GCP導入/構築のフルスクラッチ・オーダーメイド開発について

GCP(Google Cloud Platform)を活用したシステム開発を検討する際、既存のマネージドサービスやテンプレートを組み合わせるのではなく、要件に合わせて一からアーキテクチャを設計する「フルスクラッチ・オーダーメイド開発」を選ぶ企業も少なくありません。GCPにはCompute EngineやGKE(Google Kubernetes Engine)、Cloud Run、BigQueryといった多彩なサービスが揃っており、これらを自由に組み合わせて設計できる柔軟性がフルスクラッチ開発の大きな魅力です。一方で、自由度が高い分だけ設計・実装の工数がかさみ、既製のテンプレートやSaaSを使う場合に比べて費用も期間も大きくなりやすいという側面もあります。GCPは国内のパブリッククラウド市場でAWSに次ぐ位置づけとして語られることが多く、データ分析・機械学習に強みを持つプラットフォームであるため、フルスクラッチで構築するシステムにおいても、BigQueryを中核としたデータ活用の仕組みをどう組み込むかが、他クラウドでの開発とは異なる検討ポイントになります。

本記事では、GCP導入・構築のフルスクラッチ・オーダーメイド開発について、フルスクラッチ開発の位置づけと適するケース、内製開発とSIer・外部委託の違い、マネージドサービス・テンプレート活用との比較、リソース階層・アーキテクチャフレームワークを踏まえた設計のポイント、そして費用・期間の目安と発注のポイントまでを、GCPというプラットフォームに固有の観点から体系的に解説します。GCPでフルスクラッチ開発を検討する担当者が、費用対効果の高い意思決定を行うための判断軸をお伝えします。

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GCPにおけるフルスクラッチ・オーダーメイド開発の位置づけ

GCPにおけるフルスクラッチ・オーダーメイド開発の位置づけ

フルスクラッチ・オーダーメイド開発がどのようなものを指し、どのような場面で選ばれるべきなのかを最初に整理しておきましょう。この定義が曖昧なまま検討を進めると、本来テンプレートやマネージドサービスの活用で十分だったはずのプロジェクトに、不必要な工数と費用をかけてしまうことになりかねません。

フルスクラッチ・オーダーメイド開発とは

フルスクラッチ開発とは、既存のパッケージソフトウェアやノーコード・ローコードツール、SaaSのテンプレートに頼らず、要件に合わせてシステムをゼロから設計・実装する開発手法です。GCPの文脈では、Compute EngineやGKE、Cloud Run、Cloud Functionsといった実行基盤の選定から、Cloud SQLやCloud Spanner、BigQueryといったデータベース・分析基盤の設計、VPCによるネットワーク構成やIAMによる権限設計まで、あらゆる要素を自社の要件に合わせて自由に組み立てられる点が特徴です。オーダーメイド開発という呼び方も、既製品をカスタマイズするのではなく、要件定義の段階から独自の仕様で作り上げるという意味合いで、フルスクラッチとほぼ同じ文脈で使われます。この対極にあるのが、ノーコードツールやSaaSのテンプレート、あるいはCloud SQLやBigQueryのようなマネージドサービスをそのまま活用する開発手法で、こちらは短期間・低コストで立ち上げられる反面、独自の業務フローや複雑な要件への対応には限界があります。自社の要件がどこまで既製の枠組みに収まるのか、それとも独自性が求められるのかを見極めることが、フルスクラッチを選ぶべきかどうかの出発点になります。

フルスクラッチが適するケース

フルスクラッチ開発は費用も期間もかかる手法ですが、それでも選ぶべき合理性がある場面が存在します。代表的なのが、金融機関や医療機関のシステムのように、一般的なWebシステム以上に高度で厳密なセキュリティ要件・コンプライアンス要件が求められるケースです。既製のテンプレートでは対応しきれない独自の監査ログ設計やアクセス制御を、要件に合わせて作り込む必要がある場合、フルスクラッチが現実的な選択肢になります。もう一つの典型例が、複数のサービスが複雑に連携するマイクロサービスアーキテクチャを構築するケースです。業務ドメインごとにサービスを分割し、GKEでコンテナをオーケストレーションしながら、サービス間の通信やデータ整合性を細かく制御する必要があるようなシステムでは、既製のパッケージでは対応できず、フルスクラッチでの設計が求められます。逆に言えば、一般的な業務システムや、既存のSaaS・マネージドサービスの組み合わせで要件を満たせるプロジェクトでは、フルスクラッチを選ぶ必然性は低く、コストと期間の観点からもマネージドサービス活用の方が合理的な選択になるケースが多いといえます。

内製開発とSIer・外部委託の違い

内製開発とSIer・外部委託の違い

フルスクラッチ開発をどのような体制で進めるかは、費用対効果を大きく左右する重要な検討事項です。ここでは、内製開発と外部委託それぞれのメリット・デメリット、そして両者を組み合わせるハイブリッドアプローチについて解説します。

内製開発のメリット・デメリット

フルスクラッチ開発を内製で行う最大のメリットは、長期的に見て外部への支払いコストを抑えられ、GCPの設計・運用に関するノウハウが自社に蓄積されていく点です。仕様変更や機能追加が発生した際にも、社内のエンジニアが業務背景を深く理解した状態で対応できるため、コミュニケーションコストを抑えて柔軟に開発を進められます。一方でデメリットとして、GCPの高度なアーキテクチャ設計やGKEを用いたコンテナオーケストレーション、BigQueryを活用したデータ基盤の構築といった専門性の高い領域を担える人材の採用・育成には相応のコストと時間がかかります。Google Cloud認定資格を持つエンジニアは市場での需要が高く、採用競争も激しいため、内製化を急ぐあまり経験の浅いメンバーだけで進めてしまうと、設計の手戻りが頻発し、かえって開発期間が長引くリスクもあります。内製を選ぶ場合は、既存メンバーのスキルレベルを客観的に把握したうえで、育成にどれだけの時間をかけられるかを現実的に見積もることが重要です。

外部委託のメリット・デメリットとハイブリッドアプローチ

外部のSIerや開発会社にフルスクラッチ開発を委託する場合、GCPの専門知識や豊富な実装経験をすぐに活用でき、プロジェクト管理の負担も委託先に任せられるという利点があります。特に、GKEでのマイクロサービス構築やBigQueryを用いたデータ分析基盤のように専門性の高い領域では、経験豊富な外部パートナーの知見が大きな価値を持ちます。一方で、すべてを外部に委託すると、費用は内製に比べて高くなる傾向があり、開発を通じて得られたノウハウが自社に十分に蓄積されないという課題も残ります。こうした背景から、費用対効果の面で最も評価されているのが、内製と外部委託を組み合わせたハイブリッドアプローチです。自社の業務やサービスの中核となるロジックは内製チームが担当し、GCPの高度なアーキテクチャ設計やセキュリティ実装、リソース階層の整備といった専門性の高い部分は外部パートナーに委託するという役割分担であれば、立ち上げのスピードと品質を確保しながら、リリース後の運用・改善を自社でリードできる体制を育てていくことができます。

マネージドサービス・テンプレート活用との比較

マネージドサービス・テンプレート活用との比較

フルスクラッチ開発を検討する際には、必ずGCPのマネージドサービスやテンプレートを活用した場合との比較を行うべきです。ここでは、費用面での比較と、実行基盤としてGKEとCloud Runのどちらを選ぶべきかというアーキテクチャ選択の考え方を解説します。

フルスクラッチと定型サービス活用のコスト比較

フルスクラッチ開発は、ノーコードツールやSaaSのテンプレートを活用する場合に比べて、費用が数倍以上に跳ね上がることが珍しくありません。たとえば、エンタープライズ向けのSaaS開発では、ノーコードツールを活用すれば250万〜600万円程度で立ち上げられるケースがある一方、同等の機能をフルスクラッチで作り込もうとすると、その数倍以上のコストがかかることもあります。この差が生まれる背景には、テンプレートやマネージドサービスがすでに動作確認済みの実装を提供してくれるのに対し、フルスクラッチではその実装自体を要件定義・設計・コーディング・テストという工程を経て一から作り上げる必要があるという違いがあります。GCPの場合、Compute Engine上に自前でミドルウェアやアプリケーション基盤を構築する代わりに、Cloud SQLやBigQuery、Cloud Runといったフルマネージドサービスを積極的に活用すれば、インフラの構築・管理工数を大幅に削減できます。すべてをフルスクラッチにするのではなく、独自性が求められる中核ロジックだけを作り込み、周辺機能はマネージドサービスに任せるという「部分フルスクラッチ」的な設計判断が、費用対効果を高める現実的なアプローチです。

GKEとCloud Runのアーキテクチャ選択

フルスクラッチでマイクロサービスアーキテクチャを構築する際、実行基盤としてGKEを選ぶかCloud Runを選ぶかは、システムの性質によって判断が分かれます。GKEはKubernetesベースのコンテナオーケストレーション基盤で、細かなネットワーク制御やスケーリングポリシーのカスタマイズ、複数のサービスが密に連携する複雑な構成に強みがあります。運用の自由度が高い分、クラスタ自体の設計・運用にも専門知識が求められ、常時稼働させる前提のコストも発生します。一方のCloud Runは、コンテナ化されたアプリケーションをフルマネージドなサーバーレス環境で実行できるサービスで、リクエストが来ていない間はインスタンスをゼロにスケールダウンできるため、アクセスが間欠的なサービスやAPIには特に適しています。運用管理の負担が小さく、GKEに比べて立ち上げも容易です。フルスクラッチ開発において、すべてのサービスを一律にGKEで構築するのではなく、常時高負荷が想定されるコアサービスはGKEで、アクセスパターンが読みにくい周辺サービスはCloud Runで動かすといった使い分けが、運用コストと開発の柔軟性のバランスを取るうえで有効な考え方です。

リソース階層・アーキテクチャフレームワークを踏まえた設計のポイント

リソース階層・アーキテクチャフレームワークを踏まえた設計のポイント

フルスクラッチ開発では設計の自由度が高い分、最初の設計判断を誤ると後から手戻りしにくいという側面もあります。ここでは、リソース階層設計を開発の初期段階から組み込む重要性と、Google Cloudのアーキテクチャフレームワークを活用した設計レビューの進め方を解説します。

リソース階層・IAM設計を初期段階から組み込む重要性

フルスクラッチ開発では、アプリケーションのロジックだけでなく、GCPのリソース階層やIAMの権限設計も一から検討する必要があります。Resource Managerが提供するOrganization・Folder・Projectという階層構造をどう設計し、開発環境・検証環境・本番環境をどのプロジェクト単位で分離するか、Organization Policy Serviceでどのようなガードレールを設定するかは、後から変更しようとすると影響範囲が広く、大きな手戻りにつながりやすい部分です。特にフルスクラッチで複雑なマイクロサービス構成を組む場合、サービスごとに適切なIAMロールを割り当て、最小権限の原則に基づいたアクセス制御を最初から設計しておかないと、サービスが増えるにつれて権限管理が煩雑化し、セキュリティリスクも高まっていきます。開発初期の段階でリソース階層とIAM設計にしっかりと工数を割くことが、フルスクラッチ開発特有の自由度の高さを、セキュリティリスクに変えずに活かすための前提条件になります。

アーキテクチャフレームワークによる設計レビューのタイミング

フルスクラッチ開発ではあらゆる設計判断を自社(または委託先)が主体的に行うことになるため、その判断の妥当性を第三者的な観点で確認する仕組みが重要になります。ここで有効なのが、Google Cloudが公式に提示するアーキテクチャフレームワークです。オペレーショナルエクセレンス・セキュリティ/コンプライアンス/プライバシー・信頼性・パフォーマンス最適化・コスト最適化・AI/ML最適化という観点から設計を評価することで、特定の要素に偏った設計や、後から発覚するとコストの大きい見落としを未然に防げます。このレビューは、設計フェーズが完全に終わってから一度だけ行うのではなく、要件定義後のアーキテクチャ設計段階、実装が一定程度進んだ中間地点、そしてリリース前という複数のタイミングで実施するのが望ましい進め方です。特にフルスクラッチ開発では、実装が進むほど設計変更のコストが跳ね上がるため、早い段階でのレビューほど効果が大きくなります。データ分析・AI活用を組み込む場合は、BigQueryのデータ設計やAI APIとの連携部分についても、このフレームワークのAI/ML最適化の観点から個別にレビューしておくと、GCPの強みを十分に活かした設計に仕上げやすくなります。

費用・期間の目安と発注のポイント

費用・期間の目安と発注のポイント

フルスクラッチ開発を発注する際に押さえておきたい、費用・人月単価の目安と、契約時に確認すべきポイントを解説します。

規模別の費用目安と人月単価

GCPでのフルスクラッチ開発の費用は、規模によって大きく異なります。小規模な検証環境レベルの構築であれば20万〜30万円程度、業務支援システムを新規開発するような中規模のプロジェクトでは60万〜920万円程度と要件によって幅が出ます。基幹システムやSaaSプロダクトの開発を含む大規模なプロジェクトになると、250万〜3,000万円以上に達し、クラウドERPのような大規模導入では1,000万円を超えるケースも珍しくありません。この費用の大部分を占めるのが人件費で、開発費全体のおよそ80%が人件費に相当するとされています。エンジニアの人月単価は、初級クラスで月額25万〜50万円、ミドルクラスで50万〜80万円、シニア・アーキテクトクラスになると80万〜120万円以上が目安です。プロジェクトマネジメント費用は、開発費全体の10〜20%程度を見込んでおくのが一般的です。GCPの認定資格を持ち、GKEやBigQueryを用いた設計経験が豊富なエンジニアは市場での需要が高く、単価も上振れする傾向にあるため、見積もり段階でどのクラスのエンジニアがどの工程を担当するのかを確認しておくことが、費用感を正しく把握するポイントになります。

契約形態・発注時に確認すべきポイント

フルスクラッチ開発を発注する際は、契約形態の選び方が重要な検討事項になります。要件が明確に固まっている場合は、成果物の完成を約束する請負契約が予算の見通しを立てやすく適していますが、仕様変更が発生すると追加費用が生じやすい点には注意が必要です。一方、要件が流動的でアジャイルに進めたい場合は、実際にかかった工数に応じて費用が発生する準委任契約の方が、柔軟な仕様変更に対応しやすくなります。発注前には、開発チームのGCP認定資格保有状況や、GKE・Cloud Run・BigQueryを用いた類似プロジェクトの実績を確認するとともに、リソース階層やIAM設計をどのように行うか、アーキテクチャフレームワークに基づくレビュー体制があるかを具体的にヒアリングすることが大切です。また、フルスクラッチ開発は完成後の保守運用フェーズも長く続くため、開発フェーズだけでなくリリース後の保守体制やサポート範囲についても、契約前にあわせて確認しておくことをお勧めします。

まとめ

GCP導入/構築のフルスクラッチ・オーダーメイド開発についてのまとめ

本記事では、GCP導入・構築のフルスクラッチ・オーダーメイド開発について、その位置づけと適するケース、内製開発とSIer・外部委託の違い、マネージドサービス・テンプレート活用との比較、リソース階層・アーキテクチャフレームワークを踏まえた設計のポイント、そして費用・期間の目安と発注のポイントまでを解説しました。フルスクラッチ開発は、高度なセキュリティ要件や複雑なマイクロサービスアーキテクチャが求められる場面で真価を発揮する一方、テンプレートやマネージドサービスに比べて費用が数倍以上に膨らみやすいため、独自性が求められる部分だけをフルスクラッチにし、周辺機能はCloud SQLやBigQuery、Cloud Runといったフルマネージドサービスに任せる設計判断が費用対効果を高めます。体制面では、内製と外部委託を組み合わせたハイブリッドアプローチが最も現実的な選択肢であり、リソース階層・IAM設計を開発初期から組み込み、Google Cloudのアーキテクチャフレームワークに沿った複数回のレビューを行うことが、自由度の高さをリスクに変えずに活かす鍵になります。費用は開発費の約80%を人件費が占めるため、GCP認定資格を持つ経験豊富なエンジニアの確保状況を見極めたうえで、要件の確定度に応じて請負契約と準委任契約を使い分けることが、フルスクラッチ開発を成功に導く現実的な進め方です。GCPでのフルスクラッチ開発を検討している方は、まずは自社要件の独自性を整理し、実績あるパートナーに相談することから始めるとよいでしょう。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。