官公庁・地方自治体がシステム開発を外注・委託する際には、民間企業とは異なる「公的調達手続き」に従う必要があります。地方自治法・会計法に基づく入札・プロポーザルなどの手続きは、初めて担当する職員にとっては複雑に感じることも多いでしょう。また近年は、デジタル庁のガバメントクラウド移行・標準化への対応という新たな課題も加わり、発注プロセスがより複雑化しています。
この記事では、官公庁・地方自治体のシステム開発における発注・外注・依頼・委託の方法を、RFP作成から入札・プロポーザル・契約・プロジェクト管理まで、実務担当者が知っておくべき情報を詳しく解説します。
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発注前の準備と要件整理

発注の成功は準備段階で決まります。現状の業務課題の把握・システム化の目的の明確化・予算の確保・デジタル庁の標準化方針との整合確認などを丁寧に行いましょう。
標準化方針との整合確認
発注前の最重要確認事項として、デジタル庁が定める「自治体情報システムの標準化・共通化」への対応が必要かどうかを確認します。2025年度末を期限として、住民基本台帳・税・社会保障など主要20業務については、デジタル庁が定める標準仕様に準拠したシステムへの移行が自治体に義務付けられています。これらの対象業務については、独自仕様のスクラッチ開発ではなく、標準準拠のパッケージシステムへの移行が求められます。対象業務かどうかの確認・デジタル庁が示す移行スケジュール・国庫補助の活用可能性を事前に確認してから、調達方式・スケジュール・予算を決定しましょう。総務省・デジタル庁が提供する「自治体情報システム標準化・共通化チェックシート」なども活用できます。
RFP(提案依頼書)の作成
官公庁のシステム調達においては、RFP(提案依頼書)を詳細に作成することが重要です。RFPには「調達の概要(目的・背景・対象業務)」「業務要件(現行業務フロー・必要な機能一覧)」「技術要件(性能・セキュリティ・可用性・標準化への準拠要件)」「接続要件(マイナンバーシステム・LGWAN・外部システムとの連携)」「プロジェクト体制・スケジュール要件」「評価基準(技術評価・価格評価の配点)」「提出書類・提出期限」などを明記します。デジタル庁・総務省が公開している「システム調達に関するガイドライン」「調達のためのTechリスト」も参考にしましょう。RFP作成の負荷が大きい場合は、外部のITコンサルタントや技術専門家の支援を受けることも選択肢です。
調達方式と選定プロセス

官公庁のシステム調達では、地方自治法・会計法に基づく適切な調達方式を選択する必要があります。調達金額・システムの特性・スケジュール等に応じて最適な方式を選びましょう。
入札方式の種類と特徴
官公庁のシステム調達で用いられる主な調達方式は以下の4種類です。①一般競争入札:予算規模が一定以上(国の場合250万円以上が基準)の調達に適用される原則的な方式です。競争性・透明性が高い反面、価格のみの評価となりがちで、品質が低下するリスクがあります。②総合評価落札方式:価格点と技術評価点を組み合わせた評価方式で、品質も考慮した選定が可能です。システム開発には適した方式で、採用する自治体・省庁が増えています。③公募型プロポーザル方式:技術提案を重視する方式で、技術提案内容を評価したうえで最優秀者と価格交渉を行います。複雑なシステム開発や高度な専門性が求められる案件に適しています。④随意契約:一定の条件下で特定のベンダーと直接契約する方式です。緊急性が高い場合・少額案件・特殊な技術を保有するベンダーが限定される場合等に認められます。透明性確保のため、随意契約の理由・価格の妥当性を文書で記録しておくことが重要です。
アジャイル調達の活用
デジタル庁は従来の大規模一括調達(ウォーターフォール型)から、小規模・短期間の反復型調達(アジャイル型)への転換を推進しています。アジャイル調達では、まず概念実証(PoC)や最小限の機能(MVP)を小規模・短期間で開発・評価し、その後に本格開発へ移行するアプローチをとります。これにより、仕様の不確実性が高いプロジェクトでもリスクを管理しながら開発を進めることができます。ただし、従来の一括調達に慣れた職員やベンダーにとってはプロセスが異なるため、外部の技術支援や研修が必要な場合もあります。デジタル庁が公開している「アジャイル開発実践ガイドブック」が参考になります。
契約締結と発注後の管理

ベンダーが選定されたら、契約締結とプロジェクト管理の体制を整備します。官公庁向けのシステム開発契約には、民間よりも厳格な管理が求められます。
契約書のポイント
官公庁向けシステム開発の契約書には以下の内容を必ず盛り込みましょう。「開発範囲の明確化(機能要件・非機能要件・接続先システム)」「納品物の定義(システム・ソースコード・設計書・操作マニュアル等)」「マイルストーンと進捗報告義務」「知的財産権(成果物の権利は原則として発注者側に帰属)」「情報セキュリティ(個人情報保護・セキュリティ基準への準拠義務・事故時の報告義務)」「再委託の制限(下請け・再委託の範囲と承認手続き)」「瑕疵担保責任(納品後の不具合対応の範囲・期間)」「SLA(稼働率・障害対応時間等の数値基準)」です。特に「知的財産権の帰属」については、ソースコードが将来の保守・改修において他社へ移行できるように、発注者側に権利を帰属させることを明確にしておくことが重要です。
プロジェクト管理体制
官公庁のシステム開発プロジェクトでは、発注者側にも適切な管理体制を構築することが重要です。具体的には、PMO(プロジェクト管理室)の設置・IT専門職員または外部技術顧問の配置・週次進捗会議の実施・変更管理プロセスの整備などが求められます。特に重要なのが「変更管理」です。仕様変更が発生した場合は、変更内容・影響(コスト・スケジュール)・承認者を記録し、口頭だけでの変更合意は避けることが重要です。また、デジタル庁・総務省などの国の指針改訂・セキュリティガイドライン改定がプロジェクト中に発生する場合は、その対応についても変更管理プロセスを通じて適切に対処する必要があります。
検収・受け入れと保守契約

システムの納品・検収と、その後の保守契約の締結は発注プロセスの重要な最終段階です。以下の点に注意して進めましょう。
検収基準とUAT(ユーザー受け入れテスト)
官公庁向けシステムの検収では、事前に「検収基準チェックリスト」を作成し、全ての要件が満たされているかを確認します。特に重要な確認項目として、①全機能の動作確認(RFPに記載された要件の充足)②セキュリティ要件の充足確認(第三者セキュリティ評価の実施・結果確認)③アクセシビリティ確認(JIS X 8341-3への対応)④マイナンバーシステム等との連携確認⑤性能テスト結果の確認(ピーク時のアクセスへの耐性)⑥設計書・ソースコード・操作マニュアルの納品確認などが挙げられます。業務担当職員によるUAT(ユーザー受け入れテスト)は、本番業務に近い環境で十分な期間(最低2〜4週間)実施することが重要です。
保守・サポート契約の要点
本番稼働後の保守・サポート契約では、SLAを明確に定めることが重要です。官公庁向けシステムの保守SLAの主要項目として「稼働率(例:99.9%以上)」「障害時の初回応答時間(例:1時間以内)」「障害復旧目標時間(RTO:例:Critical障害は4時間以内)」「法改正対応の対応期限(例:施行1か月前までに対応完了)」「定期的な脆弱性診断の実施(例:年1回)」などを定めます。また、住民サービスに直結する重要システムの場合、24時間365日の障害対応体制が求められることもあります。保守費用については毎年度の予算計画に含め、複数年契約(3〜5年)によりコストの安定化と質の確保を図ることをお勧めします。
まとめ
官公庁のシステム開発の発注を成功させるためには、デジタル庁の標準化方針との整合確認・詳細なRFP作成・適切な調達方式の選択・厳格な契約締結・プロジェクト管理体制の整備が重要です。調達方式は案件の特性に応じて総合評価落札方式・プロポーザル方式・アジャイル調達などを使い分けましょう。契約書には知的財産権の帰属・セキュリティ要件・SLAを明確に定め、ベンダーリスク管理も徹底します。検収では業務担当職員によるUATとセキュリティ評価を徹底し、本番稼働後も適切な保守・サポート体制を維持することが大切です。
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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
