cloud Runは、コンテナをサーバーレス環境で動かし、リクエストがない間はインスタンスをゼロにできます。また、運用負担が小さく、GKEより立ち上げも容易です。

基盤をアクセス特性に応じて分けると、運用費と開発の柔軟性を両立しやすくなります。

ポイント

フルスクラッチは既製品より数倍以上の費用になることがあるため、独自性が必要な中核だけを作り、周辺機能はマネージドサービスに任せる形が現実的です。実行基盤は、連携の複雑さとアクセスの変動性で選びます。

リソース階層・アーキテクチャフレームワークを踏まえた設計のポイント

GCP設計の初期確認事項として、階層構成、環境分離、ガードレール、最小権限IAMを4枚のカードに示した図。
初期方針をそろえると、後からの変更範囲を抑えやすくなります。

自由度の高い開発では、設計判断を誤ると後の修正が難しくなります。そのため、初期の階層設計と設計レビューの進め方を押さえておく必要があります。

リソース階層・IAM設計を初期段階から組み込む重要性

フルスクラッチでは、アプリのロジックに加えて、GCPの階層とIAMも一から設計します。後から変えると負担が大きいため、初期の段階で管理方針を決めておきます。

  • 階層構成:Organization・Folder・Projectの設計
  • 環境分離:開発・検証・本番を分けるProject単位
  • ガードレール:Organization Policy Serviceの設定
  • 権限管理:サービスごとのIAMロールと最小権限

GCPのResource Managerで階層を設計した後に、環境分離やポリシーを変えると、影響範囲が広くなります。

複雑なマイクロサービスでは、各サービスに適切なIAMロールを割り当てます。最小権限で設計しないと、サービスが増えるにつれて権限管理が煩雑になり、セキュリティリスクも高まります。

開発の初期に階層とIAMへ工数を割いておくことが、自由度をセキュリティリスクに変えずに活かす前提になります。

アーキテクチャフレームワークによる設計レビューのタイミング

設計判断は、自社や委託先だけで閉じず、第三者の観点を取り入れて確認します。

  • 評価観点:オペレーショナルエクセレンス、セキュリティ/コンプライアンス/プライバシー、信頼性、パフォーマンス最適化、コスト最適化、AI/ML最適化
  • 実施時期:設計中、実装の中間地点、リリース前
  • 個別確認:BigQueryのデータ設計やAI API連携

Google Cloud公式のアーキテクチャフレームワークを使って、設計を評価します。この評価により、特定の領域への偏りや、後から判明すると高コストになる見落としを防ぎやすくなります。

レビューは、要件定義後の設計段階、実装中、リリース前など、節目ごとに行います。実装が進むほど変更の費用が上がるため、早い段階でのレビューほど効果が大きくなります。

AI/ML最適化の観点を加えると、GCPの強みを活かせます。

ポイント

階層とIAMは、開発の初期に設計しておくと後の変更負担を抑えられます。設計は、要件定義後や実装中、リリース前の節目ごとに、第三者の観点で確認すると効果が大きくなります。

費用の目安と発注のポイント

小規模の検証環境、中規模の業務支援システム、大規模案件の3区分と、それぞれの本文記載の費用範囲を並べた図。
規模が大きくなるほど、費用の見積もり幅も広がります。

発注するときは、費用と人月単価の目安を把握したうえで、契約時の確認事項を押さえます。

規模別の費用目安と人月単価

費用は規模により異なります。小規模の検証環境は20万〜30万円程度で、中規模の業務支援システムは、要件により60万〜920万円程度と幅があります。さらに、基幹システムやSaaS開発を含む大規模案件は、250万〜3,000万円以上です。

たとえば、クラウドERPなどの大規模導入では、1,000万円を超えるケースも珍しくありません。

開発費全体のおよそ80%は人件費とされています。クラス別の単価は、見積もりの人材構成を確認する目安です。

  • 初級:月額25万〜50万円
  • ミドル:月額50万〜80万円
  • シニア・アーキテクト:月額80万〜120万円以上

プロジェクト管理費用は、開発費全体の10〜20%程度が一般的な目安です。また、資格とGKE・BigQueryの設計経験が豊富な人材は需要が高く、単価も上振れする傾向があります。

見積もりでは、どのクラスの人材が各工程を担当するかを確認します。担当構成が分かると、費用感を判断しやすくなります。

契約形態・発注時に確認すべきポイント

フルスクラッチを発注するときは、契約形態の選び方が要になります。要件の確定度に合わせて選ぶとともに、発注時の確認事項も洗い出します。

  • 請負契約:要件が明確な場合に予算を見通しやすい
  • 準委任契約:要件が流動的で、工数に応じた費用や変更に対応しやすい
  • 開発体制:資格、類似実績、階層・IAM設計、レビュー体制の有無
  • 保守運用:リリース後の保守体制とサポート範囲を、契約前に見極める

請負契約は完成を約束する形式です。ただし、仕様変更があると追加費用が生じやすいため、注意が必要です。

一方、準委任契約は実工数に応じて費用が発生します。アジャイルに進めたい場合は、途中の仕様変更を取り込みやすい形です。

発注前には、GCPの認定資格を持つ人材がいるかと、GKE・Cloud Run・BigQueryでの類似実績を確かめます。階層やIAMの設計は後から変えると負担が大きいため、その方法も具体的に聞いておきます。

設計をレビューする体制が、アーキテクチャフレームワークに基づいているかも確かめます。

ポイント

費用は規模により異なり、人件費が開発費のおよそ80%とされています。担当構成と、要件の確定度に応じた契約形態を押さえると、費用感をつかみやすくなります。

まとめ

ここまで、GCPのフルスクラッチ開発について、位置づけと適するケースから、体制、設計、費用と発注までを見てきました。

GCPのフルスクラッチ開発は、高度なセキュリティ要件や複雑なマイクロサービス構成で有効です。一方で、テンプレートやマネージドサービスより費用が数倍以上になることがあります。

独自性が必要な部分を作り、周辺機能をCloud SQL、BigQuery、Cloud Runに任せると、費用対効果を高められます。体制は、内製と外部委託を組み合わせるのが現実的です。

リソース階層とIAMは初期から設計し、Google Cloudのアーキテクチャフレームワークで複数回レビューします。

開発費の約80%は人件費です。そのため、GCP認定資格を持つ経験者を確保できるかを見極め、要件の確定度に応じて請負と準委任を使い分けることが成功につながります。

まず自社要件の独自性を整理し、実績あるパートナーに相談するところから始めましょう。

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会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。