医療業界のシステム開発の完全ガイド

医療業界のシステム開発では、現場の業務と法令・安全要件を起点に、連携や運用まで見通して設計することが欠かせません。医療DXの推進や電子カルテの普及、HL7 FHIRの標準化などを背景に、開発を取り巻く環境は急速に変わっています。

医療業界のシステムの概要

医療業界のシステムとは

医療業界のシステムは、医療機関の診療や業務を支えるITシステムの総称です。たとえば、電子カルテ(EMR/EHR)や病院情報システム(HIS)、医事会計システムなどが代表的です。また、医用画像管理システム(PACS)や調剤支援システム、看護支援システムも含めると、対象は多岐にわたります。

医療業界のシステム開発が注目される理由

導入や刷新を検討する背景には、国の政策や現場の課題が重なっています。

  • 医療DXの推進:オンライン診療や電子処方箋、マイナンバーカードの活用が、国の政策として進められている
  • 電子カルテの普及加速:2030年頃の全医療機関への電子カルテ原則普及を目指す政府方針が進んでいる
  • HL7 FHIRの標準化:医療データ連携の標準規格として普及が進み、システム間連携の需要が高まっている
  • 人手不足への対応:医師・看護師不足が深刻化するなか、業務効率化を実現するシステムへの需要が増えている
  • セキュリティ強化:医療機関へのサイバー攻撃が増え、セキュリティ強化のためのシステム更新が急務になっている

医療業界のシステムの主な種類と機能

医療業界のシステムの主な種類と機能

電子カルテ(EMR/EHR)

電子カルテは診療記録を一元管理し、診療中の情報参照やオーダーを支えます。診療の現場で欠かせない存在です。

  • 診療記録:SOAP形式での入力と表示
  • オーダリング:処方・検査・処置の指示
  • 安全確認:アレルギー情報と用量のチェック
  • 記録の管理:改ざん防止と監査ログ

病院情報システム(HIS)

病院情報システムは、受付から病床管理まで、院内の業務と情報共有を担います。

  • 受付・予約:外来と入院の受付、予約の管理
  • 診療科の連携:診療科をまたいだ情報の共有
  • 入退院・病床:入退院と病床の管理
  • 外部システム:ORCA(レセプトシステム)との連携

医事会計システム

医事会計システムは、診療報酬の請求や患者の窓口会計を支援します。

  • 点数の算出:診療報酬点数を自動で計算
  • レセプト:診療報酬明細書の作成と電子請求
  • 窓口対応:患者会計と窓口収納

医用画像管理システム(PACS)

PACSは、医用画像を保存し、必要な診療科で参照できるようにします。

  • 画像の保管:DICOM形式での医用画像の保存・管理
  • 院内共有:放射線科や各診療科での画像の閲覧
  • AI診断:支援システムとの連携

調剤支援・薬局システム

調剤支援システムは、処方内容の確認や服薬指導に必要な情報を扱います。

  • 処方データ:取り込みと確認
  • 薬剤の安全確認:薬剤相互作用・アレルギーのチェック
  • 調剤・服薬:調剤記録と服薬指導
医療業界のシステム開発に必要な法令・規制対応

医療システム開発では、次の法令やガイドラインへの準拠が欠かせません。

主要な法令・ガイドライン

どの法令が対象になるかは、扱う情報と提供する機能によって変わるため、要件定義の段階で確かめておかないと、後から追加対応が発生することがあります。

  • 医療法:電子カルテの保存要件(診療録は5年以上)
  • 個人情報保護法:要配慮個人情報(診療情報)の適切な管理
  • 厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」:電子カルテ・医療情報システムのセキュリティ要件(最新第6.0版)
  • 3省2ガイドライン:医療情報をクラウドで扱う際の要件(厚労省・総務省・経産省)
  • 薬機法(医薬品・医療機器等品質確保法):医療機器プログラム(SaMD)に該当する場合の届出・承認

医療業界のシステム開発の進め方

医療業界のシステム開発の進め方

開発は、院内の業務と連携要件を整理したうえで、次の工程を順に進めます。各工程の結果は次の工程の前提になるため、要件定義での整理の度合いが、後の工程にも響きます。

  1. 要件定義:診療フローのヒアリングと整理、法令要件・医療標準対応の確認
  2. 基本設計:システムアーキテクチャ、DB設計、HL7 FHIR対応方針の策定
  3. 詳細設計:画面設計、API設計、処方チェックや診療報酬計算などの医療ロジックの詳細設計
  4. 開発・実装:フロントエンド・バックエンド・インフラの実装、ORCA・PACSとの連携
  5. テスト:単体・結合・UAT・セキュリティテスト・パフォーマンステスト
  6. リリース・移行:データ移行、段階的なリリース、ユーザートレーニング
  7. 運用・保守:継続的な改善、診療報酬改定への対応、セキュリティ対応

詳細は医療業界のシステム開発の進め方・流れ・手順を徹底解説をご参照ください。

ポイント

工程は前の段階の結果を受けて進むため、要件定義で診療フローと法令要件を整理しきれているかを、次の工程に進む前に見極めることが大切です。

医療業界のシステム開発の費用相場

医療業界のシステム開発の費用相場

初期費用は施設の規模や必要な機能によって幅があるため、方式別の目安を先に確認しておきます。下の一覧は、スクラッチ開発とパッケージカスタマイズの目安です。

  • スクラッチ開発(小規模:クリニック向け):200万円〜500万円
  • スクラッチ開発(中規模:中小病院向け):500万円〜2,000万円
  • スクラッチ開発(大規模:大病院・医療法人グループ向け):2,000万円〜1億円以上
  • パッケージカスタマイズ:100万円〜1,000万円

費用に影響する主な要因は、診療科や部門の数と、医療標準規格(HL7 FHIR・DICOM等)への対応です。また、ORCA連携の複雑さやセキュリティ要件の水準も要因になります。

詳細は医療業界のシステム開発の見積相場・費用・コストを徹底解説をご参照ください。

ポイント

費用は施設の規模や必要な機能によって幅があるため、方式ごとの金額を比べるときは、どの機能や連携まで含んだ金額かを揃えて見ます。

医療業界のシステム開発の外注・発注方法

医療業界のシステム開発の外注・発注方法

発注先は、院内の要件を整理したうえで候補を絞り込み、提案を比べて決めていく流れです。

  1. 院内の要件整理(診療フロー、連携システム、法令要件、予算)
  2. 発注先候補の選定(3〜5社)
  3. RFP(提案依頼書)の作成・送付
  4. 提案・見積もりの受領と比較
  5. ヒアリング・デモの実施
  6. 発注先の決定・契約
  7. 開発推進・管理

詳細は医療業界のシステム開発の発注・外注・依頼方法を解説をご参照ください。

ポイント

発注先の候補は3〜5社に絞り、提案を同じ基準で比べると、判断の根拠を後から説明できます。候補の数と比べる基準を先に決めておくと、社内の判断も揃えやすくなります。

医療業界のシステム開発でおすすめの開発会社

開発会社は、医療の業務を理解しているかと、導入後も支えてくれるかの二点で比べます。見るべき中身は、下の5項目です。

  • 開発実績:医療業界でのシステム開発の経験
  • 法令への理解:医療法令・ガイドラインへの対応知識
  • 標準規格への対応:HL7/FHIRなど医療標準に対応できる力
  • 既存システムとの連携:ORCAなどとつなぐ実績
  • 導入後の支援:セキュリティ対応と保守体制

おすすめ会社の詳細は医療業界のシステム開発でおすすめの開発会社・ベンダー6選と選び方をご参照ください。

ポイント

開発会社は、医療業務への理解と導入後の支援力で比べます。実績や法令対応、既存システムとの連携まで見ると、判断の根拠を説明しやすくなります。

スクラッチ開発 vs パッケージ vs SaaS の選び方

スクラッチ開発 vs パッケージ vs SaaS の選び方

医療システムを構築する方法は、大きく3つのアプローチに分かれます。それぞれ、向いている場面が異なります。

スクラッチ開発

自院の診療フローに完全に対応したシステムを、ゼロから構築します。

  • 業務の複雑さ:診療科特有の複雑な業務フローが必要
  • 外部システムとの統合:ORCA・PACS等との深い統合が必要
  • 長く使う前提:長期的に使い続けるシステムへの投資

パッケージカスタマイズ

市販の電子カルテ・医療パッケージをベースに、自院の要件に合わせてカスタマイズします。なお、標準機能で対応できる範囲が広いほど、コストや期間を抑えられます。標準機能を使って必要な差分だけを追加したい場合に適しています。

  • 診療フロー:標準的な診療フローで足りる場合
  • コスト・スケジュール:これらを重視する場合
  • 診療報酬改定:改定対応をベンダーに任せたい場合

SaaS型医療システム

クラウド上で提供されるサブスクリプション型の医療システムを利用する方式です。初期費用が最も低く、最短で導入できるため、標準機能で足りる場合に適しています。

  • 導入規模:スモールスタートしたい小規模クリニック
  • 診療フロー:シンプルな診療フローで十分な場合
  • 初期投資:最小限に抑えたい場合

ポイント

医療システムの構築方法は、スクラッチ開発、パッケージカスタマイズ、SaaS型の3つに分かれます。自院の診療フローの独自性や予算、スケジュールによって、向いている方式が変わります。

医療業界のシステム開発の成功事例

医療業界のシステム開発の成功事例

総合病院A病院の事例

電子カルテシステムと、既存のORCA・PACS・検査システムをHL7 FHIRで統合しました。その結果、部門間の情報連携が向上し、医師1人あたりの記録入力時間を約40%削減しました。

クリニックB医院の事例

Web予約と電子問診、電子カルテ、ORCA連携を統合したシステムを導入しました。

受付業務を自動化したことで、受付スタッフの業務負荷を大幅に軽減し、患者の待ち時間も短縮しました。

医療業界のシステム開発でよくある失敗と対策

医療業界のシステム開発でよくある失敗と対策

失敗1:法令対応が不十分で後から追加対応が発生

対策として、発注側は要件定義の段階で医療情報ガイドラインへの準拠範囲を明確にします。さらに、セキュリティやログの要件を設計に組み込みます。

失敗2:ORCA連携の技術的な複雑さを過小評価

ORCA連携は技術的に複雑で、過小評価すると後の工程で手戻りが生じるおそれがあります。そこで、ORCA連携の実績がある開発会社を選び、連携仕様の確認を要件定義の早い段階で行います。

失敗3:診療報酬改定のたびに高額な追加費用が発生

診療報酬改定のたびに追加費用が生じないよう、保守契約に改定対応を含めて契約します。そのうえで、長期的なトータルコストで比べます。

失敗4:医師・看護師への普及率が低い

UI設計の段階から現場の担当者を巻き込み、入力の負担を最小限に抑える設計を優先します。さらに、リリース後のトレーニングも十分に行います。

医療業界のシステム開発の費用対効果の計算

医療業界のシステム開発の費用対効果の計算

医療システム導入の費用対効果は、次の観点で試算できます。

  • 紙カルテの保管・管理:年間XX万円 × 保存期間
  • 診療録の記録・転記:月XX時間 × 時給 × 12ヶ月
  • 会計・レセプト作成:手作業の時間が月XX時間 × 時給 × 12ヶ月
  • 誤記・転記ミス:再確認作業が月XX時間 × 時給 × 12ヶ月

削減効果の合計と、開発費用・運用費用を比べることで、投資回収期間(ROI)を算出できます。

ポイント

導入効果は、紙カルテの保管や転記、レセプト作成などの削減効果を金額にして、開発費用・運用費用と比べることで判断します。試算は、作業時間と時給を当てはめて行います。

まとめ

まとめ

医療業界のシステム開発は、診療を効率化し、ペーパーレス化や安全管理の強化、医療DXの推進を実現するための投資です。

開発を成功させる鍵は、医療現場の要件を丁寧にヒアリングし、法令や医療標準に沿った設計を行い、信頼できる開発会社と連携することです。

本記事で紹介した各ガイドを参考に、自院に合った開発の進め方を検討してください。関連記事では、各テーマの背景や具体的な進め方も詳しく紹介しています。

会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。