官公庁システムの保守・運用費用は、数百万円程度から数十億円規模まで幅があります。その差を生むのは、システムの規模、クラウドの利用量、セキュリティ対策の3つです。
保守・運用費用は稼働後も毎年度かかるため、導入の段階から見積もっておくと予算の計画が立てやすくなります。
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官公庁システムの保守・運用費用の全体像と費用構成要素

デジタル庁が公表している政府情報システムの経費区分を見ると、稼働後の費用が大きな比重を占めていることが分かります。
中央省庁、地方自治体、独立行政法人では、監視や障害対応が毎年度続きます。そのうえ、法改正への対応、セキュリティ対策、クラウド利用料も毎年度発生します。
平成30年度の整備経費は約2,041億円(32.9パーセント)でした。運用等経費は約4,151億円(67.0パーセント)で、予算の3分の2を占めました。
官公庁システムのランニングコストは複数の費目で構成され、規模やシステム種別によって、必要になる費用の組み合わせも変わります。
保守・運用費用に含まれる主な項目(クラウド利用料・保守契約・ヘルプデスク等)
日常の運用費用は、定常的な契約費と利用状況で変わる費用に分けて見ると整理できます。費用の内訳には、保守契約、インフラ利用、問い合わせ対応、障害監視、制度改正への対応などが含まれます。
- ソフトウェア保守契約料:更新、障害修正、問い合わせ対応を支える費用
- クラウド・データセンター利用料:インフラの利用に必要な費用
- ヘルプデスク運営費:利用者からの問い合わせを最初に受け付ける費用
- 通信回線・運用監視費:通信の維持と、日々の障害検知にかかる費用
- 制度改正対応費:法改正や制度変更に伴う改修の費用
一般に、ソフトウェア保守契約料はライセンス費用の年間15パーセントから20パーセント程度です。一方、ガバメントクラウドの利用料は、CPU、ストレージ、通信量などに応じた従量課金になります。
中でも、通信回線費、クラウド利用経費、ソフトウェア借料・保守料は、増加傾向が特に目立つ費目です。デジタル庁の分析でも、移行後のランニングコスト増加の主要因として挙げられています。
住民記録や税、国民健康保険などの業務では、制度改正への対応が恒常的なコストになります。そのため、見積もるときは、定常的な監視・保守に加えて、毎年度の改修工数も含める必要があります。
システム規模・種別(府省庁基幹系/自治体窓口システム等)別の費用目安
費用の目安を見るときは、システムの規模・種別に加えて、標準化やクラウド移行がどこまで進んでいるかも確認します。
- 府省庁基幹系:全国規模で高い可用性が求められるシステム
- 自治体窓口システム:人口規模によって負担が変わる住民情報系システム
府省庁の基幹系では、24時間365日の可用性が求められる場合があり、運用保守だけで年間数億円から数十億円規模に達することも珍しくありません。
政府情報システム全体では、令和2年度から令和4年度にかけて運用等経費が約100億円増えました。同じ期間に整備経費は約400億円増え、全体では約500億円増加しています。この増加幅は、およそ40パーセントに相当します。
自治体の住民情報系システムでは、移行後に基盤費用が従量課金として見える化される一方、小規模な団体ほど1人あたりの負担が重くなりやすい傾向があります。
国は、標準準拠システムへの移行完了後に、平成30年度比で少なくとも3割の削減を目指しています。ただし、移行の過渡期には、通信回線費やクラウド利用料が増え、費用が膨らむ団体もあります。
ガバメントクラウド移行による運用コストの変化と従量課金モデル

ガバメントクラウドへ移行すると、コストの考え方は固定資産中心から利用量中心へと変わります。そこで、従量課金の仕組みと、移行後に費用が増える条件を分けて確認しておきます。
従量課金モデルの仕組みと利用料の請求構造
従量課金では、請求額が利用団体の使い方に連動する点が、これまでの費用の考え方と大きく異なります。この仕組みでは、使わない時間帯にサーバーを停止し、負荷に応じてリソースを増減できます。
- 請求の流れ:クラウドサービス事業者(CSP)がデジタル庁へ請求し、利用団体が相当額を負担する形
- 利用量の反映:CPU時間、ストレージ容量、データ転送量が月額に積み上がる仕組み
- 見直しの余地:停止や増減によって、使わないリソースの固定費を抑えられる点
2025年度からは、各自治体が利用料を自ら負担する形へ移行しており、利用量を自団体で把握しておくことが欠かせません。
クラウド基盤の料金はドル建てで設定されているため、円安になると円換算の利用料が増えます。特に、利用量や為替を管理しないまま移行すると、オンプレミス時代より費用が増える場合があるため、利用状況を継続して監視し、コストを管理する運用体制が必要です。
基盤費用の見える化と移行後に費用が増える団体の特徴
移行前後で変わるのは、費用の計上方法と、団体ごとの負担が見えるかどうかです。移行後は、団体ごとの実利用量と費用の関係も確認しやすくなります。
- 従来の費用調整:共同利用するデータセンターの費用を、一体で計上する方式
- 移行後の見える化:利用団体ごとの従量課金により、負担の内訳が明確になる
- 増加しやすい費目:通信回線費、クラウド利用経費、借料・保守料に共通する傾向
従来は、人口規模や財政事情に応じてソフトウェア借料を設定することができました。一方、移行後は団体間で費用を調整することが難しくなり、借料が増える団体もあります。
また、国は接続回線や運用管理補助者の共同利用・共同調達を進めています。移行の前には、自団体の利用の特性から費目ごとの増減を試算しておくことが欠かせません。
セキュリティ対策費用と統一基準・ISMAP対応コスト

官公庁では、民間システムより厳格な基準に継続して対応するための費用が、運用費に加わります。ISMAP(政府情報システムのためのセキュリティ評価制度)も、その対応対象に含まれます。
統一基準群やISMAPへの対応は、診断・評価・監視の費用に分けて捉えると、費用の内訳が整理できます。なお、政府機関等のサイバーセキュリティ対策のための統一基準群は、要件を詳細に定めています。
クラウドを利用する場合は、原則としてISMAPクラウドサービスリストから選ぶことになります。
脆弱性診断・第三者評価・SOC監視にかかる費用
セキュリティ費用は、診断、第三者評価、SOC(セキュリティオペレーションセンター)監視の3つに分けて見ると、内訳を把握できます。
- 脆弱性診断:既知の弱点や設定の不備を、専門業者が検査すること
- 第三者評価:ISMAPの登録・維持に必要な外部監査など
- SOC監視:ログの確認とインシデントの検知を、継続して行うこと
脆弱性診断は数百万円程度から始まり、大規模な環境では数千万円規模になります。複数の環境やコンポーネントを含む場合は、診断費用がさらに増えます。
定期的な再診断に加えて、大きな改修の後には追加の診断も必要になります。
初期費用には、外部監査、コンサルティング、社内人件費のほか、脆弱性診断やログ基盤などが含まれます。ISMAPの初期コストは、外部監査や人件費などを含めて、数千万円から1億円弱です。
初年度は総額で3,000万円から6,000万円規模になるケースもあります。取得後も、外部監査と運用維持に年間数千万円規模の費用が続きます。
SOCを外部委託する場合は、対象範囲と通報体制に応じて月額の費用が発生します。これらは統一基準群に欠かせない固定的なコストであり、機能の提供費とは分けて見る必要があります。
ガバメントクラウド上でのセキュリティ対策費用の考え方
ガバメントクラウドでは、基盤側と利用団体側のどちらが何を受け持つかを分けて、予算に組み込みます。
- 基盤側の対策:物理施設とインフラ層の統制
- 利用団体側の対策:アプリケーション層、権限、ログの管理
基盤はISMAP登録事業者が提供し、物理的なデータセンターの対策も講じています。そのため、インフラ基盤をゼロから整備する費用は、基盤利用料の中に含まれる形になります。
ISMAP水準のインフラを単独で整備・維持する場合と比べると、基盤側の対策はコスト面で有利です。
一方で、アプリケーションの脆弱性への対応や権限、暗号化、ログ分析は、利用団体の責任になります。このため、脆弱性診断、設定監査、SOC監視は移行後も費用に計上しておく必要があります。
クラウド設定の継続的な点検ツールや、運用体制への投資が必要になる場合もあります。
予算制度がランニングコストの見積もりに与える影響
官公庁の保守・運用費用は、単年度主義と会計年度独立の原則による制約を受けます。両原則は財政規律を保つうえで欠かせない一方で、複数年の保守・運用の見積もりや契約には制約を生みます。
予算要求の時期と複数年度契約の仕組みは、分けて押さえておくことが大切です。
単年度予算主義による保守費用の予算要求タイミングの課題
会計年度独立の原則では、各年度の歳出を、その年度の歳入で賄うことが基本になります。
- 年度ごとの要求:保守・運用費も毎年度の予算化が必要
- 要求の時期:翌年度の費用を、前年度のうちに見積もる段取り
- 予算超過への対応:補正予算や予備費が必要になる場面
予算は議会の議決を経て成立するため、多くの官公庁では、翌年度の保守費や改修費を前年度の夏から秋に見積もります。
想定外の障害や年度途中の制度改正は、要求の時点では読み切れないことがあります。クラウド利用料も、利用量の変動や為替によって、見積もりを超える場合があります。
担当者は、実績データをもとに変動要因を洗い出し、あらかじめ予算に織り込んでおく必要があります。
複数年度契約・長期継続契約によるコスト平準化
例外的な制度を使えば、単年度主義のもとでも、費用と契約を複数年で安定させることができます。
- 歳出予算の繰越:単年度主義を緩和する、財政法上の仕組み
- 国庫債務負担行為:複数年度にまたがる支出の仕組み
- 継続費:複数年にわたる支出を扱う制度
情報システムの開発やリース、複数年の保守には、国庫債務負担行為を使うことができます。この制度では、議会の議決を得て、数年度分の支出をあらかじめ確定させます。
単年度ごとの契約事務が減るうえ、調達手続きに空白が生じるリスクも避けやすくなります。
ベンダーにとっても、安定した体制を組める利点があり、保守品質の向上につながる可能性があります。加えて、単年度契約と比べると、有利な価格条件を引き出せる余地も広がります。
地方公共団体では、条例によって、電気・通信・システム保守の長期契約を結ぶことができます。
運用コスト削減の方法とベンダーロックイン回避
持続可能な運用には、共同利用・共同調達とロックイン回避を組み合わせることが欠かせません。個別の費用を削るだけでなく、調達や仕様設計の段階から構造を見直すことが大切です。
自治体間の共同利用・共同調達によるスケールメリット
共同利用と共同調達は、標準化を前提に、保守・改修の負担を分散させる方法です。
- 標準仕様への準拠:自治体ごとの独自改修を抑えること
- 共同利用:複数の団体で、保守や改修を分担する形
- 共同調達:参加団体をまとめて、有利な条件を目指すこと
2021年9月施行の法律に基づき、主要な20業務で標準化と共同利用が進んでいます。標準仕様に準拠していれば、制度改正時の改修・保守負担を分散できます。
国は、移行完了後の運用経費等を、平成30年度比で少なくとも3割削減する目標を掲げています。また、接続回線やガバメントクラウドの運用管理補助者も、共同利用・共同調達の対象です。
都道府県が域内の市町村をまとめ、共同調達を主導する取り組みも各地で進んでいます。ただし、共同調達には、参加団体の業務要件をそろえ、個別のカスタマイズを抑える前提があります。
コスト削減の鍵は、標準化を徹底し、参加団体の歩調を合わせることにあります。
ベンダーロックインを避ける契約・仕様設計の工夫
既存ベンダーへの依存は、仕様・データ・契約上の権利を調達の段階で整えておくことで減らせます。
- 仕様書・設計書:第三者が理解できる最新の状態
- 標準データ・連携:移行しやすい形式とインターフェース
- マルチベンダー:複数社のサービスを組み合わせる構成
- 権利の確保:ソースコードや設計書を、発注者側が押さえておくこと
2022年の公正取引委員会の調査では、保守・改修・更改の際に再契約を経験したと回答した割合が98.9パーセントでした。
再契約の理由としては、既存システムの詳細を把握できていないことが48.3パーセントでした。また、機能に関する権利が既存ベンダーに帰属していることが24.3パーセントでした。
競争が働かないと、保守費や改修費が市場相場の1.5倍から2倍になる場合があります。これを防ぐには、仕様書や設計書を整えて他社が参入しやすくし、競争が働くようにします。
標準形式のデータとインターフェースは、乗り換え時の移行コストを抑えるのに役立ちます。標準仕様に準拠していれば、おおむね円滑に移行でき、ベンダーへの依存度も下がります。
調達の段階で工夫を組み込んでおけば、保守費用が高止まりするのを防げます。
まとめ
官公庁システムの総コストは、初期構築費より保守・運用費によって左右されます。政府情報システム全体では、運用等経費が約67パーセントを占めています。
費用は、クラウドや保守、ヘルプデスクなどの費目に分かれ、回線や制度改正対応も含まれます。府省庁の基幹系から自治体の窓口システムまで、規模と種別によって費用は幅広く変わります。
クラウド移行後も、通信回線費やクラウド利用料が増える団体があります。統一基準群やISMAPへの対応、脆弱性診断、SOC監視の費用も、運用予算に含めます。
単年度主義の制約には、国庫債務負担行為や長期継続契約で対応できます。また、共同調達とロックイン回避を進めることが、持続可能な運用予算の鍵です。
担当者とベンダーは、費用の構成と制度上の前提を踏まえて、中長期の視点で費用を見直していきます。
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