医療業界システムの保守・運用費用は、月額数万円から100万円以上まで、提供形態・医療機関の規模・連携範囲によって変わります。
費用の内訳、提供形態ごとの構造、規模別の5年TCOの順に見ていきます。導入や刷新を検討する方にも、稼働中システムの費用対効果を見直す方にも役立つ内容です。
▼全体ガイドの記事
・医療業界のシステム開発の完全ガイド
・業務システム開発を依頼する会社の選び方やRFPの作り方については、無料ホワイトペーパー「業務システム開発の完全ガイドブック」で詳しく解説しています。
・スクラッチシステム開発を依頼する会社の選び方やRFPの作り方については、無料ホワイトペーパー「スクラッチシステム開発の完全ガイドブック」で詳しく解説しています。
医療業界システムの保守・運用費用の全体像

医療業界の総合基幹業務システムは、電子カルテやレセコン単体と違い、予約受付から診察、会計、院内物流までを横断して統合します。
保守の対象は広く、専用システムとの連携部分にも継続的な費用がかかります。そのため、まずはシステムの位置づけと、月次・年間の基本費目を押さえておくと、見積もりを比べやすくなります。
電子カルテ・レセコンなど専用システムとの違い―総合型基幹システムとしての位置づけ
専用システムと総合型では、保守の範囲そのものが違います。どこまでを保守対象に含めるかで、見積もりの前提が変わります。
- 電子カルテ(EMR/EHR):診療情報の記録と参照が中心です。
- レセコン:診療報酬の計算と請求が中心です。
- 総合型基幹システム:予約受付から診察・会計・院内物流を統合し、専用システムとの連携の保守も含みます。
電子カルテやレセコン単体であれば保守の範囲が明確で、標準契約に沿って費用を見積もりやすい特徴があります。総合型では連携先が更新されるたびに、自院の基盤側にも追従改修が必要になることが多くあります。
そのため、この統合コストも含めて見積もる必要があります。診療情報を扱うぶん、セキュリティ維持費もかかります。
月次・年間保守費用の3つの基本費目(インフラ・保守サポート・コンプライアンス維持)
月次・年間の基本費用は、インフラ、保守サポート、コンプライアンス維持の3費目に分かれます。
- インフラ:診療情報を守る暗号化、定期バックアップ、高可用性構成が欠かせません。
- 保守・ヘルプデスク:OS更新や不具合修正、問い合わせへの対応が含まれます。
- コンプライアンス:ガイドラインや法改正への継続的な対応にかかる費用です。
クラウド型でも、大規模システムのインフラは月額50万円以上、年間600万円以上となるケースがあります。一方、システム保守は月額5万〜20万円程度で、ヘルプデスクは月額数万〜数十万円かかります。
また、3省2ガイドラインや個人情報保護法、医療法の改正に伴い、改修と運用を継続して行う必要があります。3費目を合算すると、大規模な統合システムでは月額80万〜100万円規模、年間1,000万円前後に達する可能性があります。
提供形態別(クラウド/オンプレミス/フルスクラッチ)のコスト構造
導入形態によって保守・運用費用の構造は変わるため、クラウド型とオンプレミス・フルスクラッチ型を分けて確認するのが基本です。
クラウド型のインフラ費用とセキュリティ維持コスト
クラウド型(SaaS)の大きなメリットは、初期費用を抑えて短期間で導入できる点です。ただし、統合範囲やデータ量によって月額費用は変わります。
- 小規模クリニック:利用料が月額数万円〜十数万円となるケースがあります。
- 大規模な統合利用:インフラ費用が月額50万円以上となることもあります。
- ベンダー管理:事業者の選定、SLAの締結、継続的なリスク評価が欠かせません。
大規模利用では、暗号化や高可用性構成の維持費用が加わります。また、患者データを外部事業者に預けるため、3省2ガイドラインに沿った管理の手間も運用コストになります。
長期利用では月額料金が積み上がり、オンプレミス型のコストを上回る「TCO逆転」が起こりうる点に注意が必要です。
オンプレミス・フルスクラッチ型の保守費用構造
オンプレミスとフルスクラッチは初期費用や保守の方法が異なるため、長期TCOの見通しを早い段階で立てておく必要があります。
- オンプレミス型:自院のサーバー室や専用のプライベートクラウドに構築する形です。
- フルスクラッチ型:自院独自の業務フローに完全に適合させられます。
オンプレミスの初期費用は数百万〜数千万円規模です。月額利用料がかからない分、長期のTCOはクラウドより有利になりやすい傾向があります。一方、サーバーの保守・更新費用や有償のバージョンアップ費用は、数年おきにまとまって発生します。
フルスクラッチは初期費用が数千万円規模で、保守・運用費用も月額80万〜100万円以上、年間1,000万円前後と高水準です。
さらに、OSや周辺システムの更新に伴う独自改修も都度必要になります。長期の保守費用は契約前に見通しておくと、後の想定外を減らせます。
規模別に見る5年間トータルコスト(TCO)の目安

初期費用だけで選ぶと、5年・10年の長期では想定外のコストがかさむことがあります。そのため、規模別の5年間TCOの目安を見て、自院に合う費用を予算計画に反映しましょう。
医療機関の規模別5年TCOの読み方
医療機関の規模によってTCOは大きく変わります。導入方式と統合範囲を踏まえて自院に近い費用感を早めにつかむと、予算計画のブレを防げます。
- 無床・小規模クリニック:5年TCOは900万〜2,000万円程度です。
- 100床前後の中規模病院:5年TCOは3,300万〜7,600万円程度です。
- 300床以上の大規模病院:5年TCOは8,800万円〜1億6,000万円以上です。
小規模クリニックはパッケージ中心で、初期費用300万〜800万円程度、月額運用費10万〜20万円程度が目安です。中規模病院は標準パッケージに一定のカスタマイズを加える形が中心で、初期費用は1,500万〜4,000万円程度、月額は30万〜60万円程度です。
大規模病院で電子カルテ・予約・会計・物流を、フルスクラッチに近い形で統合する場合は、初期費用が4,000万円〜1億円以上になります。さらに、法改正対応やセキュリティ診断などの突発費を含めると、5年TCOが1億1,000万円を超えるケースも想定されます。
法改正・セキュリティ診断費がTCOに与える影響
TCOには、初期見積もりに現れにくい法改正対応費やセキュリティ診断費も含めて考える必要があります。
- 法改正対応:医療法・薬機法・個人情報保護法の改正で、機能改修やポリシー更新が生じます。
- 診断・テスト:脆弱性スキャンや侵入テストを行う費用です。
たとえば、個人情報保護法で本人同意の要件が厳格化されれば、同意画面や記録方式の見直しが必要になります。
3省2ガイドラインに準拠するため、第三者機関によるペネトレーションテスト(侵入テスト)を受けると、1回100万〜300万円かかるケースがあります。
法改正や診断費は初期見積もりに現れにくく、稼働後の想定外の支出になりがちです。そのため、数年おきの診断費もTCOの試算に含めておく必要があります。
電子カルテ連携・レセプト・院内物流の追加保守コスト
電子カルテ連携・レセプト・院内物流など中核の領域ごとに追加費用が発生します。連携先が多いほど、保守の手間と費用は積み上がっていきます。
電子カルテ・院内システム連携の追従保守コスト
連携仕様やメーカー数によって、追従改修の費用は変わります。
- 仕様変更対応:電子カルテの更新やメーカーの仕様変更のたびに、基幹側の改修が必要になります。
- 複数メーカー:メーカー数に応じて、保守窓口と費用が増えていきます。
- 標準規格:将来の連携追加やメーカー変更時の改修を抑えられる可能性があります。
追従改修は都度数十万円〜となることが多くあります。一方で、HL7 FHIRやSS-MIX2などの標準規格に対応するための初期投資が必要です。
レセプト会計・院内物流(SPD)の保守コスト
レセプト会計と院内物流では、制度改定やデータ連携に伴う継続的な対応が発生します。
- レセプト会計:診療報酬の改定ごとに、点数マスタと計算ロジックを見直す必要があります。
- 院内物流(SPD):医薬品・診療材料のマスタや、卸業者との連携の保守が含まれます。
診療報酬改定は2年ごとに行われ、その対応費用は保守契約に含まれる場合もあれば、都度別途発生する場合もあります。そのため、契約時に改定対応の範囲を確認しておきましょう。
また、SPDでは仕入先との連携仕様の変更にも対応が続きます。使用期限やロットを厳密に管理する場合は、マスタ精度を保つ運用工数も費用に含めます。
個別には小さく見える費用も、複数の領域で重なると保守費用全体を押し上げます。契約前に領域ごとの追加費用を一覧にしておくと、見積もりを並べて比べられます。
TCOを押し上げる隠れコストとコスト抑制のポイント

TCOの試算では見えにくい隠れコストを先に押さえ、契約範囲や構成を見直すことで、支出を抑えられます。
法改正対応費・第三者セキュリティ診断費という隠れコスト
法改正対応費や第三者セキュリティ診断費は、代表的な隠れコストです。連携先の変更や従量課金も見積もりに現れにくく、規模が広がると費用が増える点に注意が必要です。
- 法改正:改修とポリシー見直しが求められます。
- 外部連携:API仕様変更への追従費が都度かかります。
- API従量課金:利用ユーザー数やリクエスト回数に応じて費用が増えます。
個人情報保護法や医療法は数年おきに改正されるため、改修や見直しは一度で終わりません。同意フローの画面改修なども、その都度発生する場合があります。また、レセコンや院内物流、ウェアラブルデバイスなど、つながる先が増えるほど改修の対象も広がっていきます。
病院の規模が広がると、想定外の費用増となるリスクがあります。そのため、契約時に保守の範囲内か都度見積もりかを確認しましょう。
保守・運用費用を抑えるための実践的アプローチ
費用を抑えるには、統合範囲、契約内容、連携方式を整えたうえで、初期費用だけでなく長期TCOで比べるのが基本です。
- 統合範囲:独自要件のある部分に絞ってカスタマイズする。
- 保守契約:法改正や仕様変更への対応範囲を確認する。
- 標準規格と連携:標準規格への対応や、ベンダーとの関係づくりを進める。
- TCO比較:5年・10年単位の費用を、開発会社に提示してもらう。
標準業務にはパッケージやSaaSを使い、全業務を一度にフルスクラッチで統合しない方法もあります。独自要件のある部分だけをカスタマイズするハイブリッド構成にすると、保守対象を絞れるうえ、費用の見通しも立てられます。
法改正や連携先の変更にかかる費用が保守契約に含まれるか、都度料金になるかは、契約時に確かめておきましょう。
複数年契約にセキュリティ診断の実施時期も組み込むと、突発支出を予算化しやすくなります。
標準規格に沿った連携は、仕様変更時の対応コストと対応スピードの両面で効果が見込めます。選択肢としては、HL7 FHIRなどの標準規格への対応のほか、電子カルテやレセコンのベンダーとの関係構築も考えられます。
まとめ
ここまでで、保守費用の内訳、提供形態ごとの構造、規模別のTCO、電子カルテ連携・レセプト・院内物流の追加費用を見てきました。
医療業界の総合基幹業務システムは予約・診察・会計・院内物流を横断するぶん、連携の追従費や法改正対応費も保守費用に含めて考える必要があります。
診療報酬改定への対応や、3省2ガイドライン・個人情報保護法への対応に伴う診断費も、初期見積もりには表れにくい費用です。
大規模統合システムの基本維持費は月額80万〜100万円規模、年間1,000万円前後となる可能性があります。5年TCOは、小規模クリニックで900万〜2,000万円程度、中規模病院で3,300万〜7,600万円程度です。大規模病院では8,800万円〜1億6,000万円以上となり、セキュリティ診断は1回100万〜300万円のケースがあります。
統合範囲を絞ったハイブリッド構成や契約範囲の明確化を検討し、初期費用だけでなく5年・10年TCOで比べましょう。まずは自院の規模と統合したい業務の範囲を洗い出し、複数の開発会社にTCOベースの見積もりを依頼するとよいでしょう。
▼全体ガイドの記事
・医療業界のシステム開発の完全ガイド
▼RFP作成前に読みたい無料ホワイトペーパー
・業務システム開発の完全ガイドブック
・スクラッチシステム開発の完全ガイドブック
・【2026年最新版】AI駆動開発の完全ガイドブック
会社紹介
株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

もし、システム開発やプロダクト開発に関するご要望がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
・サービス概要資料のURLはこちら >>>
・お問合せページのURLはこちら >>>
・お役立ち資料のURLはこちら >>>


株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
